蛇の元夫   作:病んでるくらいが一番

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第27話:三船の魔女

 ミフネが合図を見て、蠱毒を行うステージにすら進められず、無能の烙印を押された女の子達が犯されている場所に突入した。その少女達を犯している男達の首に刀を飛ばして斬り殺し始めた頃、疾風はワイヤーの如く細い血のムチで周囲の人々を殺戮していた。

 

「ふざけるなよ小僧が!!」

「効かねえよ。お前ら達磨の女を犯すくらい達磨が好きだよな? それならお前らも体験しろ」

 

 死んだ当主の取り巻きの一人が、懐から拳銃を取り出し、迷いなく疾風の頭に向けて撃ち放った。刀持ちに対して愚直に近接戦闘を仕掛けるべきではないと分かっているようで、他の取り巻きも銃を取り出して放ち続ける。しかし弾丸は皮膚に当たると、金属音を響かせて弾かれた。

 今ハヤテの中にはアリスはいない。その体に流れているのはハヤテの血だけだが、アリスの血が全く混じっていない訳では無い。

 黒血のプロトタイプとしての機能を有していたアリスの血が混ざったハヤテの血は、ハヤテが発する狂気の後押しによって初期黒血と同レベルの硬度を発揮していた。

 

 ハヤテは抜いた刀に血を纏わりつかせて一振りすると、その血は赤い斬撃となり、銃弾を放った男の腕を斬り飛ばす。

 男の悲鳴が部屋に響いてすぐ、屋敷中にアラートが鳴る。ワーニングアラートが流れたあと、放送が切り替わり、焦っている男の声が聞こえる。

 

『元次期当主Hと裏切り者Mによる襲撃を受けている! 今すぐに討ち取れ!!』

 

「……やめだ。不確定要素を操れるお前らは速攻死ね」

 

 当主がまだ話していない魔道具の中に、ハヤテを殺せる道具があるかもしれない。硬質血液を超える武装があるかもしれない。それに気がついたハヤテはマリーや梓、そしてアリスを侮辱した奴らに屈辱を与えるのをやめ、即殺することにした。

 そして数秒後にはその部屋の人達は肉塊へと変貌した。

 

 例えハヤテと同じように蠱毒を生き残ったのだとしても、ハヤテは三船とは違う価値観を手に入れ、死武専で沢山の同胞が死んだ動乱期を生き抜いた男だ。昔の栄光を誇り、ろくに訓練もしていなかった大人達が抵抗できるわけがなかった。

 

「アリスはどうやって体の体積以上の血液を生み出していたんだろう……節約しつつ急いで殺して回ろう」

 

 ハヤテは全身から血を吹き出し、その血で当主室にいた生きている人間を包み込んだ。そのあとその血を内部に圧縮して行き、血の圧力に耐えられなくなった骨は折れ、肉体は弾けて血は飛び散り、脳漿がその場に散りばめられている。

 

「こんな惨状を見ても全く心が動かない三船の教育には感謝だな」

 

 動乱期に敵の死体の山を見て、発狂した仲間を思い出しながら、ハヤテは部屋に近づいてきている兵器(子供)達に向かって、壁越しに血の斬撃を放った。

 

 

 ***

 

 

 ミフネは三船の大人だけを皆殺しにし、ハヤテは三船の子供も含めて皆殺しにしている頃、ブリテンにある妖精が虫酸の走る顔で仕方なくいる洞窟に、また挑戦者が現れた。

 

 いつもへっぽこな普通の学校にいたらモテそうなヒーロー・ザ・ブレイブ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ではなく、何枚も重ね着をした白いマフラーのようなものを顔に巻き付けている黒髪の男。

 

「……貴様、何をしに来た」

「血の気が引くよ。あの死神も長い年月を経て丸くなったが、お前は変わらないな。変わらず俺はお前に恐怖している……ああ、怖い、怖ひ」

 

 鬼神阿修羅は既に人型? になっているエクスカリバーを見ながら、ガチガチと歯を鳴らして恐怖している。エクスカリバーはいつもと変わらない下半身丸出しの格好で表情も全く変わらないが、彼から漏れ出る狂気が普段の彼とは違うことを顕著に示している。

 

「私の元に何をしに来た? 私は貴様が嫌いなのだ。分かっているだろう? それなのに私のところに来るなど、私を本気で怒らせたいのか?」

「そんなに怒ることはないだろ。俺達は旧支配者(グレート・オールド・ワン)という括りでは同族なのだから」

「ヴァカめ! 貴様やエイボン、死神だって私よりも格下だという事すら理解していないのか!!」

 

 エクスカリバーがキッドの右肩を叩いたのと同じように、阿修羅の肩を杖で叩こうとしたが、それを阿修羅が大きく距離を取って避けた。

 阿修羅はエクスカリバーを見ながら右肩を抑え、恐怖に震える体を落ち着かせつつ、エクスカリバーを睨む。

 

「挨拶代わりに俺を殺そうとするとは。やはりお前が一番怖い!!」

「現代の遊園地にはお化け屋敷というものがあるそうだ。人は恐怖を覚えることをあえてやろうとする。貴様は違うだろう? 何が目的で私の城に来た」

 

 エクスカリバーの杖がいつの間にか光剣に変わり、背中には光の翼を広げていた。洞窟なのにそのエクスカリバーには陽の光が降り注ぎ、彼を祝福しているように光り輝く。

 

「いつになく饒舌じゃないか」

「私は元々お喋りだぞ? 貴様とは話したくないだけでな。この前は死神の息子が私にこうべを垂れ、私の至高の知恵を借りに来たほどだ」

「俺の弟が世話になったな」

「……死神は私ほどではないが基本的に正しい。だが、貴様という存在を生み出してしまったことだけは責めなければならぬな」

「最強の武器に存在の否定をされるのはとてつもない恐怖を産むな」

 

 阿修羅の恐怖心故の敵意を受けても、エクスカリバーは平然としている……いや、平然としていた。

 

「俺の、」

「待ちたまえ!!」

「……なんだ?」

「今ちょうど正午を回った。アフタヌーンティーの時間だ。少し待て」

 

 エクスカリバーは焦ったように腕時計をしていない腕を見たあと、何処から取り出したのか真っ白いテーブルとイスがそこに出現し、ドーナッツを一齧りしながら紅茶を嗜み始めた。

 

「俺の全力の狂気を受けながら平然と紅茶を飲めるお前が怖い!!」

「うるさい黙れ。私は今この1杯の紅茶を最大限楽しんでいるのだ! ヴァカな貴様の声など聞きたくない!」

「……ふははははは。やはりお前はこ、怖い。怖すぎるぅぅぅぅ!!」

 

 エクスカリバーの動かないはずの表情がほんのわずか、ドットレベルで歪んだ。その一瞬の間に阿修羅はエクスカリバーの憤怒の感情を読み取ってしまい、膝を付いて体を震わせる。

 

「それでいいのだよ」

 

 エクスカリバーは満足したのか、ゆったりとアフタヌーンティーとポンデリングを楽しむ。

 そしてポンデリングの最後の一つを楽しげに口に運ぼうとした時、それは阿修羅が放ったマフラーによる叩き落としで地面に落ちた。

 

「俺はお前という恐怖の象徴に無理をして会いに来たのは、お前が死武専の職人にも手を貸してしまう恐怖の可能性に思い至ったからだ」

「貴様……私の日課を邪魔したな?」

過去の職人(アーサー)を忘れられず、その者と決めた日課を今でも続けているとは。その執念にも恐怖するぞ」

 

 阿修羅の言葉にエクスカリバーはピタリと動きを止めた。その小さな身からは膨大な憤怒の狂気が蠢いている。

 

「私を本気で怒らせたいようだな」

「ヒィィィィィイ!! お前は怖い!! だからこそ、お前を狂気で堕とす」

「貴様と死神の喧嘩に私は関わる気はなかった。しかし! 貴様が私にちょっかいを出したのなら話は別だろう。私の12世紀から始まった伝説を垣間見よ」

 

 エクスカリバーは翼の生えた聖剣に変身し、阿修羅に向けて光速で突撃をした。

 

 

 ***

 

 

 ミフネはハヤテが行った子供の皆殺しに怒りを抱いていたが、根絶しなければならない理由も彼はわかっている。憎しみの連鎖は続くからこそ、やるなら徹底的にだということはわかっている。分かっているはずだが感情はそれを阻む。

 ある存在以外の全ての人間が死んだ屋敷からミフネはアンジェラを連れて出て行く。今ハヤテと会えば刃を交えてしまうし、ハヤテとは近くの街で合流すればいいだろうと、三船の戦いは三船の人間に任せることにした。

 

 

 ハヤテは文字通り全ての人間を殲滅した。地の利はどちらにもあり、こちらにはミフネという最強の人間もいた。そのミフネが大人達を憎悪の篭もった目で睨みつけながら、殺戮し続けたおかげでハヤテはダメージを負わずにこの場に立っている。

 

 目の前には大きな扉がある。その奥には一つの魂があるが、ソウルプロテクトで魂を加工しているはずだ。この場所以外の全ての魂は回収済みであり、これが魔女でなければ魔女はいないことになる。

 そしてまるで急かすように魂の波長で血塗られのハヤテを中の存在が呼んでいる。ハヤテは息を整えて、その扉の中に入った。

 

「ハヤテ……なのね」

 

 まず部屋に入って感じたのは異臭。噎せるほどの精の臭いと女の性の臭いが混じりあった臭い。換気もしているようだが、その行為をこの場で幾千と行ってきたが故の抜けきらぬ異臭。その中で感じる愛おしいほどの、今のハヤテを雄に変えてしまうかもしれないほどの魅惑の雌の匂いに、彼は顔を酷く歪ませる。

 

 作られた当初は煌びやかな部屋だったのかもしれない。だが、血潮や白い液体や吐瀉で汚れてしまっていて、奥に置いてあるベットの上には、一人の女がいた。

 

 その女は金の長い髪を無造作に広げ、目隠しと首輪をしている。その二つからとても強い力を感じるので、それこそが何百年もの間、三船が魔女を拘束できた魔道具なのだろう。

 豊満な胸や安産型の揉み心地の良さそうな尻、撫で回したくなる……などなどなど、女性の理想を完璧に叶えたような肉体を持っているその女性だが、腕と脚が存在しない。

 

 そしてつい先程まで情事……強姦が行われていたのか、股には白濁とした液体がこびり付いている。

 そんな女性はハヤテの名前を口にする。

 

「……貴女が俺の母親なのか?」

「ええ。私がハヤテの母よ。でもごめんなさい。私は自分の名前すら忘れてしまったから、貴女に教えてあげられる名前はないの」

 

 母胎としてこの場所に監禁されている為か、手脚以外はしっかりとした肉付きをしている。しかしその声には覇気がなく、絶望を隠す気は無いようだ。

 あまりにも長い年月を三船の目的の為に体を使われ続けたのだろう。他人の痛みをあまり共感しないハヤテだが、数百年もの間ずっと犯されるためだけに生きてきたという魔女には同情してしまう。

 ハヤテは刀をケースに収め、血液を体の中に戻す。

 

「母さん。質問がある」

「なんでも聞いてちょうだい」

「死にたい?」

 

 ここで魔女を逃がせば死神様に怒られるだろう。しかも三船にずっと犯されてきた魔女ならば、ここで逃がせば確実にハヤテやアリス、ミフネに襲いかかってくるはずだ。

 だが、この魔女の絶望している声を聞くと、メデューサがハヤテを殺しそうになった時に発した嘆きの悲痛の叫びと被ってしまう。

 

 いつ誰に教えて貰ったのか未だにわからない魔女に関する知識の中に、出来る限り魔女に優しくして欲しいという願いもあった。故にハヤテはここに来て甘さを捨てきれず、達磨の魔女に問いかけた。

 

「死にたいわ。人間に言うと驚くこともあるのだけど、私には好きな人間が居たの。昔は魔女も表立って動いていたけど、その分死神なんかに捕捉されやすかった。だから私みたいな力のない魔女は人に紛れて暮らしていた」

「……今の魔女みたいだな」

「やっぱり今の魔女はそういう生活を送っているのね。死武専という対魔女の学校ができたのなら当然ね。話を続けるわ」

 

 ハヤテは一応の警戒をしながら、比較的綺麗な椅子を魔女の近くに持っていき、そこに座り込む。

 

「私は馬鹿な女だったみたいで、私が惚れてしまった男は三船の男だった。しかも更に力を求め、中務の力を奪い、鬼神の時代へと逆戻りさせようと考えていた男だったのよ」

 

 死神様の秩序のある世界だと三船の実験は大々的にできないし、母胎の確保も様々な隠蔽工作を行わないといけない。だが、鬼神の秩序なき世界になれば、それも容易に行えるとその時の当主になった男は思ったらしい。

 

「私が魔女だと知っていたけど、まるで知らないように振る舞い、私と婚姻を結んだわ。そして初夜にこの首輪と目隠しを付けられた」

 

 その二つの魔道具は二つで一つの機能があるらしい。魔力を解析し、その魔力を掻き乱す機能。魔女がこれを二つ付けられれば、それだけで魔法も使えず魔力による身体強化も出来ず、ただの老いない女になってしまうのだと。

 

「それから私はその男が死んでからもずっと子供を産んできた」

 

 ハヤテはメデューサとこの魔女を更に重ねる。

 

「私はもう疲れてしまったわ。でもね、今まで何百年とここで暮らしていたけど、私を犯さずに息子として話を聞いてくれる子は初めてよ。本当に嬉しい」

 

 目隠しの魔道具が魔力を常に解析しているのか、光が点滅している。その下から液体がポタリポタリと流れ落ちてくる。

 

「……私は三船を恨んでいる。でも生まれてきた子達を私は愛しているわ。大人になって私を犯す存在になった時、私は毎回絶望してしまうのだけどね」

 

 ハヤテの心はえぐられたように胸が痛む。女性を愛する時以外の共感性は皆無と言われているハヤテだが、胸にこみあげて来るものがある。

 

「でもハヤテは大人になったのに、私を抱こうとしないわよね? 私の体は見たものを魅了してしまうから、必死に意識を逸らさない限り手を出してしまうものなのよ。それだけ私を気遣ってくれている。本当に嬉しいわ」

「……そうか」

「ハヤテ、生まれてきてくれてありがとう。そんな貴方にお願いするべきではないと思うのだけど……私を殺してくれるかしら」

「痛みを感じる間もなく即死させる」

「ありがとう」

 

 大きな目隠しをしているから分かりづらいが、魔女は少し微笑んだように見える。

 ハヤテは刀を抜き、その刃に血を纏わせる。その血は細く鋭く、痛みを感じるまもなく殺せるように細工をする。

 

「……最後に、お願いをしてもいい?」

「なに?」

「こんなことをお願いしたら貴方が私を犯したくなってしまうかもしれないけど、私を抱きしめてくれないかしら」

「それが最期の願いなんだな?」

「ええ」

 

 ハヤテは今まで見た中でも極上の女体を前に興奮を隠しきれない。目隠しをしているからそれを感じ取れていないみたいだが、ハヤテは割とギリギリだったりする。脳内でこの魔女を何度犯したことか。その時に感じた圧倒的背徳感で()()()()()()()()()()()()()が、その度に魂に同化するように存在する蛇が鳴くことで思い留まる。

 

 ハヤテは心を落ち着かせながら、ゆっくりと達磨の魔女に近づく。体はメデューサよりも少し大きいくらいだが、その豊満さはメデューサにないものだ。その肉体をハヤテは抱きしめる。

 

「暖かいわ」

「三船がすまない」

「貴方が謝ることじゃないわ」

「そうか」

「……だって()()()()()()()()()

 

 ハヤテは達磨の魔女のその言葉に疑問すら浮かばず、()()()()()()()()()()()()感覚に身を任せ、そのまま意識を途絶えさせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 瞬間、窓の割れる音が世界に轟いた。

 

 真っ黒に染まっていた視界は急に明るくなり、ハヤテは急いで起き上がろうとしたが体が上手く動かない。唯一しっかり動く首で新しい気配の方を見る。

 

 そこには金髪の先程まで全裸で達磨だった筈の魔女が立っていた。二本の脚で床に立ち、細い腕は侵入者に向けている。全裸だったはずの体には赤いドレスを身につけている。

 

 そしてその魔女に相対するようにそこにいる存在を見て、ハヤテは今まで感じていた達磨の魔女への()()()()()()()()が消し飛んだ。

 

「なに人の夫を奪おうとしているのかしら? 羊」

「……蛇? メデューサァァァァァァァ!!」

 

 そこにはメデューサがクロナくらいの年齢の姿で、達磨だった筈の魔女を見下してそこにいた。




前話にてハヤテと疾風が混在していたのは、漢字の疾風の時は三船の洗脳で思考がおかしくなっていました。ハヤテに戻ったあとは死武専にいた時のハヤテに戻りました。

メデューサの肉体は原作の女の子の体ではありません。クロナやマカ達くらいの微妙に若返ったメデューサです。

あと読み返して思ったのですが、相当読みにくい作品になっていることを自覚しました。できるだけ今後は改善していきたいと思っていますが、出来なかったら申し訳ありません。

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