蛇の元夫   作:病んでるくらいが一番

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第39話:離れていても共鳴する魂

 死武専やアラクノフォビアが戦闘を始めた時、ハヤテとフリーは更に高所から戦いを眺めていた。

 

 この島にいるメデューサ陣営はこの二人と別の場所にいるメデューサだけであり、()()()()B()R()E()W()()()()()()()()()()()、このタイミングでダミーを設置する必要は無い。

 

「ミフネやアリスは居ないみたいだな」

「アリスはお嬢様とか呼んでいた虚乳(真に愛されない胸)蜘蛛のババアの傍にいるんだろう」

「アラクネがババアなら……止めておこう。俺は不死だが、殺されて痛くない訳では無い」

 

 年齢がさほど変わらない筈のメデューサも同様にババアじゃね? という言葉はフリーの口からギリギリ漏れなかった。

 

 戦況を観察しているが、弓梓の千里眼を有効活用しているためか、奇襲を仕掛けようとしていたアラクノフォビアの戦闘員達が逆に奇襲されている。

 

 ハヤテやメデューサの予想ではミフネがここで酷使されると考えていたが、何故かミフネが見つからない。

 流石のメデューサでも、アリスとアリスが連れてきた戦力に活躍させたくないと考えているモスキートが置いてきたなんてことまで予想出来なかったようだ。

 

 マカ達が竜巻の中に潜入してから10分ほど経過し、戦況は死武専の勝ちで確定しつつある。シドがミーラと梓を使用して、殲滅を行っているので当然である。

 

「それじゃあ、行ってくるわ」

「おう、ここに戻ってくれば俺が転移魔法で送ってやるよ」

 

 タクシー代わりのフリーは持ってきたチョコバーを口にしながら、雪の上に座り込んで欠伸をする。

 

 あまりにもメデューサの予想通り過ぎて、とてもとてもつまらないのだ。それでもメデューサにつくのは、脱走させてもらった恩、それに拠点から生活費まで全てを出してもらっている恩を返すためである。

 今の生活のグレードの良さを知ってしまったフリーは、当分(数百年)メデューサにこき使われるのだが、この時のフリーはまだその事を知らない。

 

 その後ハヤテはシドの元に行き、シドには何も伝えずに、

 

「梓、俺のもとに来い!」

「はいっ!」

「おい、待てハヤテ、それに梓!!」

 

 ハヤテ(愛しの彼)の熱烈なお誘いに相談無しで乗った梓がハヤテの元に飛び、そのまま竜巻の中に入っていった。

 

「……科学機器や魔道具すらまともに効かなくなるから、梓の千里眼(視力)を頼りにすべしと、()()()()()()()()()B()R()E()W()()()()()()()()()()()()()()()に書いてあったが、やはりハヤテだったか」

「正確にはメデューサだろうがな。この後を考えると胃が痛くなってきた。ゾンビなのに」

「ゾンビだけど普通に消化してるのだから、ゾンビは関係ないだろ」

「……何故ハヤテを抑えられるシュタインもスピリットも居ないんだ!!」

 

 相棒のミーラ=ナイグスにすら容赦ないキツいツッコミを受け、ゾンビのシドは元々青い顔を更に青ざめさせた。

 

 

 ***

 

 

 ハヤテが()を使って放った開幕の狼煙である、一本の矢をモスキートは手で弾いた。

 

 今のモスキートは最も固く、最も早く、最も強い。あらゆる時代の最強である特徴を全て持ち得ており、この姿を維持するには大量の血液が必要だ。しかしアラクネを待つ数百年の間に血液の補充から、再補充するための人間牧場まで完備しているので、最初から本気モードである。

 

 三ツ星職人とデスサイズの攻撃だとしても、特有の必殺技で無ければ、さほど警戒する必要が無いほど今のモスキートは強い。

 もちろん普通の三ツ星職人ならという但し書きがつく。

 

『今です』

「うぐっ!? 閃光などと小癪な!」

 

 ただの矢が閃光と爆音を放つなどと誰が予想出来るだろうか。

 

 ミョルニルのデスサイズならば雷鳴を轟かせることも出来るため、予想することも出来ただろう。

 だが、千里眼が特徴と言われている弩のデスサイズが閃光と爆音を響かせる(愛の力)など、巫山戯るなとモスキートはキレる。視界も聴覚も潰されたが、それでも周りの蝙蝠から発している超音波からハヤテ達の居場所を探る。

 

「【夏夜ノ羽音(ナイトメア・ノイズ)】」

 

 無数の蝙蝠から放たれる攻撃性能が高く、避けるのが困難な超音波の攻撃がハヤテと梓を襲う。

 

「ヒヒッ」

『ハヤテせん、輩!!』

 

 その攻撃は真っ赤な血液が二人をドーム状に包み、物理的に超音波が通らないような盾がいきなり……ハヤテの首元から吹き出した血液が盾を形成して防いだ。フリーの元から離れる時、事前に傷つけておいたのだ。

 

 梓はハヤテなら防いでくれると信じていたからこそ、次の攻撃の手を用意しようとしたが、ハヤテの魂の波長から感じる梓への愛(愛欲の狂気)で色々な感情が高ぶってしまい、そのままハヤテの胸元に飛び込みたい感情を押さえ込みながら、ハヤテの名を口にする。

 その言葉が呼び水になり、狂気状態を更に進行させようとしていたハヤテは使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。即座に狂気が感染しない程度まで強度を落として一息つく。

 

「死武専に所属しているのに、忌むべき狂気を扱うなど」

「俺よりも狂気的にやばい存在を仲間に引き入れた癖によく言うわ」

「……やはりあのメイドは相応しくない」

 

 モスキートはハヤテの言う存在が誰なのかすぐに理解し、帰還した後、BREWの功績と引き換えにアリスを投獄してもらうように進言しようと心の中で固く誓う。

 それと同時にあの()()()()()を二十年近く仕えさせていたハヤテにも、最大限の警戒をする。

 

 アラクネのネットワークによる情報、それに()()()()()()()()()()()()()によって、ハヤテの戦闘スタイルから狂気状態で行ってくる攻撃、弓梓を使った場合の行動パターンは全て把握している。

 それら情報を吟味したところ、今のモスキートだと無傷で勝つのが難しいと判断した。

 

 モスキートはこの戦いでBREWを必ず持ち帰らないといけないのだ。一方メデューサ側の考えは分からないが、死武専側は最悪破壊すればいいと思っている。故にBREWを守りながら、無傷で勝てる相手ではない。

 

 ならばどうするか。傷を負うのを厭わずに戦う? 死武専との全面対決前の前哨戦で傷を負いたくない。傷を負えば、アラクネの側仕えがアリスで確定してしまう。

 

(竜巻の中に私なら1時間以上居られる。あの男(ハヤテ)はあくまでも人間。20分を超えたら勝手に死ぬ)

 

 故に取るべき行動は適度に相手をしつつ、ちょうどその後ろにいる死神や星族も逃がさずに、映像化させてしまおうとモスキートは作戦を立てた。

 そして戦闘データ以外にもアラクネより聞いている、ハヤテ周りのパーソナルデータからこれからの会話の流れを作る。

 

「それにしても貴様も不幸だ」

「……」

「元々あのメイド、アリスを好いていたのであろう? にも関わらず、洗脳によってメデューサを好きになってしまったのだから。吸血鬼である私でも、同情を禁じ得ない」

『……えぇ!?』

「ハァ!?」

 

 モスキートの言葉に梓とマカが盛大に反応した。その事にほくそ笑みながらモスキートは続ける。

 職人と武器は信頼関係を維持しなければ、パフォーマンスを発揮出来ない。それを突いて、ハヤテとデスサイズのパワーを削ぎに行く。

 

「洗脳されて好意を植え付けられたあと、死武専を離れてからは体を改造され、魔剣と同様のことが出来るようになってしまった。しかも10年以上も前に、妻であるメデューサに胸元から首に掛けて抉り喰われ、死にかけたそうじゃないか」

『ハ、ハヤテ先輩……何故言ってくれなかったんですか! 私だったら……』

「メデューサぶっ殺すッ!!」

 

 無言のままモスキートを睨み続けているハヤテの代わりをするかのように、乙女二人が大袈裟に反応する。

 キッドや椿なんかも口には出さないが、とても驚いている。

 

 そしてやっと色々と落ち着いて状況を把握できるようになった椿はあることに気がつく。

 

(なんでアリスさんじゃなくて、弓梓様を使っているんだろう?)

 

 その疑問はモスキートの口からすぐに語られた。

 

「そして貴様はアラクネ様が復活すると、アリスに捨てられ、今は他の武器に力を借りないと戦えぬ。数十年来の相棒に裏切られる。一体どれだけの不幸が重なっているのであろうな」

「アリスさんはそんな事しない!」

 

 梓やマカよりも先に、死武専に来る前から良くしてもらっているアリスが貶されたため、椿が声を荒らげて否定する。計画通りに事が進んだ時の表情を超え、アラクネでも引くようなニヤケ顔でモスキートは不和の種を更に植え付ける。

 

「三船が中務に遺伝子レベルで、魔女の呪いと同等の血の契約によって逆らえぬのに、よくそのような事を口走れるのう。中務と三船の関係なぞ、結局のところ呪いによる強制であろうに」

「な、なんですか、それ?」

「……ほほう。中務の変化能力を継承した次期当主であるのに知らぬのか。三船一族が先日そこの三船疾風、ここにはいない三船有栖、傭兵ミフネ以外皆殺しになったのは、お主たち中務が居たのが根本的な原因であるのに知らぬか!!」

「……え、え? ハ、ハヤテお兄ちゃん、嘘ですよね?!」

「待って、ハヤテお兄ちゃんって何!? 妹みたいに可愛がってもら、モガガガガ」

「空気読め」

 

 目が真っ赤に染まり、暴走しようになる鎌使いの乙女を相棒が口を塞ぐ。しかし狂気を操りし愛に狂う乙女を一人で止められるわけがなく、パティやリズも止めるのを手伝う。

 

 ハヤテは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、ろくすっぽ反応できなかったが、ここで嘘をついてもいずれ知られてしまうので真実を口にすることにした。

 

「三船は魔女を母体にして、魔剣の卵を結果的に量産していた。元々は俺が働くことで何とか温情で見逃されていたのが三船であり、先日俺と傭兵のミフネの二人で皆殺しにした。あいつの言っていることは真実だよ」

「そ、そんな! 三船の叔父さんも叔母さんも、皆みんな!?」

「あの吸血鬼が言っていた三人以外にもう三船は残っていない。過激派の星族が殺されたのと一緒さ。やり過ぎればこうなる」

 

 ハヤテはモスキートに背中を向け、昔にやったように椿を抱き上げ、背中をポンポンと一定間隔で優しく叩く。感情が制御出来ず、感情を受け入れられない椿は泣きじゃくり続けるが、一分もしないうちに眠りについた。

 

「次からはお前がパートナーを落ち着かせるんだぞ」

「てめえが俺様からその役目を奪ったんだろ!! 俺様の前ででけぇ口叩くんじゃねぇ!!」

 

 

「……温情で悪を見逃していた? 父が規律を自分の都合の良いように歪めていた?」

 

 どれだけ胸が大きくなっても、中務椿は昔のように優しい女の子である事を再確認し、この考え方自体が爺くさくないか? と思い至ったハヤテは内心でため息をつく。

 ブラック☆スターの大声のせいか、はたまた運命か、死神の息子であるキッドの()()()()はハヤテには届かなかった。

 

 一ペアは愛にキレ、一ペアは真実を知って再起不能になり、最後のペアは親の真実を知って絶望している。あまりにも上手く行きすぎて笑いが止まらないモスキートは更に口撃を仕掛けようとする。

 

「私の機嫌が良かったから背を向けた時に攻撃をしなかったが、戦場で敵に背を向けるなど、死武専の矛も程度が知れるものだな」

「何故すぐに殺せる相手に警戒しないといけない? 自分の周りを飛び回る蚊をウザイとは思うが、殺されるかもしれないと警戒するのか? もちろん蚊媒介感染症に罹る可能性のある蚊は別だぞ。お前は刺されてもちょっと痒くなるだけの蚊だろう?」

「私をいつでも叩き落とせる蚊だと、貴様は口にするか!!」

 

 先程まで気持ちよさげだったのに、たった一言口を開かせただけでモスキートの気分は最悪にまで落ちる。

 そしてハヤテは先程ハヤテのことを話していた時にモスキートがしていた様、いや養豚場の豚を見るような憐れみの目で彼を見ている。

 

「三船では無能な味方は殺せと習うんだよ」

「いきなり」

「俺が話しているんだ。さっきは黙ってたんだから次はお前が黙れよ。三船での評価が一番良かった職人は今ミフネと名乗っているあの男だ。そして三船の中で、()()で最も評価された武器が有栖(アリス)だ。()()は模範的な三船なんだよ」

「……何が言いたい?」

「俺は二十年以上アリスと共にいた。ここ十年は一心同体……ではなく、二心同体で生きてきた。だから分かる。お前はアリスに無能の烙印を押され、処分されるためにこの場に来たってことがな」

 

 嘲笑うように、笑い物にするように、馬鹿にするように、後ろ指を刺すように、コケにするように。本当に滑稽な羽虫を見るような冷めた目でハヤテはモスキートを見詰めていた。

 

「殺すッ!!」

 

 会話中に移動させていた蝙蝠達がハヤテと梓を覆い隠し、無数の蝙蝠で円柱状に囲んで超音波で攻撃するモスキートの最強の必殺技【蠢ク闇夜(ダークネスディスコード)】を発動しようとした時、ハヤテは指を鳴らした。

 

 パチンッ

 

「ギャアアアアアアア!!!」

 

 円柱状に囲んだ蝙蝠からの音ではない。本体のモスキートの肉体の至る所から、()()()()が体内から体外に姿を現し、モスキートは真っ赤なハリネズミや雲丹のような見た目になる。そのままその存在は肉体を消滅させ、その場に残ったのはたった一つの悪人の魂だけだった。

 

「今回もまともに戦えなかったな。戦う前に勝つのが一番だからいいっちゃいいんだが」

「あの……ハヤテ先輩。何が起きたんですか?」

 

 事前の説明もなく自分を使うことなく敵を倒してしまったハヤテに、梓は不満げに頬を膨らませて解説を求める。そんな梓の絆されたのか、軽い笑みを浮かべて、梓の頭を撫でながら何があったのかを教える。

 なおマカの怒りゲージが上昇し、ソウルが被害を受けているが、ハヤテはそれをあえて無視する。

 

「あの吸血鬼は戦いの前に保存しておいた血液を飲んだんだろう。その血液にアリスは自分の血を混ぜたんだ。アリスの血液は肉体が同一となっている俺の血液でもある。そして俺の狂気は感情からも感染するし、血液からも感染する。俺の血液を僅かでも摂取してしまったあの吸血鬼は俺の前でペラペラと時間を稼いでくれたから、その血液を媒介にあいつの血液に感染し、最後に感染した全ての血液を俺が操って、体の内側から喰い破りました。はい、おしまい」

 

 口早に、自慢げに、この前準備をしたアリスに対して好意的なニュアンスを含めながら、ハヤテはマカ達にあまり時間が無いことがわかっているので、一息に解説を終わらせた。

 

「アリスさんはアラクノフォビアを内側から崩壊させるために、スパイをしているって事ですね!」

 

 梓は狂気の詳しいメカニズムは知らないが、アリスのおかげで簡単にアラクノフォビアの幹部を倒せたのだと理解する。ちなみに今のようなことはもう少し魔剣士クロナが成長すれば、町単位を黒血で飲み込むことだって出来るようになるため、血液使いとしては自慢にもならない。

 

 アリスを擁護する梓の言葉をハヤテは、彼女の相棒である彼は即座に否定する。

 

「さっきも言っただろ? アリスは無能な味方を処分するのに俺を使っただけ。俺はアラクノフォビアの戦力を減らしたいから協力することは分かっていたはずだ。アリスは俺たち死武専の敵だ。それじゃあ撤退しますよ」

 

 無表情で敵だと切り捨てたハヤテは映像化が始まっているマカ達を見て、走って竜巻から出るように指示を出した。

 

 率先して走り出すハヤテに、マカたちはついて行くように走り出したため、ハヤテが本当はどのような表情をしているのか、その顔を見ることが出来たのは武器に変身して、ハヤテに持ってもらっている梓だけだった。




この主人公何時になったらちゃんと戦うんだよ……はい、モスキートファンの方、ごめんなさい。

雑魚狩り(血筋皆殺し)に弱者をいたぶる(実の息子)事しかして居ませんが、アラクノフォビア後半ではガッツリ戦いますので。
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