蛇の元夫   作:病んでるくらいが一番

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沢山のお気に入りやUA、感想や評価などなどありがとうございます。嬉しい反面胃が痛い。でもその分やる気になります……胃が痛いけど。
あと誤字脱字報告ありがたいです。

そしてまだ出てきませんが事前告知。原作にて性別不明のキャラがいましたが、性別をこの作品では決めています。その性別に決まった理由なんかも作品内で書かれると思います。



第二章:日常
8限目:『解剖』


「チェンジ!!」

「スピリット先輩にそんな権限あるんですか〜?」

「ええい、黙れ。死神様! チェンジいいですよね?」

「うーん、どうしようかな」

 

死神様の本体がいる間で、スピリットはガリガリと書類を処理しながら叫んでいた。そのスピリットを嘲笑いながら、シュタインは更に書類を積み上げる。

 

死神様は事務的な仕事はほぼしない。バランサーだったり、死武専生との会合、別の場所のお偉いさんとの遠距離通話なんかをしている。まず死神様は死武専のトップだが、人が運営している会社とは違い、そのトップはガチの神なのでなんでも許される。

 

ならトップが判断して捺印しないといけない最重要書類は誰が処理をしているのか? それは死神様のパートナーであるデスサイズがやっている。そしてアメリカにある、死武専本部にいるデスサイズはスピリット=アルバーンただ一人。当然彼に全ての書類が舞い込んでくる。

 

そんなスピリットはもう我慢できないと絶叫しながら、彼の元にきた()()()の束をシュタインに見せる。

 

「俺はナンパの仕方とかキャバクラでの楽しみ方を授業として教えたことはあるぞ? だがな、ふざけたあとはちゃんとした授業をしてた!! シュタインはなんで解剖解剖、次は解剖、昼前解剖。昼飯食べたら解剖して解剖。宿題は解剖……ふっざけんな!!」

「いいじゃないですか〜ヘラヘラ」

 

スピリットは見せていた束のいくつかを高らかに読み上げる。死神様が先程から面白げにしているので、ちゃんと認識してもらうために読む。

 

「ちゃんとした学問の授業を受けたい。戦いの為になる授業を受けたい。血の匂いが染み付いて辛いです。体育が全くないのが嫌だ。BIGな俺に解剖とかやらせるな。パパ嫌……もう少し真面目にやれ!!」

 

スピリットは読み上げていた嘆願書を地面に叩きつけ、血涙を流しながらシュタインの胸ぐらを掴みあげる。

胸ぐらを捕まれ、首が閉まっているのに、シュタインはヘラヘラとした笑みを浮かべることをやめない。

そんな二人の()()()()()を死神様は微笑ましげに見ている。

 

そんな中、ハヤテとアリスがこの場に帰ってきた。

 

「ただいま戻りま、」

「シュタインとハヤテ、チェェェェェェンジ!!」

 

帰ってきたハヤテたちと目が合ったスピリットは、シュタインを手放してあらん限りの声で叫ぶ。ハヤテが疑問符を浮かべている横で、アリスはスピリットを無視して死神様の前に移動する。

 

「スピリット様の奇行は今に始まったことではありませんから無視でいいでしょう。動力源となるゼンマイは魔道具保管庫に安置しておきました。後ほどご確認ください」

「ごくろうさーん。報告書はアリスくんが書いてねー」

「僕もう帰ってもいいですか? くけ〜って鳴く鳥(天然記念物)が僕を待っているんですけど」

 

騒ぎの元凶はスピリットの反応にも飽きてきたのか、頭のネジをギコギコしながら気だるげに歩みを進める。

 

「シュタインくん……その鳥を解剖するのは条約違反になるんだけど分かってる?」

「秩序の神の部下であることを、これほどまでにありがたいと思った瞬間はないですね〜」

 

そのまま許可も得ず、シュタインは死神様の間を後にした。自分がいると話が進まないと理解していて、あえて部屋を出ていった可能性も……ない。

 

「それで何がチェンジなんですか?」

「これを読めばわかる!」

 

スピリットはある一枚の嘆願書を丸め、そこら辺に捨ててから『担任(シュタイン)変更に関する嘆願書』を読み進めていく。

 

「シュタインにやらせたらこうなるでしょ。先輩がやりなよ」

「マカが、パパの授業を受けるくらいなら……授業に出ないって!! 俺が出たらマカが不良になってしまうじゃないか! そんなこと出来るかァ!!」

「なるほど……パパ嫌い、ふふ」

「うがあああああ!! それは読まなくていい! まずなんで嘆願書の中にマカの俺に対する思いが入ってるんだよ!!」

 

ハヤテは嘆願書を流し見した。どうやらシドがゾンビ化して生徒に拒否されてから、ずっとシュタインが教師をしているらしい。そして当然授業は解剖しかしないそうだ。

渡された嘆願書を読んだあと、丸めて捨てられていた嘆願書(マカのお手紙)を読みあげる。ハヤテもマカが死武専に出す嘆願書に、父親への気持ちを書く子ではないことは分かっている。このことを疑問に思っていると、アリスが口を開いた。

 

「先日マカ様より父親との意思疎通ができず困っているとの相談がありました」

「……帰ってきて即サハラ砂漠に飛んだんですけど?」

「ハヤテ様たちがキャバクラに行っている間に相談を受けまして」

「なるほど」

 

男が勝手に飲み会をやっている裏では女子会をしていたらしい。スピリットはマカが意思疎通をしたいと思ってくれていると考え、喜びのままに飛び上がろうとした。

 

「皆様がシュタイン様の授業に嫌気がさし、嘆願書を書こうとしていた時に会ったのでこう助言しました。嘆願書は全てスピリット様が受け取ってから死神様に行きます。もし会って言いづらいのなら、書面で想いを伝えてはどうかと」

「……その結果なんで嫌いって書かれてるんだよ!?」

「面と向かって嫌いだと言うのが嫌だから、書面に嫌いだと記したと言っておりました」

「マカァ……」

 

スピリットが鼻水を垂らしながら涙を流し、体育座りで懐から昔のマカの写真を取り出し、現実逃避を始めた。そんなスピリットを放置して、死神様はハヤテに新たな仕事を伝える。

 

「……まあこういう事だからよろしく」

「人に教えるの苦手なんですけど」

「またまた〜。梓くんのことをあんなに立派に育てたじゃないか。スピリットくんをだいたい育てたのはシュタインくん。それと同じように梓くんをだいたい育てたのはハヤテくんじゃない」

「あれは一人だったからで……どうせごり押すんでしょ?」

「オフコース!」

 

死神様はサムズアップして譲歩しないことを告げた。そんな死神様の()()に呆れながらも、教師として教壇に立つことを了承する。

死神様は元妻と出会ったこの街で、ハヤテが変な事を考えられないように忙殺させようとしているとハヤテは思ったが、実際はただシュタインよりも変な授業をしないはずのハヤテを死神様が頼っただけだったりする。

 

「……あっ! 生徒に手を出したら、脳天直撃死神チョップ(本気)だからね?」

「了解です。それじゃあ下さい」

「え? 何が?」

「生徒達のプロフィールですよ。やるからには徹底的にやらないと」

 

どこからともなく(アリスが渡した)取り出してきた眼鏡を掛け、ハヤテはキメ顔でそう言った。なおこの眼鏡は結婚する前の誕生日に、梓がくれたペアルックな眼鏡だったりする。

 

 

***

 

 

「……ということがありまして、俺が新しい教師のハヤテだ。最強の職人のシュタインやデスサイズのスピリット先輩に比べたらインパクトはないけど、そこんとこよろしくね」

「……」

 

生徒達は新しい教師に身構えていた。

 

「それじゃあ出席を取っていく……」

 

だが、出席で女の子しか呼ばない教師(スピリット)だったり、教室に椅子を倒しながら入ってきて、カエルの解剖をすることを伝えてきた教師(シュタイン)とは違い、普通の教師であることに安堵した。

スピリットの失敗があったからこそ、死神様は事前に女性関係に関する禁止事項を作っていたため、それ以外は基本的に普通なハヤテは普通の教師としてのスタートを切った。

 

「えーと……明日には新入生が来るそうですが、その前にそうだな、面談をしようか」

「……何に関して面談をするんですか?」

 

マカが少しだけ嬉しそうに手を挙げながら質問する。勉強好きなマカにとって、解剖だけの授業は割と辛いものがあったようだ。それに比べてハヤテは昔からいい人であり、変なことはしない人だとマカは認識しているので安心している。

もちろんハヤテの女関係の裏のあだ名は知らない。

 

「これから授業を行っていくにあたって、勉強が出来ねえ奴やできる奴なんか色々いると思う。そういうのを早期に知っておき、然るべき対処をする……というのが普通の教師だろう」

「てめぇハヤテ!! 普通じゃねえことして目立つ気だな!!」

 

ブラック☆スターがハヤテに噛み付くが、彼に関わっていては時間が足りないので無視をした。

 

「ペア毎に個室に来てもらって軽い雑談をする。皆の性格とかを知っておきたいからね。ただそれだけだから……もちろん変なことを言ったからって成績を(最低評価)にしたりしない。ただ皆が俺を、俺がみんなを知る機会を作ろうかなと思ってね」

「自分達を知らない人に評価されるより、知ってもらってから評価してもらった方がいいな」

「面談を待っている人達や終わった人達は何をしていればよろしいですか!?」

 

スピリットのまとめた生徒一覧の情報には、雷を操る優秀なペア(ただし男だから減点)と書いてある。職人が奇抜な髪をしているペアが声を上げた。

 

「自習をするなり、体を動かしていてもいい。運動場の予約は取ってあるから、面談の時間に遅れなければ何をしていてもいい。ちなみに一番最初のペアはマカとソウル。明日からはちゃんとした授業を行うからね。それじゃあ一旦解散!」

 

解散の合図とともにソウルを除いた大半の男の子達が教室から出ていった。運動が好きな女の子も同じように出ていく中、奇抜なヘアーなオックスはチラチラとある女の子を見ている。そんな彼を微笑ましげに見ていると、マカとソウルが来たので面談室へと向かった。

 

面談室に向かう途中、パンツ以外履いていない気絶した男が、仲間たちに運ばれてこちらに戻ってきた。

 

「どうした?」

「ブラック☆スターにこの前やられたからって不意打ちしようとしたこいつがまたボコられただけですよ」

「……あー、この前不意打ちされた奴か。保健室に連れていくのか?」

「そうっす。今の時間ならメデューサ先生もいるからぶん投げてすぐ戻ります」

「はいよ。怪我はしていいけど死ぬなよ」

「はーい」

 

気絶した男の子を神輿のように担いで遊ぶ集団が保健室に入っていくのを見てから、ハヤテは再び歩みを進めた。

 

 

 

 

 

気絶した仲間をぶん投げた男子達は、逃げるように保健室から出ていった。そいつらを追いかけるように保健室の入口から廊下に顔を覗かせる保険医、生徒達にメデューサ先生と呼ばれていた女性だ。

 

「こ……、ふふ、ふふふふふ。そう、帰ってきたのね。待っていたわ。あ、な、た」

 

その彼女の顔は普段の物静かなメデューサ先生では絶対に見せない、舌舐めずりしながら瞳孔の開いた目で背中を向けて歩く、ハヤテ達を見つめていた。

 

 

***

 

 

「それじゃあ始めていくけど、マカちゃんのことはよく知ってるし。どうしようか?」

「ソウルの前でその呼び方は」

「お、お前、マカちゃんなんて呼ばれてるのか、くははははっ」

「うっさい!」

「ごふっ……」

 

面談と言っていたのに来たのは談話室。各国の雑誌から漫画、ビリヤード台やダーツ台。大きな姿見から暖炉まで置いてある部屋で、互いを遮るテーブルすらない対面するソファーに三人は座り、ハヤテが話し始めた。

そしてハヤテがいつものようにマカを呼んでしまったせいで、ソウルはマカチョップの餌食になった。無念、ソウルはしくってしまったようだ。

 

「そうか、マカは友達の前ではこの呼び方されたら恥ずかしがるくらい女の子になったのか。なんだか複雑だな」

「…………あ、あのこういうのも」

「すまんすまん」

 

倒れるソウルに近づいて軽く見たあと、ハヤテは近くにあったマカの頭を優しく撫でた。そして指摘されてから手を離す。

ああ、昔は頭を撫でながらお話をするだけで、あんなに笑顔だったマカがこんなに大きくなったのか。そしていつかは男に喰われるんだろうな……なんて想像して少しだけハヤテは落ち込んだ。まんま考えていることが父親である。

 

撫でられていた時は嬉しそうな顔をし、その手が離れた時に物足りなさそうな顔をマカはしていたが、勝手に想像して勝手に鬱になっている、おじさんと呼ばれたくない男は見ていなかった。

 

「マカと、」

「ソウルは気絶してるからいつものでいいですよ」

「そうか、マカちゃん達は元々悪人の魂を99個集めたんだよね?」

 

そこからマカはいままでどんな冒険をしてきたのかを話し始めた。昔自分がハヤテの冒険譚を聞いたように、今度は自分が聞かせるんだと張り切りながら説明を始める。

そして話すこと数十分。

 

「……でも狩った魔女は猫で、最初からやり直しになっちゃいました」

「なるほど。そのあとシュタインとも戦ったんだよね? どうだった?」

「…………怖かったです。その時から魂感知が出来るようになって、尚更怖かった。でも私のパートナーが守ってくれて」

「いい子じゃないか」

 

気絶しているソウルを寝かせるために、マカと同じソファーで座っていたが、話も一段落したのでソウルを優しく起こす。他のペアとはここまで沢山の時間は使わないが、成績に関係ない面談なので多少の身内贔屓は問題なかろう。スピリットが多少だる絡みをしてくるだけだ。

()()()()をしていたソウルはすぐに目を覚まし、マカの隣に座った。

 

「マカから君たちの戦いの軌跡を聞いたよ」

「武器の俺が話すよりもわかりやすいと思うし、いいんじゃね?」

「そこら辺は職人の俺には分からないけど、君たちがちゃんと信頼しあっているということが分かった……それで怒らないで欲しいんだが、武闘派の魔女ともし戦うことになれば、マカとソウルは殺されるだろう」

 

ハヤテは真面目キャラといえばメガネという、安直な考えのまま付けていたメガネを外し、二人に殺意を向ける。

マカはあの時、シュタインの魂を覗き込んでしまった時と同じように、ハヤテの魂を見てしまった。

 

(もしハヤテさんが私たちを本気で殺そうとしたら、数秒後にはおっ死んじゃう。それくらいレベルに差があるんだ)

 

今回は魂を見せただけではなく、強力な殺意を向けたためソウルもその場で動きを止めた。前にシュタインの魂を見て、マカが動きを止めたのはこういう意味だったのかと心が折れかけている。

そんな二人の頭を優しく撫でると、二人は何とか正気に戻った。

 

「武闘派の魔女は今くらいの圧力は平然と出してくるよ。まあ二人が魂の共鳴をしていたら、今のに対抗出来たかもしれないけど、問題はそこじゃない。二人はまだ魔女狩りを自由に扱えない。そうだろう?」

「……は、はい」

 

ソウルは撫でてくる手を振りほどこうとするが、ハヤテの力に負けてそのまま受け入れた。それを見てマカも同じように撫でられ続ける。

 

「二人がやらなければいけないことは魂を強くすることだ。それには互いをもっと知って、魂の共鳴率を高めなければならない。逆にいえば互いを理解し、共鳴率を高められれば魔女狩りも簡単に扱えるようになる」

「……具体的にはどうすれば強くなれるんだ?」

 

ソウルはシュタインに手も足も出ず、武器である自分が身を晒すしかなかった事実を思い出し、先程の殺気に屈してしまった自分を戒めるように歯を強く噛み締める。

目の前の、マカがやたら信頼している新任の男が教えてくれるというなら、なんだってやってやるとと意気込んで聞いた。

 

「……あー、これって俺が実際にやったわけじゃないんだけど、これをやった子がデスサイズになった方法ね。元々はあのネジ男の考えた方法なんだけど……二人は喧嘩をしなさい」

「は?」

「喧嘩なんかしたら逆に魂が離れませんか?」

 

信じ合うことが武器と職人を強くする。それなのに喧嘩など意味があるのか? と二人は疑問を口にする。

 

「二人は共同生活をしている。共同生活だからこそ相手に言わない不満点とかがあると思う。どんなに細かいことだっていい。相手に不満に思っていることを言う。どんな事でもいいから喧嘩をしてみてくれ。ただし! 夜飯前には言い過ぎたことを謝り合って、一緒にご飯を食べること!」

「そんな事で本当に強くなるのかよ」

「弓梓というデスサイズがこれをやって、確実に強くなったから間違いない」

 

この方法で強くなった人、それもデスサイズも試したのならやってみるかとソウルも思えてくる。

マカは疑問に思ったが、ハヤテがこういう事で嘘をつく人ではないことは分かっているので強く頷く。日付を決めた約束をすっぽかして会いにこない事ならしょっちゅうあったが。

 

その後、二人に次のペアを呼んでもらうようにお願いし、二人は部屋から出ていこうとした時に、ハヤテが呼び止めた。

 

「二人とも!……いや、考えるのが好きなマカちゃんだけでもいいんだけど、宿題を出してもいい?」

「やらなくていい宿題なら俺はやりたくねえんだけど」

「私はやります!」

 

早く運動場へ遊びに行きたいソウルはチラチラと外を見ながら答え、マカは笑顔で手を挙げる。

 

「……魔女は悪なのか」

「え?」

「全ての魔女が等しく悪であり、狩らなければいけない存在なのか。これをレポートで纏めて出して欲しい。どっちの考えで書いてもいいし、期限は特にないから」

「んだよその宿題。悪に決まってんだろ。行くぞ」

「う、うん」

 

マカはハヤテを見つめるがそれを彼は無視する。そんなマカに痺れを切らしたのか、ソウルが手を引いてその場を後にした。談話室の一角がキラリと光る。




次回は週末か月曜には投稿したい。
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