蛇の元夫   作:病んでるくらいが一番

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今回は原作にはない魔道具? が出てきます。


第34話:あまりにも早すぎる理解

 ハヤテとメデューサがアラクネの居城へ挨拶に行っていた頃、死武専ではチームによる魂の共鳴に関する授業が行われていた。その授業でシュタインに本気で掛かってこいと言われたのにも関わらず、指名された内の一人、ブラック☆スターは戦わず、席すら立たずに無視を決め込んだ。

 全く動かないブラック☆スターの代わりにキムが呼ばれ、マカとキムとオックスの三人でシュタインと対峙していたが、

 

「キム見ていてくださいね!! 「知将雷王」と呼ばれる僕が、ゲフベラッ!?」

「ヘラヘラ、敵の前で口上を上げるのは殺して欲しいという宣言にほかならないんだけどねぇ。殺されたいのかい? ねぇ」

「キム!」

「私は上から」

 

 オックスはシュタインを見ず、キムを見ながら口上を上げていたため、シュタインにぶん殴られて気絶してしまった。シュタイン相手に戦闘でカッコイイ所を見せようとしたオックス……オックスくんの敗北だろう。

 一方一人戦死(仮)したが、マカとキムはチームによる魂の共鳴、『共鳴連鎖』を発揮していないが、キムがジャクリーンで空を飛んで上から責め、マカがソウルで下から攻める。視野の関係上、二人の攻撃を同時に視界に入れることは出来ない連携攻撃だが、その程度で攻撃を受けるシュタインではなく、二人は軽く吹き飛ばされた。真面目にやったので攻撃は弱くしてもらえたようだが。

 

 キムは他の魔女に合わせる苦痛に比べたら、マカ達死武専生徒と連携する程度なら苦にならない。

 マカは狂気をその身で扱う難度に比べたら、他人と手を取り合うくらい余裕だ。ブラック☆スターなどという狂気よりも厄介な存在が連携相手じゃなかったこともできた理由だろう。

 若干感覚がおかしい二人だが、この二人のおかげで連携の重要を生徒達は再認識出来た。

 

「……」

「ブラック☆スター……」

 

 授業を見ずにひたすら苦手な考え事を続けているブラック☆スター以外には。

 

 ***

 

 

 死武専の地下。ハヤテが軟禁されていたり、鬼神が封印されていたのと同じ最下層にある生徒が来ていた。連携の授業が終わったあと、その足でここに来ていた。

 

「別にお前達はついて来なくてもいいのだぞ?」

「なんか楽しそうじゃん!」

「……なんでこんなに雰囲気が暗いんだよ!? え? お化けとか……出ないよな?」

 

 デス・ザ・キッドとトンプソン姉妹ともう一人が秘密の保管室と呼ばれている、最近まで存在を死神であるキッドすら知らなかった保管室の前に来ていた。

 

 物怖じしないパティは楽しそうに辺りを見回しているが、リズは雰囲気的に幽霊なんかが出そうだと、キッドの背中に引っ付いて周りをキョロキョロしている。同じように周囲を見ているのに、表情がだいぶ違う。かたや好奇心の塊で幽霊などは怖くない子、もう一方は幽霊など出ればそれだけで気絶しそうな子。

 全くシンメトリーでは無いその動作にキッドは頭を掻き毟りたくなるが、何とか頭の中でこの死武専校舎のシンメトリーを思い出して抑え込む。

 

「……ねえ、なんで私なのよ」

「金は払っただろ? なぜ文句を言う。対価はキッチリカッチリ払ったはずだが」

「もう私はお金には執着してないからね? なんでこんな危険な橋を渡らないといけないのさ。マジョで」

 

 ここにいる最後の一人は狸の魔女だが、ランタンに変身するジャクリーンの職人でもあるキムだった。最近は魔女に追われたとしても守ってくれる保護者が出来たので、昔ほどお金に執着していない。元々はお金があれば何とか死武専や魔女から追われても身を隠して生きていけると思っていたから必死になって貯めていたのだ。

 今はできるだけ迷惑を掛けないで平和に暮らしていきたいのに、キッドに半ば脅されてここに来ている。

 

「話していなかったか。俺は死神であるにも関わらず、あまりにもモノを知らなさ過ぎた。その答えがここにあるかもしれない。ここには敵から奪い取ったモノが多数収められているらしい。その中には魔女しか解読出来ないモノもあるかもしれないからな」

「……それは分かった。でも私ってあんま変なことをすると殺されちゃうんだけど」

「それはない」

 

 キッドはキムが現状で殺される可能性を完全否定した。

 この死武専では死神様の次の位の人間はデスサイズだと思われているが実際は違う。最も信頼している武器であるスピリットにあらゆる知識に精通しているシュタイン。暗殺や密偵、教師からゾンビまで何でもござれのシド、あとは良心をこの死武専で覚え、何かあれば身内以外の全てを殺す決断ができるハヤテ。この四人が最も位、というよりも実権力が高い。

 表立っての権力はハヤテやシュタインはそこまで高くない。二人とも面倒だからと辞退しているだけであり、そんな立ち位置にいるハヤテの義理の娘のキム。

 

 キム本人は今のところ余りにも過激な魔女の情報だけを死武専に売ったのと、魔法の力で重症の生徒を秘密裏に治したくらいだ。

 それでも死武専の為に働き、そして力を貸してくれている。死武専に不利になることを一切行っておらず、そして今回の依頼もキッドが死神権限を使って無理やりお願いした形になっている。

 

「もしそんなキムを父上が裁くのだとしたら、その規律は間違っている。故にそんな間違いを犯すはずのない父上はキムを裁くことは無い」

「……うーん? まあ本当に大丈夫ならいいけど」

 

 正義の象徴だからこそ、何もやっていない子供を裁くことは絶対にない。キッドはそう断言しながら、保管庫の扉をゆっくりと押し開けた。

 

 

 

 まずキッドがここに来たのは鬼神やエイボンという魔道士(私を忘れていないかい?)そして父親の死神様(私だよ、エクスカ……)などを一括りにしている旧支配者(グレート・オールド・ワン)について調べるために来た。

 死武専の図書館は職人や武器のランクによって閲覧できる書物が変わる仕組みだ。当然死神であるキッドは生徒だが、その縛りを受けない。しかしその死神権限を使って書庫を調べても旧支配者に関する記述がある書物はなかった。

 

 死武専はこと職人が関わる書物なら蔵書していないモノはないと言えるほどの蔵書量を誇っている。旧支配者(死神様)に関する真面目な本がほとんど無い。おとぎ話レベルならあるのだが、死神クラスのセキュリティクリアランスの書物は一切ない。

 それだけなら死神が恥ずかしいからどっかに隠したと思っただろう。しかしキッドの探求はそこでは終わらなかった。

 

 キッドは自分に狂気や世界の闇を垣間見させたハヤテやその周りの仲間(スピリットやシュタイン)についても調べることにした。

 

 三船疾風について死武専で聞き回れば、『死武専の矛』か女関係のことが聞けた。その時思ったことはキムにも手を出すのだろうか? という邪推と、何故かリズとパティの胸の感触を思い浮かべてしまった。

 そして前者()は悪人の組織をいくつも潰し続けた動乱期、鬼神が復活するまで平和だった世を作るために築き上げられてしまった闇の時代。そのことを調べていると、キッドは疑問に思った。

 

(ハヤテ先生だけじゃない。シュタイン先生やシド先生、デスサイズのスピリットに関する記述があまりに少ない。彼らは動乱期で最も活躍した職人たちでは無かったのか?)

 

 旧支配者だけではなく、動乱期の死武専トップクラスの職人達についてもまともに書かれていなかったのだ。

 それによりキッドは死武専の闇は尽く握りつぶされているか、それとも図書館という誰でも読もうと思えば読めてしまう空間には置いていないのか。

 キッドはキムの時と同じように規律を守り、正しい死神様ならば、若い子供たちが間違って闇に触れないように別所に隠したのだと思い至った。握りつぶすなど規律を犯すことをするはずが無い。

 

 そして先日、ブラック☆スターが血だらけで運ばれた時、シドがこっそり医務室から抜け出したのを見たキッドは、魂感知でシドの向かっている部屋を特定した。

 特定した部屋の鍵は死神権限で無理やり借りてきたのだ。

 

 今回キッドが知りたいことは二つ。旧支配者と動乱期の大人達について。

 

 そして前者については直ぐに知ることになった。

 

「なんだ……これは?」

「うっひょー! なんか分からない物が沢山ある……いくつかパクったらいくらになるんだろ?」

「んだよ。お化けじゃなくて魔道具って。にしてもなんでこんなに魔道具があるんだ?」

「……ここにある魔道具はただの魔道具じゃないよ。何これ。普通じゃないことだけはわかる」

 

 夥しいほどの魔道具が部屋に入ると目に入った。

 巨大なよく分からないモノから、大きなネジマキや小さなインカム、巨大過ぎる機械の花や明らかに戦闘用だと分かる重機なんかもある。

 

「父上は何と戦う為にここまで揃えているんだ? 鬼神……鬼神にはこんなものは通用しないはず。それも分かっているだろう。ならば……いや」

 

 鬼神などの強大な力を持った存在には、ここにある魔道具ではどうにもならないだろう。ならば標的は職人などではない、力なき一般人ではないか? などと思ってしまったキッドは直ぐに思考を放棄する。

 そんなことは規律の神である父上は絶対にしないと頭の中で唱えながら。

 

「ねえねえ! なんか小難しい本があるよ! キッドはこういうのが目当てなんでしょ?」

「で、でかしたリズ! ほら、早く行くぞ!」

 

 巨大な魔道具が視界を遮り、その奥にあった本棚群が見えていなかった。それを思考して固まっているキッドを抜き去り、いの一番に走って探検に向かったリズが見つけた。

 もし見つけていなければ、この後に続く地獄を目の当たりにしなくても済んだかもしれないのに。

 

 

 

 

 

「……」

「……これ私が見ても本当に大丈夫なの?」

「死神……いや、デス・ザ・キッドが保証する」

 

 そこにあったのは死神様の黒歴史だった。死武専の闇や規律の狂気で人々を従えさせたという事ではなく、中学生が陥るようなそんな黒歴史。

 今はチャラチャラとしたキャラで怖さを無くしているが、昔は泣く子も黙って勝手に死ぬほどの恐怖を醸し出していたらしい死神様。その死神様になる前の彼自身の記録がそこにはあった。

 

「この長ったらしい技名は必要……ではない。なぜ読んでいるだけで悲しくなってくるんだ!!」

「……もう辞めてあげよう。大人には色々とあるんだよ」

「ふざけるな! 色々あったことはわかる。だが何故こんな息子が読んで死にたくなるほどの黒歴史を遺しているんだ!!」

「……思い出とかじゃないの?」

「こんな思い出なんていらん!!」

 

 キムはひとつわかった事として、伝承に伝わる死神と同じような格好をしている死神様だが、あれは死神だからあのような格好になったのではなく、カッコイイからあのような格好をしているということが分かった。

 

「いや分かっていたさ。利便性などを考えれば、普通の服やスーツの方が戦闘の邪魔をしない。あんなヒラヒラしたシンメトリーの糞もないマントを着たスタイルが本気なのか分からなかったが、カッコイイから……わからん! もっとフォーマルにキッチリカッチリスーツの方が動きやすくてカッコイイじゃないか!」

 

 リズとパティは速攻で飽きて、地上に戻ってしまっている。キムは二人が居なくて本当に良かったと、膝をついて項垂れている(orz)キッドを見て心の底から思った。きっとリズが居たらゲラゲラ笑い、パティが居たらこの事で今後キッドは揺すられていただろう。

 

(帰ったらハヤテの書斎の本棚をズラした先にある秘密の部屋を見てみよう)

 

 親の黒歴史というものは子供に精神的なダメージを多大に与えるのだと理解したが、自分を救ってくれたあのハヤテが一体どんなモノを隠しているのか、好奇心を抑えられなくなったキムは暴くことを誓った。

 

 キッドが黒歴史を視界の外に置いてきたあと、再び本をひっくり返す作業が再開しあ。キムが明らかに存在を知ってはいけないような本もあったが、極力覚えないようにしつつめくり続けていると、一冊の本が現れた。

 

「うん? キッド、これは?」

「……『戒め』? 著者はEX」

 

 なんとなくあの聖剣を思い出しそうな名前だったが、索引には『規律の罪』や『知識欲の罪』、『憤怒の罪』などという章分けがされた本だった。規律の罪、それはまるでキッドの父上の罪と書いているように見える。

 

「少し読んでみよう。キムは引き続きこのような本を探してくれ」

「……親は親。キッドはキッド。その事は忘れるんじゃないわよ? 最近親が出来た奴が言うのもなんだけど」

「分かってい、」

「は? ちょっと……待って。え? キッド!?」

 

 索引から先のページを開くと、本が光り輝き、キッドはその場で意識を失った。

 

 

 ***

 

 

「……なんだここは?」

 

 キッドはいつの間にか、石畳の部屋にある()()に備え付けられた椅子に座っていた。自分以外に座っておらず、周りを見回しても特に情報が手に入らないので立ち上がろうとした。

 

「立てない?」

「さよう。ここは私が貴様の知りたい歴史を教えてやる為の場であり、立ち上がる必要が無いからその機能はエイボンが省いた」

「お、お前は!?」

「おや? 私を知っているのか。当然であろうな。何故なら私はエクスカリバーなのだから」

 

 キッドは虫酸が走った顔をしながら、目の前にいる存在に指を指す。いつもの白いシルクハットは被ってなく、金と宝石で出来た王冠を頭に載せたエクスカリバーが正面に座っていた。

 

「またお前か!! ここはどこだ!?」

「ここはエイボンに創らせた旧支配者の罪を記録した円卓(書物の中)である。この書物は旧支配者達が自らの罪を忘れないように記録し続け、本人達以外は見れないはずのものだ。しかし! 貴様はどうやら死神の息子のようだな。ならば見る権利はあるというものだ」

「……?」

 

 前にあったエクスカリバーは問いを投げても、問いとは関係ない自画自賛が帰って来る生き物だった。なのに目の前のエクスカリバーは普通にキッドの問いに答えてきたので、目の前の存在が本当にエクスカリバー……を記録したモノなのか疑問に思う。

 

「さて、まだ幼き死神ではここに居続ければ狂気に塗りつぶされるであろう。いくつかの問いに答えてやるから早く私に質問せよ。ヴァカな質問はするなよ?」

 

 エクスカリバーはどこから取り出したのか、紅茶を飲みながら、円卓を杖で叩いてキッドを催促する。先程は全く別人に見えたが、どうやら根は同じエクスカリバー(虫酸が走る生物)のようだ。

 

「旧支配者とはなんだ?」

旧支配者(グレート・オールド・ワン)とは狂気を司る者達の総称である。私は憤怒、死神は規律、鬼神は恐怖、タコは力、エイボンは知識。あとはもう既に死んでいる愛欲を司るモノも居たが……あと死神は正確にいえば規律に恐怖だったか」

「……タコ? いや、それよりも父上が規律の狂気を持っていることはわかる。だが、恐怖は鬼神が撒き散らしているではないか!」

「死神は昔、完全なる神になる為に恐怖という感情を捨てるべく、別個体にその思い(狂気)を移した。あやつは私達よりも狂気に厳しかったが故に、相反する思いを抱いてしまう狂気を抱えきれなかったのだろうな。私は憤怒を司っているが、怒った事など一度もないというのに」

 

 そういうエクスカリバーは頭の上に乗っている王冠を一撫でして、茶菓子のラスクを口に放り込む。この円卓が実際に有った時の茶菓子を記録したモノなので、あまり美味しくないが、それでも懐かしさを何度でも感じることが出来る味だ。

 

「鬼神は父上によって産まれた……恐怖の狂気が世界に広まってしまっているのも父上が元凶?」

「鬼神はとうとう死神に刃向かったか。あの規律ヴァカなどほっといて、引き篭っていれば良かったものを」

 

 一体いつのエクスカリバーが記録されたのかは分からない。だが、鬼神が封印される前であることは確かのようだ。

 いつものキッドならそんなことを思い浮かべていたかもしれないが、今のキッドは胸を抑えて苦しげに呻いている。彼の中の規律が歪みそうになっている。

 

(父上が鬼神を産んだ? この世界の規律を守るべき神が混沌を生み出し、世界を争いへと導いている? 目の前の奴が言っていることは本当なのか? もし本当なら父上を見て、規律を学んだ俺は本当に正しいのか? 規律……規律とはなんだ? 正義とは……なんだ?)

 

 未だに狂気を封印されている(ザラインオブサンズ未開放な)キッドは、まだ知るべきではなかった事実を突きつけられ、魂が悲鳴をあげている。

 魔女との問題を解決し、様々なことを知り、友と苦難を乗り越えたあとのキッドなら、この真実にも耐えられただろう。しかし今のキッドはまだそこまで強くなりきれていない。

 

「……どうやらあのヴァカは鬼神の時とは違い、何も教えずに箱庭で育てているようだな。それでは私が()()()()にやった事と同じだろうに。帰るがよい、若き死神」

 

 エクスカリバーは円卓の上を歩き、キッドの頭を杖で小突く。()()()その一撃はキッドを意識を沈め、その場からキッドは居なくなった。

 

「本来の私は何をしている? 友がヴァカな事をしているのに、何故至高で完璧な存在である、このエクスカリバーが助言してやらんのだ……もしやまだ引き摺っているのか?」

 

 エクスカリバーはアーサーの座っていた席に座り、またこの本が開かれるのを永遠に待ち続ける。




キッドは早く知りすぎた弊害でこれから少しずつおかしくなるかもしれません。
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