蛇の元夫   作:病んでるくらいが一番

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今回は漫画で言ったら一話で終わるところですが、当然終わるわけがなく。


第33話:蛇と蜘蛛

「チチチッ、私が死武専を見てきた感想だけど、特に何かが起こってるとかはなかった。シュタインが教師に復帰と星族の男の子がなんかに負けたらしい」

「……シドが梓と何処かに行ったんだよな?」

「そう。あのゾンビと一緒に血だらけの星族の子が帰ってきたのを見たって人が何人も」

「分かった。ブラック☆スターはアラクノフォビアの誰かに負けたか」

 

 アメリカのネバダにあるデスシティーから帰ってきたミズネは、嫁力を存分に発揮しているメデューサが作った遅めの昼食を食べていた。食事をしながらデスシティーで集めてきた情報を他の人に共有する。主にハヤテとメデューサにだが。

 

 ハヤテはデスシティーを出た時はメデューサ以外のことなんてどうてもいいとすら思っていた。だが、メデューサと会ったことによって、渦巻いていた狂気は緩和され、愛を向けている相手(メデューサ)以外のこともしっかり考えられる状態まで戻っていた。

 そしてまず気になったのが、鬼神が逃げたあとの死武専の対応だ。

 

 ハヤテの予想では『千里眼』の梓が索敵に出て、シュタインとマリーとスピリットはデスシティーを出ない。ジャスティンは遊撃という具合だろう。

 シドとミーラは暗殺や破壊工作を得意としているが、鬼神関係では動けないとの予想だったが、何やら動いているようだ。

 

「十中八九アラクネの対処に動いているわね」

「あまりアラクネのことを知らないんだけど、どんなやつなの?」

「……」

 

 現在日本で使っていたセーフハウスとは別の秘密基地で、フリーの結界が貼られた中で作戦会議を行っている。フリーは結界維持、ミズネは今さっき帰ってきたので食事を取っている。それ以外のハヤテとメデューサとエルカが話し合う。

 

 情報とはあればあるだけ良い。だが、偽やデマなどを掴まされればそれだけ不利になる。故に情報は精査していかないといけないが、メデューサはアラクネの妹だ。そして800年前にアラクネをハメて、死神様と戦わせたのもメデューサなのだ。メデューサと同じく智謀を巡らせるタイプのアラクネをハメられるというのは、それだけ正しい情報を持ち、アラクネを誘導できた証拠だろう。

 これからの戦いの為にハヤテは情報を欲したのだが、メデューサは頬を軽く膨らませてハヤテを睨んでいる。どうやら怒っているようだ。

 

 エルカは最近メデューサが見た目(中学生くらい)に引っ張られた反応をする事に慣れつつあるが、それでも表に出さずに驚く。

 

「どうしたのよ」

「ハヤテさんがあの自堕落巨乳蜘蛛女に興味を持っているのよ!? 見た目の雰囲気が私と似ているあの巨乳を! 分かっているわ。ハヤテさんが無より貧より大きい方がいいなんてことは!!」

「そういう話をしている訳じゃないんだけど」

「あの女、未だ処女のくせにハヤテさんを誘惑するなんて絶対に殺してやる」

「…………ハヤテはアラクノフォビアの事については聞いたわよね?」

 

 メデューサは愛し合うということを10年ぶりに行い、それの尊さや良さを改めて実感した。だからこそそれを損なおうとするモノを絶対に許さない。負い目があるからこそ、ハヤテがふとした拍子に出て行ってしまうのではないかと不安に思っているが故の思考だ。

 そういう考えを巡らせることをエルカは否定はしないが、作戦会議中にやられるのは勘弁して欲しい。メデューサを無視してハヤテに問いかけた。

 

「アラクネがトップを務め、モスキートっていう吸血鬼と、ギリコっていう単独武器が幹部を務めるアラクネのための組織。アラクネの蜘蛛ネットワークを使い、様々な人を仲間に引き入れていて、今のアラクノフォビアの目的は鬼神を手に入れること。知ってることなんてこれくらいだぞ」

 

 そしてアリスが所属している可能性が高く、アリスがいるならミフネも居るであろうことも予測している。アリスが向こうにいる可能性はメデューサが示唆していて、それならばミフネを掻っ攫ったのもアリスになる。

 アリスは今まで呆れるほどハヤテの行動を予測して動いていた。ならばハヤテが三船を皆殺しに行く時に、ミフネと交渉して滅ぼしに行くことを予想するなど造作もないだろう。

 

 ハヤテはそう語りながら、騒ぐメデューサに膝枕をしてあげて頭を撫でる。子供を死武専に放置していることも忘れ、イチャつく夫婦がそこにいた。

 メデューサだけでなく、ハヤテも彼女との接触に飢えている。少しの時間を見つけてイチャつく二人を何度も見せられ、エルカは最近ブラックコーヒーが好きになりつつある。あの苦さが甘さを忘れさせてくれるのだとか。

 

「メデューサは生物関係、今は医学を研究しているわ。それと同じようにアラクネもある分野を研究していたのよ」

「狂気、人間の感情……心理学か。いや、武器を作りだしたのだから、魔道具?」

「前者もやっているでしょうけど、魔道具が正解ね。エイボンの魔道具を研究して、それを自らの力にしようとしているわ。魔武器もそれの一環なのよ」

「ハヤテさんが生まれるきっかけを作ったのは感謝しているわ。でも鬼神を支援しようと考えているアラクネは殺すけど」

 

 メデューサはハヤテとの触れ合いに満足したのか、ハヤテの横に何事も無かったかのように座り直す。

 

「今回のゾンビペア(シドとミーラ)弩デスサイズ()を連れて動いたのは、アラクネが危険な魔道具を作っているからというのが、最もしっくりくる理由だわ」

「……あっ! あの星族の子の傷は大量の刃傷だって」

「ミフネね」

「兄さんか」

 

 ミズネが食べ終わったからか重要なことを思い出し、ハヤテは兄の所在がわかり、そして芋づる式にアリスの場所もほぼ確定したことに安堵していた。しかしメデューサは内心舌打ちをする。

 

 メデューサが元々知っている情報とハヤテから聞いた情報によって、ミフネはアンジェラの安全を確保さえすればこちら、最低でも死武専の戦力になることは確定だ。しかし当然アラクネもそれを阻止するだろう。そしてメデューサが苦手なアリスが敵にいる。

 

 あれ(アリス)はメデューサのことをプロファイルし、行動原理(ハヤテ)を理解し、正確にメデューサを読み切ってくるだろう。

 そんな相手がアラクネといるなど、これからの作戦においてとてつもなく不利になる。

 

 だが、それでも作戦は変える気にはならない。これ以上にメデューサと()()()が有利に立ち回れる方法はないからだ。

 

「アラクネの方針とアラクノフォビアの目的は分かった。それで俺達は何をするんだ? まだ詳しく聞いていないけど」

 

 未だにハヤテは第三陣営として、アラクネを弱体化させるとしか聞いていない。その言葉を待っていたとばかりにメデューサは悪い顔をしながら笑う。

 

「せっかくだし、挨拶に行きましょう」

「俺はその悪い魔女がやるような笑みは嫌いだよ」

「……もうやらない」

 

 今後、メデューサが思い通りに事が運んだ時にする、悪どい笑みをすることは無くなったとか。

 

 

 ***

 

 

「ようこそ、ババ・ヤガーの城へ。こちらです」

 

 アラクノフォビアの拠点たるババ・ヤガーの城にメデューサとハヤテはやってきた。

 

 メデューサは元々アラクネが死んだ訳では無いことを知っていたので、アラクノフォビアらしき影をずっと追っていた。アラクノフォビアはメデューサ陣営と比べて人が多すぎる。アラクネが復活したあとなら、存在がバレないように統制できるかもしれないが、復活する前ならば尾けることも容易。アラクノフォビアの下っ端から地道に尾行した結果、メデューサは数年前からババ・ヤガーの城(アラクノフォビアの本拠地)を見つけていた。

 

 そしてアラクネが復活したことを確信し、ハヤテと合流も出来たので、アラクノフォビアに出向いていた。

 城に近づいた時に見回っていた仮面の下っ端に「アラクネの妹が来た」と伝言を伝えさせ、城まで歩いていく。その彼女の手は夫と手を繋いでいて、機嫌が良さそうだ。

 

「ハヤテさんはアラクネが私に何を言っても怒らないでね?」

「分かってる。ただ攻撃されたら話は別だぞ?」

「ええ」

 

 仮面の下っ端にアラクネの元に案内させている間に、メデューサは改めて念を押しておいた。今の時期にアラクネと表立って敵対するのは()()()()()、何度も自重するようにお願いをする。

 だが、もしハヤテが本気で怒ってしまったら静止するのなんて無理なのだけど、と頭の中で思い浮かんだ考えを消して、到着した大広間への入口を跨ぐ。

 

「あらあら、本当に体の交換なんて成功したのね」

「ええ、どれだけ排除しても覗き見られててウザかったわよ」

「誰のせいであんな姿になっていたのか忘れたのかしら?」

「私のおかげね」

 

 大広間の奥に何本もの柱があり、その間に蜘蛛の巣を張り、その上に座り込んでいるアラクノフォビアのトップ、アラクネがそこにはいた。

 確かにアラクネは美人に見えるし、胸も大きいが、メデューサほど好みではない。そうメデューサにだけ聞こえる小声でハヤテは口にする。

 明らかに口撃合戦を行っているのに、それを無視して顔を少しだけ赤くしたメデューサがハヤテの肩を軽く叩く。

 

「……本当に変わったのね」

「愛は人を、魔女を変えるのよ」

「可哀想に……蛇の擬態に騙されてしまうなんて。ミフネハヤテ、アラクノフォビアに来ない?」

「拗らせた処女がトップの組織はちょっ、」

 

 ハヤテがあからさまな煽りを言い終わるよりも前に、その場で体を倒した。先程までハヤテの目があった場所を寸分の狂いなく弾丸が通り抜けて行った。

 眼球は人体の中で改造もまともに出来ず、鍛えることも出来ない弱点のひとつだ。そこをいくら煽ったからと言って、いきなり狙ってくるなど正気ではないだろう。一応メデューサとハヤテは挨拶に来ているだけなのだから。

 

 ハヤテはアラクネのいる場所よりも奥から感じていた存在、自分の相棒が本当にアラクネの下についているのだと理解した。

 何発かハヤテに撃ち込んできたあと、赤い狙撃銃を片手で持ったアリスが現れた。

 

「お嬢様の侮蔑はお辞め下さい」

「久しぶりアリス。今はアラクネが主なのか」

「元々主はアラクネ様ただ一人ですので」

「俺は主ではなかったと」

「そうです」

 

 ハヤテはアリスの言葉に予想よりも大きな精神ダメージが来ていることに驚きつつも、今までの人生で一番共に居た人が敵対しているという事実を再確認する。そして自分の手から離れたからこそ、アリスが良い女であることも再認識した。例え狙撃されたとしても、首の動脈を掻っ切られるよりは可愛いものだ。

 

 アリスが現れると、ハヤテ達を囲うように存在していた柱の裏からアラクノフォビアの幹部が姿を現した。そこには見覚えのある顔の人もいる。

 

「おいおい穏便に終わらせるんじゃなかったのかよ」

「これだから貴様は信用ならんのだ」

「……」

 

 ギリコが煽り、モスキートはアリスを批判し、ミフネは黙り込む。いくらハヤテが死武専でトップレベルの実力者だとしても、武器(アリス)もない、まともな武装も持っていない現状で襲われたら、ハヤテとメデューサでも一溜りもないだろう。

 そんな状況にもかかわらず、メデューサはアラクネに笑いかける。

 

「ただの挨拶よ。ちょっと私の旦那様がお茶目をしただけじゃない。まず勝手に夫を引き抜かないでくれないかしら」

「あらごめんなさい。でもミフネハヤテは巨乳好きだというデータがあるのよ。それなら誘ったら来てくれるかと思ったのだけど。私胸が大きいでしょ? そしてあなたの胸って」

「……あまり煽らないでくれないかしら」

「…………そういえば貴女ってその体を作る時に頑張って胸を大きくしようとしていたわよね。その、ご愁傷様」

「殺すぞ蜘蛛」

「ふふふ」

 

 メデューサは基本隙を晒さないため、アラクネは夫というメデューサの最大の隙を突き続ける。別にダメージを与えられなくても、アタフタするメデューサが見られれば少しは気分も晴れるというものだ。

 少しずつメデューサの目が据わっていき、今にも襲い掛かりそうになった時、ハヤテが離れていたメデューサの手を握った。それだけでメデューサは心を落ち着かせ、余裕の笑みを再び浮かべ始めた。怒りよりも愛おしさが上回ったのだ。

 

「胸が小さくてもちゃんと愛してもらえるからいいのよ。アラクネも可哀想ね……高嶺の花、組織のトップだからこそ誰も手を出さず、貴方の子宮は蜘蛛の巣でも張っているんじゃないかしらね」

「……」

 

 メデューサの言葉に今度はアラクネが顔を酷く歪めたが、それよりも早くある男が動いた。アリスは攻撃を先程禁止されたので動かない。ミフネは脅されている身なので動くわけがない。ギリコはアラクネにそこまで言えるメデューサを性的にぶち壊したくなっているがここでは動かない。

 

「アラクネ様を侮蔑する輩は死刑!! 『ポリススティンガー』」

 

 モスキートは自らの主が侮蔑された言葉を聞き、アラクネが顔を歪めたのを見た瞬間、鼻を鋭い槍へと変化させ、高速回転しながらメデューサの心の臓を貫くべく飛んだ。

 

「ただの口喧嘩だろ? 落ち着けよ」

 

 メデューサを死刑なぞハヤテがさせるわけがなく、メデューサの前に立ち、いつの間にか持っていた真っ赤な刀でモスキートの長い槍のような鼻を受け流した。

 このアラクネのいる部屋に部外者が入るには、事前に武装解除しないといけないが、ハヤテは入る前に刀や剣や銃を全て預けているが、今はその手に刀が握られていた。

 アラクネはハヤテのその紅い剣を見て、血液の扱い()()、アリスの方が実力が上だと確信を持てた。これならば放置しても敵にすらならないと内心ほくそ笑む。

 

「モスキートお辞めなさい。ただの姉妹喧嘩よ」

「……承知致しました」

「もっとやってもいいぞ」

「アラクネ様がやめろと仰たのだぞ? 黙っていろ小僧」

「おお、怖い怖い」

 

 モスキートはアラクネの言葉がなければ800年前の姿を解放していただろう。彼は800年前の姿に近づけば近づくほど強力な力が帰ってくる。本気(800年前)の姿は消耗も激しいので、いつもジジイのような見た目で過ごしている。アラクネが力を求めた時にのみその力を使うべく、常に(血液)をプールしている。

 

「止めるならもっと早く止めてくれないかしら」

「貴方のナイト様なら勝手に守るのだからいいじゃない」

「ハヤテさんに色目を使おうとするな。本気で殺すぞ」

「あらあら怖い」

 

 ハヤテと同じような言葉を発し、メデューサが少しだけキレるが、同じ手には乗らないのかその場で深呼吸をして落ち着く。

 

「ただ挨拶に来ただけなのだから帰るわ」

「食事でも誘ってあげようかと思っていたのだけど」

「薬や毒を盛る蜘蛛と食事を共にしたい人は居ないわよ」

「それは蛇である貴女にも言える事じゃない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()貴女ほど外道ではないわよ」

「その話はもうメデューサから聞いている。揺さぶりにすらならないぞ」

「そうかしら? まあいいわ。次もお話が出来るといいわね」

「ええ、本当に。姉妹で殺し合いなんてしたくないものね」

「そうね」

 

 ハヤテがそのことは弱点にはなりえないと口にしたが、彼の手を強く握って小さな声で謝る。何度も頭を下げたことだが、愛を知ったメデューサは愛を冒涜するという行為の恐ろしさを想像して吐きそうになったこともある。

 蛇と蜘蛛は表情を一切変えず、思ってもいないことを口にしながらメデューサはハヤテの手を握って、アラクネのいる大広間から出ていった。

 

「いいのかよ。ぶっ壊せたぜ? あいつら程度なら」

「武闘派魔女とはいえギリコやモスキート、それに()()()には勝てない。ハヤテも武器が居ないからメデューサよりも脅威度は低いわね」

「ならなんでだよ」

「私が昔にメデューサに嵌められて死にかけたのよ? 簡単に殺しては詰まらないじゃない」

 

 アラクネはメデューサのせいで800年前に死神様に追い詰められ、仕方なく肉体を放棄して、蜘蛛ネットワークへと姿を変えた。

 ただ夫と一緒に殺してしまっては、屈辱を与えらないでは無いか。例えば三船がやっていたようなことをメデューサの体でやるのも楽しそうだとアラクネが微笑んでいる中、血気盛んな男が盛り上がる。

 

「へぇ〜、趣味悪ぃなマジで」

「アラクネ様を貴様も侮辱するか。あの小僧の代わりに私の800年前の姿を味わうか? こぎたないノコギリ」

「ジジイの癖に好戦的だな。殺すぞ」

 

 ハヤテやメデューサなどの部外者が居ないのに、アラクネのいる大広間からは爆音と蝙蝠の鳴き声が聞こえた。




弱点にはなりえない(アリスは初耳)

モスキートがなんか噛ませみたいになっているのは、本来自分がいるべきポジにアリスが居座っているからです。

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