蛇の元夫   作:病んでるくらいが一番

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原作を知っていればわかる内容があります。ネタバレは感想で控えて頂けるとありがたいです。


第22話:蛇の夫と狂気の妻

 メデューサはシュタイン達と相対していた時とは違い、殺意を全く発さず朗らかな顔で自分の夫を見ていた。そんなメデューサにアリスが静かにキレているが、ハヤテはそれを放置する。どれだけキレていても絶対にアリスが独断専行をしないと分かっているからだ。

 

「保健室に居たなら声を掛けてくれれば良かったのに」

「もし貴方に面と向かって会ってしまったら、きっと私はこの作戦を決行出来なかったと思うわ」

「……何故鬼神を復活させようとする」

「ハヤテさんのためよ」

 

 メデューサはシュタイン達に言ったようにハヤテにも口にする。嘘なんてついていないし、知られたとしても別段問題ない。

 

「……うーん? 何故俺のためになるんだ?」

「それはハヤテさんが自分で考えて」

「オーケー」

 

 ハヤテは完全に警戒を解くが、もし攻撃されても反応できる程度迄しか近づかない。その微妙な距離感にメデューサは顔を曇らせる。

 

「これが今の私たちの距離ということかしら」

「違う違う。本当はその手を取りたいけど……メデューサは罪悪感から逃げちゃうかもしれないだろ? 俺とアリスの首をザクッとやっちゃったんだからさ」

「……確かに逃げちゃうかもしれないわね」

 

 もしここに来る前にアリスから、

 

「警戒は解いてもいいですが、攻撃に反応できる程度の距離は離しておいてください」

 

 と言われていなければ普通に抱きしめに行っていた。愛した人を盲信的に信じてしまうのがハヤテの一番の悪い所だと分かっているアリスはちゃんと事前に警戒をする。

 ハヤテとしてもアリスに言われたからなんて言えないので、一応妻ならこうするだろうなという想定の元口にした。

 

「細かいことはとりあえず置いておいてさ、帰っておいで」

「……え?」

「だから俺の為に鬼神を復活させる? んな事どうでもいいわ。俺の為に時間を使うなら、俺と一緒にいてくれ」

「私は貴方に不意打ちで殺しかけたのよ? そこにいるメイドが黒血実験に成功したからたまたま生きているだけで」

 

 メデューサが恐れていることは二つある。

 ひとつはハヤテとメデューサの寿命の差。魔女ハーフと魔女ではその寿命に天と地ほどの差がある。

 

 そしてもう一つはやはりハヤテを殺しかけた事だ。

 寿命の差に気がついてしまい、ハヤテがいつか死んでしまうなら自らの手で殺し、自分もそのあとを追おうと一種の破壊衝動、魔力の導きに翻弄されてしまった。

 魔力の導きによる気の迷いだが、そんなこと被害者であるハヤテ(アリスは含まれていない)が考慮してくれるわけがない。そう考えていた。

 

「前に言っただろ? ちょっと過激なSMプレイだったってだけ」

「あれ本気だったのね」

「あんな事で嘘つく必要あるか? さあ、おいで」

 

 ハヤテはアリスを地面に刺してからメデューサに近づいていく。手放されたアリスは内心驚きながら、ハヤテの血液の操作に集中する。例え剣であるアリスを離しても、ハヤテとアリスには黒血と同じ性質の血液がある。

 

「……許されるわけがないわ」

「いいや、俺が許す。だから鬼神なんて捨てて帰ってこい」

 

 ハヤテは両手を広げてメデューサに近づいていく。メデューサは目を閉じながら怯えながらも手を伸ばす。

 

「あなた……」

「おかえり」

「……でも今は帰れないの、ベクトルアロー」

 

 メデューサはハヤテと手が触れる寸前、黒い矢印を刃のように放つ『ベクトルアロー』を発動させ、ハヤテはそれを背後に飛んで避けた。

 

「……はぁ」

「ハヤテさんの為でもあるけど、私の為でもあるのよ。ごめんなさい。こんな嘘まみれな女、愛想が尽きたでしょ?」

「別に。誰だって言いたくないことの百や二百あるでしょ。あの死神様だって隠してることは沢山あるし。でもそうだね、ちょっとだけ傷ついたよ」

「ならどうするの?」

「とりあえずメデューサは達磨にして持ち帰る」

「は!?」

「身内に治療のプロフェッショナルと医療のプロフェッショナルがいるから、断面が綺麗だったら治してもらえるよ。だから安心して達磨になってね」

 

 ハヤテの目は赤く光り、彼の顔は愛を求めて狂気に歪む。その波長を受け取ったアリス()は白銀の刀身を真紅に染める。

 

「……もしかしてハヤテさんってハードSMプレイがしたかったり?」

「ただの家族喧嘩、さ!」

「ベクトルプレート!!」

 

 ブラック☆スターが使う『速☆星』よりも素早い身のこなしでメデューサの懐まで潜り込み、メデューサの脚に細く長く伸びたアリス()を一閃する。

 メデューサは本気で脚を斬り捨てに来たことにドン引きしつつ、用意しておいた矢印の方向に触れたモノを移動させる魔法『ベクトルプレート』で何とか避ける。

 

 ハヤテの本気の斬撃をメデューサは『ベクトルプレート』や矢印の方向に威力を強化する『ベクトルブースト』、体内の蛇やベクトルアローを使って何とか避けていく。

 殺意無き本気の斬撃にメデューサは恐怖……などせず、そこまで自分を取り戻したいのかと狂った思考で喜びを得る。どうやらハヤテだけでなく、メデューサも割と頭が逝っているようだ。

 

「ハヤテさんから離れたあともちゃんと自分磨きは欠かさなかったわ。本当は触れて欲しいのだけど」

「俺も自分磨きを怠ったことは無い」

「……ですが未だに胸が貧相ですね」

「殺すぞ小娘! ベクトルアロー!!」

「動いているのに胸があまり揺れないって羨ましいですよ?」

「ぶっ殺す!!」

 

 射線にハヤテを入れず、(アリス)だけを狙って極太の『ベクトルアロー』を放つが、ハヤテが迫り来る矢印の刃を丁寧に斬り結んでいく。

 一々魔法を斬っているのは魔女の魔法は壊さない限り動き続けたりするので、それの警戒だったりする。流石にまた首をチョンパされるのは勘弁したい。彼が好きなSMプレイはソフトなものであって、シュタインの好きそうなハードプレイではない。

 

 アリスは挑発しながらメデューサの戦力分析を進めていく。魔法発動までのラグ、魔法の規模に対するメデューサの行動速度、ハヤテからアリスにターゲットを変えた時のハヤテへの注目度。

 ハヤテがもしこの戦いで、メデューサをアリスの独断で殺したら自殺すると宣言しているので、全力で勝つ戦いをするべく考察を深めていく。

 

「ネークスネークコブラコブブラ。ベクトルアロー&ベクトルプレート」

「二歩前」

 

 メデューサが目くらましの『ベクトルアロー』を放ちながら、ハヤテの背後に回るために彼の体を起点として、逆時計回りに三つの『ベクトルプレート』を出現させる。

 

「なに!?」

「甘いですよメデューサ」

 

 ハヤテはアリスの言う通り二歩前に出る。『ベクトルアロー』が迫ってくるが、それはハヤテの首筋から血が吹き出し、その血液を硬化させることによってそれらを全て防ぐ。そして二歩前にあった『ベクトルプレート』にメデューサに続いて乗る。

 すると先に乗ったメデューサが先程までハヤテがいた場所で止まり、ハヤテの凶刃がメデューサの片腕を狙う。

 

 メデューサは気合いでハヤテの刃の脅威範囲から抜け出したが、アリス()の縦幅がいきなり伸び、メデューサの右腕を斬り落とした。

 

「があぁぁぁ、ぐぅ……ちょっとSMにしては過激過ぎないかしら?」

「これは家族喧嘩であり、お仕置きだからね。メデューサが鬼神を諦めてくれればお仕置きもやめるよ」

 

 ハヤテはメデューサの苦痛の声を聞き、顔を更に愉悦に歪ませる。アリス()についているメデューサの血を指で掬ってひと舐めする。

 求めて止まない妻の一部に彼の体の一部が盛り上がりそうになるが、無理やりそれを抑え込む。流石にそんな状態で戦えるほどハヤテは器用ではない。

 

「ほんとハヤテさんは変態ね」

「それだけ君を強く求めているってことだよ」

「……そんなだから普通の人はハヤテさんの愛から逃げるのよ?」

「俺が本気で愛したいと思った人が受け止められるだけの器の大きさを持っていたからどうでもいいね」

 

 メデューサは話をしながら右腕の切り口を効果のないベクトルプレートで押さえつけて出血を抑える。焼いたりした方が出血は抑えられるが、それをやってしまうと()()()()()()()

 

「ねえ、ハヤテさん」

「なに?」

「私はそちらには()()行けないけど、ハヤテさんがこちらに来ない?」

「鬼神復活は流石にやばいから無理」

「そうでも無いわよ? ハヤテさんなら平気だと思うのだけど」

 

 痛みで歪む顔で先程とは逆にメデューサがハヤテに手を広げる。それをハヤテは一歩も動かずに拒否する。

 

「たしかに俺はメデューサを愛している。好きだ、大好きだ。でもね、鬼神は駄目だよ。あのエクスカリバーよりも何倍もめんどそうな奴を復活させるのは頂けない」

「……」

「メデューサもエクスカリバーに会ったことあるんだ」

 

 メデューサは虫酸の走ったような顔になったのを見て、ハヤテは彼女がエクスカリバーと会ったことがある事が分かる。

 

「彼は武器の祖。当然研究対象だったのだけど……虫酸が走ったから辞めたわ」

「それがいい。エクスカリバーは人の言うことなんて()()()()聞かないからね」

「ええ、()()聞かないもの」

 

 微妙に認識違いの発生している会話だったが、メデューサはエクスカリバーの話などしたくないので早々に終わらせた。

 腕が一本斬り落とされ、体の重心がおかしくなっているメデューサに対してハヤテはアリス()をダラりと構える。アリス自体が変幻自在の刃となるので、無駄に力を入れるよりもダラけた構えの方が動きやすい。

 

「次で決める気ね」

「妻が出血多量で死ぬのは嫌だからな。次で脚を斬り落として持ち帰る。そのあと直ぐに治してあげるからね」

「出来れば斬り落とさないで欲しいのだけど」

「ならこちらに来て」

「断るわ……ネークスネークコブラコブブラ」

 

 メデューサの魂が膨れ上がる。ハヤテと同じく次の攻防戦でケリを付ける気なのだろう。彼女は僅かに()()()()を体に押し付けて抑え込み、残っている左手の薬指に嵌っている物を見て決意を固める。

 

 二人は同時に互いに向けて駆け出す。

 メデューサの体から大量の蛇が出現し、ハヤテを倒すべく迫る。

 

「ブラッディブレイド」

 

 ハヤテの首筋から再び血が吹き出し、吹き出した紅い血液は空中で小型の剣に形を変え、迫り来る魔法の蛇を斬殺し尽くす。アリスが操作しているのでハヤテは目の前のメデューサに集中できる。

 

「そういえば」

 

 メデューサが口を開くがハヤテは後でいくらでも話せるからと無視を決め込み、日本刀に変化しているアリスをメデューサの脚に振ろうとした。それに対してメデューサは『ベクトルアロー』を差し向けながら、口撃もする。

 

 

 

 

「魔剣は私たちの()()()

「……え?」

 

 そこから何故かハヤテの感覚は引き伸ばされる。まるで次に起こる現実を拒絶するように。

 

 メデューサのいきなりの暴露に武器(アリス)を振るう腕の制御が鈍る。だが、相手の目を切り裂くとかではなく、脚を斬るだけなので多少制御が甘くなっても問題にはならないとハヤテは思ってしまった。

 

「ベクトルブースト」

 

 ハヤテのアリスを持つ腕が跳ね上がる。下向きに斬り伏せる気だったが、いつの間にか仕込まれていたメデューサの『ベクトルブースト』によって斜め上への斬撃に変わってしまった。斬撃の延長上にはメデューサの首がある。

 それでもまだ寸前で剣を止められる。それだけの技量がハヤテにはある。

 

「ベクトルプレート」

 

 魔剣が息子という話を聞き、集中力が散漫になってしまったからだろうか。ハヤテはベクトルプレートに乗ってしまった事に効果が発動するまで気が付かなかった。メデューサへと更に加速するハヤテの体。

 だが、まだギリギリ彼自身が身を捻り、メデューサの放つベクトルアローを喰らえば妻の首を跳ね飛ばさずに済む。

 

「……」

 

 今までメデューサは一切の殺気を放っていなかった。愛おしいの夫に対して殺気など放ちたくなかったのだ。だからこそハヤテは反応してしまった。メデューサがいきなり放ち始めた強烈な殺気に。

 

 ハヤテの腕は不意に放たれた殺気に対して、反射的にその相手を斬り殺そうと力を込める……込めてしまった。

 目の前の殺したくないメデューサ()の殺気に当てられ、腕を更に加速させてしまう。

 

 ハヤテがそれが不味いことだと気がついたのは、妻の首の薄皮を斬り進めている時だった。

 殺したくない、嫌だ、やめてくれ。だが、そこまで刃が進んでしまえば例え死神様だって引き返すことは出来ない。

 

 肉を裂く感覚がアリス()から伝わる。もう慣れたはずのその感覚はハヤテを地獄へと突き落とす。アリスが人間の姿に戻って、刃の進行を止めようとしている。だが、もう手遅れだ。

 

「愛しているわ、あなた」

 

 いつからその言葉を発していたのかその時のハヤテには分からない。だが確かにその声はハヤテの耳に届いた。メデューサは首を斬り付けられているのに、少し苦しそうにしかし愛おしげにハヤテの目を見続けている。まるでハヤテの魂にその存在を刻み付けるように。

 

 アリスの刃は骨も容易く斬り捨てる。骨を断つ感覚、また肉を斬る感覚、そしてモノを斬り終えて空を斬る感覚。

 

 ボトリ

 

 何かが落ちる音がした。ハヤテは何度も聞いたことのある(首の落ちる)音だ。しかし決して認められない。

 

 バタッ

 

 何かが倒れた音がした。これも何度も聞いたことのある(身体が倒れる)音だ。しかしそれを認められない。

 

 何かが倒れた時、ハヤテの顔に鉄臭い液体が掛かる。呆然としていたハヤテの口にもその液体は入る。

 そレは先程舐メタ液体(メデューサの血液)ノ味。

 

「あ、A、あアアaAaaあ……」

 

 強い感情は狂気と表裏一体。強い思いは勇者を産み、狂気は狂人を産む。

 ハヤテは戦いの場では感情を一定以上高鳴らないように制御して、その感情の範囲内で狂気を操っていた。三船の道徳は死武専の道徳に比べて異常だ。その差の分だけハヤテは狂気に変えて操っていた。

 

 ハヤテは獣の如く吠える。愛しの妻を自らの手で殺してしまった。その行為でハヤテの中にあった狂気はハヤテを侵食し、魂の共鳴をしていたアリスをも狂気は飲み込んだ。

 

「あwdrftgyばひlp;@:「」」

 

 アリスは剣の姿を保てずハヤテの中に戻る。元々魂はハヤテの体の中なので、戻るべき場所はハヤテの体。そしてその体は狂気に支配されていて、アリスも一緒に狂う。

 

 どこにそんな量があったのかと疑問に思うほど紅い、真っ赤な血液がハヤテの首筋から噴出する。その血液はハヤテを包み込み、少しすると異形の姿になって彼が出てきた。

 混沌とした、常人が見たら精神にダメージを受けそうな見た目。そんな見た目だが唯一わかるのは、蛇肌のような紋様が全身に浮かんでいる。まるで妻を忘れないように体に刻み付けるように。

 

 ハヤテはそんな醜い姿に成りながらも、ひたすら妻を殺した悲しみを叫ぶ。もしこの場に魂感知が出来る職人がいたらこう言うだろう。

 

「思いに魂が耐えきれず破裂しそう」

 

 アリスの魂がハヤテを押さえつけなければハヤテの魂は妻を殺した自分への呪詛で即座に魂を破裂させていただろう。もしアリスが正常なら何時間だってハヤテの魂を押さえつけられた。だが、今のアリスはハヤテに感化されて狂ってしまっている。

 そして唐突にアリスの魂は何故自分が()()()()の魂を守護しなければいけないのか? と疑問に思ってしまった。

 

 アリスの魂がハヤテの魂から離れると、ハヤテの魂から何かエネルギーのようなモノが噴出し始める。それは魂にとって無くてはならないもの。決して無くしてはならないものだ。

 しかし今のハヤテにはここから落ち着くなんて言う考えはもうない。ただひたすらに自分を殺すべく傷つける。

 

 ハヤテのお叫びが大きくなるほど彼の魂から抜けてはいけないものが抜けていく。その何かが出てくる穴が二つ三つと増えていく度に、ハヤテの叫び声は小さくなっていく。

 肉体が死んでも()()()()()()。だが、魂が死ねば肉体はただの肉へと変わり、緩やかな死を迎える。

 

 懺悔するように吠えていた叫び声は、勝手に小さくなっていくが精一杯自分を呪う。

 そしてハヤテの魂が膨張し、破裂しそうになったその時、

 

「……シャー」

 

 ハヤテの魂を抱きしめるように、黒い蛇が彼の魂に巻きついた。たったそれだけでハヤテは動きを止め、自傷行為をやめた。

 ハヤテは何故死ぬのをやめたのか分からない。魂に誰かが語りかけてきたのは覚えているが、黒い蛇という認識はハヤテにはない。

 

「死ぬのは許さない」

 

 ハヤテは魂に語りかけてきたその言葉を聞くと心が落ち着いた。ハヤテが死ぬのをやめ、やっと周りの音が聞こえるようになると、心の奥底から耳鳴りのような音が聞こえる。

 

 そしてミフネの次期当主は動き出す。




主人公さん強キャラ感出してるのに完勝する戦い少なすぎる気がした。エイボンとはドローだし、蛇には実質負け。息子に勝っただけという。
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