蛇の元夫   作:病んでるくらいが一番

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だいたい週二投稿しているのに、何も言わず遅れてしまい申し訳ありません。
水曜には書き終えていたのですが、気に食わなかったので消しました。変更前は☆がハヤテの意図に気がつくイベントがあったのですが、もっと拗れた方が面白いので無くし、マリーの出番を作りました。

あとサブタイでお察しください。


第四章:三船騒乱編
第24話:雷乙、エクスキャリバ~~~♪


 鬼神は復活した。

 

 死武専の人々にすらその存在を忘れられていた存在だが、あの死神様がデスサイズを使っても倒せない相手という事で混乱が巻き起こると思われた。そう、思われただけで別段騒ぎは広がらなかった。

 死神様が使っていたデスサイズが代名詞であるデスサイズ(スピリット)だったなら、大騒ぎだったかもしれない。

 

 それに元々魔女という敵がいる現状でデスシティーに暮らしている人達にとって、魔女よりも強そうな奴が一人増えただけという認識だ。

 

「吐きそう」

「ほら、しゃんとしな!」

「ぐふっ……おばちゃん痛いんだけど」

「ハヤテやシュタインの分まで働くんだろ?」

「ホント迷惑ばかり掛ける後輩達だよ」

 

 現在スピリットはまた書類仕事に追われていた。依頼窓口の人員すら借りてスピリットは仕事を進める。街の人たちには鬼神の被害が出ていないため、鬼神が脅威だと判断をされていないが、本当は各地に散っているデスサイズスを死神様が召集するほどの事態だ。

 鬼神が復活したのでやってもやっても仕事がなくなることは無い。これから起こることに対する対策から始まり、ありとあらゆる事をやらなければいけないのだ。普段のスピリットなら休憩と言いながらキャバクラにでも足を運んでいただろうが、今は真面目に働いている。

 

(シュタインは狂気でおかしくなっているから休暇を無理やり取らせた。気休めにしかならないと思うが、それでも良い方向に行けばいいんだが)

 

 シュタインは鬼神復活攻防戦にて狂気に堕ちた。元々シュタインは狂気に堕ちやすい性格をしていたが、今のシュタインは楽しそうだからと同僚を殺してしまうかもしれない。そんな危うさにまで達してしまっている。

 

(ハヤテはもう無理かもな……はぁ)

 

 そしてスピリットはもう一人の親友を思い出す。動乱期の戦いで精神をすり減らし、何人もの仲間が自殺した。その時の彼らよりも酷い状況のハヤテを思い浮かべ、深くため息をつく。

 

 

 ***

 

 

 ハヤテは鬼神が復活してから2日ほど眠り続けた。いつもならハヤテの傍らにアリスが居るのだが姿を見せず、主にマリーが時々梓も面倒を見ていた。

 

「……」

「起きたのね!」

「……おはよう」

 

 ハヤテはベッドに全裸で寝ていた。そしてちょうどマリーが桶とタオルを持ってきていたので、体でも拭こうとしていたのかもしれない。

 感情が高ぶり電撃をバチバチさせながらマリーがハヤテを抱きしめる。割とシャレにならない威力の電気を纏っているが、ハヤテはその事について何も言わない。

 

(……はぁ)

 

 そんなハヤテをチラリと覗き込み、マリーは心の中でため息をつく。彼女が好きになったハヤテとは全くもって対応が違う。今の彼は枯れた花だ。

 

 マリーはハヤテが死武専を出ていく少し前まで付き合っていた。きっかけはマリーがぶっ叩きジョーに別れを告げられて失意の中にある時、ハヤテが抱きしめたのが始まりだった。

 ハヤテと過ちを犯し、一応付き合い始めた当初はハヤテもすぐに自分から離れていくと思っていた。死武専ではハヤテが取っかえ引っ変えしていることは有名だったので、満足したら離れていくだろうと思っていた。

 

 だが、のめり込んだのはマリーだった。どれだけ尽くしてもどれだけ独占欲を出しても、ハヤテは笑いながらそれを受け入れたのだ。マリー自身少し重いかな? と思った事でも平然と受け入れ、ハヤテは合わせるようにマリーに尽くした。マリーの重さをハヤテが受け入れたのと同じように、ハヤテの重さにマリーも耐えられたのだ。

 ぶっ叩きジョーでも引くほどの事でも受け止めてくれるハヤテにマリーが恋に落ちるのもすぐだった。しかし彼女の悲劇はハヤテが恋をして、本当の愛を知ったことで起きた。

 

 いきなり連絡がつかなくなり、ハヤテに会いに行っても家に居ない。やっと見つけたハヤテに追いつこうとしてもすぐに気配が無くなる。

 マリーは必死になってハヤテを追いかけたが、いつの間にかハヤテは死武専から居なくなっていた。

 

 その時のハヤテは当時ナザールと名乗っていたメデューサに本気の恋をし、その恋に盲目になっていた。愛に対する執着が人の数十倍はあるハヤテはその時完全にマリーを忘れた。

 今までは自分から離れていく人達にもちゃんとアフターケアをして、円満な関係で終わっていたが、マリーにはそういう後処理を一切しないでハヤテは死武専から消えた。

 盲目になり過ぎたのはハヤテだけの意思ではなく、他の人間の意図も絡んでくるが、やったことはただのヤリ捨てド屑なのでハヤテは何も言えない。

 

 ハヤテの全てを受け入れるという一方から見ればあまりにも重すぎる愛され方はマリーにはジャストミートした。その結果マリーは今でもハヤテを追いかけている。

 ハヤテを忘れようと他の男とも付き合おうとした事は何度もある。だが、最初から全力を出したマリーを見て、出会ってすぐの男達は直ぐに姿を眩ませた。

 

 そんな重い恋をしているマリーじゃなくても、今のハヤテは心を閉ざしてしまっているとひと目でわかる。目の前でいつものように笑って話しているハヤテの目は死んでいる。笑い声にも楽しさが乗っていない。そして何より目の前のマリーを見ていない。

 

「……今はまた臨時でシドが担任を務めているでしょ? 明日からは私が担任をやる事になったのよ」

「マリーならいい先生になれるよ」

「私よりハヤテの方が似合っているわ。梓をあれだけ育てたのだから」

「ごめん。俺はやる事あるから」

「……そ、そう。何あったら呼んで。アリスも居ないみたいみたいだから私は当分この家から出勤する。あとこの家にシュタインもいるけど平気よね?」

「分かった」

「…………じゃあ呼んでね?」

 

 ハヤテはもうあの死んだ魔女(メデューサ)以外誰も眼中にないのだとマリーには分かってしまい涙が出る。もしここでマリーがもっと強かさを持っていれば、ハヤテを手篭めに出来たかもしれない。だが、マリーの重さは奉仕のし過ぎによる重さ。優しさからくる重さなのだ。そんなマリーが強硬手段に出ることはない。

 優しいが故に、奉仕心が強いが故に男が逃げ出すマリーは、その優しさで後一歩踏み込めない。

 

 マリーはハヤテの体を拭き終わると部屋から出る。今のマリーはハヤテの世話と()()()()()のそばに居る事。その二つを死神様から仰せつかっている。

 マリーの魂の波長は人を心を癒す。その力によってシュタインを少しでも良くする。ついでとしてハヤテの世話も頼まれた。梓は梓で別の任務があるのであまり来られない。

 

 死神様以外はマリーをやべえ奴としか思っていないし、ハヤテは負い目があって逃げてしまっている。そこら辺を一気に片付けてしまおうと思った死神様による配慮なのだが、肝心のハヤテの心はそこにはなかった。

 彼女はハヤテのいる部屋の扉に背中を預け、少しの間俯く。そして覚悟を決めて顔を上げる。

 

「シュタインを少しでも良い状態にして、ハヤテに二度目の本気の恋をさせてやるんだから!」

 

 恋においては強引な手を使わないが、打たれ弱いかと言われればそんなことは無い。マリーは問題にならない手段でハヤテの目を覚まさせようと強く誓った。

 力んだ時に廊下の照明がショートしたのはご愛嬌だろう。

 

 

 ***

 

 

「……ふむ」

 

 デス・ザ・キッドは製図机の前に座り、机に広げられている彼自身が書いた相関図を見ていた。キッチリカッチリ相関図に乗っている人数は偶数であり、相関図自体も左右対称に書かれている。

 キッドは()()()()()()をしながら紙を睨みつける。

 

「ハヤテ先生が言っていた通り、あの虫酸の走る聖剣に向く怒り……いや、ここは憤怒と言った方がいいか。あの憤怒を抱いていた時、確かに狂気のような気配がした。もっと客観的証拠を集め、狂気を知るべきなのかもしれない」

 

 キッドは真に鬼神という()()()()()を放つ相手を知った。狂気とはそれ自体が悪であるという考えが死武専には存在し、死武専に来て真っ先に学ぶ、

 

「健全なる魂は健全なる精神と健全なる肉体に宿る」

 

 という言葉の通り、健全ではない狂気などという概念は否定されている。

 

 キッドだって最近までは狂気とは悪人のみが有するものであり、恐怖=狂気だと思っていた。だが、ハヤテが放つ愛欲の狂気を受け、色々な説明を聞いてからずっとキッドは調べていた。

 

 キッドは行きたくなくて行きたくなくて……本当に行きたくなかったが、エクスカリバーが狂気に関するヒントになるというハヤテの言葉を信じ、吐き気を催しながら行ってきた。

 

 

 行ってみれば前回のようにひたすら虫酸の走る話し方から振る舞い、その他色んな虫酸の走ることをされた。

 うざい。ひたすらウザイ。本能がウザいと叫んでいた。だが、感情よりも先に思考よりも先にウザイという思いが生まれるのはどういう事なのか? キッドはそこで閃きを得た。

 そしてそれを第343項目を語っていたエクスカリバーに聞いてみた。

 

「エクスカリバー」

「ヴァカめ!! 私の有難い言葉を遮っていいと誰が言った!? 貴様は死神なのにアホなのか? いや、違うな、貴様はヴァカ!! だったな」

「…………」

 

 キッドは虫酸が走ってぶん殴りたくなっていたが、必死になってシンメトリーな出来事を思い浮かべて何とか抑え込む。

 

「貴様は我が父と同じような存在なのか? 何故貴様は狂気を放つ、放てる?」

「……ほう」

 

 エクスカリバーはキッドの言葉を聞くと、杖をくるっと一回転させて、キッドの右肩を叩いてから地面に突く。

 キッドの怒りのメーターが10上昇した。

 

「あやつは旧支配者(グレート・オールド・ワン)について話すことは無かろう。ならば、あのピンクの小僧が話したか……ヴァカめ!! やはりあの小僧はヴァカだな!!!」

「……小僧とは?」

「私の独り言タイムに声を掛けてくるなヴァカめ!!」

 

 エクスカリバーは言葉を差し込んできたキッドの()()を二回ほど杖で殴った。

 キッドは3回右肩()()を叩かれたことに、シンメトリーの欠けらも無い行為に怒りのメーターが100増加した。

 

 その後も情報になりそうでならない事ばかりをエクスカリバーは話し続けた。それを虫酸の走る顔で聞いていたキッドは度々右肩だけを叩かれ、本気でぶちギレかけていた。

 

「あやつは貴様に答えを言うことは決して無い。鬼神はあやつの失敗によって生まれたようなものだからな。あやつですら私のように完璧ではないのだよ……ヴァカめ」

 

 キッドはエクスカリバーの言う「あやつ」というのが自らの父である死神である事が話の途中でわかった。だからこそ、今の言葉は聞き捨てならなかった。

 鬼神が生まれた理由が父のせい? ならば、鬼神を絶対悪とするこの今の世界の規律はマッチポンプになってしまうではないか。

 

「おっと……貴様は今、私の言葉を遮ろうとしたな? 次私が良いと言うまで勝手に話したら、貴様が知りたい情報を渡してやらん。私は気分屋なのでな、良いぞ」

「俺が聞きに来たことが分かると?」

「私が憤怒の狂気を放つ理由。それに鬼神やあやつについての違いを知りたいのだろう? あやつが規律の狂気を使ったことがあるのかを知りたいのであろう?」

 

 エクスカリバーはウザイが長く生きているだけはある。キッドのような小僧の考えなど、至高の存在(自称)であるエクスカリバーにとってわかって当然だ。

 キッドはまた奇数回右肩を杖で叩かれ、マジでキレる5秒前といった状況だが、知りたいことのために我慢する。

 

「……私が何故憤怒の狂気を操るのか。それは私が偉いからだ」

「………………は?」

「私の伝説は12世紀から始まった。その伝説の積み重ねが私を偉くしている」

「…………は?」

「私と存在の波長が合わないのは貴様らが低次元の存在であることが原因だろう。貴様らが全部悪い」

「……は?」

「私が貴様の知りたいことを律儀に話すと思ったか?……私も大人だ。私は紳士で誠実の鏡のような存在だ。どうしても知りたいというのなら、朗読会を」

「貴様に期待した俺が馬鹿だったわ!! 帰るッ!!!」

 

 キッドは帰る前にエクスカリバーにギャフンと言わせたいようで、本気でエクスカリバーに殴り掛かる。しかしあのエクスカリバーの背中から光の翼が生え、キッドの拳に杖を当てながら、綺麗に後ろに飛んで避けた。

 キッドは怒りのメーターが振り切れ、エクスカリバーに襲いかかる。いくら相手が武器の姿の時は完璧で美しく決して壊してはいけないシンメトリーだとしても、職人王が扱った伝説の武器だったとしても、キッドを止める理由にはなりえないほどキッドは()()()キレていた。ただウザイだけで怒りが振り切れていた。

 

「死神とはその程度なのか? 何故あれだけの魂の波長(狂気)を垂れ流しに出来る鬼神と同等以上の私やあやつが狂気を使えないと思った? まず! 私の方が伝説として長いのだ。狂気程度使えずしてどうする!!」

「狂気が、」

「何故私が人と合わないのか? それは12世紀から始まった私の伝説よりも前、5世紀後半から始まる私の初のパートナーの話からしなければならない」

「…………帰るッ!!!」

 

 キッドは死神の身体能力を駆使しても、光の翼を生やした下半身露出カリバーに手も足も出ず、地面に八つ当たり(地団駄)をしながらその洞窟を後にした。

 そんなキッドを見ながらエクスカリバーは尚も語る。 

 

「私の初パートナー、アーサーは私に相応しい職人だった。あの時の私は私の素晴らしさをまだ理解しておらず、朗読会なども開いていなかった。あの時の私が職人に求めていたのはただ一つ、『死ぬな』という頂上の存在である私は職人に優しさすら与えていた」

 

 エクスカリバーはとてつもなく長い白いシルクハットを頭から外し、その帽子の中に手を入れる。そしてその中からエクスカリバーに載せるには少し大きい王冠がでてきた。絶対に帽子に入る大きさではないのだが、エクスカリバーだから何でもありなのかもしれない。その帽子は実は海苔巻きなのだが、何でもありなのが旧支配者(グレート・オールド・ワン)だ。

 

「アーサーは良い職人であった。だが、どれだけ良い職人でも私という至高の存在を扱い続けたとしても、人である限り限界は来る。アーサーは死んだのだよ」

 

 エクスカリバーは取り出した王冠を白いハンケチ……ハンカチではなくハンケチで丁寧に拭っていく。これは1000ほど作っている項目には書いていない、エクスカリバーだけの尊い行為。

 

「私は至高で完璧で伝説である。にも関わらず私は職人を死なせた。当時の私の怒り、憤怒を貴様らは理解出来るか? 私を扱えば最強の名を欲しいままに出来る。そして人はアーサーのように完璧ではない。だからこそ、私を扱うためには、私への怒りを抑え、憤怒を感じながら私を使うように契約をする。それが千の約束事なのだよ」

 

 エクスカリバーは王冠を帽子の中に仕舞い、帽子を被る。そのあといつものようにアーサーと初めてあった時のように、岩に聖剣となった自分を突き刺し、新たな職人が来るのを待ち続ける。

 

 

 ***

 

 

 どこの家を見ても煙突からもくもくと煙を垂れ流しているここは「レーフ村」という場所だ。

 人形技師やエンチャンターなどと呼ばれる人々が暮らすこの村に、一人の若い女が勝手知ったるとばかりにズカズカと歩みを進め、村中を歩いている。

 

 この村は外部にゴーレムを売って生計を立てている。魔除として使われているゴーレムを売る村は、知らぬものには極度に怯え、それを魔として扱う。故にその女も村人達に包囲されそうになっていた。

 

「お辞め下さい。只人の魂など不要ですので」

 

 青眼に赤い蜘蛛の紋様を浮かべ、その女はスカートの端を軽く持ち上げてお辞儀をした。すると、女を囲っていた村人達は操られるように同じ動きで背後に下がって行く。

 その村人達と入れ替わるように若い男が出てきた。

 

「本当にあの女みてえな奴が来たよ」

「あの女ではありません。キッチリカッチリとアラクネ様と呼ぶべきではありませんか?」

「いいんだよ。お寝坊なあいつが悪い……それにしてもお前、いい女だな。抱いてやるから来いよ」

「死ねよ俗物」

「……は?」

 

 メイド服を着た金髪蒼眼の女は、赤い蜘蛛の紋様を輝かせながら笑顔で罵った。まさかメイド然とした女からそんな言葉が出てくるとは思わなかったのか、その男は呆気に取られる。

 

「私の体はあの方のモノです。もし私に手を出したとして、怒られるのは貴方ですよ、ソウ……ではなくギリコ」

「あー、それは……不味いな。んで? あの女を待つのは俺の役目だ。お前はどうする?」

「お嬢様の住まいの清掃に向かいます」

「そうかよ。城に着いたら酒が飲みてえ、手配しておいてくれ」

「畏まりました」

 

 その女は注文を受けると、その場をあとにしようとした。ギリコはある事を聞いていないことを思い出し、メイドを止める。

 

「なあ、あんたの名前はなんて言うんだ?」

「私はお嬢様のメイド、名をアリス。では、失礼」

 

 アリスはそれだけ言うとそそくさとその場を後にした。




この作品には独自設定がありますのでご了承ください。

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