蛇の元夫   作:病んでるくらいが一番

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今週も一話投稿になってしまい申し訳ありません。サボっていた訳では無いのですが、単純に筆が進みませんでした。

次からは争奪戦になるからきっと進むはず。


第35話:戦の前の恋愛事情

 シュタインは最近まで動けないほど頭が狂っていた。

 長年ハヤテの狂気でゆっくりと犯され、鬼神の系統の異なる狂気でシュタインは壊れた。

 

「他のチームはしっかりとチームで波長を合わせられるようになっています。()()()()()()()()()()()なら出来ているのですから、もう一歩仲間に近づいてあげて欲しい」

 

 マカペアとキッドペアとブラック☆スターペアでチームに組むことになり、現在はそのチームが街の外れに呼び出しを受けていた。

 呼び出したシュタインは()()()()()特におかしな点が見当たらない。

 

 シュタインが教師として他のチームとは別にこのチームを呼び出したのには理由がある。

 このチームは既にチームとしての波長を合わせられている。だが波長をただ合わせているだけなのだ。波長を合わせた先にあるチームの強みが全く生まれていない。

 

「……もう出来てんだろ」

「いいや。君たちならもっと出来るのに手を抜いているように見える。ブラック☆スターもキッドも」

 

 ブラック☆スターはいつもの様な調子ではなく、覇気がないのか集中出来ていないのか、心ここに在らずといった状態だ。

 

「……」

「駄目だこりゃ」

「なんかあそこに行ってからずっとこんなだよね」

 

 キッドは意識をこの訓練に向けているが、ずっと眉に力を入れて何かを警戒している。その警戒は死武専の中でも治らず……いや、死武専の中の方が警戒が強くなっている時もある。

 鬼神を自分の父親が生み出した。経緯やその時の状況を知らないキッドは一概には責めてはいけないと分かっているが、それでも今の彼は父親へのリスペクトの思いが薄れている。

 

「二人とももっと元気を出して!」

「マカが元気過ぎるだけじゃねえの?」

「そうやって不貞腐れないで!!」

「不貞腐れてねえから」

 

 最後のマカペア……というよりもマカは積極的に訓練に取り組み、周りに声を掛けているが反応が芳しくない。

 最近はクロナのお世話で忙しく、夜も疲れで寝てしまっているマカだが、ハヤテが居ないからこそ変に力むことなく生活を送れている。

 マカが夜に煩くなく、自分の中の鬼と少しずつ歩み寄っているように見えて、同情されながらも翻弄されているソウルはため息をつく。

 

 ここには居ないクロナはデスシティー内で出来る依頼を受けて、おっかなびっくり暮らしている。

 今クロナが住んでいる家はデスシティーにある三船の屋敷で、そこにはマリーとシュタイン、キムとクロナが住んでいる。最初は三人は他人で接し方が分からなかったが、コミュニケーション能力が極めて高いマリーと、(クロナ)の母親と同じ魔女のキムが世話を焼いている。

 

「……やってんだろ」

「済まない。どうしてもこれ以上は無理だ」

「ブラック☆スターは魂の波長がいつもうるさいくらいなのに、今はとっても大人しすぎ。キッドはなんか距離を感じる」

「……今日の授業は終わりにしようか。その代わり今から君たちで適当に遊びに行け。存分に話して仲を深めること……死にたくないのならね」

 

 ブラック☆スターは本当に本気でやっている。だが、自信というものが砕け散ってしまい、ブラック☆スターの強さの秘訣だった自分を信じる力が機能しなくなった。

 病は気からというが、まさに今ブラック☆スターは気が折れてしまい、彼本来の強さが無くなってしまっていた。

 

 キッドも今回のチームの波長合わせで邪魔をしてしまっている。

 狂気とは思いを生み出す魂から発せられる力だ。それをどう扱うかは人による。キッドは自分が規律の狂気をいつ発揮してしまうか分からない。それに自分の心の奥に父親と同じ他人を侵食するほどの恐怖の狂気があるかもしれない。

 それらを他人に悟られたくない、知られたくないと思ってしまっているため、一定以上のチームでの波長合わせが出来ないでいる。

 

 シュタインは仲を深めろという言葉を残すと、本気の殺意を一度向けてからその場から出ていく。

 

 

 ***

 

 

 授業を唐突にやめたシュタインは最近暮らしているミフネの屋敷ではなく、自分のマイホームであるツギハギ研究所に戻ってきた。

 

「……ふぅ」

 

 倒れていたキャスター付きの椅子を立てて、そのまま席に座り込む。流れるように懐から取り出した煙草に火を付けて、口に咥える。

 

「一時は狂気に飲み込まれないように禁煙していたけど、やめて吸ってても変わらないな」

 

 肺いっぱいに煙を吸い込み、ゆっくりと息を吐く。

 強さの定義に迷っている子供や、自分の中にある黒い想いに怯えて心を曝け出さない子供に向いていた苛立ちが、煙と共に体から抜け出す。

 

「……愛。僕の愛は解体や解剖だと思っていたんだけど」

 

 シュタインは既に狂気に完全に堕ちている。

 

 鬼神が復活した後は狂気に抗うためにずっと辛い思いをしていた。だが、ハヤテがミフネを殺しに行き、帰ってこないという報を聞いた時、我慢するのをやめた。

 シュタインはこれでもスピリット以上にハヤテを理解している。自分が常人とは違うキチガイだと自覚しているシュタインは、自分とは系統の違う頭のおかしいハヤテを十年以上観察してきた。だから分かる。今の状況でハヤテが帰ってこないのはメデューサと合流したからだということを。

 

 シュタインは今までギリギリの一線は超えないようにしてきた。道徳は持つが、その道徳を自分の理性や価値観に当てはめず、ただ守るべきものとして守ってきた。死神様とスピリットと出会ってなければその守るということすら出来ていなかっただろうが。

 しかしもう一人の狂人たるハヤテは任務だったとはいえ身内を皆殺しにし、鬼神を復活させた極刑でも済まない魔女と行動し、きっと金銭や戦力の支援しているだろう。

 

 シュタインを少しは理解してくれているハヤテが颯爽とルール、道徳、秩序、規律を破ったのを察し、シュタインはそれらを守る気が失せた。

 だからシュタインは狂気を受け入れたのだが、

 

「もっとこう……おかしくなると思っていたんだけどねぇ」

 

 彼ら大人世代は発狂した末に仲間に殺された同胞達を何度も見ている。発狂すればそれ即ち常人の枠から外れ、死神様のリスト入りするという事だ。

 正常な判断ができず、健全な魂も思いも無くした者は人間に在らず。

 

 の筈なのだが、シュタインは鬼神復活よりだいぶ前とさほど変わらない。

 彼は知らない。それはハヤテ(狂気)を心から受け入れたおかげで、鬼神(狂気)の侵食が止まったことに。鬼神(恐怖)の狂気が入り込む余地がなくなり、ハヤテ(狂愛)の狂気が潜んでいることを。

 

 さて冒頭に戻るが、ハヤテの発する愛の狂気に堕ちたので恐怖の狂気の入り込む隙間がない。

 そんなことを知らないシュタインはどちらの狂気にも堕ちていると思っていて、愛に狂っているハヤテを思い浮かべて疑問に思った。

 

 自分にとっての愛とは何か?

 

 シュタインは解体や解剖によって別の存在の内部構造を理解することこそ、知識愛を満たすことこそが彼にとっての愛だと思っていた。

 しかし前に解剖し損ねた天然で記念な鳥を解剖し、その内部構造を完璧に理解したシュタインだったが、全く満足感が得られなかった。

 いや、正確に言えば知識欲は満たせたが、不思議な飢餓感が拭えなかったのだ。

 

 シュタインは現状を口に出しながら紙にまとめていく。いつ今の正常のように見える状態から、思考を失った化け物になるのか分からない。その時に少しでも復活できるように知識を頭以外の場所に残す。彼もまだ死にたくない。

 

「僕の愛は知識欲じゃないことはわかった。だからハヤテや先輩のように女と性行為をすれば満足するのかと思って、風俗に行ったりナンパをしたけど、当然満たされることは無かった」

 

 無理やり性欲というものを奮い立たせ、挑んだ性行為だったが、元々興味のない行為をしても全くもって思うものがなかった。ただ分かったのは、ハヤテやスピリットの話のおかげで無駄にやり方を心得ていたことくらいだろう。敵との戦闘だけではなく、ベッドの上での戦闘もシュタインは技巧派だったようだ。

 

 シュタインはそれ以外にも色々なことを試してみたが、どれもピンと来ない。人によって愛の意味合いは違うから、シュタインにもきっと何かあるはずなのに。

 ハヤテなら相手の全てを理解し、理由のあることなら大抵のことを愛を向けている相手なら許すことが出来る。シュタインには理解できない愛の形だ。

 スピリットなら一人の女性と一人子供を真剣に愛しながらも、たまに違う味が食べたくなる困った愛。

 メデューサなら愛した相手の全てを欲し、肯定してもらい、自分以外の何者とも接して欲しくないという独善的な愛。

 

 書いては消して書いては消してを繰り返していると、何者かがツギハギ研究所に入ってきたことを魂感知で認識した。玩具が来たとシュタインは笑みで顔を歪ませるが、その相手が誰なのか分かると途端にそっぽを向き始める。

 

「最近は安定しているみたいだけど、まだ解剖とかは辞めてって言わなかったかしら?」

 

 髪を一つに纏めたマリーがひょっこりと扉から顔を覗かせた。教師をやっていると周りが若い子供ばかりで、まるで自分が年寄りのように思えてきたマリーはいつもとは違い、若い子を真似て髪型をポニーテールをしている。

 見せたい相手がここには居ないが、それでもいつ戻ってきてもいいように整えるのが乙女というものだ……乙女ではなくね? と思った人は既にミョルニルを喰らっている。

 

「この建物のこの部屋のこの椅子に座っていると考えが纏まりやすいから来ただけだよ。マリーの考えているようなことはしていない」

「そう、ならいいけど。もうすぐクロナとキムの授業も終わるのだし帰りましょう」

「……ああ」

 

 何故か鼓動が早まり、マリーのことを考えると笑みが浮かぶ。

 そんな不思議な感覚を覚えながらも、その思いが何故生まれたのかを知らないが故に理解できないシュタインは、そのままマリーに引っ張られてツギハギ研究所を後にした。調子を戻すために頭のネジを回す彼だったが、顔が少しだけ火照っていた。

 

 

 ***

 

 

「……むむむ」

「だから言っただろ? 俺に教わらないでエルカに聞けばいいと」

「エルカに教えてもらおうとすると、うちの嫁さんが殺意の狂気に目覚めそうだったからね」

「……あぁ」

 

 ハヤテとメデューサ陣営の魔女達は()()()()にある拠点にやって来ていた。この場所は元々メデューサがある目的で入手していた拠点。

 ちょうどこのアラスカから北に行った所にある『ロスト島』という場所を監視するにはうってつけの場所だったりする。そしてそのロスト島は特殊な磁場が発生していて、例え職人や魔女だろうと長時間居たら死ぬことになる。

 

 そんなアラスカの拠点の中でハヤテは唸っていた。ちなみにメデューサとエルカとミズネはショッピングを楽しんでいる。メデューサが北の国の服装でハヤテをギャフンと言わせたいのだとか。

 

「お前達の情事のあとの会話を知らないから分からないんだが、何故ハヤテが魔法を覚えようとしているんだ?」

「覚えようとはしてないよ。ただプロセスを知っておかないと対応できないからね。アリスは多分使えるだろうし」

 

 ハヤテとメデューサは夜のベッドでやることをやったあと、この後に行われる戦いの詳細を話し合った。その戦いでの敵対勢力になるアラクノフォビアとは、その後も戦うことになるので、魔法について更に知っておいて損は無い。

 例え無駄になっても正しい情報はいつか何かの役にたつということが骨身に染みている。偽情報に踊らされるのは若い時だけで十分だとハヤテは語る。見た目はまだ魔女の血のおかげで20代だが、微妙におっさん臭くなってきているのをまだ自覚していない。

 

「魔法は基本人によって詠唱が違う……」

 

 ハヤテは最もらしい理由を口にして、フリーに魔法の使い方から対処方法なんかを聞いていくが、()()()()()()()()()()()()

 

 彼は三船に巣食う魔女を殺したあと、今まで忘れていた記憶が朧気ながら蘇っていた。

 メデューサに消されたか封印されたアリスへの愛の記憶()()()()、ハヤテが魔女を大切にしようと思った根底の記憶、魔女に関する知識がより鮮明になった。

 誰に教えてもらったのかわからない。何故今思い出したのかもわからない。だが、この記憶はハヤテが覚えていない三船の屋敷から失踪した数年の記憶であることは分かる。

 その記憶の中には魔女界への行き方はもちろん、魔法の使い方から魔女という気難しい女達と話すにはどうすればいいか? 魔女の日常や特性、その他本当に色々なことがあった。

 

 三船では母親(羊の魔女)を大切にするという洗脳はあったが、魔女を大切にしろなんて教育はなかった。もし魔女に関する知識がなかったら、ハヤテはメデューサの洗脳があっても愛せるようになったのかわからない。

 例え記憶を弄られようとも、根底に魔女は敵という死武専ではよくある考えに染っていたら、メデューサに一目惚れした記憶を信じることが出来なかったはずだ。

 

 ハヤテは己の根底を成している魔女に関することを教えてくれた人に感謝している。その記憶のおかげでメデューサを愛することが出来たのだから。

 その人にお礼の言葉でもと思っている。

 

 それとは別に三船の武器戦闘教育は刀を教えていた。銃やその他武器も教えていたが、メインは刀だ。しかしハヤテはアリスを刀と扱うよりも、西洋剣のような使い方をよくしていた。長さや質量を変えられるアリスなら、刀よりも剣として使った方が有効な使い方が出来るのだが、問題はそこではない。

 消えていた記憶の中、失踪していた時期に刀ではなく、剣の使い方を学んでいた気がするのだ。その記憶を更に思い出そうとすると、何となくハヤテはその剣術を教えた相手を殴らなければいけないという使命感が湧き上がってくる。

 

「……テ、ハヤテ聞いているか?」

「ごめん。考え事をしてた」

「ちゃんと聞いてくれよ。もう少ししたら戦いに出るのに、武器の調達はしなくても平気なのか?」

 

 フリーのいう武器は、今ハヤテが持っているただ鉄を打った剣や刀のことでは無い。人が変身する方の武器のことだ。

 

「うーん、多分何とかなるんじゃない」

「ハヤテは確かにただの刀剣でも戦えるが、お前の兄のミフネとかいう男や吸血鬼、単独で戦う武器との戦いでは通用しないはずだ。職人は武器を持つことで力を発揮する。俺の認識は間違っているか?」

 

 フリーは所々やらかすこともあるが、基本的に色々と考えることも出来る。その時々やらかすのが問題なのだが、今回フリーの言っていることは間違っていない。

 ハヤテはミフネのように人が変身する武器を使わずに、アラクネの幹部を倒せるかと言われたら無理だと断言出来る。

 発狂と血液を扱ったとしても、それも武器があって初めて有効に使えるのだ。実際三船本邸で羊の魔女と戦った時、メデューサの乱入がなく、洗脳がなかったとしても五分以下の勝率しかなかった。それほどただの武器と人が変身する武器のスペック差は酷い。

 

「合ってるよ。今死武専に行って力を貸してくれる武器の子達はいる。マリーや梓なんかはきっと力を貸してくれる……けどそれは死武専の大幅な弱体化と繋がってしまうから論外」

 

 口ではこんなことを言っているが、アラクノフォビアと死武専のBREW争奪戦が始まったら、必ずデスサイズが来る。ロスト島に来るであろうデスサイズは梓とマリーとジャスティンのうちの誰かなので、三分の二の確率で力を借りられる。

 それにデスサイズに固執しなければ幾らでも力を貸してくれる武器(女性)はいる。

 

 ハヤテは前にどんな武器とも波長を合わせられる、シュタインと同じ素質を持っているキリクを羨ましいと口にしたが、ハヤテ自身は愛し合ったことのある女性となら波長を合わせられるのでどっこいどっこいだろう。

 ただし梓とは愛し合ったことはないのだが。

 

「……あくまでも弱らせるのはアラクノフォビアだけだと。死神の魔女嫌いは有名だ。例え回復魔法が使える魔女を認めていたとしても、鬼神を解放した俺たちは絶対に許されない」

「その時は神様をぶっ倒してでも認めてもらうから」

 

 魔法を使う者(魔女)であるフリーはその視点から死神は極刑を言い渡してくると口にしたが、ハヤテはその言葉に迷うことなく、拳を振るいながら敵対の道を示した。

 ハヤテにとって死神様は親のようなものだ。羊の魔女に膝枕をしてもらって、頭を撫でてもらったという記憶はあるが、それは洗脳だった。

 改めてハヤテは考えると、死神様とスピリットが親の代わりに色々と教えてくれた。スピリットはハヤテにとって年上の親友であり先輩。死神様は組織の長であり親の側面を持つ。

 

 しかしハヤテは洗脳のネタバレをされる前から、羊の魔女をメデューサの為に殺す気でいた程度には頭がおかしいので、死神様をぶん殴ると迷いなく口にする。ここで殺すと言わなかっただけスピリットの教育が活かされていたりする。

 

「お前は馬鹿だな」

「規律を守って護りたい人達が死ぬなら俺は規律なんて捨てる。ただそれだけだよ」

 

 その後フリーとは下らない下賎で卑猥と言われるような話をし始めた。フリーが女性陣を全くもって性的な目で見ないのは、趣味に合わないから(胸部が貧弱)だった。あいにくこの陣営で巨乳になれる人(五、六体合体ミズネ)はいるが、メデューサがブチギレるのでその姿になることはない。




フリーが本当に巨乳派かは知りませんが、きっと狼なんだからそうに違いない……?

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