蛇の元夫   作:病んでるくらいが一番

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書き直したので遅くなりました。


第40話:土下座

 土下座

 

 土下座(どげざ)とは、土の上に直に坐り、平伏して礼(お辞儀)を行うこと。日本の礼式のひとつで、姿勢は座礼の最敬礼に類似する。本来は極度に尊崇高貴な対象に恭儉の意を示したり、深い謝罪や請願の意を表す場合に行われるため、互礼ではなく、一方のみが行うが、土下座の意図に対して土下座された相手が謝絶を示すために同じ礼を行うことがある。(エイボンの書出典)

 

 死武専の生徒において、最も『土下座』という言葉が似合うのはブラック☆スターだったりする。彼は()()()()()()()()()()()、挑戦者をちぎっては投げ逃げても蹴飛ばし、あらゆる死武専の生徒をボコっていた。

 その中で相手が《大人(ハヤテ)にブラック☆スターはボコボコにされている》というワードを敵が口にした場合、負けたあと『土下座』をさせていた事から、『死武専 生徒 土下座』で検索すれば一番上にブラック☆スターの名前が出る。ちなみに二番目はヒーロ・ザ・ブレイブがヒットする。

 

 死武専の大人組なら最も『土下座』という言葉が似合うのは誰か? それはもちろんスピリット・アルバーンである。

 彼は浮気をする度にキャバクラに行く度、奥さんに土下座をして、仕事で不手際を行う度に土下座をして、何故か知らぬ間にスピリット名義の経費で落とされたコーヒー豆の立て替えを待ってもらうために土下座をした。

 日本様式の作法や物事が少ないはずのアメリカにある死武専において、何故か『土下座』だけはデッドでホットなマジョい行為として認識されている。

 

 さて、現在ロスト島から船で大陸に戻っている死武専メンバーの中心で、ある男が土下座をしていた。

 キッチリカッチリ体を曲げ、大の大人がまだ高校生くらいの男の子に本気で土下座をしている。その土下座姿を見たシドはまるでスピリットみたいだと思ったが、()()()()()()()()()()()()()はそこまでスピリットをリスペクトするのかとため息をこぼしている。

 

「済まなかった!」

「……ヒィっ! ()()()()()()()()()()()()()()()いきなり土下座をしてきた! どうやって対峙すればいいか分からないよ!」

「とりあえず慰謝料を請求して、俺に飴を買うんだよ!!」

 

 三船ハヤテが知らなかったとはいえ、義理の娘と公言しているマカをボコられたからとはいえ、本当に血の繋がった息子である三船クロナを執拗にぶん殴っていた。

 

 その時は敵対していたとはいえ、自分の息子に迷いなく拳銃をぶっぱなし、閃光玉で耳と目にダメージを与え、気絶するほどの威力で顎を殴り抜いた。

 更に言えば狂気で少しおかしくなっていたとはいえ、三船を皆殺しにした後で死武専に帰ることも出来たのに、メデューサとイチャついてクロナのことを忘れていた。

 

「それに貴方はなんなんですか!? お母さんの事ばかり話してるけど……ストーカー!?」

「……いや、ここまで話してれば分かるだろ」

「なにラグナロク!?」

「……何でもねえ!!」

 

 クロナにキレられ、ハヤテはまず自分が父親であることすら言えていないことに気がつく。父親の自覚なしである。

 三船という異常空間で育ったせいで、普通の親子という感覚が欠如しているのかもしれない。ブラック☆スター(義理の息子)も鍛錬と言いながらボコボコにしているわけで。

 

「No, Krona, I am your father」

「Noooooooo!!」

 

 自分を散々痛めつけてきた相手がメデューサの想いをクロナから奪っていた張本人だった。父親という存在がいたからこそ、真にクロナはメデューサに愛されていないと分かっている。自分を嬲った憎い相手が、母親の愛すら奪う相手だった。

 

 怖い。

 

 クロナが操る狂気はハヤテの愛欲ではなく、鬼神の恐怖の狂気である。

 ハヤテに感じた恐怖でクロナは精神が一時的に崩壊して、ロスト島作戦終了の段階で彼女は()()の段階まで不本意ながら到達してしまった。

 

 

 

 

 シドペアとハヤテと梓、それに癒しの魔法が使えるキムが狂気の段階を1段階上昇させたクロナを押さえ込んでいる時、ブラック☆スターは顔を蒼白させていた。

 

 あの自分をボコボコにしたハヤテがあんな雑魚(クロナ)に対して土下座をしていた。頭をさらけ出し、急所の心臓を何時でも撃ち抜けるあの格好を、元々は敵である雑魚に晒していた。

 自分がいつかはさせると思っていた格好をただ息子だからという理由で()()()()()()()。ブラック☆スターだって、ハヤテには義理ではあるが息子と呼ばれている。

 

『ああ、そうか。俺はどこまで行っても、リスト入りしたホワイト☆スターの鬼の子なのか』

 

 ブラック☆スターはここで理解()()()()()()

 

 シドやミーラに愛されているからこそ、ハヤテの自分に向ける愛はどこまで行ってもよそよそしいモノであると理解してしまった。

 ハヤテは育った環境故に女性以外の愛し方を知らないだけで、本当にブラック☆スターの事は息子だと思っていたからこそ、強くなって欲しくて三船流の鍛錬をしていただけなのだが、ブラック☆スターは拗らせた。

 

『俺はただ、愛して欲しかっただけだったのか』

 

 彼は認められたい。最強は俺様であると認めて欲しい。その想いの根底は、普通の家族のように無償の愛への欲望からの裏返しだとブラック☆スターはこの場面で気がついてしまった。

 ブラック☆スターの瞳に星の文様が浮かんでいることに唯一気がついた椿は言葉を発しようとしたが、言葉を発することが出来ない。

 

 いつの間にか中務の意思と呼ばれる鹿がいる精神世界にブラック☆スターは居て、椿は何故か自分の体を動かすことが出来ない。本来ならブラック☆スターだけでは踏み入ることの出来ない場所に一人で立っており、中務の意思(椿)に対して、まるでハヤテが意中の女性に笑いかけるように顔を歪ませている。

 

「前にお前が言っていた、鬼の道とやらを見せてみろ」

「良いのだな? 今のお前では死ぬぞ」

「俺様はオレサマだ。てめぇの物差しで勝手に測ってんじゃねえ!!」

「いいだろう。最強を志して夢破れたもの達の魂を、武の前に、恐怖という名の鬼に食い潰された者達の魂を味わうといい」『やめてブラック☆スター!!』

 

 ブラック☆スター達が立っている地面に波紋が広がり、その下から数多の人型の何か、魂が次々とブラック☆スターの体ににじり寄っていく。

 椿が涙ながらに止めようとする言葉は、今のブラック☆スターには全くもって届かない。

 

 あらゆる最強を目指していた者達の意思が、恐怖の狂気がブラック☆スターの体の中を駆け巡る。掻き混ぜ、貪り、彼を喰らい尽くそうと侵食してくる。

 しかしそんな意思に対して、ブラック☆スターは腕を組んで目を閉じて全てを受け入れる。

 

「何故顔色一つ変えない。何故絶望をしない? 何故恐怖が待ち受けている鬼の道の行く末を体験して眉一つ動かさない!?」

「……弱い」

「おおっ!!」

 

 中務の意思は()()で震える。武にて最強を目指す者なら、必ず心が折れるはずの追体験をさせたのに、ブラック☆スターはそれらを弱いと切り捨てた。これほどまでに強き存在は今までに居ただろうか? いや、いない!! 

 

「あのクソ野郎(ハヤテ)侍野郎(ミフネ)に比べたら雑魚ばかり。こんな雑魚共の無念なんて俺様は知らねえ。こんなもん捨ておけ!!」

 

 ブラック☆スターはゆっくりと瞳を開いていく。

 椿の言葉はもう彼には届かない。でも、それでも兄を止めてくれたブラック☆スターを椿は見捨てることが出来ない。

 

「俺様が進むのは生者を殺す鬼の道。死者をも殺す絶対なる鬼の道だッ!! 跪け、中務の意思ッ!!」

「我ら……私達は例えどうなろうとも、ブラック☆スターと共に」

 

 いつの間にか体を動き、声も出せるようになった椿は、涙を流しながら、嗚咽を堪えながら、彼に跪く。

 それと同時に怨霊の如くブラック☆スターにまとわりついていた魂が全て弾け飛んだ。

 

 ブラック☆スターは既に影☆星が使えるようになっているが、中務の意思に対して明確な答えを出した訳ではなかった。一重にブラック☆スターが本来よりも強かったため、中務の意思を屈服させなくても影☆星が使えてしまっていたのだ。

 本来は中務の意思による最強になれなかった者達の記憶を追体験しないと使えぬもの。それが今此処に完成してしまった。本来の流れとは全く別の鬼の道によって。

 

「俺様が最強だ」

 

 彼の腕には()()()()()()が握られていた。

 

 それこそが【影()星 零ノ型『正宗』】。その刀を握る彼の瞳には真っ黒な星が浮かび上がっていた。そして彼の肩にあった白い星の痣も真っ黒に染まっている。

 

 

 ***

 

 

 土下座

 

 土下座(どげざ)とは……である。

 

 エクスキャリバ〜の如く執拗い土下座解説が通り過ぎたが、ハヤテが土下座をしている時、死武専の死神の間において、ある女が手枷足枷を付けられながら土下座をしていた。

 

「申し訳ないと思っているわ」

「あのさー、君がやったこと分かってんの? 俺が久しぶりに本気でキレたんだぞ」

「……そのキレ方、この前俺されたっすよね」

「スピリット君は黙っていなさい!!」

 

 三船ハヤテの妻、三船ナザールあらため、三船メデューサが左手薬指にある指輪を若干アピールしながら、死神様に土下座をしていた。

 その指輪は10年以上経っているのに、未だに新品同様に傷一つなく、どれだけ大事にしているのかがひと目でわかる程だ。

 

 昔の怖い顔のお面を被っている死神様はスピリットに死神チョップ(弱)を放ちながら、メデューサを上から見下ろしている、見下している。

 そんな状況を理解していながら、メデューサは本当に申し訳なさそうな顔をしている。

 

 ちなみにメデューサもロスト島でやる事があったため居たが、その作業が終わるとすぐにフリーに死武専に送ってもらったあと、勝手にハヤテの職員キーを使ってこの場に来ていた。ハヤテはどうせ弓梓を使った場合逃げられないことを予想していたし、死武専で合流できるので問題ない。

 

「随分と変わったな蛇」

「女は恋をすると変わるものよ」

「ハヤテ君はあの蛇すら変えるか」

「もし本気で愛されたら魔婆様ですら、きっと変わってしまうと思うわ」

「ほざけ」

 

 額を地面に擦り付けたまま、メデューサは死神様と会話を続ける。

 もし以前のメデューサならばきっとこんなことは絶対にしなかっただろう。

 

「それにしても死神、あなたも随分と変わったわね」

「何がだ?」

「弱くなったわ」

「てめぇが言うか」

 

 いつもの死神様では有り得ない口調だが、あの魔女の中でも問題児であるメデューサ。更に鬼神を復活させたのだから、死神様がブチ切れているのも仕方がない。

 

「言うわよ。鬼神を()()()()()()()()()、バジュラすら使えないほどに弱体化させて復活させ、更に鬼神復活のタイミングにデスサイズのミョルニルと梓弓を送ったのに殺しそびれるなんて思ってもみなかったわ」

「……ハァ!? お前の目的は鬼神を復活させて、世界を混沌に落とすことじゃないのか!?」

 

 スピリットはビックリ仰天しているが、死武専の知る魔女メデューサは世界を混沌に導き、あらゆるあくどい実験を繰り返し、魔女の中ですら異端と言われている最悪の魔女の一人だ。そういう風に勘ぐられてしまうのは致し方ない。

 

「マリー君と梓君は確かに鬼神が復活したあの日は死武専に来る予定はなかった。確かマリー君が梓君の勤務場所に来ていて、ハヤテ君が戻ってきたことを暴露させられたと言っていたな」

「私はハヤテをずっと見ていたわ。だから、貴方がハヤテ達にサハラ砂漠に向かわせたことも、弓梓とかいう雌を寄越したことも知っていた。故にハヤテさんが弓梓に色々言ってボロが出る帰還タイミングにミョルニルを向かわせたの」

「……向かわせたってよ。デスサイズをそんな簡単に管轄外の場所に向けられるわけがないだろ」

「『弓梓が三船ハヤテと遭遇した』という内容の手紙をミョルニルに出しただけよ。自宅で撮ったハヤテさんの写真も同封してね」

「……それなら行くかも」

 

 メデューサは既にその頃から死武専を手玉に取っていたと暗に語る。その事に死神様は苦い顔を内心浮かべているが、それならばあれは何だったのだと言いたい。鬼神を殺して欲しかったのなら尚更おかしいことがある。

 

「君が殺されたせいでハヤテ君が発狂して、俺が鬼神にトドメを刺す時に邪魔されたんだけど、それについては弁明あるのか?」

「……そこだけが私の計算外だったのよ。あの時に()()()()()()()()()()()()()()()()()と思っていたのよ。結果的にアリスはアラクネ側だったから、狂気状態のハヤテを貴方に向けてしまった。やっぱりあの女は殺すべきね」

 

 アリスはハヤテの狂気に囚われない。同調することも出来るが、アラクネ側で無ければ確実にハヤテを狂気から引き上げることが出来たはずなのだ。

 メデューサはあらゆる可能性を考えて、ハヤテやアリスにすら鬼神殲滅についてを教えていなかった。それが功を奏して、アリス(アラクノフォビア)も初動が遅れることになった。まあ、魔力の導きでハヤテを殺しそうになってしまったせいで、会うこともできなかった訳だが。

 

「……お前が鬼神を今、殺そうとしたのは俺が死神をしている間にぶっ殺す為か」

「ええ。デス・ザ・キッドがどこまでやれるようになるか分からないもの。あんな爆弾をそのまま放置していて、ハヤテさんに愛されている時に襲撃されたら堪らないわ」

「……そうか」

 

 死神様はもう色々とやる気がなくなっていた。

 

 この魔女はもうハヤテが生きている限りは脅威になり得ないと確信を持てていたからだ。何故そう確信できたかと言えば、この魔女ですらハヤテの狂気にいい意味で飲み込まれ、魔力の導きよりも狂気を優先するようになっている。

 

 更に言えばここでメデューサに死刑を言い渡した場合、マリーや梓、その他あらゆる武器や職人を連れ立って、ハヤテがクーデターを起こすことも有り得る。

 

 何よりハヤテは()()()()()()()()()()()なので、下手したらあの剣を使って襲撃される可能性もある。それなら一旦メデューサの罪は不問として、必要悪として受け入れるしかないと大きくため息をつく。

 

「今までに君がやっていたことは一旦不問とする。でもハヤテ君も決して君を許さないことがあると思うんだけど」

「……え? ま、待って。ハヤテさんが私を許さないこと? あれじゃない。暗殺したことでもないだろうし、まさか魔女を殺したこと? でもあれはハヤテさんとの生活の邪魔をしようとしたからであって。もしかしてフリーを12時間勤務でこき使ったこと……あれは一時的だったし」

 

 メデューサが鬼の道へと進んでしまった時のブラック☆スターと同じくらい顔を蒼白とさせる。文字通りハヤテこそが彼女にとっての生き甲斐であり、もしメデューサはハヤテの長寿化や不老化が間に合わなければ共に死ぬ気でいる。

 

「お前は魔剣士クロナは息子だと言っていた。きっとハヤテ君との子供なんでしょ? でもラグナロクはどこから仕入れた? ハヤテ君は身内には超絶甘いけど、息子を改造して、見知らぬ人の子供を取り上げたとなれば、彼も結構怒るんじゃない? 今は頭がお花畑だろうけど」

 

 ハヤテは死神様の規律を遵守している。どうしてもという時は基本的に許可を貰って破っている訳だが、マカやブラック☆スターを()()()()()()()ハヤテなら、確実に人のお子さんを溶かしてクロナの肉体に注ぎましたなんてことを許せるわけが無い。そこで許してしまっていたら、もう三船ハヤテは死神様の知る三船ハヤテではなくなっている事の証左でもある。

 

 しかしメデューサはキレ気味に顔を上げて口にする。

 

「ラグナロクもハヤテさんとの子供よ。私がハヤテさんとの愛の結晶以外を育てると思う?」

 

 ラグナロクはこの時くしゃみをして、キムに貰ったブドウ飴を土下座しているハヤテの頭に落としていた。




やったね! ブラック☆スターが強化されましたよ。

メデューサは一児の母ではなく、二児の母親でした。
ちなみにハヤテの好きな飴の味はブドウ飴、苦手な飴の味は昆布だったりします。
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