「ここに来るのも二ヶ月ぶりくらいだっけ」
「前回はマカ様の死ぬために生まれた誕生日を祝うために来ました。三ヶ月ほど前ですね」
「なんで微妙にデスっ子言葉?」
「私も乙女ですから」
「……そ、そうだな」
話題に出たマカの倍ほどの年齢に到達している二人は、死武専前の階段を登りきり、高台になっている死武専前の広場から街を眺めていた。
メイド服を着た女性に脇腹を軽く刺される男もいる。女性に年齢関係で変な反応をするから悪い。
ハヤテとアリスはあのあと必要なものだけを詰めてデスシティーに帰還した。元々デスシティーには実家が建てた家があり、必要なものもこちらで買えばいい。だから本当に使うものだけを持ってきたので、二人でトランク1つほどしかない。
「それにしてもやっぱり死武専は騒がしいね。この騒がしさこそ死武専だけど」
「これこそが死武専ですから」
二人は後ろを振り向くと、死武専玄関前の広場で決闘が行われているのが見える。
一人は死武専の名物にもなっている星の模様を持つ男の子。もう一人の男の子のことをハヤテは知らないが、立ち姿からして勝負はどちらの勝利で終わるか容易に想像できる。
「てめえ、俺様に小さいって言ったよな? 小さいてめえがBIGな俺様を測ってんじゃねえ!」
「ビックだとか大きいだとか黙ってろよ! 悪人の魂を一つも回収出来ていない落ちこぼ、ぐへっ!!」
「勝利!!」
俺様と言っていた方が相手が話している間に吹き飛ばして決闘に勝利した。
卑怯? 死武専の職人と武器は命を懸けて悪人を狩り、魔女を滅する。卑怯や卑劣だと騒いでた奴らは真っ先に死んでいったので、ハヤテもアリスも賞賛こそすれ責めることなどしない。
「話を最後まで聞いてあげてもよかったんじゃない?」
「いんだよ。あいつは俺様を大声で落ちこぼれ扱いして目立ちたいだけだからな」
「実際集めた魂0だけどね……」
ブラック☆スターという暗殺を請け負っていた星族の生き残りと中務という特殊な武器一族の娘である椿がいた。ここにいる人達の予想通りブラック☆スターが決闘を速攻で終わらせた。忍者に隙を見せる方が悪い。
(中務のおじさん達は娘のあの格好について何も言わないのだろうか? あんなに露出させなくても戦えるだろうに)
ハヤテは椿を見る度に毎回そんなことを思う。中務の上役たちに変態のレッテルを頭の中で貼り直してから、ブラック☆スターと椿の横を通り過ぎる。隣を歩いていたアリスは豊満な胸元から何かを取り出してから椿の横で立ち止まる。
アリスの家やハヤテの家は昔からの繋がりで中務には頭が上がらない。ハヤテはアリスが殊勝に中務へ頭を下げるのがあまり好きじゃないので離れたところでやり取りを眺める。ハヤテは椿自体は好いていない訳では無いが、中務なので遠慮したい。
ブラック☆スターは起き上がってきた、先程肘鉄で吹き飛ばした挑戦者をもう一度ボコりに行っている。
「お久しぶりです。椿様」
「アリスさんもお久しぶりです! デスシティーに居るということはまた何かあったんですか?」
「いえ、本日よりこちらに戻って参りましたのでご挨拶をと思いまして。あとこちら中務三十郎様からのお手紙です」
マカならきっと出来ないであろう収納方法で胸元に収められていた手紙を、丁寧に椿に渡した。椿は嬉しいのやら恥ずかしいのやら、複雑な表情を浮かべながら手紙を受け取った。
「……もう、電話とかでいいのに。いつもありがとうございます。もしかしてその包みは!」
手紙を渡した手とは反対には、椿の目を輝かせるブツをアリスは持っていた。それは様々なものが売っているデスシティーでも手に入らないもの。
「お土産の羊羹です。椿様はこのお店の本店限定羊羹を好物としていましたよね?」
「はい! ありがとうございます!!」
「いえいえ、喜んでもらえてよかったです」
椿とアリスはペコペコしながら互いにお礼を言い合う。もう一度言うがハヤテは中務の上の奴らは嫌いだが、椿やその父三十郎は嫌いではないと付け加えておく。特に椿のあれを嫌う男はいない。
椿の揺れる胸と、胸部をワイヤーとサラシで固定しているため揺れない胸のアリスを眺めていると、いつの間にか隣で同じように胸をガン見している赤毛のスーツの男が立っていた。
しかもその男はいきなりハヤテの肩に腕を伸ばしてきた。それに応じるようにハヤテもその男と肩を組む。ついでにパートナーの胸をガン見しているので軽く一発殴る。
「俺はあの揺れる胸よりもスリットが入っていて、少し捲るだけで見えそうなあの下半身がいいと思うんだよ」
「アリスのスカートに隠れた臀部もなかなかですよ」
「隠れてるってお前何度も見て触って味わってるだろ?」
「もちろん……お久しぶりです、スピリット先輩」
「ああ、久しぶりだなハヤテ」
赤毛にスーツ、十字架を模したネクタイをしているハヤテとさほど変わらない背丈の男、スピリット=アルバーンと再開の握手を二人の乙女を見ながらする。
スピリットはハヤテの元に近づいてきた時、いつもデスシティーに来る時に持ってくる荷物より、今持っている荷物の量の方がはるかに多いことに気が付く。
スピリットに呼ばれてハヤテがデスシティーに来る時はお土産以外持ってこないので良くわかる。
「……とうとうデスシティーに戻ってきたのか?」
「奥さんに逃げられた人を慰めるのに月日が必要でしょうしね」
「おま、お前、それは駄目だろ。そういうのをネタにするのは駄目だろ。男にされても嬉しいねえぞちくしょう!!」
スピリットが肩を組んでいたその腕でハヤテの首を絞めてくる。すぐにハヤテはその拘束から抜け出す。首を絞められていたが今のはスピリットの照れ隠しであることはハヤテも分かっているので反撃はしない。
このノリなら言っても平気だと思い、ハヤテは十年ほど言っていなかった真実を軽い口調で言う。
「俺なんて十年前に逃げられてますから平気ですって。何とかなりますよ」
「えぇっ!?……よし、今日は飲むか! 今まで何かを隠していると思っていたが、そういう事だったんだな。積もる話もあるだろ? 行くぞ」
ブワッと泣き出したスピリットに引っ張られて、昔からあるキャバクラ『チュパキャブラス』にハヤテは連れていかれた。もちろんそこの支払いはハヤテになるだろう。
「いいんですか? ハヤテさんが行ってしまいますけど」
「心配無用ですよ。あと椿様はもう少し格好を考えた方がよろしいかと」
「変ですか?」
「……いえ」
アリスは溜息をつきながら、デスシティーに帰還した事を死神様に報告に行くのだった。
◆◆◆
「ぶっふー!」
「ちょっと大丈夫ですか? ハヤテ様!」
「お前さー、男の潮吹きなんていらない」
「もうデスサイズ様はエロエロなんだから」
「いや、済まない。ちょっとね」
キャバクラ『チュパキャブラス』に来ると二人の嬢が席についた。その二人はタバサとタルホと名乗っている。
ハヤテは元妻に殺されかけてから親交の無い女性に対して毎回やっている、ある研究家によってゴリ押し習得させられた魂感知を使うと、お出迎えの一杯を噴きこぼした。
(……なんでソウルプロテクトなんてしてんのさ。え? ここって死神様のお膝下だよ? そんな所のキャバクラになんで魔女がいるのさ。訳わかんねぇ)
ハヤテはぶっ叩き・ジョー、通称BJのような繊細な魂感知能力は持っていないが、ある人物に体を弄られ、そして
別に魔女かどうか見分けている訳ではなく、ソウルプロテクトの有無だけがわかる。ただしキャバクラの嬢と客のような至近距離まで近づかないとわからない程度のものだが。
もちろんこの事は死神様にも伝えているが、ハヤテは魔力の導きによって発生する破壊衝動に身を任せている魔女以外の情報は死神様にも言わないと先に宣言してある。ハヤテは他の人に比べて少しだけ魔女に対して思うところがある。
その時の死神様は少しだけ怖かったが、ハヤテの意思が硬いことも向こうはわかっていたようで渋々許可が出されていた。
ハヤテは嬢の二人が魔女だとわかってしまったので楽しめない……
「あはははは!」
「がっはっは!」
「ふはははは!!」
「むっあっはっはっ!!」
なんてことは無かった。
スピリットと同様にキャバクラで出来るギリギリのエロを追い求め、酒を飲み、セクハラを続けた。どうせスピリットやその他死武専のメンバーから情報を抜こうとしているのだろうが、もし魔法や薬を使ったらその時点でスピリットが気がつくだろうから問題ない。
一番通っているであろう人が最も情報を持っているのだから、木っ端に変なことをすることはないだろう。というかそんなことをすれば死神様やスピリットにバレる。
二人は存分にキャバ嬢との飲みを楽しんだ後、嬢を席から引き上げさせた。
「……なるほど。お前が職人をやめて農家になってまで結婚した相手は一年ほどで逃げられたと」
「そうですよ。いやー、完全に立ち直るのに十年掛かりましたよ」
立ち直るのにも時間はかかったが、それ以外にもやらないといけない事があったため、ハヤテたちはデスシティーに引っ越せなかった。
「そうか。俺に話したいことはなんかあるか?」
「そこら辺は全部アリスに受け止めてもらったんで、先輩の相談を聞きますよ」
「……妻と離婚調停中なんだけどさ、何とかそれを止めることってできないか?」
「無理です」
「うわあああああああああ!!」
スピリットは頭をガンガンとテーブルに打ち付け始めるが、テーブルが壊れない程度の力加減はしているようで壊すことは無い。だが周りに変な目で……見られておらずいつも通りだとでもいうのか、暖かい目で見られている。
「奥さんとは話し合うしかないですよ。それでマカちゃんは……何でしたっけ? キモいからパパと一緒に洗濯しないででしたっけ?」
「そんなこと言ってないから! 俺のマカはそんな酷いこと言わないから!!」
先ほどまでとは一転、スピリットはハヤテの胸ぐらを掴み、彼の体を大きく揺さぶる。ハヤテはスピリットの気が済むまでやらせようとした。
「……」
「マガアアアアアア!」
「…………」
「アアアああああ!!」
「長い!」
……が、ハヤテのチョップがスピリットの頭を吹き飛ばした。
***
スピリットはすぐに起き上がり、テーブルに残っている酒を一口飲む。それから真面目な顔でスピリットはハヤテに問いかける。
このキャバクラでは珍しい真面目なスピリットに嬢たちがキャーキャー言っているが、今のスピリットはそれに反応しない。そのくらい真面目だ。
「……マカに関しては手助けしてくれ。お前はマカに好かれているからな。あと手を出したら本気で殺す」
「はいはい」
スピリットは触れづらい話題なのでワンクッション置いてから本題に入る。
「で、お前の首の傷は嫁から受けたんだろ?」
「そうですよ」
「そいつはなんて
「……」
スピリットは後輩二人を心底実力も人物的にも信じている。一人はスピリットのことを長年改造していたが、変な改造はなかった……それでも改造されていたことがわかった時は泣いたが。そしてもう一人、ハヤテの実力もやはりスピリットは把握している。
デスサイズを作り上げた職人や改造してくる方の後輩なんかなら、正面からハヤテの首に傷をつけることも可能だろう。だがその人達はハヤテを襲うなどという事はありえないし、それ以外の人類は基本無理だ。
唯一の例外は人間ではない魔女ならばこんなことも可能だろう。というよりもスピリットはアリスに色々教えて貰っていてハヤテの元妻を怪しんでいたが、ハヤテのことを考えて探ったりはしていなかった。
「黙秘権を行使します」
「魔女関係でそれが通じるとでも?」
「死神様のお墨付きですし」
「……チッ」
スピリットは死神様に簡単にではあるが聞いている。ハヤテが限定的ではあるがBJのような特技を身につけたと。そしてそれを行使する気は無いことを。
「俺……俺たちの手助けは必要か?」
「要らないですかね。もし必要なら自分から言います」
「そうか」
スピリットはタバコを咥える。そして考え込む。
ハヤテの元妻が魔女なのは確定だろう。酒の回ったスピリットの頭でもわかる。だからこそどうするべきか迷う。
もしその魔女が死武専やその他の街で暴れれば討伐指示が出る。そしてそれに対してハヤテなら立ち塞がるだろう。
仲間が貶されたからその相手を九割殺しなんて事をする程度には、ハヤテも頭がぶっ飛んでいるのだ。
スピリットはハヤテの顔を見ればわかる。殺されかけたのにその元妻のことを未だに愛しているであろうことを。
(こいつと敵対するのは嫌だなァ……)
自分がもしハヤテの立場で未だにその妻を愛していて、討伐命令がでたらやはり死武専と敵対するはずだ。
タバコを吸っても晴れない頭でボーと考えて、スピリットは冷徹な判断の下せる仲間に問題を預けることにした。
「……このあとすぐにシュタインのところに行け」
「元々そのつもりでしたけど」
「ならいい。シュタインにも話すんだろ?」
「シュタインなら全部わかってそうですけどね」
「違いない」
二人は席を立ち上がり、伝票をスピリットが持って会計に行く。
「……あっ! お前勝手に経費でコーヒー豆買っただろ! あれでめっちゃ怒られたんだからな。お前が払え」
「あははは。嫌です」
その後いい大人がキャバクラの支払いで十数分揉めることになった。そして結果的にシュタインに押し付けることになったのだが、後々二人は魔改造の罰を受けることになるが、酔っ払っている二人にはそこまで考えることは出来ない。
戦闘は当分先(のはず)です。大人世代の奴らが戦ったら色々終わるので。