蛇の元夫   作:病んでるくらいが一番

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物語の根底を変えることにして、それを練っていたので遅れました。


第41話:選別の職人

 それは王の息子であった。

 

 度重なる敵からの襲撃でやせ細り始めたその国にはある伝説があった。

 

 台座に刺さった剣を抜くものこそが真なる王になるだろう。

 

 王の息子である彼は、血筋だけではなく、その剣を抜くことで伝説にも選ばれた王の中の王となった。

 

 

 彼の者はある賢者とその選別の剣(聖剣)によって、名君となるべくして育てられた。

 

 その者は阿呆ではあったが、愚者ではなかった。非効率的な考えばかり浮かぶものであったが、そこに知恵を貸す仲間がいた。一人では国を守れぬと思った時には、共に円卓を囲う騎士たちがいた。

 

 その者が努力を惜しまなければ、その分だけ土地は豊かになり、人々から笑みが浮かぶようになった。

 

「エクスカリバー、マリーン。私たちがやってきた事は無駄ではなかったのだな」

 

 かの王はブリテンを収めし最優で最高の職人王。アーサー・ペンドラゴン。

 

 人が良く、人のことをよく考え、偶に阿呆なことをしながらも、堅実に誠実にブリテンを、キャメロット城から始まった王の執政は順調に世界を良くしていった。

 

 

 

 賢者や賢王が死ぬ時はどんな時か。

 老衰や王位を継承して大人しく終わりを迎えることこそが稀であり、大抵が他者による悪意……狂気でその生を終わらせる。

 

 円卓の騎士を狂わせたのは魔女であった。

 

 最巧の騎士は魔女に魅入られ、王の妃に手を出した。

 勇敢なる騎士も魔女に魅入られ、王権を簒奪せんと反旗を翻した。

 最優の最も聖人に近しき騎士であった男は最狂の鬼士となり、世界に狂気を撒き散らした。

 

 そしてアーサー王は狂った仲間を全て殺して、最後には狂ってしまった守るべき民衆によって殺された。

 そこで世界の歴史はある存在の怒りによって、一度抹消され、規律の神の時代の幕が開ける。

 

 その世界で未だに生きる聖剣は過去の己に憤怒をし続け、過去の過ちから数多の約束事を作り出した。

 その世界で未だに生きている賢者はもう表の世界には出てこない。

 そして王が殺し損ねた○○は今は亡きブリテンを想い、闇の中で揺蕩い続ける。

 

 

 ***

 

 

 開口一番……いや、死神様が開口をするよりも早く、ハヤテは空を飛びながら地面に平伏し、土下座を敢行した。フライング土下座である。

 

「お、私の妻が鬼神を復活させてしまい、大変申し訳御座いませんでした。更に多分死神様に向けて、本気で(アリス)を振るった気がします。その件についても申し訳、あっ! アリスがアラクノフォビアの人間だった件がありますが、それについては」

「死神チョップ!!」

「ぐへっ!」

 

 マカたちから帰路の途中にロスト島での報告を死神様は聞いたため、死武専に戻ってくるとそのまま解散となった。現在この死神様のいる特殊な部屋には死武専大人組とキッド、それにメデューサとフリーのみが居る。魔女二人は簀巻きにされている。

 もちろんこの場には狂気でおかしくなっているはずのシュタインは不在であり、その看病をしているマリーもいない。

 

 土下座をしている上から死神様にチョップをされ、更に憂さ晴らしとばかりにスピリットに足蹴にされているが、ハヤテは土下座を辞めることは無い。ただハヤテを軽く蹴っていたスピリットは死神様にハヤテよりも強めにチョップをされて撃沈した。

 

「竜巻の中についてはマカ君から聞いたけど、詳しいことは後で梓君が。竜巻外のことはシド君が報告すること」

「分かりました」

「……わかりました」

 

 シドは元気なさげに死神様の言葉に頷いた。

 

 それもそうだろう。未だに学生である死武専生を駆り出し、そしてデスサイズの春鳥つぐみは敵に拉致されてしまったのだから。

 あの悪名高いアラクノフォビアに拉致され、しかも拉致した存在がとてつもなく下品なやつだったと聞けば、何をされるのかは一目瞭然だろう。

 

 つぐみを拉致されたあと、彼女を使う三人の乙女達は精神に多大なダメージを受け、現在は死武専の治療室で寝かされている。

 下手したら発狂まっしぐらだったが、彼女達がおかしくなる前にシド達が無理やり気絶させたのだ。今も定期的に精神安定剤や睡眠薬を点滴されている。

 

「シドは心配しすぎだって。アラクノフォビアにアリスとミフネがいる時点で、女性に性的な行為を強制させるようなことは起きない。あの二人は三船の過ちを正しく理解して、そして唾棄すべきモノだという認識はアラクノフォビアに居ても変わらないはずだからな」

「……正直言うが、アリスは何を考えているのかが分からない。本当はハヤテの考えとは真逆の考えを持っていることだって有り得るだろ? 10年以上共に居て、アラクノフォビアだったと気が付かなかったのだから」

「いいや、これだけは確信を持って言える。俺とアイツは二心同体。魂から否定するような事ならば確実に俺はあいつを理解して、アイツは俺を理解している」

 

 今はハヤテもこんな風に普通にしていられるし、狂気に飲み込まれずに活用したりしているが、初めて発狂した時……メデューサに性行為中に殺されかけた時は完全に狂気に飲み込まれていた。彼の重すぎる愛はメデューサに殺されかけたことで魂にすら負荷を掛けたが、それを自らの魂すら使って助けたのがアリスだ。

 故に彼の魂にはアリスの魂が混じり、アリスの魂には弾けた部分のハヤテの魂が宿っている。

 

 故に三船で行われていたような強制的な性行為を下卑しているし、混ざりあったアリスの魂は精神状態が落ち着いていることが分かるので、唾棄すべきことは起きていないことが分かる。

 

(何故アラクノフォビアが……いや、アリスが春鳥を手に入れようとしたのか。アリスは主に求められれば、例え神にだってなれる奴だ。()()の戦力増強をしようとするのは当然だな)

 

 本気を出されればきっとハヤテはアリスに勝てない。シュタインとスピリットの組み合わせにすら状況によっては勝てる彼だが、自分を知り尽くしているアリスには勝てないと確信を持っている。なのでそのアリスが()()()()()()()力を求めていることが分かり、内心冷や汗をかいている。勝てるのか? これ……と。

 

 その後諸々の事務的な話が続き、本題の話に死神様は入ろうとして、仇敵(メデューサ)に話の腰を折られた。

 

「ハヤテさんごめんなさい」

「ちょっと、今からBREWについて、なんか話してくれるっていう約束だっ」

「私は双子の息子の一人を溶かして、もう一人の息子に注ぎ込みました」

「ハァ?」

「ヒエッ……」

 

 ハヤテはメデューサが行うほぼあらゆることを許容する。例え自分が胸から首元までざっくり抉られようと、世界や自分の為に鬼神を復活させようと、彼は怒らなかった。

 しかしハヤテはマカやブラック☆スターを可愛がる……ブラック☆スターへの可愛がり方は虐待のようなものであるが本気で愛している。彼は息子や娘が義理であっても、多大な愛を注ぎ込む。

 

 そのせいで一人は鬼の道に進んでしまい、もう一人は愛欲の狂気で精神の一部が喰われ始めているが、彼はその事にまだ気がついていない。

 

 そんな彼に対して、メデューサは息子を実験台に使いましたと口にした。

 

 魔剣士クロナを見ればそういうことをしたことは分かる。自分の子供にそんな事をしたことに対して、今更ではあるが結構怒っていた。

 だのに、メデューサはもう一人息子がいて、黒血に変えたと口にした。

 

 彼は憤怒した。何故かキッドは虫唾が走る表情に一瞬だけなってしまったが、その怒り方の雰囲気がまるであれ、名前を口に出してしまったら確実に地の文を侵食する聖剣のようだったのだ。

 

 ちなみにメデューサはハヤテの純粋な怒りの眼差しを受けて、内心濡れていた。何故濡らしたのか、どこを濡らしたのかの詳細は省くが、ハヤテに叩かれるとメデューサは喜ぶとだけ記載しておこう。

 

「ハヤテも落ち着け。怒られてざまぁと思わなくもないが、一応その行為にも理由があったってさっき話していたんだよ」

「こういうことをスピリット先輩が庇うのって珍しいですね」

「奥さんと離婚が確定して開き直っているだけだと思います」

「梓!! ハヤテにだけは言うなと言っただろうがァ!」

「やーい、バツイチ。結局先にバツイチになったのは先輩だったじゃないですか。やっぱ女性周りのだらしなさはスピリット先輩の方がおかしいって証明されましたね」

「「「「「それはない」」」」」

 

 デスサイズを二人引っ掛けている男はフリーとキッド以外の全員に否定されて撃沈した。

 

 

 その後メデューサは息子を黒血にしたのは、元々ラグナロクの体が弱く、そのままでは死んでしまうほどであった。ハヤテとの愛の結晶を勝手に殺させやしない! とメデューサは必死になった結果が、アリスと同様に職人との融合だったのだと語る。

 本来なら血縁関係が近いと職人と武器の関係になったとしても、最終的な魂の共鳴率は他人が組んだ時と比べて低くなる。だが、魂すら弄られていた三船のハヤテと魔女のメデューサというイレギュラーだったため、クロナとラグナロクは普通の職人以上の共鳴率を誇る。

 

「それなら仕方ないな」

「結局三船と同じようなことをしてしまったことは本当に申し訳ないと思っているの。でもあれをしなかったらラグナロクは死んでたから許さなくてもいいけど、あのことも話してあげてね?」

「……メデューサが母親をしているだと!?」

「黙りなさい死神。私だってハヤテさんが子供を愛する妻の方が好きなら当然愛するわ」

 

 ただし娘だったら、マカのように真に愛されてしまう(近親相姦家系なので不味い)から、遺伝子改造をして息子が生まれるようにしたとか。その遺伝子改造のせいでラグナロクの体がとても弱く生まれてしまったとか。救う気ではいたが、それなら実験として黒血に改造してからクロナと融合させたとか。口にしていないことは多々あるが、それはベッドの中でハヤテに告げて、お仕置きしてもらうために取っておくことにした。 

 

 死神様とメデューサの口喧嘩が収まったあと、魔女組の拘束が外されたあと、やっと本題に入った。

 

「それで結局BREWはどうなったのか報告貰える? なんか裏で暗躍していた蛇は話を後で聞くからここにいろ」

「ハヤテさんと私でアラクノフォビアの幹部の一人、吸血鬼のモスキートを滅殺後、彼の持つBREWを確保しましたが、お渡ししたようにもう壊れていました。戦闘によって壊れた訳では無いと思います」

「確かにこれからは何も感じないからね」

 

 死神様はハヤテと梓がモスキートから回収したBREWを掴む。そこからは以前死神様が目にしたBREWの力の波動を感じない。長い月日の間、ずっと特殊な磁場の中にあったことで壊れてしまったのかもしれない。

 

「偽物だから当然よね」

「……いつ本物を回収した」

「結構前よ。その時に偽物とすり替えておいたわ」

「魔女ほんと嫌い」

 

 メデューサの一言で死神様の機嫌が急降下するが、それでも内心はBREWがアラクノフォビアに行かなくて良かったと冷や汗を拭う。

 

「私がロスト島に行ったのは竜巻内部でハヤテさんがアラクノフォビアの幹部を倒した場合、アラクノフォビア陣営はBREWを確保出来なくなる。アラクノフォビアにはBREWは手に入れたけど既に壊れていた。でもそれを死武専は知らないというアドバンテージがあると思って欲しかったのよね」

「何故それが必要なんだ?」

「決まってるじゃない。アラクノフォビアをぶっ壊すためよ」

 

 マカ達くらいの年齢の見た目しかないメデューサは無い胸を自慢げに逸らしてドヤ顔を披露する。そんなメデューサの上半身を見て、失笑をした梓の顔を見たメデューサは殴り合いの喧嘩を始める。

 自分の生活習慣をコントロールすることで自分の想い人好みの体に変わっている梓は正史(原作)よりも、女性としての色々が成長している。ミョルニルには及ばない迄も、それと並び立てる凶器を殲滅せんとメデューサはひたすら拳を振り抜く。

 

「ちなみに隠し場所は魔女界ですよ。アラクネは魔女のトップに大層嫌われているらしくてあの世界に入れないらしいので、アラクノフォビアに取られることはないです」

「……それ、別の魔女に取られたりしないの? あいつら面白ければ何でもするよ?」

「それも大丈夫だと思いますよ。メデューサが魔女のトップに許可を取っているので、もしそれをコケにしたら魔女のトップとその魔女は敵対することになりますので」

「蛇……メデューサはあの女(魔婆)に嫌われてなかったか?」

「親戚? と仲良くするのも妻の役割とかなんとか」

「ハハッ……。この女変わり過ぎだろ」

 

 黄昏ている死神様は梓とキャットファイトをしているメデューサをチラ見してから、ため息を大きく大きく漏らす。

 あのメデューサが世間体を気にして、更に魔女仲間との関係も重視しつつ、人にも極限まで迷惑を掛けていないのに魔剣を作った。厄介なんてものでは無いし、万が一ハヤテが死んだ場合、確実に鬼神のようにこの世界を終わらせようと動くだろう。

 

 自分の息子(キッド)が二人の殴り合いを少しだけ鼻の下を伸ばして見ているのに、仮面の下の顔を引き攣らせつつ、今後メデューサと協力してアラクノフォビアを潰すことは確定しているのなら、保険としてあの人を呼ぼうと深く頷く。

 

「ブッ叩き・ジョーを呼ぼうか」

「だが、断るッ!!」

 

 BJ。ブッ叩き・ジョーと呼ばれる男は、現在死武専から離れたアメリカにある小さなカフェを経営している。ハヤテが注文しているコーヒー豆は全てそこからは仕入れていたりする。

 そんな彼の能力は異常なまでの魂感知能力。ただ魂感知の深度や範囲が広いだけではなく、他人に触れながら魂感知をすると、魂の揺らめきから触れている人の発言が嘘か誠かを正確に読み解くことが出来る。死武専内部調査官であり、彼に疑われるということは死武専に疑われることになるので、士気に関わるため普段は死武専にはいない。

 

 そんな彼の来訪をハヤテが断固拒否する。

 

「彼の有用性。そしてメデューサが真にこちらに協力しようとしているのかを証明するためのピースになるのよ? それなのになんで拒否するかな」

「俺は嫉妬深いんですよ」

「知ってる」

「他人に自分の女の胸を! 調査のためとはいえ! 触らせやしない!!」

 

 ブッ叩き・ジョーが相手の嘘を見破る時、心臓に一番近いところに拳を当てる。そう、胸に拳を当てることになるのだ。

 ハヤテは今まで寝盗られるなんてことは無かったが、もしメデューサが他の存在に犯されでもすれば、その存在を消滅させるまでは鬼神の如く暴れ回るだろう。

 

「ハヤテさん!」

「貴方じゃなくてもハヤテ先輩はそう言いますから。貴方だからでは無いですよ? そこを理解しておいて欲しいですね」

「ハヤテさんに大切な後輩だからと手を出してもらえていない貴方は万が一にも対象にはならないでしょうけどね」

「は? そんな訳ありませんから。シド以外の男性には私を使わせないくらい、私の身は真っ白ですから。頭から腹の中まで真っ黒な人は黙っていて貰えます?」

「可哀想に。一生愛される喜びを知らないのでしょうね」

「年増のオバサンが……」

「コロスッッ!!」

 

 マリーにハヤテを取られるならまだ納得出来た。アリスとハヤテが結ばれるなら、涙を飲んで祝福できた。

 しかしハヤテの一番の忠犬(意味深なし)である弓梓は、マリーへの想いを魔法で捻じ曲げたメデューサを決して許さない。

 そしてメデューサ唯一の弱点である、人間に比べたら圧倒的なまでの年齢差を指摘され、目を爛々と輝かせながら飛び上がった。

 

 先程までの服がはだける程度のキャットファイトなら無視するが、殺し合いが始まりそうになっているので、死神様はハヤテに無言で頷く。するとハヤテは土下座の姿勢から立ち上がり、二人の間に瞬時に移動する。

 

「梓、今回はありがとうな。お前がいたから、俺は満足に戦えた。梓だったら例え、アリスの仕込みがなくてもあの蚊を殺せていただろう」

「……はい!」

「メデューサはこの後お仕置な? 俺の大切な後輩を殺そうとしたし」

「……あい」

 

 ハヤテはメデューサを小脇に抱えて持ち、もう片方の手で梓を軽く抱き締める。ハヤテは梓を女性として絶対に抱かないが、だからといってこのような接触がない訳では無い。というか、ヤったりキスをしたりはしていないが、このようなボディータッチはむしろ多い方だ。その方が梓が喜び、そして強さが増すのなら使わない手はない。

 

 梓も意味深な意味が無いことは分かっているが、それでも労われて抱きしめてもらえるだけで心がポカポカして、また頑張ろうと気合いが入る。

 

 そんな光景を見ているはずのメデューサだが、彼女は彼女で横抱きにされながら、ちょっとしたエッチぃイタズラをされ、この後行われるであろうお仕置を思って、心ここに在らずといった状況になる。

 

「作戦詰めるまでは通常任務に戻るから、明日からまた教師やってね」

「分かりました。それではまた明日!」

 

 メデューサをお姫様抱っこに持ち替えて、爽やかにハヤテはその場をあとにする。向かうはデスシティにある三船邸。

 

「あれ?」

 

 ハヤテとメデューサの後を追うように、ずっと黙っていたフリーも部屋から出たあと、スピリットは体をガタガタと震わせながら疑問の声を上げる。

 

「どうしたのさ。まるで奥さんに別居を私の前で宣言された時のスピリット君みたいじゃない」

「そういうのいいですから! ハヤテって多分自分の家に帰りましたよね?」

「そうだね……あっ!」

 

 死神様も気がついた。同じく気がついたシドもゾンビなのに、数分前よりもだいぶ顔色を白くしている。

 

「あいつの家には今、ハヤテを魔法で奪われたマリーがいるんですよ。下手したら街の一角が吹っ飛ぶぞ!!」

 

 今すぐスピリットは消防隊と救命隊、更には治癒の魔法が使えるキムに、ハヤテの家に至急向かうよう依頼を出した。




鬼神はラスボスですが、この作品は裏ボスとも戦います。
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