蛇の元夫   作:病んでるくらいが一番

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本来は超筆記をパパっとやって(原作では)クロナVSキッドの船戦を書こうとしたのですが、その前にハヤテの描写を。
後書きにてシュタインの現時点での狂気侵食度などを書いていますので、ネタバレやめろという方は後書きを読まないことを推奨します。


第16話:妻が妻なら夫も夫

「すぅー……」

 

 ハヤテは牢の中で上裸になり、大きく息を吐く。完全に息を吐き終わると仮想の敵(シュタイン)を相手に拳を振るう。見えぬ敵であり、幻影との戦いにはなるが、シュタインとそれにシドとは数多の戦場を駆けてきた。だいたいどのような動きをしてくるのかを理解しているので、トレーニングにはもってこいだ。

 そしてハヤテは何度戦っても、アリスなしではシュタインに勝つことが出来ない。負けている訳では無いが。

 

「縫合と魂威がウザすぎる」

「なにやってるんですかね〜。また僕を相手にイメトレですか? ヘラヘラ」

「来てたのか」

 

 今ハヤテが居る場所は死武専の中でも最下層にある牢獄。上層だと生徒達が会いに来てしまうし、中層だともしハヤテの元妻(メデューサ)が奪還に来たら面倒。政治的な柵なども絡んできて、結果的にハヤテは最下層の比較的清潔さを保っている牢獄に入れられた。

 牢獄に入れられているが、普通に飯も出されるし、有給扱いなのでハヤテはなんとも思っていない。逆に最近少し疎かになっていた自己鍛錬に費やしている。

 

 ハヤテが脳内のシュタインと引き分けると、牢の外には本物のシュタインが椅子に座っていた。またどこかの机の椅子を持ってきたのか、間違った椅子の座り方をして体勢を崩したのか、地面に倒れている。

 

「にしてもほんとハヤテは馬鹿だよ」

「嘘ついてあの場は流せばよかったとか言いたいのか?」

「そう。それが大人ってものだと思うんだけどねぇ」

「嘘でも妻を殺す宣言は無理」

「ヘラヘラヘラ、僕には一生わからない感情だ」

「うーん……とりあえず気になる女を孕ませれば考えが変わるんじゃねえか?」

「君の元つ……冗談だ」

 

 シュタイン(気になる相手は)のジョーク(ハヤテの元妻)にハヤテが牢を壊して襲いかかろうとしてきたので、シュタインは空気を読んで話をやめた。

 

 シュタインはあまりハヤテの元妻にいい印象がない。スピリットの妻もシュタインはあまり好いていない。

 スピリットもハヤテもシュタインの成果物であり、それを横取りしたスピリットの妻は好かず、勝手に制作物(ハヤテ)を改造した元妻は嫌いだ。そういう意味で気になっているとシュタインは言いたかっただけだ。

 

「そういうのはやめろ」

「……なら君も若い子達に無理難題を与えるのはやめなよ」

「ブラック☆スターのことか?」

 

 大抵ヘラヘラしているシュタインが真面目な顔で忠告してきたので、ハヤテは姿勢を正して話を聞く。ハヤテが無理難題を仕掛けている若い相手といえば、強くなってもらうためにボコッていたブラック☆スターのことしか思いつかない。

 

「あれは別にいいでしょ。強くなりたいなら強い相手と戦うのが一番。僕達はそうやって強くなってきたんだからね」

「それなら誰に?」

「スピリット先輩の子供、マカ=アルバーンに魔女は悪なのか? なんてものを課題にしなかった?」

「それ無理難題か?」

「……はぁ」

 

 シュタインも人とズレているが、ハヤテはこと魔女の話題になると、途端に常識を失う。シュタインは常識理解しているが、規律を破らなければ常識など無視する。ハヤテは常識を規律にするが、魔女に関することは常識が蒸発している。

 

 魔女はこの世界の規律を維持している神である死神様が明確に敵と定めている存在だ。確かに今のデスシティーにはキャバクラに魔女が二人、それに死武専にも魔女(キム)はいる。

 キムは今のところ死神様に何か条件のようなものを言い渡されていない。条件なしを無理やり死神様から引き出したのがハヤテなのだが、キャバクラにいる魔女二人は色々と交換条件が出されている。危険なものはないが、それでも明確に二人が元々いた組織に知られれば粛清モノだ。

 

 母親が魔女、元妻が魔女、パートナーが魔女ハーフ、義理の娘(キム)が魔女。どこまでが魔女に仕組まれていることなのかとシュタインは頭を捻る……物理的に頭に刺さっているネジを数回回すが、情報が少なすぎて考察することも出来ない。

 

「若き芽達に対してこの世界の規律に真っ向から歯向かう考えを教えるのはやめた方がいい。僕やハヤテのようになってしまうよ」

「多少価値観が変わるだけだろ」

「絶対の規律に疑問を産めば、それは鬼神に近づくことだ」

 

 最近のシュタインは()調()()()()ので、柄にもないことを言ってしまっている。衝動というものに理性を働かせづらくなっている。

 それを自覚しながらもシュタインは頬を引き攣らせて話す。

 

「思考することは悪くない。でもまだ自己を確立しきれていない子供には早すぎる。僕達が大規模な狩りをした時の同期たちみたいにはしたくないでしょ?」

「……ああ」

 

 ホワイト☆スターやそれ以外の集団も、悪だからという絶対的な盾を掲げて、皆殺しにしてきたのがここにいる死武専トップクラスの職人だ。

 強い相手と戦えば強くなる。二人は命を懸けて戦ってきたからこそ、その言葉を当然とばかりに口にする。ハヤテの場合は幼少期の三船も関係する。

 

 だが、魂の弱い人達は敵の悲鳴や憎悪、嘆きを魂に刻み込んでしまうと、発狂したり自害したり、人としての終わりを迎えてしまう。

 

「……さて、そろそろ僕は行くよ。ここにいると君と違っておかしくなってしまうかもしれない」

 

 シュタインはキャラにもないことを口にしている原因であろう、更なる地下を軽く見てから椅子に座ったままキャスターで上に戻ろうとする。

 しかしハヤテがそれを止める。

 

「狂気に侵食されるからか?」

「君と違って僕は狂いたくないからね。使っているだろ、発狂を」

「まあね」

 

 シドにはバレないように嘘をついたが、シュタインには嘘が通じない。それくらい二人は理解し合っているのだが、そんな二人……スピリットを入れて三人はある貴腐人達の餌にもなっていることを彼らは知らない。

 ハヤテとシュタインの場合は気心知れているから嘘がつけないというよりも、シュタインがハヤテの嘘の特徴を理解しているから通じない。

 

「なあ、シュタイン」

「……なにさ」

「狂気って悪いものなのかな?」

「その問答をやめた方がいいって言わなかった? 狂気は悪いものだ。健全な魂は健全な精神と健全な肉体に宿る。人は誰しも多少の狂気を持っているからこそ、それを規律によって律している。教師やってるんだからわかるでしょ」

 

 シュタインはハヤテの問答(精神攻撃)に答えながら、タバコをくわえて火をつける。

 煙を肺にいっぱいにして、ゆっくりと吐き出して頭を落ち着かせる。

 

「規律って死神様の作った……えーと、エゴのない神の秩序だろ? でもそれは個々の内から出来たものじゃない……あっ、俺も死神様の秩序を嫌ってるわけじゃないぞ」

「分かっているさ。君は自ら規律を死神様と作っているからね……ハヤテ、君はこう言いたいんだろ? 狂気も人の一部だから、規律や秩序と同じく理解して使え。怖がって遠ざけるなって」

「そう!」

 

 ハヤテはまるでシュタインを狂気に誘うように、その口を開いていく。奇しくもハヤテが死んで、メデューサが愛を捨てた時(原作)と同じような問答が行われていた。

 ただ違う点をあげるとすれば、シュタインが誘惑してくる存在の言葉をしっかり吟味しているということだ。

 

「……まず理解して欲しいんだけどさ。僕は君みたいに狂気に飲み込まれない異常な精神はしていない」

「うーん、そうか?」

「そう。君は幼少期から道徳という人間のエゴを極限まで教えられずにきた。僕は確かに異常者だ。でもね、そんな異常者な僕でも道徳というモノは根底にこびりついているんだよ。それが僕に一歩踏み出させない。普通の人なら絶対に自らは踏み出さないその一歩をハヤテは簡単に超えてしまう」

 

 三船がやってきたあらゆる悪行はシュタインも聞いている。遺伝子に干渉して次世代の子供たちを創る。幼少期から強くするために鍛え、今日に聞く虐待も真っ青な、拷問としか思えない鍛え方。薬物や毒は当たり前、最終的には蠱毒的な選別によって、ハヤテが次期三船当主になったことも知っている。

 そしてシュタインの言葉の本質をハヤテは絶対に理解できないことも知っている。昔にシュタインは薬物を使って、ハヤテに強制的に常識を刷り込もうとした。だが、それら全てが無意味だった。

 

「シュタインは強いさ。そうじゃなきゃ生き残れていない」

「……また来るよ」

 

 シュタインは自分の中の欲望を塞き止める理性が溶け始めたことを感じ取り、ハヤテとの問答を無理やり終わらせてその場を足早に去る。

 後ほどシュタインは置きっぱにした椅子を回収しに来ることを今の彼は知らない。

 

 いきなりハヤテの居場所が掴めなくなり、膨大な敷地面積を誇る死武専の中を、一匹の蛇が探し回っていることをハヤテは知らない。

 

 

 ***

 

 

「職人と武器の共通試験『超筆記試験』がいよいよ一週間後に迫ってきました」

 

 生徒達にはハヤテは体調不良だと伝えられ、その代理としてシュタインがまた教師を務めている。通常の共通授業はアリスが教師を行っているので、生徒達は()()不満などない。

 

 ハヤテの家に見舞いに行ったのに会うことの出来なかったマカは割と不機嫌だったり、ハヤテが体調不良というのが嘘だと知っていて今尚禁固刑に服していると知っているキムは気が気じゃないが、それ以外は……ブラック☆スターが「ざまあみろ!!」と叫んでマカチョップを食らったことを除けば特にない。

 

「今回の試験はハヤテ先生が作ったので、面白みのない問題ばかりなんじゃないかな?」

 

 存外にシュタインは自分なら面白くなると述べているが、面白いと感じるのはシュタイン自身なのだろうと生徒達は分かっている。

 

「そんなところで、かいさ……そうそう忘れてた、へらへら」

 

 シュタインは机に足をつけて、そのまま蹴飛ばして椅子のキャスターを利用して教室を出ていこうとしたが、連絡事項を忘れていたので踏みとどま……ろうとしてコケた。

 

「ブラック☆スターは赤点取ったらハヤテ先生の特別補習だから」

「……あっ!? なんで俺様があいつの授業を受けねえといけねえんだ!」

「俺が嫌なら頭も鍛えろって言ってたから伝えただけ。僕に言われてもねぇ。他の生徒も赤点取ったら特別補習があるから、そこんとこヨロシク!」

 

 シュタインは改めて出ていこうとするが、パティがボソリと呟いた言葉に反応するため机を蹴れず、また背中から地面にキスをした。

 

「今バックレようと考えた人達もいると思うけど、ハヤテはバックれた生徒を地の果てまで追いかけるって言ってたから、そこんとこもヨロシク」

「全部一気に説明しろよ!」

「バイトがあったりしたらどうするんですかー?」

「父親が産気づいたらどうすれば?」

「パシられたら行かないと怒られるんですけど」

 

 生徒達が思い思いに質問してくる。それに対してシュタインは頭のネジを回してから、何も答えずに教室をあとにした。ハヤテの代わりなど面倒でやってられんと、廊下でタバコを吸いながら、また背中からシュタインは倒れる。

 

 ***

 

 ブラック☆スターは椿に頭を下げていた。

 

「頼む、次のテストで俺様をBIG(赤点回避)にしてくれ!」

「ブラック☆スター!? 頭なんて下げないで! 教えるから」

「わかった。よし、やるぞ!」

 

 ブラック☆スターはハヤテとは会いたくない。しかし、ハヤテは教師であり、授業も受け持っている。ハヤテが担当している授業全てをバックれることは出来ないので、出ないといけない授業だけを出ているのが現状だ。

 それなのに放課後強制的にハヤテと顔を合わせる?

 

「虫酸が走る!」

 

 という事で、ブラック☆スターは罰ゲームを交えた勉強をせず、問題を盗み出すという考えも思いついたが、ハヤテに嘲笑われるのが目に見えているので盗みにも行かず、椿に赤点回避のための勉強を頼み込んだ。

 

「ブラック☆スターには本当ならちゃんと点数を取ってほしいんだけど、この短期間じゃ無理だから、赤点回避のためだけの勉強をしようと思うけどいいかな?」

「椿の好きな通りにやってくれ」

「わかった! ブラック☆スター頑張ろうね」

 

 理由はどうあれ、目標はどうあれ、あのブラック☆スターが勉強する気になったのだ。椿は自分の顔を両手で挟むように叩いて、気合を入れてからブラック☆スターに点数の取り方を教え始める。

 

 ***

 

 マカは悩んでいた。

 

「どうしたの? 勉強はいいのかにゃ?」

「うん、勉強はするよ……でも」

 

 マカは自分の部屋で参考書を引っ張り出し、勉学に励んでいた。その膝の上には猫の姿のブレアが乗っかっている。

 ブレアから見て今のマカは変だ。三週間くらい前から、マカ的には面白いらしい『テスト』というもので、高得点を出すために、ずっとマカは机に向かっていた。なのに、今日は帰ってきてからどうも上の空なのだ。

 

「お腹すいたのかにゃ? お魚いる?」

「後で焼いて出してあげるね」

「最近のマカの料理は美味しいから好きだにゃ」

「ありがと。テストで点数を出すべきかどうか悩んでいたんだ」

「にゃーん? 前は頑張ってテストで一位を取るっていってたはずにゃ〜」

「そうなんだけどさ」

 

 シュタインがもし赤点なら、ハヤテによる特別補習があると告げた。

 少し前まではある夢のせいでハヤテの顔を見るのが恥ずかしかったが、最近は体調不良で全く会えず不満に思っている。

 

 体調不良がなかったとしても、ハヤテは忙しいのでマカとあまり会えない。

 それなのに、()()()()()()()ハヤテと放課後何時間でも勉強(そんなこと言っていない)ができるという。だが、その為に母親が取った試験一位や一位になったらデスサイズが作れるというジンクスを捨てなければならない。

 

 マカにはまだそこまで何も考えず、衝動的に行動ができるほど馬鹿にはなれていない。多分マカがハヤテに向けているものは恋心だろうと本人は自覚しているが、本当にそれであっているのかも分からない。あの夢を見てから、ただ性欲を満たしたいだけなのではないか? とすら思っている。

 

 そう、マカは何故か狂気に堕ちておらず、狂気を理解しようとしているのだ。ただ今のマカはまだ狂気というものを理解していないし、夢ではそんな話をしないので分からない。

 ただマカはこれを理解すればきっと大人になれると確信を得ていた。

 

 

 そんな中ブレアはあることを思い出した。

 

「そういえば、マカに伝言があったにゃ」

「伝言? 誰から?」

「さあ?」

「え?」

 

 ブレアは伝言の伝言を頼まれた相手から、マカに伝言を頼まれたらしい。ただこう言えばわかると言っていた。

 

「黒ニャーツの男だって言えばわかるって言ってたにゃ」

「……な、なんて言ってたの!?」

「超筆記試験頑張って、応援しているって伝えてって言われたにゃ」

「そっか……そっか! よし、勉強頑張るぞ!!」

 

 マカは応援してくれたのはハヤテだと気がついた。ハヤテから貰ったその言葉を胸に秘め、マカの目に火が灯る。

 その日のブレアの夕食には魚が一尾多く盛られていたとか。

 

 

 

「マカ頑張れ〜、マカ頑張れ〜」

 

 マカに伝言するように頼んだ男、スピリットは死武専の図書館で調べたおまじないを実行しながら、ひたすらマカが超筆記試験で良い点が取れるように祈っていた。

 ちなみにハヤテはマカなら高得点間違いないなと思っているので、別段祈っていたりはしない。




↓に行くと、シュタインの現時点の狂気度などが書いています。見たくない方はここで読むのをおやめください。






現時点でのシュタインの狂気度:BREW争奪戦前レベル
現時点でのハヤテの狂気度:狂気を理解しつつあると思っている
現時点でのマカとソウルの狂気度:原作基準(ただしマカは狂気を理解しようとしている)
現時点でのブラック☆スターの精神ダメージ蓄積量:BREW争奪戦後より多大
現時点でのマリーの狂気度:♡
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