ハヤテがメデューサと再開する少し前、デス・ザ・キッドは鬼神の卵、魔剣と相対してい……
「うおおおおおおお!!」
キッドは特製キックボードで魔剣クロナの横を飛ぶように抜けていった。
そのあと少しして次はブラック☆スターが駆け寄ってきた。ブラック☆スターはクロナを魂威で倒すように言われている。なので、当然ブラック☆スターは立ち止ま、
「速☆星! あばよ!!」
ブラック☆スターはクロナを抜いて行った。
「俺たちの相手はあいつらじゃねえからな」
「僕があの人に言われたのは、前回斬った女の子をもう一度斬ること」
「へえ〜。なら私たちとは戦うってこと?」
ブラック☆スターにほんの少し遅れて、マカがソウルを携えてやってきた。
***
キッドはその速さを活かして、メデューサの横を通り抜けたあと先行する。
ブラック☆スターとマカは彼が速度を合わせるように走りながら、鬼神に続く道を走っていた。
「ねえ、ブラック☆スター」
「んだよ」
「私にあの魔剣の子をやらせて」
「俺様が……俺様はお前が嫌いだが、
「やっぱり私のこと嫌いなんだ」
「ご、ごめんね? マカちゃん」
「椿が謝ることじゃないよ」
親だと言いながら自分にとても厳しく接していたハヤテが、マカを娘だと言いながら優しく愛している。ブラック☆スターはこんな小さいことで一々雑魚な考えを持ちたくないが、どうしても気になってしまう。
シドやミーラはブラック☆スターを愛してくれているとは思うが、それは自分の本当の親を殺した罪滅ぼしなのではないか? とたまに考えてしまう。そんな浅ましい考えが浮かぶ度にハヤテに挑戦し、ボコボコにされている。
自分は義理とはいえ親だというシド達が、本当は愛してくれていないのではないかと考えてしまう時、いつもブラック☆スターはマカと比べてしまうのが嫌で嫌で仕方が無い。そしてその嫌な気持ちがマカを嫌う。
だが、今度の相手はマカとソウルを斬り刻んだ相手だ。それなら相手を譲ってやらないこともない。正直言うと、ブラック☆スターはクロナと戦うよりもその奥にいる敵と戦いたい。
彼の直感が告げているのだ。その奥に強敵、それも宿敵がいると。
ブラック☆スターは戦って戦って、ハヤテを殺せるくらい強くならなければ自分を本当にBIGだとは真に思えない。
そんな経緯があり、ブラック☆スターはマカに敵を譲った。
「今度は負けないから」
「少し前に負けたのに、負けないって言う相手とどう接すればいいのか……ラグナロクはわかる?」
「ぶっ倒せばいいんだよ」
「だよね」
クロナはラグナロクを剣に変形させて、マカに向けて構える。クロナの構えはどこかおかしいが、それなのに堂に入っている。
「負けないって言ってたけどよ。なんか勝算あんの?」
「うん……もちろん
「マカが激情家なのも知ってるけどな」
ソウルはマカと大抵一緒にいる。休日は別行動しているが、それ以外はだいたい一緒だ。ソウルが把握している限りではマカは魔剣対策なんて施していなかった気がするが、マカがそういうならきっと勝算があるのだろう。
マカの波長を増幅して送り返しながら、
『おいおい、オイラの力なしで戦おうとしているのか?』
『てめえなんかに力は借りねえ』
ソウルの中にいる鬼とも戦う。
「今度はマカもソウルも殺すから」
「……あなたは私の名前を知っているみたいだけど、私はあなたの名前を知らないんだけど」
「……僕はクロナ、魔剣士クロナ」
「クロナね。今度は負けないから」
「行くよ」
自己紹介を終え、最初に動いたのはクロナだ。クロナはリストカットをして腕に傷をつけ、そこから黒血による斬撃を飛ばす。
「ブラッディスライサー」
「邪魔!」
「じゃあこれ」
マカはその攻撃をソウルの鎌で後方にはじき飛ばしたあと、クロナの懐に潜り込む。
そのマカに対してクロナはリストカットした腕から出てくる黒血を小振りの剣の形にして、マカに斬りつけた。その攻撃をマカはさらに一歩前に出て、紙一重で避けながら腕を引き絞って放つ。
「はあっ!」
「ぐへっ」
「まだまだ!」
マカは掌底打ちでクロナの顎を撃ち抜き、頭が揺さぶられて動きが鈍ったクロナの背後に鎌を配置し、
そのままふらつくクロナの顎を執拗に打ち付け続ける。如何に黒血で身体を硬化させていても、頭を揺さぶられ続ければ防御力など無意味。
「アホクロナ! てめぇ調子こいてハマってんじゃねえよ!!」
「マカ!」
「わかってる、よっと」
クロナの持つ剣ラグナロクが一度その実体を黒血に戻したのを見て、マカはソウルの声に合わせてクロナを吹き飛ばして後方に飛んだ。あのまま殴り続けていれば、また黒血によって前回のような失態を犯していただろう。
「マカって掌底なんて使ってたか? 殴りだったと思うんだけど」
「特訓したからね」
「……は? そんな時間なかっただろ」
「あったよ。夜に」
マカはただマカの中にいるハヤテという狂気に抱かれていた訳では無い。まずマカが影響を受けている狂気は愛欲であり、愛とは一瞬のものでは無い。何分も何時間も何年も相手を愛し
狂気は確かに人を堕落させる。強すぎる感情は人をおかしくする。だが、愛欲の狂気として出てきたマカの中のハヤテは愛するマカが直ぐに死んでは困るので、戦いで強くなるべく特訓をつけていた。
マカの想像上のハヤテの筈なのに、マカの知らないような戦い方すらも教える。黒血対策として掌底や黒血についての様々なことを学んでいた。
マカの中の彼いわく、
「愛する人が死んでしまったら悲しいだろ? だから俺は鬼と違って、黒血以外での強さも教える」
ソウルの鬼以上にマカを狂気に墜している存在は、鬼のやり方ではその人がおかしくなってしまう。それではダメだと口にする。
「……俺の
「私は受け入れちゃってるからね……それで、早く立ちなよ」
マカはソウルに答えてから、未だに地面に寝ているクロナに声をかける。
その声に反応するように、クロナは体の節々に力が入れないで無理やり立ち上がった。
「僕はやっぱり君は嫌いだ」
「……私最近嫌いって言われ過ぎじゃない?」
「ガサツだしとうぜ、痛ってえな!」
「ガサツで悪かったわね! でも最近は少しはオシャレだってするようになったし」
「センス悪いけどな」
「……マジで!?」
一度完敗したクロナの前でマカとソウルはいつも通り話す。そんな二人を見て、クロナは顔を大きく歪ませて歯軋りする。
クロナはマカが嫌いだ。何故だか分からない。でも、マカは嫌いだ。
最近メデューサがクロナにあまり構わなくなってきたのも、マカを嫌いになっている原因の一つかもしれない
メデューサが
クロナは未だに
どれだけ厳しく教育されても、クロナを教育している時はクロナを見てくれる。だからこそ、厳しい修行や拷問にも耐えてきたのに。
最近分かったのだ。メデューサはクロナが
エルカやミズネはクロナを普通に可愛がってくれる。普通に可愛がってくれるからこそ、愛の種類を知ってしまっているからこそ、メデューサはクロナの事をついでに愛しているだけだと分かってしまった。
何故だか分からない。だが、父親を嫌い感情と同じような感情をマカに抱くクロナは、マカを強く睨みつける。その父親に愛情を向けられている存在だと無意識で分かったのかもしれない。
「いい目出来るじゃん」
「あんなに滅多打ちにしたのにダメージを与えられない雑魚は死ね」
「ホント嫌われすぎじゃない? まあ、私も何となくあなたのこと嫌いだけど」
マカはそう言い放ちながら、再びクロナの間合いに入っていく。
クロナがマカを嫌っているように、マカは何となくクロナが気に食わない。
クロナに前回斬られた時、何故かクロナとハヤテがダブったのだ。恋をしている相手と被った相手がナヨナヨしていて、自信がなく、それでいてあの人とかいう人間の命令でしか動けないように見える。
初恋の人とダブってしまうクロナがマカはやはり気に食わない。
マカはソウルの刃ではクロナを攻撃せず、石突きや掌底でクロナに攻撃していく。一方クロナはラグナロクや黒血を使って、攻撃を喰らいながらマカに少しずつダメージを与える。
攻撃を与えている回数ならマカの方が圧倒的に多いが、ダメージ量はマカの方が遥かに大きい。
ラグナロクがクロナの顎や頭、首などへの攻撃を黒血の盾を出現させて防いでいるのだ。黒血で素手の攻撃を防がれる度に腕に負荷が掛かり、既に右手は腫れてしまっている。
「いくらてめえらが斬撃を使わないっていう対策をしたところでな! 生身のてめえらじゃジリ貧なんだよぉ!!」
「今度はざっくり斬ってあげる」
「……マカ、どうする?」
「……」
ラグナロクが言う通り、マカの腕は攻撃した反動でダメージを受け、それが相当量蓄積されてしまっている。このままじゃ殴ることも鎌を掴むことも出来なくなってしまう。ソウルとマカの必殺技である『魔女狩り』は両手発動が前提なので、片手が使えなくなれば魔女狩りが発動できなくなる。
そんなソウルの言葉を聞き流し、マカは自らの精神世界の中にいるハヤテに声を掛けていた。
『やっぱり駄目みたいです』
『マカちゃんがもし魂威を撃てたら勝ってたんだけどね。俺と同じく打てないからしょうがないさ。それでどうする?』
『力を貸してください』
『……いいよ。でも狂気に飲み込まれるだけならいいけど、自分を見失わないでね』
『はい!』
マカは狂気を、黒血を受け入れた。真っ黒なマカの中のハヤテは卑しく笑う。
「あは、あは、あはははは、あははははははは!!」
「は? おい、マカ!?」
マカが高笑いをしながら黒血に包まれると、今さっきまで死武専の制服だったのに、黒いドレスに服が変わっていた。黒いドレスはパーティーに出るようなシックなドレスではなく、背中が大きく開いていて、スリットも腰まで入っている。胸元も大きく開いた卑猥なドレスだった。服だけでなく、マカの目は据わっていて、狂気を受け入れたことが分かる。
混乱しながらマカを呼びかけているソウルは、彼の精神世界にいる鬼が呼んでいるのでブラックルームに意識を向ける。
『てめえがなんかしたのか!?』
『いいや、オイラとは系統自体が違う狂気じゃねえかあれじゃあ。もっと恐怖でおかしくなるのがオイラの狂気の特徴だ。それよりもほら』
鬼はソウルに黒い便箋を渡してきた。ソウルはそれの宛先人がマカであることが分かると、無理やり封筒を破り捨てて中身を読む。
『私少しはっちゃけるからサポートよろしくっ!』
重要なことなど一切書いていない、ただ一言いつも通りのサポートを望む言葉が書いてあった。
『オイラはソウル、お前を狂気に堕とそうとしているが、マカの方にいる俺に似た存在は相当エグい存在みたいだな』
『なんでだよ』
『マカの状態を見ればわかる。全身どっぷり狂気に染まっちまってるぞ。エグすぎて笑えてくるな』
鬼は両手を口に入れて、笑いを抑えようと必死なようだ。
『……いざとなったらお前の力を借りるから準備しておけ』
『おお! パートナーのためなら狂気に落ちていいと!』
『勘違いすんなよ。俺は狂気を律したままお前を御してやる』
ソウルは捨てセリフを吐くと、そのままブラックルームを後にし、言われたとおりマカのサポートに専念する。
「あはははは、ぶっ飛べッ!」
「君が死ね!」
先程までの戦いとは一転、マカとクロナは同じ戦い方をし始めた。もちろんマカがクロナと同じ戦い方だ。
クロナが斬撃を放てば、黒いドレスで包まれた腕でラグナロクをガードする。そのままマカがクロナの腕を斬り飛ばそうとすれば、黒血で強化した腕でクロナは弾く。
マカが斬ればそのあとクロナが斬る。クロナが黒血を使えばマカも黒血を内にいるハヤテのサポートを受けながら使う。
ただひたすら防御を捨てて、だが獣にまでは堕ちずひたすら敵を倒すために攻撃をする。
クロナはメデューサにマカを殺すなと言われているが、万が一間違って殺してしまったのならしょうがないとも言われている。故にクロナは自分の苛立ちをその剣に乗せて、マカの首を斬り刻もうとする。
マカはクロナという存在が自分の初恋を侮辱しているように感じ、狂気に身を任せ、思うがままに殺意を鎌に乗せて斬り殺そうとする。
だが互いの防御力は攻撃力を上回っていて、まともなダメージを与えられない。ならば次の手だ。
「おらぁ! 行くぞクロナ」
「悲鳴共鳴」
「「魂の共鳴!!」」
ラグナロクは悲鳴をあげながら、クロナと共鳴率を引き上げていく。そして発動したのが『スクリーチ『
黒血を操り、狂気に身を任せているマカと共鳴するには、ソウル自身も狂気を扱わなければ合わせることができない。それが分かっていたのか鬼は笑いながら、ブラックルームで調律の済んだピアノにソウルを向かわせる。そして発動したのが『魔女狩り』。
ラグナロクは悲鳴をあげ、ソウルは飲み込まれないように雄叫びを上げながら共鳴率を高めていく。
「あははははは!」
「死んじゃえ!」
ソウルの黒血だけならスクリーチγに押し負けるが、マカ自身も黒血によるパワーアップを行っているため、
先ほどの焼き回しのように、本当にやばい攻撃以外は黒血でガードする戦いがまた始まった。
「あはははは、早く喰らえ!」
「君こそ早く喰らいなよ、あひゃひゃひゃひゃ」
「……ソウルもっと!」
「……ラグナロク!!」
敵を倒すにはまだ攻撃力が足りない。マカとクロナは打ち合って直ぐにそれを理解した。ならばもっと力をと際限なく自らが操る武器と魂を共鳴させる。
二人は互いに弾かれるように背後に飛ぶ。次の一撃で決めるべく武器に気合を入れさせる。
「ピギャアアアアアアア! やっちまえ!!」
「うおおおおおおお!!」
職人だけでは作り出せない魂の波長を武器というアンプで増幅させる。だがアンプにも当然増幅出来る限界はある。その限界を超えてラグナロクとソウルは共鳴させていく。
クロナの背中に黒血の翼が生え、スクリーチ『γ』は強大化する。
マカは逝ってしまいそうな程の狂気をその身に宿し、魔女狩りによって出現させている光の刃は更に巨大に禍々しくなる。
「もっとシャキッとしなさいよおおおお!!」
「うるさい黙れ死ねぇぇえええ!!」
感情を剥き出しにして食らいつくように二人は必殺をぶつけあう。弾き飛ばされそうになる中、二人は気合いで踏みとどまる。
クロナは嫌いなマカを殺してメデューサに褒められる為に。マカは気に食わないクロナをぶっ倒してハヤテ達に褒めてもらう為に。
二人は互いに踏ん張ったが、武器を吹き飛ばすという結果で終わった。ソウルは鎌のまま壁面に突き刺さり、ラグナロクは黒血となって地面に零れる。
ソウルとラグナロクは強引な魂の共鳴によって意識を失ってしまった。武器が使えなくなりクロナはキョドり始めるが、そこに拳が飛んでくる。もちろんその拳はマカのものだ。
「ごはっ!」
「まだ戦いは終わってないぞ!!」
「や、やめてよ!」
「武器が使えなくなった程度でオドオドするな!!」
マカはクロナと同じように黒血で体を強化し、発狂している筈なのだが、何故か正常なように見える。マカはハヤテと被るクロナを決して認めることは出来ない。こんなオドオドしている存在は許せない。だからこそ解らせてやると殴る蹴る投げる吹き飛ばす。
ラグナロクによる身体ブーストがなくなったクロナは逃げるようにマカから離れようとするが、マカは容赦なくぶん殴る。
「逃げるな!!」
「ひっ、ひぃぃぃい!」
「怯えず立ち向かえ!!」
マカが狂気に浸っているのに、それでも正気を保てているのは愛のおかげだろう。今扱っている狂気程度で何年も温めてきた初恋を吹き飛ばせる訳が無い。
マカは更に過激にクロナを殴っていき、ある言葉を聞いた時に唐突にクロナは動きを止めた。
「そんなんじゃあの人に嫌われるよ!」
「……痛いって言ってるだろおおおお!?」
「ぐはっ……やったな、負けない!」
「僕だって負けないいいいい!!」
マカは焚きつけるようにクロナが執着しているっぽいあの人というワードを口にすると、クロナは目の色を変えて殴りかかってきた。
しかしクロナは剣での戦いは鍛えてきたようだが、拳による超近接戦闘は学んできていないようで、マカにいいように殴り飛ばされる。
クロナはそれでもメデューサに嫌われないように精一杯マカに拳で挑む。
だがしかし悲しいかな、乱闘がしょっちゅう起き、拳で戦うことを知っていて、子供の頃から
「……ああああああ! 動けよ、僕の体! 動け!!」
頭を何度も殴られ、正常に体を動かすことの出来なくなったクロナは、倒れながらも必死に起き上がろうとするも体が言うことを聞かない。
黒い鼻血を黒血のドレスの裾で拭ったマカはそんな倒れているクロナに近づいていく。
「ひ、ひいぃぃぃぃぃ!!」
「もっと自分に自信を持って!!」
マカは手加減なしで容赦なく起き上がれないクロナの顔面を掌底で打ち抜き、クロナはその一撃で意識を失った。
「勝ったぁ……」
前に瞬殺されたクロナに勝ったことをマカは叫ぶ。その雄叫びによってマカは緊張が解けたのか、やっと自覚していなかった体へのダメージを認識する。いくら黒血で皮膚下を硬化していても、斬撃を受ければ肉体に疲労は溜まる。
マカの疲労は限界を超えていたようで、そのまま顔から地面に倒れ込んだ。
次回はメデューサVSハヤテ
もし1万字を超えるようなことがあったら二話に分けて投稿します。多分平気だと思いますが。