蛇の元夫   作:病んでるくらいが一番

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書いてて思いました。三船は絶対に動乱期に星族の☆と同じように殲滅されてるなと。


第26話:三船の闇

 疾風は堂々とミフネとアンジェラは身分を隠して日本に入った。

 疾風が三船から討伐命令の出ているミフネと共に居れば、面倒な戦いが何戦も増える。なのでミフネにはハチマキに法被という外国人が考える日本人(似非日本人)に変装してもらった。

 

「……おい」

「似合っているから」

「……アンジェラ」

「ミフネが何か変!」

「疾風は後で殺す」

 

 疾風はミフネの持つ刀の峰で殴られた。

 

 国家間の移動では当然危険物の持ち込みはできない。しかし死武専の職人は許可を取れば持ち込める。

 職人は魔女と悪人以外にも、化け物やなんか変なものとも戦うし、戦い以外の依頼なんかもある。バイトが急に減ってしまったから死武専の依頼を通して募集なんて事をする人たちもいるくらいだ。

 

 職人のパートナー以外にも武器を持ち込む人は一定数いるので、疾風はそれと同じ申請でミフネのキープアウトテープでグルグル巻にされた刀が入ったケースを運び入れた。

 疾風達の元にはそのケースが()()ある。

 

「……本当に疾風はそれで戦うのか」

「当然だろ? 有栖が居ないなら使うしかない」

 

 疾風はミフネと同じように大量の刀が入ったケースを腰から垂らしている。

 もし疾風がメデューサを殺していなければ、マリーや梓の手を借りるという手段も……いや、メデューサを殺していなかったとしても、自分の後輩や仲間を戦争には巻き込まないだろう。

 

「兄さんと違って俺は無限一刀流が使えないけど、有栖と同じ使い方をただの武器でやったら折れるだろうね。ストックは必須」

「戦えるのならいい。足だけは引っ張るなよ」

「分かってる」

 

 疾風とミフネは拳を打ち合わせた後、二手に別れて三船本家に向けて駆け出した。

 

 

 二人に作戦なんてものは無い。色々組んだところで結局は三船を皆殺しにするだけだ。そして三船は決して逃げることは無いので、ただ二方向から挟んで襲撃をかけることになった。

 疾風は招集があったから正面から、ミフネは姿を隠して後方から、ただそれだけを決めて二人は実家に向かう。

 

 疾風が三船本家の屋敷に着き、インターホンを鳴らす前に門が開く。外見上は典型的な大金持ちの日本家屋だが

 、内部では非合法的な人体実験がそこら中で行われている。

 開いた門からは日本家屋とは微妙に合わない西洋式のメイド服を着たメイドたちが現れた。

 

「お疲れ様で御座います。当主様がお待ちです」

「荷物は自分で運ぶからいい。下がれ」

「承知致しました」

 

 疾風は冷たく言い放ち、メイドたちを全て下げる。

 

 疾風はここに来る途中に見た、中務三十郎(中務現当主)を思い出す。もし中務と三船に関係が無かったのならと、三船が闇に進んだ元凶を見てしまい、変な方向に進みそうになった思考を三船殲滅に切り替える。

 

 

 ***

 

 

 光あるところに影はある。この言葉通りに当てはめるなら、光が中務で闇が三船。

 死神様が死武専を作る前、アラクネによって作り出された武器が広まり始めた時の話だ。極東にある武家もアラクネが作った武器という新種の人間の血を受け継いでいた。武器は元々魔女の変身能力を受け継いだモノなのだが、武器の状態でさらに状態を変態できる武器一族が生まれた。それが今の中務だ。

 

 中務一族は世代に一人、日本の代表的な武器群に変形出来る素質を持って生まれる。ここで問題になるのが世代に一人という所だ。中務が問題なく後継ぎを次世代に残せればいい。だが、そんな特殊な力を持つ中務の血を巡って、様々な刺客が襲いかかってくる。

 もし中務が攫われ、次の世代を攫われた中務で作られてしまったら、その力はそちらに宿ってしまう。それを避けるべく、影武者であり、非合法的な方法も用いる闇であり、中務を影から支える三船一族が生まれた。

 

 しかし影武者になるにはどうしても無理なことがあった。武器の変形能力だけは真似ることが出来ないのだ。その時の三船当主は何を考えて行ったのかはわからないが、武器の種類変形が無理なら、遺伝子レベルで操作して、中務にも協力して貰い、デスサイズでもないのに武器の大きさを変える変形能力を作り上げた。

 他の武器は魔女の魂を喰らわない限り、武器の大きさの変形は出来ない。そこまでデスサイズの特徴が広まっていなかったので、その変形能力が中務の変形能力であると大々的に広め、中務の種類変形能力を隠した。

 

 今では死神様という神によって治安が保たれ、死武専という治安維持機関が出来たので、中務も三船を影として使うことはなくなった。

 現在では時勢を読んだ商いが成功し、家の大きさなら三船の方が上になったが、中務との上下関係は依然として存在する。例え現中務当主がそれを無くそうとしても、裏では絶対的な力の差がある。

 

 三船が力を求めて、いつからか魔女を使うようになった。死神様が死武専を作ったあとである事は間違いないのだが、魔女という孕袋を手に入れてから三船は更に歪んだのではないか? と疾風は三船の歴史を学んだ時に思った。

 それから代を重ね、安定して有栖のような武器の大きさの変形能力を維持できるようになったが、それだけでは三船は満足していない。

 

 胎児の時から薬物や毒の耐性を作らされ、改造を受けながら生を受ける。男は職人に、女は武器になるように教育を受け、自分とペアになった武器以外の全てを信じられないように洗脳され、最終的に蠱毒によってその時代の当主候補を作り上げる。

 

 疾風は屋敷の敷地内の広場で必死になって、目を血走らせながらパートナー(武器)を振っている子供たちが目に入る。ブラック☆スター達よりも5つは歳が下の子たちだけど、疾風がブラック☆スターにやっている特訓を行っても、泣き言ひとつ言わない兵器達。

 

「……ミフネ兄さんは俺の洗脳は解けていないと言っていた。なら何故俺はあの子達みたいに兵器じゃなく、人としての思考で女性を愛せるんだ?」

 

 武器()に首輪をつけ、武器()に依存させて職人()を縛る。疾風が有栖に手を出さなかったのは、体の相性が最高であることを理解していたからこそ、その肉体に溺れ、他の三船と同じ所に堕ちたくなかったからだ。まずその思考自体できることがおかしいことであり、それをなぜ出来るのかは疾風にも分からない。

 

 

 疾風は当主室の扉をいきなり開け、許可を得ずに中に入る。三船の土地に入った時、少しずつメデューサへの愛が溶かされていくのを感じる。土地や空気にも何かしらの細工を施しているのだろう。そしてそれを疾風は抗えない。自分の愛する者への愛が目減りさせられていることに憤怒しながらも、三船で習ったように表情に感情を乗せない。

 

「よくぞ戻った」

「死武専に()()されたかと思ったが、即帰ってきたところを見るとやはり平気そうだな」

「外部の人間と結婚した時は驚いたが、別れたところを見ると、やはり(疾風)も三船だという事だ」

 

 大きな当主室の中には蠱毒を耐え抜いて、今まで生きてきた大人達は……いない。過去にそれらを耐えてきたはずのその男達の肉体は怠惰を貪り続けたのだろう。ぶよぶよとした肉の鎧を身につけている。それら欲望に呑まれた男達を他の欲望に飲まれたヤツらと比較すると、良い服を着ているわけでもなく、金銀財宝を身につけている訳でもない。ここにいる大人達はあるモノのみを求め、この三船を守り続けている。

 

「H、お前は次世代の三船当主となるだろう。(有栖)が居ないのが気になるが、それはさほど問題ではない。お前達次世代の者達には教えていない三船についてを今回は教授してやろう」

 

 ゲン○ウポーズをした奥にいるサングラスのデブが今の三船の当主だ。身綺麗にしてはいるが、他と同じでその目は欲望に歪んでいるはずだ。

 

 疾風はメデューサへの愛に手を出されている状況を打破すべく、目の前の大人達を皆殺しにしようと体を動かそうとするが、何故か体が動かない。

 いつの間にか耳鳴りも止まっているが、逆にそれは不味いことだと直感で感じ取った。

 

「我々は魔女を犯し、強き魂を持つ次世代の子供たちを作ってきた。我らは全てその魔女によって生まれた。遺伝子から作り上げられた我らが肉体は、例え死神でさえ滅ぼすことは出来ないだろう」

「それで?」

「Hは見たいとは思わないか? 我々を産んだ(魔女)を」

 

 疾風は何を言っているのか分からなかった。彼の記憶には母親である魔女に頭を撫でてもらったり、抱きしめてもらった記憶が確かにある。なのに見てみたいとは思わないか? と尋ねられた。まるで今まで一度も会っていないかのように。

 

「俺の記憶には確かに育ての親ではない、魔女の母親に撫でられた記憶があるはずだけど」

「ああ、それか。それは埋め込まれた記憶に過ぎない。エイボンという者の断片のひとつには記憶を弄る魔道具がある。それを我々は握っている。本来ならこのことも秘匿事項だが、次期当主であるHならば良かろう」

 

 疾風が声も出さずに驚いている光景を気分良さげに大人達は笑う。

 疾風は過去に思いを馳せる。魔女の母親に頭を撫でられた記憶も、有栖に初めて会った時の記憶も、ミフネと話した記憶も、全てが同じように思い出せる。どの記憶が埋め込まれたもので、どの記憶が体験した記憶なのか全く区別がつかない。

 

「驚いているようだが、その魔道具は今のHには使用出来ないから安心したまえ。頭が柔らかく、まだ道徳が確立しきる前の脳にのみ干渉するものだ。我々は他にもいくつか魔道具を抑えているが、それらも後のちは覚えてもらう」

「……分かった。それで会えるのか?」

「もちろんだとも。お前やお前と同じく別の蠱毒で生き残った者達はあの魔女を使って、更に強き者を作り出して貰わねばならぬ」

 

 周りの奴らも当主の言葉に頷いている。それを見て疾風は疑問にすら思っていなかったことを問う。

 

「三船はとにかく強い人間を作ろうとしていることは分かる。その目的は何なんだ? 習っていないと思うが」

「我々三船の最終目的。それは死神を殺すことだ」

「……死神を殺す。なんの為に?」

 

 疾風は自らを落ち着かせてから、合わせるように様付けをすることを一時的にやめる。三船を邪魔するものは全て敵なんて道徳を植え付けている奴らだし、肥満体型ばかりだが、馬鹿ではない。馬鹿だけならもっと前に三船は滅ぼされているはずだ。そんな馬鹿では無いはずの奴らはこの世界の秩序である死神様を殺すと口にする。

 

「それは当主となれば自ずとわかる事だ」

「……そうですか」

 

 今まで饒舌に答えていたのに、当主や周りの者達も含めてそれを口にしようとはしない。記憶を操作する魔道具や洗脳の事実よりも目的の方が重要なのだろうか。

 

 当主は続けて説明を続ける中、疾風は殺戮の準備を進めていく。魂感知によって周りにいる人の場所の把握や魔女の居場所の把握。殺し回る順番や優先度を決めていく。魔女に関してはソウルプロテクトを使っているようで、遠隔からの感知は出来なかった。

 しかしその思考も少しずつ削られ、溶かされ、消えていく。三船に仇なす思考を消そうとしているようで、それに疾風は抗うべく頭を回し続ける。

 

 当主やその周りは話したいことが終わったのか立ち上がった時、疾風はあることに気がつく。

 メデューサへの思いが溶かされているからこそわかった事実。熱狂的で狂気的で盲信的な愛が少しずつ溶かされたことによって見えた真実。

 

(あれ? 俺ってメデューサにいつ一目惚れしたんだ?)

 

 疾風が思い出しているモノの中に、初対面のメデューサへ告白している記憶があった。しかしおかしいのだ。疾風はメデューサに一目惚れして、スピリットにその事を報告してから告白しに行ったはずだ。

 なのに疾風が思い浮かべている記憶には、初めて会った女性にその場で惚れ、告白している。

 

 そんな事を考えている時、当主は動き出した足を止め、疾風に命令を降した。

 

「H、お前に命令がある」

「…………なんですか?」

「お前はデスシティーで常に浮き名を立たせていたそうじゃないか」

「ええ。それで?」

「しかもその中にはあのデスサイズのミョルニル、それにお前が育てた後輩に弓がいるとも聞いた」

「で?」

 

 疾風がマリーと愛し合い、そのあと追われていたことはデスシティーで少し情報収集をすればわかることである。同じように梓を育てたことも少し監視していれば簡単にわかる事だ。

 何故二人の名を出すのか疑問に思ったが、当主は直ぐにその疑問に答えた。

 

「魔女や三船が作ったモノだけでは何れ限界が来る」

「……はぁ」

「デスサイズ二人の遺伝子を加え、そこにもう一度魔女を加えれば更に我々は強くなる」

「……」

「デスサイズの二人とお前が動かせる女を三船に連れてこい。魔女ほど長持ちしないが数十年ほどなら母体にも出来るだろう」

「…………」

 

 疾風のメデューサへの愛が削れていなければ、疾風がメデューサと初めて会った時を思い出していなければ、ただ拒絶するだけで済んだだろう。

 しかし今の疾風はメデューサへの愛(三船に対する反抗心)を削られているので、自分を好いてくれている二人への思いが再び甦っていた。まるで封じられていた封が空いたように、その思いは疾風の中を駆け巡る。

 

 そして当主は()()()()()を口にする。

 

「あと(有栖)をお前から外す。愛していると思うが、あの魔女を抱けば想いも変わる。Aは優秀だったはずだな? あれも孕袋として、」

 

 当主の首が落ちた。当主達は疾風の洗脳が解けかけている事に気がついていたら、こんな話をしなかっただろう。だが三船に従順で、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()によって、疾風は未だに洗脳が完璧であるという報告を受けていたので、気がつく可能性は結局0%だった。

 

「は? どういうことだH!」

「あははははははは!!!」

 

 腰に巻き付けているキープアウトテープから垂れている刀ケースから新しい刀を抜く。今さっき肉塊(三船当主)を斬った刀は、首の骨を断ち斬った時に刃こぼれしたので捨てる。

 

 怠惰に過ごしてきて厚い肉の鎧を着ている取り巻きだったが、過去には疾風と同じ蠱毒を生き抜いた人達だ。近くに自分たちのパートナーが居なくても、立て掛けてあったり飾れている刀剣を持ち、疾風に問いかけた。

 それに対して自分の愛を侮辱され、その身から狂気が溢れて止まない疾風は少し笑ってから、目が真っ赤に染まり、光が完全に宿った疾風は告げる。

 

「お前らは苦しんでから死ね」

 

 ハヤテはその身から赤い血を撒き散らし、その鋭く細い血のムチで戦いの狼煙を上げた。それを待っていたとばかりに、屋敷の反対(ミフネ)側から人々の悲鳴が聞こえ始めた。


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