蛇の元夫   作:病んでるくらいが一番

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長い間更新をせず申し訳ありません。

書き直しからの展開に不満が出てしまい、新しい展開を考えていたら仕事で……など色々あり、小説に手をつけることが出来ませんでした。

これからはゆっくりと週1以上のペースに戻していきたいと思います。

【前回までのあらすじ】
メデューサの夫である三船疾風(ミフネハヤテ)は魔女と人によって創り出された魔造旧支配者(グレート・オールド・ワン)だった。
三船家を操り、最強の生物を創り出そうとした羊の魔女に返り討ちに会い、殺されそうになったところを謎の弾丸とメデューサが助けに入り、一応の母親である羊の魔女を殲滅。
ハヤテはメデューサ陣営として行動することに。
ハヤテの武器である三船有栖(ミフネアリス)は何故かアラクノフォビアのトップのアラクネを主と定め、ハヤテを裏切り蜘蛛陣営へ。
マカは愛で狂気を操り、ブラック☆スターは弱さを知り過ぎ心が折れかけ、キッドは精神が成長していないのに知りすぎてしまっている。あとシュタインは既に狂気がデッドライン。
そんなこんなで死武専はハヤテもシュタインもデスサイズのマリーも抜きでロスト島にあるBREWを奪還する作戦が始まった。
そして私エクス、カリバ〜〜!は原作とは違い、がっつり絡んでいるのである。ブリテン島から消えているのは何故かって? それを語るには12世紀の私の伝説から……


第37話:デスサイズvsデスサイズ

 それは下品で下劣な言葉を発しながら、遥か上の雪の降り積る断崖絶壁から降りてきた。

 人形師や付与士(エンチャンター)が用いる大きなグローブをつけて、舌舐めずりをしながらつぐみたちを覗き込む。一目見てわかるその不良な雰囲気は当然つぐみ達にも伝わってくる。

 

「……あ? お前もしかして最近デスサイズになった女か?」

「ひ、ひぃぃぃ!?」

 

 つぐみは少し前に戦いというものを体験し、仲間たちのおかげで刃を手に入れ、そして心を合わせてサソリの魔女を討った。その後もつぐみをデスサイズとするべく、浪費癖の強い面々が消費した生活費やローンの返済をすべく、悪人を狩り続けた。その結果つぐみは最年少ではないが、ジャスティンや梓とさほど変わらない速さでデスサイズに至った。

 

 しかしつぐみは不良に睨まれれば怖いし、敵が明らかなヤンキーで殺意を持って睨まれたら、すくみ上がってしまうくらい未だに心は小市民をやっている。デスサイズの時点で逸般人なのだが、精神性を考えれば未だにそこらの乙女と変わらない。

 

「つぐみさんを下劣な目で見ないでくれます」

「……下品そうだけどあの人強いよ」

「やばいのを引いちゃったかもしれませんねッ☆!」

 

 そんな恐怖に震えるお姫様の前に立つのは、これまた可憐なお姫様達。しかしつぐみを守るように立つ三人の表情は真剣そのもの。いや、自分達の彼女(誤字に在らず)を舌舐めずりしながら見られたのだ。ブチ切れ一歩手前まで来ている。

 

 社交界で弱みを一切見せたことの無い冷徹な王女様(アーニャ)。彼女たちの世代ではトップクラスの実力を誇る総合武闘家(めめ)。EATの茜のような優秀な人材を排出し続ける表も裏も渡り歩く星族()

 喋りながらも既に魂の共鳴を四人で繋ぎ、いつでも開戦できるように警戒する。めめが言った通り、目の前の敵はあの蠍の魔女よりも強大な力を秘めているように見える。

 

 実際蠍の魔女は強大な力を持ってはいたが、戦闘分野では蛇の魔女たるメデューサに一歩も二歩も及ばない。その点目の前の男は戦いに明け暮れてきた紛れもない強者だ。

 

「……いいねぇ。腐ったたまごみてえな、金玉が萎える奴ばっかだと思ったら、面白そうなのがいるじゃねえか! ぶち犯してぇ!!」

 

 反抗的であるほど、犯し、凌辱し、心を折るまでの過程が面白い。アラクネにただ従順なモスキートのような、つまらない存在には飽き飽きしていたギリコだったが、目の前の武器はともかく、職人であろう三人はギリコの心にエンジンを掛けた。フルスロットルで下手したら彼の下半身の彼までフルスロットルになるところだったと後に語る。

 

 ギリコの動き始めたエンジンに水を差す女(つぐみ)に内心イライラしながらも、それを隠すことなく口にする。

 

「てめぇはデスサイズなんだろ? なんでそんなキョドってんだよ。てめえが気張らねえと面白くならねえじゃねえかよ! てめえの力で俺を殺そうせずにビビってんじゃねえよ、おい!!」

「……た、確かに私はデスサイズだけど、私一人の力でデスサイズになったわけじゃない! めめちゃんにアーニャちゃんの力があったから、私はここに居るんだ!!」

 

 ギリコの叫び声にビクッとするが、それでもつぐみはギリコを見据えて覚悟を口にする。この島に来る前に見た憧れのマカは、とても作戦の中心を任されているようには見えぬほど落ち着いていた。

 それがどうだ。相手がヤンキーで怖そうで強そうで大声を出してきて、下品で下劣で卑劣で卑猥で気持ち悪くて殺意を放ってきたとしても……そ、それでもつぐみはあの憧れのマカのように己を奮い立たせる。

 

 それにつぐみの周りには頼れる自分の職人であり……心強い恋人達が居るのだから、ヤンキーだって怖くない。四人で戦えば不良だって怖くない!

 

「そんなにドヤれんなら、初っ端から行かせてもらうぜ……鋸脚回転二速! 乱切り、千切り、ぶつ切り! てめえ全部、クソ喰らえ!!」

 

 辺りは雪原で障害物もなく、どちらにとっても同等な条件での戦い。例え不利であっても戦いを避けられない状況で、男は欲望と女の願いのために、乙女達は平和と愛のための戦いが始まった。

 

 ギリコが脚の鋸を回転させて、つぐみたちに迫ってくる。ギリコは雪の上でウンチングスタイルで座り込み、脚の鋸を回転させてその格好のまま突き進んでくる。

 

「下品ですわ!」

「行くよつぐみちゃん」

「頑張ろう!」

「最初から行きますけどいいですよねッ☆!」

「頼みますわ蒼さん」

 

 迫り来るギリコを無視して、四人は手を繋いで魂の共鳴を強める。

 

 本来は武器が一人で職人の魂の波長を増幅し、職人に返して戦う。だがこの特殊な四人組は一人の武器が三人の職人の魂の波長を増幅させ、それを持ち主に返すという武器の負荷が高い集団だ。

 本来なら負荷が高過ぎるし、何より三人の魂の波長を同時に増幅など出来ないのだが、つぐみの才能か、はたまた別の要因か、平然と増幅していく。

 だが、一人で魂の波長を増幅できる量は限られている。例え才能があっても、時間が経てば経つほど増幅量が増やせても、その時一定時間内に増やせる量はほぼ一定だ。

 

 そんな問題を解消させたのが星野蒼。

 

 彼女は他の星族と同様に魂の波長を撃ち込む『魂威』を得意としている。魂威とは武器を通さずに自らの波長を敵に叩きつける技だ。その才があり、つぐみとベッドの上で心を交わしあった結果、武器であるつぐみには劣るが魂の波長を増幅させるという技術を手に入れていた。

 相手の喜びを受ければ自らも嬉しくなる。相手が悲しんでいれば自分もなんだか悲しくなる。これも一つの魂の波長の増幅であり、つぐみを愛し、つぐみに愛されるこの三人は思う所はほぼ同じである。

 

 ただ愛した人と共に生きたい。

 

 武器であるつぐみのように波長をチューンして増幅は出来ないが、想いから漏れでる魂の波長が同じ指向性を向いていれば、蒼も増幅を手伝える。

 今回の波長の方向性は『つぐみの敵(ギリコ)をぶっ殺す』というわかりやすい波長をつぐみと蒼は増幅させる。

 

「ボーッとしてんじゃねえぞ!!」

 

 ウンチ座りのまま、四人を痛め付けるために低い体勢から鋸脚二速の脚を蹴りあげる。そんな敵の動きにまず動いたのはめめ。

 

「さっきからうるさい」

「は?」

「私は槍を」

「私は鎌でッ☆」

 

 ギリコが蹴り上げた脚は真横からめめに殴ら逸らされ、蹴りから発生した衝撃波は四人の横を通り抜けた。ギリコは面白くなったと笑おうとした時、背後からハルバードの槍の部分で脚を穿たれ、続いて鎌の部分で穿たれた脚が持ってかれそうになり、無理やりその場から離脱する。

 めめがブラインドになってアーニャと蒼と武器(つぐみ)を隠しただけだ。ギリコもそれがわかっているが、先程の少女達の雰囲気とはかけ離れた覇気を放ち始め、笑いが止まらない。

 

「ギャハハハハハ。そうだよな! そうじゃなきゃ困るよな! あの女の妹をぶっ殺したてめえらがそこいらの雑魚なわけがねえよな!!」

「妹……?」

「てめえが喰らった魔女はアラクネの妹のサソリだろ? どうだ? 美味かったか!? なあ、おい!! 魔女だって人間の俺たちと同じように生きてるんだぞ? 考えたことあるか? おい!!」

 

 ギリコは話しながらも、油断して受けた脚の傷を、武器として再構成して無理やりパーツに変換し、無理くり直す。本来なら中務などの特殊な一族を除き、形を変形させることは出来ない。唯一形態を多少変えられるのは魔女の魂を喰らったデスサイズだけだ。

 そして魔女にも敵対視されているアラクネを守っていたギリコの元に、独断専行で正義感からアラクネを滅ぼそうと足を踏み込んだ魔女は片手では数え切れぬほど存在する。その尽くが彼の性欲を満たしたあと、胃袋に収まっている訳で、当然彼もデスサイズと呼ばれる格に至っている。

 

「デスサイズになってどんな気分だ? 今までの自分が糞に思えるほどちげえだろ? 周りの雑魚どもを見てどうだ?」

「変なことは、」

「思ってねえとは言わせねえぞ! 今までの扱いとは程遠い扱いを受けてよぉ、きっとチヤホヤされてんだろ? 思い浮かべてみろよ、てめぇと一緒に死武専に入って、未だに技すら使えない雑魚どもと比較してみろよ。笑みがこぼれんだろ?」

「そ、そんなことは!!」

 

 ギリコは本来なら口撃をするような人物ではないが、余興として、最近デスサイズになった後輩の心の闇を突く。もし新人デスサイズに会ったら、精神攻撃もして欲しいとアラクネに言われていたので、尚更このイジメ(余興)を楽しむ。

 

 ギリコのお遊びにつぐみの心はダメージを負う。実際に優越感を得ていたことに言葉が震える。

 当然だろう、今まで平凡な女子学生だったのに、今では死武専でもトップクラスの扱いを受けようと思えば受けられる。それだけデスサイズとは貴重であり、敵にしたくない存在だ。周りにだってチヤホヤされているのも事実だ。

 

 もしこの場につぐみだけなら、精神攻撃だけで倒されていただろう。しかしここには彼女を愛する女性が三人いる。

 

 バチンッ

 

 つぐみの近くで電気が弾けるような音がした。それは電撃などではなく、蒼が発した魂威。怒りのままに魂威を空に放ち、その音でつぐみは正気を取り戻した。

 

「貴方が何を知っているか知りませんが、つぐみさんを全く知らない貴方が語るのはおかしいと思いますよッ☆。死にたいんですかッ☆☆」

「万死に値します。私が滅ぼしてあげましょう」

「お前もあの()みたいにつぐみちゃんを傷つけるんだ。許さない」

 

 警戒していたのに飛び出してくるのはつぐみの罵倒だけ。過度に警戒し過ぎていたせいで、ただつぐみを罵倒しているだけだとやっと気がついた彼女たちは、狂気を抱きながらギリコを睨む。

 愛する人に愛されることで抑えられていた愛欲の狂気が、愛する人を侮辱された悲しみでぶり返していた。

 

「てめえらじゃ俺を、」

「おしゃべりはもういい」

「魂威ッ☆!」

「調子に乗ってんじゃ、」

「貴方が乗っているのでしょう!!」

 

 めめがノータイムで最高速を出し、ギリコの瞬きの間に距離を詰めていた。武を鍛えてきた彼女は例え狂気でおかしくなっていても、染み付いた動きは勝手に出てくる。相手の足蹴に合わせて拳を振るい、確実に攻撃を防いでいく。

 同じように寝ていても連携できるほどになった蒼は、めめの攻撃で敵の攻撃が逸らされると、その逸らされた部分に魂威を放ったり、つぐみを持って鎌で攻撃をする。

 そして最後にアーニャはひたすらに相手の急所だけを狙って、敵が思い通りに動けないように槍術を操る。

 

 互いが互いを狂気的なレベルまで信じているからこそ、完全に役割以外を放棄して全力を出せている。ただ愛ある生活を邪魔されないために、彼女たちは戦う。

 

「……うぜえんだよぉぉ!! 鋸足3速、虐殺風潮!!」 

 

 最初は舐めてかかり、途中で強者達だと気がついてからはギリコはそこまで油断していなかった。だが、やはり幼い女子供だったこともあり、内心知らず知らずのうちに舐めていたようだ。

 ギリコは理詰めで追い詰められていく自分自身に怒り、鋸足を馬力を上げて、無理やり雪ごと女達を蹴り飛ばした。

 

 魂威を使っていた蒼や武器をメインに使っていたアーニャにはそこまでダメージはなかったかもしれないが、めめにはしっかりとダメージを残せた感覚をギリコは足に感じて卑猥に笑う。

 

 戦いにもしもなんてものはないが、もしもこの場所がロスト島という磁場や力場が淀んだ場所でなければ気がつけたかもしれない。

 雪が舞い降りて敵が見えていない状況でも、相手の魂の波長でそれに気がつけたかもしれない。

 

「「「「魂の共鳴ッ!!」」」」

 

 普段はただのハルバードなデスサイズ。三人で持つのもやっとな普通サイズの武器である。

 しかし今はどうだろう。つぐみ二人分を遥かに超えたサイズに変化して、神々しさまで感じる白銀の刃から放たれる光が彼女たちを照らし、無骨に感じられる馬上槍の形態だが、可愛らしいピンクのリボンが彼女たちのちょっとした乙女心を表している。

 

 この場に殺されたサソリの魔女シャウラがいれば、更に驚いただろう。

 その武器(つぐみ)はシャウラを殺した時の何倍もの力を感じ取れ、全てを穿つ力を秘めていることを悲鳴をあげながら解説していただろう。もちろん解説してすぐ滅されるだろうが。

 

「……」

 

 これにはギリコも口を大きく開けて声も出さずに驚いている。

 そんなギリコに目もくれず、三人と一人は互いに目を合わせて頷き合い、一気に駆けだして、叫ぶ。

 

「「「スプリングバードアタックッ!!」」」

 

 春鳥(スプリングバード)つぐみ以外の三人は技名を叫びながら、一気に加速して地から離れたつぐみに身を委ね、呆然としていたギリコを貫いた。

 以前この魂の共鳴をした時に名前を付けられた訳だが、つぐみは当然春鳥攻撃(スプリングバードアタック)という必殺技名やめて欲しいと抗議をしたが、当然の如く却下されていた。

 

 あのシャウラ(一応強い魔女)すらも一撃で屠った攻撃の威力は凄まじく、ギリコを粉々に吹き飛ばした。チラりとアーニャは通った場所を見たが、魂すら消し飛ばしてしまったのか、その場に落ちていないようだ。

 三人は勢いの着いたつぐみを掴みながら、雪で滑る地面を必死に踏みつけて勢いを殺し、その場にへたりこんだ。

 予想よりも遥かに緊張していたのか、直ぐには立ち上がれそうもない。

 

「や、やりましたわ!」

「あのシャウラよりも強い敵だったね」

「ちょっとヤバいかな?って思いましたけど、油断してくれていたおかげで何とかなりましたねッ☆」

「ああああああ! 怖かったあああああ!!」

 

 ちょっとだけ漏らしたことを隠しながら恐怖と戦い、何とか敵を打ち倒したつぐみは武器形態を解除して、三人を抱きつきに行った。

 外で抱きついたりすると抵抗するつぐみらしくない行動だが、それだけギリコが怖かったのだろう。ただの抱擁ならいいのだが、たまに変な雰囲気になってしまうのでそれはつぐみは拒否している。まだ露出狂の毛はないのだ。

 

「もう大丈夫ですわ。あの下品な男は消えましたもの」

「これで死武専側は相当有利になったね」

「もう絶対こんなに強い敵と戦いたくない!! 絶対いや!」

「今回は他のデスサイズの人達が居なかったのですから致し方ないですよね☆」

 

 四人の乙女は互いを抱き締めて強敵との戦いで凝り固まった心をそっと癒していく。

 

「んな見え見えな攻撃で俺様が死ぬわけねぇだろクソがッ!!」

 

 そんな乙女達は雪の中から現れたギリコに蹴り飛ばされて、四人とも意識を失うことになった。魂の波長で強化もせず、武器にもなっていない彼女達はそこらに居る乙女と変わらなかった。

 

 

 もしもこの場所がロスト島という磁場や力場が淀んだ場所でなければ、突っ立っていたギリコの体に魂が宿っていないことに気がつけたかもしれない。

 雪が舞い降りて敵が見えていない状況でも、相手の魂の波長を感じ取って、人形師の手によって作られた雪人形であると気がつけたかもしれない。

 もしも、もしもが叶うなら、彼女達は死武専に帰るまでは油断しなかっただろう。帰るまでが戦い。強くなってしまったが故に忘れてしまった初心。油断しなければ勝てないまでも負けることはなかったかもしれない敵。

 

 だが真剣勝負に()()()は存在しない。




なまじ才能と運がありすぎたせいで、強敵と戦ってこなかったツケを払うことになりました。シャウラは強敵ですが、直接的な強さはありませんので。

ちなみに別に死んだ訳ではありません。凌辱もアラクネがある目的があるので禁止しています。

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