蛇の元夫   作:病んでるくらいが一番

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第18話:聡明な蛇と垣間見る死神

「……それで、どうなのさ」

「リサちゃんとアリサちゃんは断言していましたね」

「魔女の証言があったのはいいが、魔女の発言を証拠には出来ないぞ。死武専であるが故にな」

「そうなんだよね〜。分かっているのに手が出せないって本当に嫌になるよ」

 

 シュタインとスピリットとシドに死神様、いわゆる大人組が死神様の間で一つのテーブルを囲んでいた。

 他三人は立っているが、シュタインは据わった目で椅子に座りながら、時々ヘラヘラと笑い出す。シュタインの狂気侵食は相当な域に達してしまっているのが一目でわかる。

 

 狂気で今すぐにでも奇行に走りそうなシュタインだったが、シュタインの内心は割とまだ余裕があったりする。狂気に片足を突っ込んだ程度なら、ハヤテの狂気度合いに比べたらまだまだマシだ。シュタインはそう言い聞かせると、多少は楽になる気がする。

 前にシュタインが言ったように、ハヤテは幼少期から普通とは違う育て方をされたから、狂気に対して狂うことが今のところはない。だが、それでもシュタインはハヤテ(狂気)に負ける気はない。

 

 四人が囲んでいるテーブルには、保険医メデューサの写真や彼女に関する調査書などが所狭しと並んでいる。しかしその中には保険医メデューサが魔女であると死神様が断定できる証拠が一つもない。

 魔女は絶対悪という考えが死武専には浸透している。リサとアリサ(キャバクラ魔女)やキムのような無害に近い魔女が稀であり、基本は悪として裁いた方がいい魔女ばかりだ。だからこそ絶対悪になっているのだが、今回はその考えが彼女達の発言を証拠として機能しなくしていた。

 

「リビアにあるメデューサ先生の研究所なら何かしらの証拠があると思ったんですけどね」

「まさか不老長寿の研究を合法的に行っているだけとは。腕の一本でも持っていかれる覚悟でしていたんだがな」

 

 死武専の保険医が北アフリカなんかに研究所を持っていた。そこなら物的証拠も手に入るのでは? と死神様はシドを向かわせたが、そこにあったのは不老長寿に関する研究、しかも違法な手段を使わない純然たる医学、特に漢方に関するものしかなかった。

 一部魔道具を使うべきという考察が書いてある書類もあったが、魔道具自体は基本誰でも使えるので魔女という証拠にはならない。

 

 そこ以外にもハヤテが所有する日本の屋敷や小屋から、死武専の中にある保険医メデューサの家や空き家まであらゆる所を人海戦術も使って探した。

 しかしどこにも魔女である証拠がなかった。

 

「まさか全く証拠がないなんて。あの魔女は一体どこに大切なものを隠しているんだろうね〜」

「ハヤテが大人しく牢に居るうちにやらないと、保険医メデューサが奥さんだって分かっちまうからな」

「それだけは不味い。生前の俺は仲間を牢屋に入れて安心するやつじゃなかったが、今回は致し方ない。ハヤテが敵になったら面倒とかいうレベルではなくなってしまう」

 

 シュタインは狂気でおかしく、シドはメデューサの物的証拠集めで忙しい。そんな時にもしハヤテが保険医メデューサと出会ってしまい、メデューサ側について死武専を襲ったら、ここにいる誰かが死ぬだろう。それだけは絶対に避けなければならないので、ハヤテが気を変える前に全てを終わらせなければいけない。

 

「ヘラヘラヘラ。ハヤテを殺したって言えばそれだけで本性出すでしょうに。甘いんですよ先輩達は」

「……俺たちは正義、規律に属しているんだよ。そんな手を使っちまったら規律を守る存在じゃなくなるだろ」

「相手は鬼神を復活させようとしているかもしれない相手なんですよ? そんなヘラヘラしてて間に合うんですか? ヘラヘラヘラ」

「間に合わせるために俺たちがいる。シュタインが俺をゾンビとして蘇生したのと同じようにな。まあ俺死んでいるけど」

「どうにかして欲しいけど、次の手ないよね」

 

 後ろ向きなシュタインの言葉をシドが切り伏せたが、死神様はお手上げとばかりに手を上げる。全くボロを出していない相手から証拠をあげる。そんなもの相手がドジをするのを待つしかない。

 

()()()()()()()()、その鬼神を蘇らせようとしている敵もここにいる。だがその敵を規律である我々が証拠もなしに抑えられない……多少狡い手も使うしかないかねえ」

「いいんですか?」

「しょうがないでしょ。ソウルプロテクトのせいで後手に回ってしまうのは仕方ない。でも、鬼神が関わってくるなら別だよ。多少の汚名も鬼神復活という最悪と比べたら安いものよね」

「……ヘラヘラヘラ。それでこそ規律の神だ。僕がやりますよ、メデューサの尻尾を切り刻む役は」

 

 死神様が真面目な声で結論を出すと、シュタインはとても楽しそうに目を濁らせながら笑う。自分の傑作の一つを穢した蛇を切り刻んでみたい、シュタインは前々からそう思っていた。

 

「……蛇についてはこれくらいかな。次にまたミフネだけど、アリスくんのことを話そうか」

 

 まだまだ会議は続いていくが、この死神様の間は現在立ち入り禁止になっている。

 

「……」

 

 そんな場所で死神様にも他の人にも気が付かれず、盗み聞きをしている不届きな輩がいた。その人は死神様たちに気が付かれる前に、そっとその場をあとにした。

 

 

 ***

 

 

「死武専創立前夜祭もこの牢屋で過ごすのはちょっと嫌だな」

 

『喧嘩別れした妻とヨリを戻す100の方法』というハウツー本を読み、逆に鬱りはじめたハヤテが一人でため息をつく。スピリットがタメになると言って渡してきたこの本を、一応最後まで読み終えて出た感想が上の言葉だった。

 まずこれが真に成果の出る本なら、スピリットの離婚調停も取り消されているはずだ。しかし、調停は逆に最終段階まで来ていると聞く。

 

 そんなどうでもいいことを考えていると、こちらに近づいてくる足音が聞こえてくる。

 ハヤテはスピリット達の足音は把握しているので別の人だろう。時間潰しになればいいなと思って近づいてくる人を待っていると、意外な存在が現れた。

 

「キッドくんじゃないか。どうした? こんな牢屋にいる先生に質問しに来るなんて」

「死武専の矛と言われているハヤテ先生に質問があり、ここまで来ました」

 

 デス・ザ・キッドがハヤテを尋ねてやってきた。キッドは死神だが死武専の生徒でもあるので、ハヤテの居場所は言われていないはずなのだが、平然とこの場にやってきた。

 

「質問ならいくらでも答えるけど、その矛ってやつはやめてね。死武専の盾(シュタイン)はあらゆる脅威から敵を守るって悪くない意味合いだけど、死武専の矛は死武専の敵を無慈悲に皆殺しにした結果の呼び名だからさ。血塗られた称号とか好きじゃない」

「善処する」

 

 キッドが頷いたのを確認してから、ハヤテは牢屋から平然と出てきた。キッドはそれに少し驚くが、ハヤテが説明をする。

 ハヤテは禁固刑と言い渡されたが、ガチガチに拘束されている訳では無い。ただ牢屋の中で謹慎期間を過ごしているだけだ。鍵も空いているのでいつでも出ようと思えば出られるが、そんなことをして一々死神様にお小言を言われるのも馬鹿らしい。

 元々は有事の際にすぐに駆けつけられるように開けられていたのだが、次期死神と話すとなれば出ても怒られないはずだ。

 

「あまりここから離れたくないから廊下で話すけどいい?」

「あの牢屋の中はシンメトリーではない。あんな場所で話すことを想像すると虫酸が走るわ」

「あっそ。で?」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()虫酸な表情をキッドもしたが、シンメトリーとかハヤテにはどうでもいい事だ。軽く流してキッド訪問の理由を訪ねる。

 

「まずハヤテ先生の奥さんは魔女だということは真実ですか?」

「そうだよ」

「死武専でもトップクラスに位置するあなたが何故魔女()などと」

 

 ハヤテはキッドの言葉にため息をつく。また魔女は敵だと盲信している輩が来たと内心テンションがダダ下がりだ。だが、もしキッドの考えを少しでも変えられたら、魔女がもう少しだけ住みやすい世界になるかもしれない。

 ハヤテは頑張ることにした。

 

「善良な人もいれば、規律の神が狩ってもいいとリストに上げている悪人もいる。魔女も同じだってだけさ。……あと魔女のことで俺を説得しようとするなよ。死神様でも無理だったからな」

「……魔女の中でも善と悪のバランスがキッチリとあるということか?」

「そうだよ。それにデスシティーには最低でも三人の魔女がいて、その三人は死神様に見逃されているからね」

「なに!?」

 

 キッドは死神様(父親)の魔女嫌いはよく理解している。昔のまだ死武専がなかった時代にたくさんの仲間が魔女に殺されたそうなので、その怒りは妥当だと思っていた。その死神様(父親)が魔女を認めたということがキッドにとてつもない衝撃を与えた。

 

「魔女の魔法で魔剣にやられたマカとソウルを綺麗に治してもらったしな」

「魔女は破壊や悪に属する魔法以外も行使するのか」

「そりゃするさ」

 

 なおハヤテはキム以外に治癒なんていう優しい魔法を使う魔女は知らないのだが、そのことを口にはしない。元妻に関しては全然わからないし、自分の母親については一切わからない。

 

「魔女は歪でもバランスは取れているということか。だが、規律として俺の前に出てきたら狩らなければならない」

「死神様に保護されている魔女もか?」

「…………それは父上と相談する」

 

 キッドはそれだけ答えると、黙り込んでしまう。まだ何か聞きたいことがあるようだが、聞いてもいいのか悩んでいるようにハヤテには見える。ならば先達として話しやすいようにするべきだろう。

 

「何か聞きたいことがあるなら聞いておけ。キッチリカッチリ情報を得てから考えろ。一人で考えてもわからないなら周りに頼ればいい。俺はキッドくんの担任だしね」

「……そうか」

 

 このことは父に聞くべきことだとキッドは思っている。だが、ハヤテの言葉で背中を押されたのか、キッドはハヤテに質問を投げる。

 

「ここ、死武専に鬼神がいるというのは本当か?」

「……」

 

 ハヤテは口を開いて知っていることを伝えようとするが、その口を一度閉じる。

 

 前にシュタインが生徒には真実を伝えすぎるなと言っていた。確かにその通りだろう。大人になるに従って、人々の悪や闇を理解していけばいい。

 魔女関係ならともかく、話してもつまらない鬼神やグレートオールドワンに関しての話はやめよう。そうハヤテは心で決めて、伝えようとする。

 

 今度はその口をキッドの言葉で閉じることになる。

 

「先程父上とデスサイズのスピリットさん、シュタイン先生やシド先生が会議を行っていた。死神である俺すらその会議には来るなと言われたのだが、行った方がいいと死神の直感が告げていた。もちろん規律の神である父上の息子である俺が、」

「長い、まとめて話してくれ」

「……父上たちが鬼神はここにいると話していた。彼らと同じような地位にいる貴方なら知っていますよね? 俺は死神として、規律を守る者として俺は知っていなければならないと思う……頼む」

 

 キッドが長々と言い訳を言い出したが、ハヤテはその会議の参加者でだいたいどういう話し合いが行われているか察した。きっとハヤテの元妻をどうするか? という会議だったのだろう。

 そしてキッドは死神なのに、ハヤテという人間に頭を下げた。キッチリカッチリ45度の最敬礼でハヤテを頼った。

 

「俺はキッドくんが本当に覚悟があるのなら話してもいいと思っている。たとえ死神様がまだ早いと思っていても、君がもし本当に知りたいならなんでも話してあげたい。魔女の話で有り得ないと拒絶しなかったからね」

「なら!」

「だが、本当に話してもいいの?」

 

 ハヤテは真っ赤に染まり出した目を輝かせ、常人は絶対にしないような狂った笑みを浮かべながら、キッドに問いかけた。

 

 キッドは初めてその感覚を味わった。粘つくような、それに触れ続けていれば体が溶け、グスグズになり、全てと混じりあってしまいそうな感覚。

 キッドはこれとは違う、恐怖を感じる()()という圧力を何度か受けたことがある。あれは決して人が使っていい力ではない。その力を扱う奴らは例外なく壊れている。

 

 キッドは反射的に目の前の敵となりうる存在を死神として滅するために、両手を左右に広げた。しかしこの場にはリズもパティもいない。

 そしてキッドは自分の知り合いの中で最も親交の深い女性を思い浮かべてしまった。リズとパティの存在を想像してしまった。

 

「なんだ……これは!」

「あははははは、これはただの狂気だよ。死神なら分かるだろ?」

「ふ、ふざけるな! 狂気とはもっと相手を狂わせるような根源的恐怖のはずだ!」

 

 狂気という存在を知っている人達は皆が狂気とは恐怖のことであると口にする。確かに死武専の人達が受けることのある狂気は恐怖が大体を占めるだろうが、狂気には恐怖以外の存在もある。例えば規律、例えば()()、あとは憤怒(エクスキャリバ~~~♪)なんかが該当するだろう。

 

「なんでリズとパティを思い浮かべると心細くなる! 何故あの体を抱きしめたくなる。あの二人はシンメトリーではないのだぞ!!」

 

 キッドはここにはいない二人を思い浮かべてから、無性に不安になっていく。恐怖とは違う別の感情によって、今すぐにでもあの二人に会わねばという考えが頭を支配し始める。

 何故だか分からないがキッドは下半身に疼きを感じる。あのアシンメトリーな大きさの違う胸を揉みしだきたいとすら思ってしまう。

 

「それは何かって? 愛だよ」

「何故ここで愛! 俺があのアシンメトリーな二人を愛しているとでも言うのか!?」

「愛という感情は欲望と表裏一体だからね。愛していなくても欲望の方が反応したりするのかもしれない。なるほどね……それで、もう平気だと思うけどまだ辛いかな? 試しちゃってすまない」

「え? あっ、いや大丈夫だ」

 

 ハヤテの目はいつの間にか黒目に戻っていて、キッドが感じていた粘りつくような狂気に似た何かは消えていた。彼の言葉でキッドはあれこそが性欲なのかもしれないと理解するが、あの力はなんなのかという思いが生まれる。

 

「まず鬼神はこの死武専のここよりも更に地下で封印されている。封印方法は聞いていないけど、なんでも鬼神の体を使った封印なんだとさ」

「鬼神がこの死武専の地下に。もしや父上が死武専から離れられないのはそういうことなのか……?」

「魂をこの地に固定化させ、なんか色々やっているらしいよ。そしてさっきの俺が扱ったものは狂気()だよ」

 

 ハヤテはただ妻への愛を前面に押し出し、それを相手にも理解させようという気を向けただけなのだが、それこそが狂気になってしまう事をハヤテは理解している。そしてキッドには知って欲しかったから、狂気感染を少しだけ行った。

 すぐに解除したのは体験させるだけでよかったからというのもあるが、アリスが近くにいない限り狂気のコントロールは上手くできないからというのもある。ハヤテ一人では狂気に飲み込まれてしまう。

 

「愛が狂気? 感情が狂気を産むというのなら、俺が、父上が規律を引こうとするこの感情もまた狂気? いや、有り得ない! 狂気であってなるものか!!」

 

 聡明なキッドはハヤテが詳しく言わなくても、その可能性に辿りついてしまった。しかしキッドは決して認められることではない。それでは恐怖を広めようとしている鬼神と死神は同じ存在だと言っているようなものではないか。

 

「キッドくんには恐怖以外にも狂気はあるということを今回は知って欲しかったんだよ。もしこれだけじゃ足りないと言うなら、ブリテンに行けばいい」

 

 ハヤテがブリテンという言葉を発すると、キッドの思考にあの聖剣がにじり寄ってくる。『私が呼ば、』虫酸の走ったような顔でその思考を投げ捨てる。

 

「あー、エクスカリバーを知っているのか」

「先生は虫酸が走らないのか!? あの聖剣に!!」

「いや走るけどさ。あの怒りはしょうがないと思うんだよね」

「はぁ?!」

 

 あのエクスカリバーへの虫酸の走るような怒りを、しょうがないの一言で片付けるハヤテを虫酸ダッシュな顔で見る。あの根源的なウザさをしょうがないと言えるこの人は一体何者なんだ? と疑問に思う。そしてその疑問は口に出せば、ハヤテ自身が答えてくれるだろうと言うこともわかる。

 だが、今のキッドは色々と知りすぎていっぱいいっぱいになっている。今回はこれでお開きにするべく、挨拶をしながら足早に去ろうとする。

 

「……コホン。分からないことがいくつか分かりました。真実かは別として、鬼神についての情報は感謝します」

「ああ。それじゃあまた今度ね。多分創立記念日あとくらいから復帰すると思うから」

「分かりました。マカに言っておきます」

 

 ハヤテは自分に()()()()()()()()()()()()()をその場で見送る。

 知らないことというのはやはり恐怖を産むらしい。ハヤテ自身ももし魔女について詳しく知らなかったら、あんな風な目を魔女に向けてしまっていたのだろうか? と想像して、鬱りながら牢屋の中に戻っていった。




グロい実験の痕跡を残してもしハヤテに知られて、それが原因で嫌われたらと思ったメデューサさんは魔女界に資料を隠していたりします。
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