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照りつける太陽の下、二人はバイクに跨り砂漠を駆けていた。ここはアフリカ。先程までアメリカにいたが、十数時間掛けて二人はここまで来たのだ。
ハヤテがシュタインと別れたあと、アリスに引き連れられ飛行機に乗り、何故かあった愛車のバイクを空港で受け取ってからサハラ砂漠に来た。
「なんでデスシティーに戻ってすぐに遠方に飛ばすかね」
「今までサボっていたのですから仕方のないことです。それにこの砂漠に来た目的を考えれば、私たちが適任かと」
アリスはハヤテの後ろからに抱きつきながら二人乗りしている。デスシティーの時はワイヤー入りのメイド服だったが、今のアリスの胸部はとても柔らかく、ハヤテの背中を楽しませている。
元妻ナザールに出て行かれたあとから、アリスは人が居ない所限定で接触が増えている。人前ではメイド然とした態度を崩さない。
「レールのない砂漠の上をひたすら走り続ける暴走列車。その動力源となっている魔道具の回収ねぇ。死神様は魔道具収集が好きだよね」
「全ては鬼神が復活してしまった時のための対策ですから」
「鬼神かぁ……」
魔剣が鬼神の卵であることはシュタインはもちろん、あまり情報が来ないスピリットにもわかる。それと同じようにハヤテにも分かっているのだ……自分の元妻が鬼神を復活させようとしているという事を。
だがハヤテには元妻がどうしてもそのようなことをするとは思えない。
『私、昔に少しだけやんちゃをしていた時期があるのよ』
『……もしかして男遊びとか? いや俺は言える立場じゃないけど、その』
『あなたが初めてだってことは知っているでしょ!? コホン、ジョーカーのような役割が好きだったのだけど、今はそんな気が全く湧かないのよね』
『昔にどんな事をしていても俺は一向に構わないけどね。それに今を満足しているから、そんな気が湧かないんじゃないかな?』
『……ふふ、そうね。私もそうだと思うわ』
こんなやり取りもあったのだが、この時のこの言葉に嘘がなかったことをハヤテは確信している。根拠はただの勘だが。
百戦……千戦錬磨のテクニックに翻弄され、初めてなのに!! ということをした後の時間に、そんな無駄な嘘を人はつかない、つけないとハヤテは思っている。
そんなことを考えていると、脇腹に痛みが走る。どうやらアリスに軽く刺されているようだ。
「痛いんだけど」
「今この状況で殺されかけた女の事を思い浮かべているハヤテが悪いわ」
「様付けは? 敬語……わかったからやめて!」
揚げ足取りのためにアリスの敬語が抜けたことを指摘した。アリスはその事に少しだけ、ほんの少しだけ頬を膨らませ、ハヤテの首の傷口を塞いでいる血液の凝固状態を解除しようとして、ハヤテがギブアップをする。
「……貸し」
「わかったよ」
そのあと二人は無言で砂漠をバイクで駆ける。男は妄想を始めたパートナーの邪魔にならないために黙り、女は貸しでどんな事をしてもらおうかシミュレーションをしている。
「あっ、エロは駄目だからな」
「……チッ」
女たらしと組んでいる美人なパートナーが、未だにその女たらしの毒牙にかかっていないなど誰が想像できるだろうか。シュタインや死神様だってそんな想像出来ないだろう。もちろんスピリットは毎夜お盛んとか思っている。
***
ハヤテとアリスがこの任務に向いている理由の一つがデスサイズのペアと同じくらい強いからというのもあるが、今二人が乗っているバイクにも秘密がある。
このバイクは誰が作ったのかがひと目でわかる。バイクなのにツギハギなのだ。
そう、あのシュタインにハヤテが頼んで作ってもらったものであり、水陸両用でどんな悪路でも踏破できる性能。死神様の息子が持っているスケボーのように若干浮いていたりするので、その機能を増幅させれば一時的になら空だって駆けられる。
まず死神様の息子が持っているスケボーはシュタインがこのバイクの経験を生かして作り出したものだ。死神様は息子の誕生日にあげるプレゼントを最大限喜んで欲しかったので、ツギハギだらけにはさせず、完全なシンメトリーでシュタインに発注していた。
本来ならもっと後に回収に向かわせるはずだった暴走列車の動力源となる魔道具。だが機動力と強さを持っていて、デスサイズスよりも動かしやすい存在がいれば当然早期に回収に行かせるだろう。
二人は何事もなく、暴走列車のホームに到着した。普通なら直射日光や砂漠から反射した太陽光を浴びないため、ローブなどを羽織るが、黒いスーツにメイド服のままの格好で来ている。
前者はカッコつけるための致し方ない犠牲だと言い、後者はメイドはいつ如何なる時もメイド服で居るべきなのでと言うだろう。
「列車到着まであと15分ほどです」
「了解。まあ身構えないといけないことは無いはずだけどね。魔女はここら辺から一時的に撤退しているらしいし」
「第三勢力の介入も考えるべきでは?」
「そんなもん適当にぶった切ればいいだろ。俺たちを殺せる存在とか身内には多いけど、魔女を抜かせばほとんど居ないでしょ」
「……そうですね」
アリスの額に嫌な汗が一筋垂れる。アリスはこの類の汗を前も流したことがある。割と苦戦して死ぬかもしれないと思った戦いの前に流したことのある汗だ。
***
暴走列車はその名と反するように、砂漠の至る所にある駅にキッチリカッチリ時刻通りに来る。ひたすら砂漠を止まることなく動き続けているので暴走列車と言われているが、それも全てはある魔道具によるもの。
誰もいない無人ホームで戦闘の準備を一応進めていた二人だったが、到着時刻あと十秒前ほどで地面が揺れ出した。
「なるほど! 見えないと思ったら」
ハヤテの言葉と被せるように、砂の中から時間ピッタリに暴走列車がその姿を表した。
ハヤテは最初からバイクをフルスロットルでスタートさせ、暴走列車の窓をぶち破りながら内部に侵入した。
「……もっとスマートに入れたのでは?」
「男なら窓ガラスをぶち破って侵入したくなったりするわけよ。盗んだバイクで走り出したくなる時もある。同期の経費でバイクを作ったりな」
二人は無駄口を叩きながらも周囲に気を配るが、聞こえるのは車輪の回る音と砂の弾ける音くらいだ。気配も特にこれといってない。
ハヤテは索敵よりも砂漠を走る列車からの風景に目を奪われている間に、アリスはバイクを死神様から習った特殊な術で収納した。胸元から何かを出している時は大抵この収納術を使って取り出している。これまた死神様の息子がスケボーを収納している方法だったりする。
ちなみに胸元から小物を出し入れしているのは、ハヤテの元妻に見せつけるためだったりするのだが、ハヤテはその理由を知らない。
「……どうした?」
「いえ、なにも」
「嘘をつくな。なんか感じとったんだろ? 伊達に体を共有してないぞ」
今のアリスとハヤテは魔剣と同じような構造をしている。ハヤテがメインボディでアリスは寄生している形だ。アリスの今の体はハヤテの体を流れる血液と同化しているので、本来なら明確な肉体を持たない。
だがハヤテの隣にはアリスはいる。
アリスは魔女の変身能力に近いものを元々持っていた。まず武器化は魔女が動物に変身する能力を応用したものであり、魔女から遠ざかってしまった武器の人々は一つの武器にしか成れない。椿のような一部例外はいるが。
そんな中、アリスはナザールに殺されかけ、ハヤテが自分よりも早く命の灯火が消えかけ、目を閉じようとしたのを目の当たりにした時、素質の高かった魔女の変身能力が開花、もしくは暴走した。
そのおかげでハヤテとアリスは助かったし、武器に変身してそれを解除する要領で肉体を一時的に復元できている。
そして二人は肉体を共有しているので、アリスが緊張すると、その反応が直接ハヤテに返ってくる。故に二人の間で嘘というものは付けない。
「嫌な予感がしたので」
「……わかった。真面目に行こう。武器化してくれ」
「素直なハヤテ様は好きですよ」
「ひねくれてる俺の方が好きなくせに」
「……」
アリスは無言で武器化し、刃渡り1メートルもない小振りな剣になった。ここが電車の中ということを考慮したのだろう。
ハヤテはネクタイを軽く弛めて、剣と化したアリスと魂を共鳴させながらゆっくりと電車の先頭部に向けて歩き出す。
だがアリスの直感とは反し、何事もなく先頭車両に到着した。もし二人がなりたての職人と武器ならここで一息をつくかもしれないが、二人は星一族を皆殺しにしたあの襲撃にも参加している。
帰るまでが遠足とよく言うが、二人は仲間の多い死武専に戻るまでは警戒を続けるだろう。
「ねじまきが魔道具なのか」
「それだけではありません。そのねじまきが刺さっている箱も魔道具の一部ですよ」
「無理じゃないか? ねじまきだけならまだしも、この箱は大きいんだけど。これ本当に俺たちだけで回収できるのか?」
ねじまきだけでも大振りなナイフくらいの大きさがある。それが刺さっている箱をアリスとハヤテの二人で持って帰るには結構な時間がかかりそうだ。
「あと数十分でシド様率いる回収班がこちらに到着することになっていますので平気ですよ」
「……それシドが全部やれば良くね? あいつなら室内戦闘も得意じゃん」
「機動力が足りません」
「バイクくらい貸すし」
「……死神様に言ってください。私は悪くない」
アリスは一度人型になり、ねじまきを死神様直伝収納術で回収した。すると暴走列車は少しずつ速度を緩めていき、数百年と動き続けていた列車が停止した。車輪が止まる音は列車の悲鳴に聞こえる。
ハヤテは外に出て、ずっと動き続けていた列車を自らの手で止めた事に……
出さなくてもどうせアリスに伝わっている。それに何よりアリスも同じような喜びを浮かべてしまっているので問題ない。
あまり持ってはいけない愉悦については問題ないのだ。二人から少し離れたところに別の問題が発生した。人が二人ほど瞬間移動してきたのだ。
「……何故私が収集すべき物が入っている
「も、申し訳ございません! ノア様にお伝えした時は! 確かに遠見の魔道具で確認した時は! 魔女も死武専も居なかったんですが!!」
「まあいいでしょう……それで貴方達がムゲンネジマキを持っているのですか?」
色黒の長身で腕に動くミミズの入れ墨をしている青年は、狂気の笑みを浮かべながらハヤテとアリスを覗き込んでくる。
色黒長身の男をノア様と呼んだもう一人の少年は、端正な顔立ちでノアという男に対して何度も何度も頭を下げている。頭を下げる間にこちらをチラチラ睨みつけたりもしている。
ハヤテはその男達の外見よりも、ノアと呼ばれている男の持っているものに目が引かれる。
「それはエイボンの書か?」
「質問を質問で返すとは……だがいいでしょう。私はエイボン、全てを手に入れ、このエイボンの書に収集し、完成させるのが私の目的です。それで貴方達が持っているのですか? ねじまきを」
「お前らノア様が……エイボン様が聞いているのだから素早く答えろ!!」
ノアと呼ばれていた男はエイボンと名乗った。ゴフェルと呼ばれた少年がまたノアと呼ぼうとして頭を小突かれ、言い直した。ゴフェルは小突かれたが何故笑みを浮かべている。そういう趣味の人間なのかもしれない。
「持っていようと持っていまいと戦うことになるからどうでもいいだろ。エイボンの書は第一級指定の収集物だ。お前らみたいな訳が分からん奴らが持っているよりも、死神様が管理した方が多分危険はない。渡せ」
「これだから死武専の人間は嫌いなのですよ。死神を盲信的に信仰している。あなたは私の収集対象になりえますかね?」
ハヤテはゴフェルという少年は意識の外に追い出し、特に指示することなくアリスは室内戦闘用に短くしていた剣を鋭く長く伸ばす。それと共に魂の共鳴率を上げ、いつでもハヤテが動き出せるように準備を進める。
ノアも久しぶりに自らの収集物を披露出来そうな相手に歓喜の笑みを浮かべながら、エイボンの書を広げて戦闘体勢に入る。
「……死ねぇぇぇぇええええ!!」
しかし戦闘の狼煙を上げたのは、ノアでもハヤテ達でもなく、ノアの笑みを引き出したハヤテとアリスに嫉妬をしたゴフェルだった。
ゴフェルは腹部が開き、そこから巨大な魔法弾をハヤテ達に向けて撃ち出した。
ノアだったら暴走列車ごとエイボンの書に収めそうだなと思った。
あとこのゴフェルくんはまだ翼を生やしてもらっていません。