第29話:対蜘蛛恐怖症兵器
ハヤテはメデューサの仲間たちと合流してから、メデューサに
三ケツノーヘルでソウルのバイクに跨り、クロナはビクビクしながらもマカに体をくっつけている。くっつけないと後輪にケツを削られてしまうので、いくら黒血があってもそれは勘弁願いたいのだろう。
「……なんで僕を連れ出したの?」
「それやめてって言わなかったっけ?」
「ヒィィィィィ! ご、ごめんなさい!!」
「はぁ……」
「元々そういう奴だったんだろ。いきなりキョドってるのを改善は無理だから」
「でもさぁ」
マカは鬼神復活攻防戦においてクロナと戦い、黒血をうまく扱って勝利した。本来ならそんな事をしたら狂気に侵食され、どこかしかがおかしくなるモノなのだが、マカに変わったところはない。
ただマカの精神世界にいる狂気の水先案内人、マカだけのハヤテはこんなことを言っていた。
「マカちゃんが狂気に堕ちると……その、下品でかなり恥ずかしい感じになると思う。
狂気がマカの狂気侵食を意図的に止めていた。
故に精神が通常の状態でクロナをボコッた事になり、いくら自分が一度斬られているとはいえ、一方的にクロナをぶっ飛ばしてしまった。それを謝りに行ったマカだったが、目の前に現れたのはマカにビビって部屋の端にいるクロナだった。マカを見てガチガチと歯軋りしていた。
戦いが終わり、ハヤテに近付くことを禁止されたあと、スピリットからマカはクロナがメデューサとハヤテの子供であることも聞いた。だからこそ気に食わなかった。
自分勝手で考えの押し付けだということは分かっているが、あのハヤテの子供なのにこんなにナヨナヨしている事が許せない。
「死神様! 最古のゴーレムの調査にクロナを連れていきますけど、いいですよね!! パパもいいよね?」
「もうちょっと死武専で心を落ち着かせようと思っているんだけどねぇ」
「そうだぞマカ。無理を、」
「もし許可をくれたらパパがやったアレを許してあげる」
「さあ、行ってらっしゃい! 死神様は任せろ! 俺が止める! 俺の屍を越えてゆけ!!」
スピリットはアレが何なのか分からなかったが、マカが少しでも自分のことを許してくれるなら、例え上司だって止めて見せる! とマカにクロナ連れ出し許可書を発行して死神様の間から出ていかせた。
一応外出許可を出せるラインを超えていたクロナだったが、死神様は安全を取りたかっただけ。とりあえずスピリットに死神チョップを食らわせる死神様だった。
そんなこんながあり、マカはクロナを連れて、最古のゴーレムのあるレーフ村に向かっていた。死武専の関係者でなければ三ケツで警察に停められていたかもしれない。
「俺は手を貸さねえからな!」
「確か好物はぶどう飴だっけ? 袋であげる」
「おいマカ! おめえ、やるじゃねえか。クロナも見習え!」
「まあね」
「痛っ! 髪の毛に飴をくっつけないで! やめてって、やめ、やめろおおお!!」
鬼神復活攻防戦の時と
本来ならラグナロクは鬼神になるべく善人の魂を食べさせられて育てられるはずだった。しかしそれはメデューサの
メデューサはハヤテに嫌われることを避けていたので、ラグナロクに食べさせる魂は悪人の魂だけだった。まずハヤテを愛するメデューサが
昔はミズネに死武専支部に侵入してもらって、死神様のブラックリストを入手していた。最近は保険医として死武専にいたので、特に策を講じずにリストが手に入った。そのリストにある悪人の魂だけをラグナロクは99個食べている。
マカは死武専に縛られて、それでも悪人の魂を99個を一度集め切っている。ならば自由に動き回れたメデューサ陣営のクロナが集められないわけがない。
もし善人の魂をひとつでも食べていれば死神様は魂を没収しただろうが、全ての魂がリスト入りしている悪人の魂だったので認めている。
ハヤテの子供だったというのも大きかったかもしれない。
「……はぁ」
マカはやっと夜にうるさくなるのが収まってきた。それでも前日は色々と聞こえてきたせいでソウルは眠たげに目をぱちくりさせている。
それとは別にソウルはクロナやマカのことを羨ましく思う。クロナとラグナロクは元々狂気的であり、狂気をある程度制御できそうに見える。マカは狂気をドレスにして見に纏い、クロナと同じような硬化を発揮していた。
二回目のクロナ&ラグナロクVSマカ&ソウルの戦いでマカは確実に成長していたが、ソウルは全く活躍できなかった。足を引っ張っていたし、何より前回から全然成長していなかった。
武器なのにマカの波長を受け止めきれず、大技を放ったら気絶してしまった。なんと軟弱なことか。あの時もしソウルが精神世界にいる小鬼の力を使い、
あの時もそう思った。しかし恐怖からソウルは後一歩を踏み出せなかった。マカが黒血を纏って、強さの格が上がった時に彼は安堵してしまった。これで自分は黒血を使わずに済むと逃げてしまった。
そう、またソウルは逃げたのだ。エヴァンスから逃げてきたソウル=イーターは武器としての役割、職人を守るという当たり前のことからすら逃げ、のうのうとヘラヘラとそこにいる。熱くなりきれずしかし冷めきれず、中途半端な音色しか出せていない。
『悔しいよな。お前はお前だけじゃ絶対に変われない。分かっているんだろ? 今のお前じゃマカに釣り合わない。あの女を守れない』
「……」
『マカが惚れてる男のことは聞いたよな? 愛した奴が魔女だったがそれでも愛して、その妻を殺してしまって精神が壊れた。なあ、お前はそれだけ想えるモノがあるのか? ねえよな、なあ、ソウル!!』
「黙れッ!」
「ん? どうしたのさソウル」
「……いや、ちょっと考え事してただけだ」
「そう? ならいいけど」
三ケツしていて速度も早く、風を切る音で独り言は聞こえないと思ったが、すぐ後ろに座っているマカには何かが聞こえたようだ。だがソウルはマカに真実を伝えず、心に黒い感情を沈めて運転に集中する。
***
「お前らが死武専から来たって奴らか? どうせ最古のゴーレム目当てなんだろ。ついて来いよ、連れて行ってやる」
マカたちは歓迎されていないレーフ村の住人に聞き込みをした。しかしまともに取り合ってもらえず、ここに来た目的である最古のゴーレムまでたどり着けなかった。
そんな中
その青年ソウは何も言わずにひたすら奥に歩いていく。既に村からだいぶ離れていて、道しか続いていない中、ソウルやラグナロクはその不気味さに何も言わない。ソウルはバイクで考えていた自分の弱さについて考えていて、ラグナロクは飴玉を口の中で舐めまわしている。
「……」
「……!」
マカはソウに見られていないタイミングでクロナに頷き、それを
場が普通とは違う。マカは奥から感じる変な魂の波長を感じ取り、警戒を強くしている。クロナはいくら優しくなったもしてもスパルタなのは変わらないメデューサによって、実力だけではなく感覚も鍛えてきている。何かがいるというのをマカの頷きで再確認したようだ。
ドシンコドシンコ
巨大な何かがこちらに近づきてくる音が聞こえる。木を蹴り倒し、地を踏み鳴らしてこちらにその存在を教えてくる。
「はは、女はこれだから困る」
マカに
その場に現れたゴーレムは3.4メートルはあるだろう鋼鉄の巨人。ずんぐりむっくりしていて、服を着ているゴーレムが五人の前で動きを止めた。
「……やっぱりこれって」
『マカ迷わずやれ!!』
普段の生活ではマカが尋ねない限り、表に出てこない狂気のマカの中のハヤテが慌てた声を上げながら目の前のゴーレムとそれに近づくソウを倒すべきだと主張した。マカも嫌な予感がするので、もしソウが一般人なら後で謝罪しようと
「う、うん! ソウル!!」
「え? 何もしてない相手にどう接していいか」
「てめえも動けばいいんだよ!」
「おいおい、僕ちんはまだ話していないし、いい子ちゃんを辞めていないだろ? それなのになんでそんなにイキり勃ってるんだよ。おかしいだろ。おかしいよな? なんでお前らがそんなにハッチャけているんだよ。俺は30回もクソみたいな人生を繰り返してきたのに、なんで十数年しか生きていないお前らがそんなに楽しげにしているんだよ」
死武専から来た四人はここに来てやっとソウという青年が自分達を嵌める気でここに連れてきたことがわかった。ソウからは悪人よりも強い黒い意思のようなモノを二人の職人は感じ取る。
本来なら何もしていないソウに攻撃することは死武専の職人でもやってはいけないことだと思う。だがソウはあからさまにやばい。
マカはゴーレムに、クロナはソウに斬り掛かる。
「やっぱりお前達はグルか!」
「……俺にあれが止められるのか?」
「おいおい、チェーンソーとかイカす武器使ってんじゃねえよ! ぶっ壊せクロナ!」
「う、うん!」
「黙ってろ死武専! てめえらにマークされないために一体どれだけの俺が感情を殺してきたか。どれだけの僕が媚へつらってきたか!」
マカの攻撃はソウが武器化して避け、クロナの攻撃はソウが変身したチェーンソーで受け止め、ゴーレムが軽く腕を振ってクロナを弾き飛ばす。
ラグナロクの補助でその身ではありえない程の怪力を誇るクロナが、軽く飛ばされたことに警戒を露わにするマカだったが、その動きは悪手だ。
ゴーレムは
「殺意剥き出し八つ裂き馬力……てめえらが勝手に昂っちまったから、俺やこいつの800年越しの『殺意の波長』は止まらねえぞ。死ね消えろ殺す、ここはてめえら最後の掃き溜めだ! なんもかんもブッ壊すぅぅぅぅ!!」
エンジン音よりもけたたましいソウの罵詈雑言に意味などない。彼はただ我慢して我慢して我慢して、そして今思ったことを思いついた順に口にしているだけ。
「当然覚えてるよな! チェーンソーと戦う時の動き方!!」
「……いきなりそんな事言われても分からないよ!」
「つっかえねえ! ビビってんのならその相手との接し方を忘れるんじゃねえよ、バカクロナ! 懐に入れば俺がやってやる」
クロナは驚き過ぎて忘れてしまっているが、クロナ達は戦いを学んでいく中で吸血鬼とチェーンソーとの戦い方も学んでいた。メデューサはアラクネとは最終的には敵対関係になることは当然見通しているので、昔からいる幹部のモスキートと
そしてそこまで
「はははっ、素直に殺されに来るとは殊勝じゃねえか。てめえの臓物は何色だ……あぁ!?」
「ラグナロク」
「ピぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
クロナとラグナロクは
そしてラグナロクでチェーンソーを受け止めた。ガリガリとラグナロクは削れるが、回転速度一速程度ならラグナロクにダメージはない。
「へぇ〜。自慢げに出ていただけはあるじゃねえか。回転速度一速じゃ無理なのか」
「てめえはもう終わりだけどな! ざまあみろ!!」
「……はァ!? 男が俺の体をまさぐってんじゃねぇ。くっそ動かねえじゃねえか!!」
先程クロナがラグナロクに叩かれた時に出来た傷から黒血が吹き出す。その黒血をチェーンソーにぶっかけ、表面だけではなく内部にも黒血を侵入させる。
ソウは強い。もし本気で殺しにかかっていればマカ達は直ぐに殺されていただろう。だが、800年もの間暇をしていて、やっといたぶり殺せると思ったソウは慢心してしまった。
ソウはまとわりつく気持ち悪い液体を振り払うべく、エンジンに力を入れ、回転速度を上げようとしたが、全く言うことを聞かない。
彼の変身するチェーンソーは本物のチェーンソーと内部構造まで全く変わらない。エンジンはもちろんピストンを動かさなければならず、黒血はその部分にまで達してしまっている。
黒血はただの液体ではない。死武専の職人の斬撃やソウの一速すら耐えられる強度を誇る。そんなものが体の中に入り込み、雁字搦めにされてしまったソウはもうどうすることも出来ない……わけが無い。
「クソがァァァァ! ゴーレム、おい?……まさか? ぶっ殺すぞォ! 糞ガキぃぃぃぃぃ!!」
「プギャァァァァ!! ざまぁ! チェーンソーの中に入れるなら、ゴーレムにだって入れるだろ!!」
「……なんか今のラグナロクとの接し方が分からない」
「なんか私たち」
「やる事がねぇ……いや、拘束して動けないなら俺達が」
「……そうだよね! いくよ」
「「魂の共鳴!!」」
チェーンソーが動かないならゴーレムの強大なパワーで無理やり殺せばいい。そんなことは誰でも思いつく。思いつくからこそ、チェーンソーを持つ手元から黒血をラグナロクは侵食させていた。
ソウは脳が弾け飛ぶのではないかと思われるほど、顔を真っ赤にしているが
そんなラグナロクにクロナはもちろんマカもソウルもついていけていない。そんな中ソウルはラグナロクが動き出さないことに疑問を感じ、拘束で手一杯なのではないか? と思いつき、良いとこ取りになるがとどめを指すべく
「おいマジかよ。まだ俺はションベンすらしきれてねえんだぞ! ふざけんじゃねえぇぇぇぇぇえ!!」
「一文字斬り!!」
「ラグナロクコイツうるさい」
「てめえもシネェェェ!」
「クソがァァァァァァァァァ!!!」
硬化した黒血で雁字搦めになっているチェーンソーを斬ることは魔女狩りですら難しい。なのでマカは一気にゴーレムに接近し、その巨体の下半身と上半身を真っ二つに分断した。
そしてクロナはラグナロクに命じた。その命を受けたラグナロクはソウの中にある黒血を増幅させ、外に向けて黒血の棘を大量に出現させた。チェーンソーはハリセンボンのように黒い針が体の中から突き出す。
「800年ぶりの復活なのに、なぜギリコは感激の声すらあげず、情けなく殺されかけているのかしら?」
唐突にこの場に居なかった第三者がソウと名乗っていた男に声を掛けた。声を掛けた女は蜘蛛を象ったアクセサリーを身につけていて、どこか蛇の魔女に魂の波長が似ている。蛇と似ている波長だが、その女の胸の大きさは蛇とは比べ物にならないほど大きい。その名もアラクネ。復活したら確実にメデューサの敵になると仮想敵認定されていた女だ。
マカがゴーレムをターゲットにしたもう一つの理由はゴーレムの中に魔女の魂があったからだ。だからこそ魔女狩りでその魂を狩ろうとしたが、ギリギリで避けられ、そのゴーレムの真横にその女が現れた。
「……あれ? 体が動かない? ラグナロク? なんで僕の体を拘束しているの!」
「いやしてねえから!!」
「それは私の魔法ですわよ。その子は止めてあげたのだから、早くこちらに来なさいギリコ」
「クソが!」
「……私、大声で怒鳴る子は嫌いよ」
「クソガ」
クロナの体に力が入らなくなり、ラグナロクへ魂の波長を送れなくなった。そのせいで今まで
「それにしてもギリコは災難ね。
「どういう事だよ姐さん」
「あの子はクロナと言って、私の妹のメデューサが造り出した兵器なのよ。あの子はギリコやモスキートが本気を出していない時なら、確実に殺せるだけの策を伝授されているのよ」
「なら今殺した方がいいか?」
アラクネは暗に本気ならいつでも殺せると言ってはいるし、今のギリコは全身が穴だらけで割とギリギリの状態だ。だが、
「私の妹は何だかんだ不器用な愛をあの子に向けていたわ。だからメデューサと敵対が確定したらあの子をその時に殺せばいい」
「……面倒な姉妹関係だな」
「最終的には絶対に殺すわよ? 800年前のケジメが必要だもの……でも迷うわよね。メリィとメデューサの合作だから、殺さずに実験動物にすればアラクノフォビアのためになるかしら?」
「そこら辺は姐さんがキメてくれ。もしくは気に食わねえあのジジィにでもしてくれ」
羊の魔女の成果であるハヤテとメデューサの血を引き継ぎ、更にメデューサの研究成果の黒血を身に宿すクロナにアラクネは興味があるが、今はそれどころではない。
「分かっているわ。さて、帰りましょう。今のあなたではここにもうすぐ到着するデスサイズのジャスティン=ロウとの戦闘は厳しいわよね?」
「……チッ」
「素直で宜しい。ねえ、マカ。もし私たちを見逃すのなら、クロナは数時間で体を動かせるようにしてあげるわ」
先程までアラクネは蜘蛛ネットワークを世界中に張り巡らしていた。そのネットワークにジャスティン=ロウがここに向かっていることがわかり、復活したばかりのアラクネと全身穴だらけのギリコでは勝てない。
冷静に判断をしたアラクネは嘘と真実でマカと交渉する。このままアラクネ達を追跡されたら面倒だ。
「……魔女が約束を守るとは思えない!」
マカは魔女狩りを維持している鎌をアラクネに向ける。見逃したとしてもクロナが動かるようになるとは思えないのだ。
「あなたは早く死武専に帰らなくていいのかしら? あなたが恋をしている男性が死武専に破門されそうになっているのに」
「……嘘ね」
「魔女の妻を持ち、その魔女を殺したように死武専に偽装し、魔女について行こうとしている男を死神が許すとでも?」
「メデューサはハヤテさんが殺した。目撃者だっているんだよ!」
「…………ふふふ。恋する乙女ほど御しやすい者はないわね。帰るわよギリコ」
「やっぱり姐さんはえげつねえわ」
アラクネは的確に真実と嘘を織り交ぜ、マカが一歩引いたのを見逃さず、その場をあとにした。
マカはアラクネを追おうと足に力を入れるが、もし本当にハヤテが破門にされるなら、される前の段階でスピリットに頼み込んで何とかなるかもしれない。そんな甘い考えが脳裏に過り、追跡することを諦めた。
***
マカが悔しげに去っていくアラクネを睨んでいる時、ちょうどレーフ村前にある青年が到着した。
「待っていてください! 私が今助けに行きますよ!!」
爆音で音楽を聴いているからか、大声を出しているジャスティン=ロウ。既にアラクネやギリコは撤退し、ゴーレムも破壊されている現場に向けて歩みを向けた。
一番原作と設定から違うのはエクスカリバーですが、二番目はラグナロクだったりします。
まずラグナロクに関する設定ってほぼないですし。