蛇の元夫   作:病んでるくらいが一番

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書けたので投稿。毎日投稿とかじゃないです。


第6話:エイボン

 ゴフェルという魔道具を埋め込まれている少年。その彼の胸部から射出された魔法弾によって、戦いの火蓋を切られた。

 

 ハヤテの意識はノアと呼ばれ、エイボンと名乗った男にのみ向けられている。故にゴフェルの魔法弾には視界に入っているにもかかわらず、それを認識していない。

 そんな状況でハヤテはアリスの刃の攻撃可能範囲に敵を入れるべく駆け出していた。

 

「よ、し?」

 

 敵が魔法弾に突っ込んできたのでゴフェルは喜びをあらわにしていたが、ハヤテは地面スレスレまで体勢を低くして避けていた。

 

『自分で避けてください』

「俺が見ていないところはアリスが見て、勝手に動かしてくれるから別にいいでしょ」

『私が避けきれなかったらどうするのですか?』

「信じてるから」

 

 ハヤテは見ていなかったが、アリスは見ていた。アリスは武器化してハヤテに持たれているが、ハヤテの体の中にはまだアリスが残っている。そのアリスがハヤテの体を無理やり動かし、地面スレスレまで体を倒して魔法弾を避けさせた。

 元々二人は魂の共鳴率が極めて高い状態で相手の魂に指示を出すことによって、強制的に動きを変えるなんていう頭のおかしい行動をしていた。

 だが今はそこまで共鳴率がなくても、体や()を共有しているのでこんな事も出来る。

 

「ゴフェル、あなたにはこの敵は強すぎる。邪魔にならないように私の後ろに居なさい」

「は、はい! ノ、エイボン様!!」

 

 ノアは戦闘という名の魔道具披露の邪魔にしかならないゴフェルを自分の後ろに下がっているように命令した。普通なら文句を言うところだが、ゴフェルはノアが体を張って自分を守ってくれると解釈し、笑顔で下がった。

 

誘惑の暗礁(セイレーン)。思い出しましたよ。あなたは確かフランケン・シュタインの仲間の変化刀とかいうペアですね?」

「……アリス」

『了解』

 

 駆けてくるハヤテ達との間にセイレーンという天使の像がついた巨大な壁をノアは召喚した。ノアはハヤテ達がどんな風に呼ばれていて、どんなヤツらなのかを思い出したので、会話を試みようとしている。

 だがハヤテもアリスも敵と話す気がなく、ハヤテはアリスに更なる変化を求めた。

 

「壁殺し」

 

 ハヤテがその壁の少し前で飛び上がり、(アリス)を壁に振り下ろそうとした。太刀と呼べるくらいの大きさはあるが、まだまだ壁には届かない。

 だがアリスは西洋剣をただひたすら大きくしたような形状に変化した。先程までの形状と異なり、大きさと重さで無理やり壁を断ち切るためだけに形を切りかえたのだ。当然壁を壊すために長さを変えたのだから、セイレーンに刃は届く。

 

 壁を殺すために変化したその剣は、一刀でセイレーンと呼ばれた壁を破壊した。

 セイレーンには音による反射装甲があったりするが、その範囲に入る前に無理やり壊されてしまった。

 

「敵とは話す気は無いか。いいだろう、KIMI(我は) NI(汝を) KIMETA(使役する)!! オルトロス」

 

 壁を壊した段階でアリスはその巨大な剣の形状を先程までの太刀の形状にまで戻した。

 二人は壁を破壊した足でノアに斬り掛かろうとしたが、バックステップでいきなり現れた大きな獣の口から繰り出される噛みつきを回避する。

 

「エイボンの書ってめんどくせえな」

「オルトロス。狼の頭を持ち、獲物を決して逃がさない蛇ですか」

「私は過去に収集(コレクト)したあらゆる化け物を使役する。君たちに勝ち目等ない。エイボンの書に収められた化け物全てに勝てるとでも?」

 

 

 狼の顔で胴体が蛇という化け物がいくつもノアの周りを漂っている。確かにノアは取り出した化け物を操ることも出来るようだ。

 ハヤテは首元を軽く触れ、まだ問題なさそうなので一安心しながらノアにゆっくりと近づく。

 

「鰻殺し」

『了解』

「……苦戦はしているがお前はそこまで強くないと思うんだがな。油断していないシュタインペアとかになら、……瞬殺されてるぞ」

『油断や気後れしているあのペアなら危ないと思いますけどね』

「今の先輩は情緒が安定しないからなー。……微妙かもしれないね」

 

 アリスとハヤテは話しながらも迫り来るオルトロスを始末していく。

 オルトロスの捕食を避け、その長い胴体を地面に蹴りつけ、まな板の上の鰻の首を落とすかのように、一刀でオルトロスの頭と胴体をぶつ切りに分断していく。首は頭を落とされても胴体だけで拘束してくる事もあるので、切り落とした胴体も何部位かに下ろしておく。

 

「やはりオルトロスは奇襲に使うべきか。一定以上の技量持ちが平常心で相対した場合、容易く対処されると」

「これで、終わりだ!」

 

 ノアとゴフェルの乗っているオルトロス以外は全てぶつ切りにされてそこら辺に転がっている。

 真っ赤な血に全身が濡れ、スーツが駄目にされた事に少しばかりの怒りを感じているハヤテだが、それよりも気になることがあった。

 

 首が痛い。

 

 シュタインや死神様でも解呪出来ない呪いによって、ハヤテの首の傷口は塞がらない。いつもアリスが血液を凝固させて無理やり流血を抑えている。今もちゃんとその役割を果たしてくれているのだが、戦いになると傷が広がってしまうのか痛みを発する。

 

 普通の傷が開く程度ならハヤテは無視ができるのだが、首元の元妻に付けられた傷口だけはまるでその傷を忘れさせないように、ハヤテが無視できない痛みを発する。

 ハヤテの予想だと、ただ傷口が広がっているから痛みを感じる訳では無いかもしれない。それももう少し戦えばわかる事だ。

 

「……ふぅ」

「どうしました? 随分と疲れていますが」

「うっせえ黙れ。エイボンの書を早く渡せ、殺すぞ」

「私は悪人リストに乗っていませんが、いいのですか?」

「エイボンの書を乱用している奴が悪人じゃないわけないだろ」

「お前! エイボン様を侮辱するんじゃない!!」

「うるさいゴフェル」

「す、すみません!!」

 

 ゴフェルは蔑まれた目でノアに説教され、少しだけ顔を青ざめさせるが、直ぐに興奮しだしている。やはりそういう趣味なのだろう。

 ハヤテはそんなことを頭の片隅で考えながら、首元の痛みが増す条件をだいたい見つけだしていた。

 

「アリス、首が痛むんだけどさ、やっぱりあれが原因? 傷が広がったからじゃないよね?」

『あの糞女は離婚したのにまだ主張しやがりますか』

「……」

 

 ごく稀にブチ切れた時にしか使わないアリスのガチギレ口調にハヤテはビビる。そんなハヤテにアリスは気がついたのか、いつもの口調に戻してハヤテの問いに答える。

 

『実戦時に私と魂の共鳴率を上げれば上げるほど痛みが増すのでしょう』

「だよね」

 

 何故そのような呪いを掛けて行ったのか分からないが、一瞬の隙で殺し殺されが起きる実戦において、パートナーとの共鳴率を高められないのは致命的だ。

 鎌武器であるスピリットが発動できる魔女狩りや魔人狩りなどの技と分類されるモノは、共鳴率が極めて高くないと使えない。

 ハヤテとアリスにもそういった技があるのだが、それら全てが使えない可能性が高い。技はとにかく集中しなければならないのに、無視できない痛みを感じてしまっては成功しないだろう。

 

「お前達は別章で管理する。別れの挨拶は済んだかな?」

「お前こそエイボンの書とのお別れは済んだか?」

「面白いことを言う。しかもお前達は不調のように見える。そんな状態でこれが倒せるかな? 我は汝を使役する、ホラードラゴン」

 

 ノアが言葉を発し終わると、エイボンの書から大量の黒い霧が噴出された。その霧は少しずつ形を変えていき、ノアの背後に姿を表した。

 

「……だから魔道具の相手は嫌なんだ。次からは絶対にシドに押し付ける」

『シド様はシド様で忙しいですから厳しいかと』

 

 二人は若干現実逃避気味に会話を重ねるが、ノアの背後にそびえ立つ巨大なドラゴンに若干引いている。

 

 死武専にある学生寮の一棟分はある巨体に、三つのドラゴンの頭。背中には多数の墓が生えていて、その場にいるだけでどぎつい死臭を撒き散らす。

 二人は共鳴技が使えないという結論にたどり着いたのに、共鳴技がなければ勝てなさそうな敵が現れた。

 

「先程までの元気はどうしました?」

「うっせぇ黙れ」

「なら黙りましょうか、その前に一言。行け、ホラードラゴン」

 

 ホラードラゴンはお叫びを上げながら、その巨体に見合わない速度でハヤテ達に接近し、その顎を差し向けてくる。

 

「竜殺し」

『了解』

 

 ハヤテはホラードラゴンの噛み砕きを避けてから、大太刀になったアリスを土産とばかりに一閃する。その斬撃は通るには通るが、

 

「デカすぎてダメージになってないな」

 

 一太刀浴びせたドラゴンの首に登り、別の首からの攻撃を上手くいなしていく。

 

 首を落とせないなら腹や背から潜り込んで殺そうと、ホラードラゴンの背中にハヤテ達は来たが、

 

「無理、退避!!」

 

 ホラードラゴンの背中の墓の前の皮膚が蠢いたと思ったら、墓名に記載されている化け物がゾンビとなって産み出され始めた。四方八方で化け物ゾンビが生み出され始めたので、囲まれる前にホラードラゴンの背中から二人は飛び降りた。

 

「逃げているだけでは勝てませんよ?」

 

 ノアは余裕の笑みを浮かべながら、ホラードラゴンの三頭あのうちの一つに乗り、ハヤテ達を煽り立てる。その横で先程から小さい声で騒いでいる少年がいるが、ハヤテはもちろんノアにすら無視されている。

 

 避けては斬り、避けては斬りを繰り返すが、余りの巨体にハヤテ達の攻撃はホラードラゴンに明確なダメージを与えられずにいた。

 

「……これ以上の共鳴は出来ないんだよな?」

『これ以上上げてしまいますと、ハヤテ様が痛みで動きが鈍ります』

「それなら駄目だ……」

 

 現状、このホラードラゴンに勝つための策はない訳では無い。だがアリスからは絶対に提案したくない方法なので、アリスは黙り込む。そしてハヤテは決断する。

 

「ナザールさんの忘れ形見を試すぞ」

『いちいちあの女の名前を出す意味は無いと思いますが。怒りますよ?』

「すまん」

 

 アリスの怒りを滲ませた声にハヤテは謝罪をしながら、ホラードラゴンからどんどん距離を取る。

 

「何かやる気ですね。いいでしょう、私が見てあげます。そしてその何かが私に敗れ去り、絶望の果てに私のコレクションになってもらいましょう」

 

 ノアはハヤテ達が何かを始めようとするのを察し、ホラードラゴンをその場で停止させた。ハヤテ達の全てを打ち砕いてからコレクションにする気のようだ。そんな言葉を発する後ろで、ゴフェルは口を八の字にして嫉妬している。

 

「ヤバそうなら俺を止めてくれよ?」

『殺してでも止めて差し上げます』

「ありがとう……はっ、」

 

 ハヤテは目を瞑り、元妻ナザールとの生活の裏で芽生え始めたある思いに触れて、それを自らの表層意識に持ってくる。そしてそれを、

 

「チッ! 誰だ!?」

「ノ、ノア様!? 大丈夫ですか!!!」

「黙っていろ!」

 

 発動しようとした時、ノアは勘でエイボンの書を持っている手を守るように逆手を盾にした。すると、その手が何者かの狙撃によって銃弾を浴び、ボロボロの血だらけになる。

 そのあとも断続的にノアの急所を狙った狙撃が行われ、ノアとゴフェルはホラードラゴンから降りた。

 

「今回は見逃してやろう。だが、次回はお前を私のコレクションにする。貴様の名は?」

「ハヤテだ」

「ハヤテ、貴様は色欲の章の一角にでも場所を設けておいてやる。私は必ず全てを手に入れる」

 

 嫉妬顔のゴフェルと遠方を睨みつけるノアは一枚の紙を取り出して、それに吸い込まれていった。その紙は遠方の地にテレポートができる使い捨て魔道具だったようだ。二人を吸収した紙は用済みとばかりに燃え尽きた。

 

「使わなくて済んだか」

『ハヤテ様平気ですか?』

「大丈夫。まだ発動する前だったから」

 

 若干その発動しようとしたモノに精神を引っ張られているが、ハヤテは深呼吸をしながら心を落ち着かせていく。

 アリスは人型になり、ハヤテを支えながら援護をしてくれた仲間の到着を待っていると、数分後に二人の場所に到着した。

 

「随分派手にやられかけてたじゃないか」

「ゾンビとの接し方が分からないのでちょっと困りますー」

「友人にまで接し方が分からないと言われてしまった……俺は接しやすい男だったはずなのに」

「やめてください。今のシドはゾンビジョークを間に受けてしまいますから」

「お久しぶりですミーラ様、シド様。それに援護射撃助かりましたよ梓」

「いいえ、感謝は不要です。仲間を助けるのは当然ですから」

 

 青い肌と肩に『死』という刺青を入れた気さくなゾンビ、シド・バレッド。

 そのシドのパートナーであり、とても死武専生思いな包帯が顔に巻かれた武器、ミーラ・ナイグス。

 黒髪でメガネなアジアンビューティー、あだ名は『キング・オブ・委員長』、そしてデスサイズである弓梓。

 

 その三人がハヤテ達の元に駆けつけた。




戦闘らしい戦闘にはなりませんでした。共鳴技なしでホラードラゴンとか無理なんで。
あと数話で元妻視点まで行ける気がする。
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