蛇の元夫   作:病んでるくらいが一番

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感想にてミフネがおかしくね?という指摘がありました。ミフネは原作ではNINJAやSAMURAIに憧れて、ミフネと名乗っている外人さんです。
この作品ではミフネは容姿は変わりませんが、日本の三船という家から生まれたことになっています。独自設定です。そういえばアリスも金髪ですね。

二つ目はNOTは絡めるつもりはありませんでしたが、要望もありましたので出すことにしました。その影響で今回も面談が終わりませんが、週末中には終わらせるつもりですので、ご了承ください。




第9話:2つの☆が集う

 マカ達に難題を投げかけた後、いくつかのペアとハヤテは面談をした。ハヤテ自身も手塩をかけて育て、才能自体もあるマカと比べるとパッとしない子たちばかりだった。俗に言うモブだ。

 それでもおざなりにならないように、これからのこの子達のことを考え、色んな話をした。

 

 だが、『魔女は悪なのか?』という問いはマカペア以外には未だにしていない。

 本来はする気がなかったその質問は、ハヤテが信頼していて、ちゃんと考えてくれそうなマカだからこそ、口が滑ってしまったのかもしれない。

 

「次は……ああ、こいつか」

 

 内心ダレてきていた心を引き締めてくれる相手が来ることがわかり、ハヤテは顔にシュタインがいつもしているような笑みを浮かべた。

 

 

 ***

 

 

「……」

「ブラック☆スター!……もう、疾風先生よろしくお願いします」

「ああよろしく。ブラック☆スターと中務椿だね。軽くでいいから今までやってきた事の説明をしてください。こんな戦いをしたーとか、友人とこんな面白いことをしたなんかでも構わないから」

 

 いつもなら名乗りを上げながら登場するであろうブラック☆スターだが、談話室に入ってきてハヤテを睨みつけてから、ソファーに座ってそっぽを向いてしまった。

 椿はそんなブラック☆スターに声を掛け、挨拶をしてからソファーに座る。

 

「てめぇに俺の偉大な歴史を語るか! 帰るぞ椿!!」

「だ、ダメだよ!」

「なら俺様一人で帰る」

 

 死武専のEATクラスの子達なら、何かしら話せる内容があるので、それを聞いてから話の方向性を決めていたハヤテだったが、今度はその方法では上手くいかないようだ。

 ブラック☆スターは椿に命令し、椿がそれを拒否するとそのまま帰ってしまった。

 

 椿はハヤテとも知り合いだが、別段ブラック☆スターに嫌われるような人ではないと知っている。だが、ハヤテが教室に来て、担任をやると聞いた時のブラック☆スターは少しだけ怖かった。

 ハヤテやアリスと会う時はブラック☆スターが大抵居ない時に会っていたから、こんなにブラック☆スターが嫌っている事を知らなかったのだ。

 

「……ハヤテさん」

「ブラック☆スターとの関係についてを聞きたいのかな?」

「お願いできますか?」

「いいよ。それを語るには星族過激派の皆殺しから話さないといけない」

 

 ハヤテは少し長くなるからとお茶を入れ、椿にも渡してから話し始めた。

 

 

 

 死武専がホワイト☆スター率いる星族過激派を皆殺しにした話は割と有名である。だが、死武専は星族以上に過激で秩序を乱す者達も皆殺しにしている。

 それが広まらないのは情報統制などもあるが、悪を正義が駆逐したという、一過性に富んだ話題だったので長続きしなかった。

 ホワイト☆スターの件はホワイト☆スターと星族が有名だったから広まっただけなのだ。被害自体も星族がトップクラスで出していたのも大きい。

 

「なんで死武専の最強の職人はまだ30にもなっていないシュタインなのかわかる?」

「……シュタイン先生がそれだけ強いからですか?」

「いや、俺たちは元々最強格ではなかったんだよ。ただ動乱期を耐え抜いて生きていたのが俺やシュタイン、シドだけだったってだけ。他にも生き残った人達は沢山いるけど、強い人で生き残ったのはこの三人くらいだね」

 

 依頼の受付をしている数十年前から容姿の変わらないおばさんなんかもいるが、今ハヤテが言っているのはバリバリの職人達のことだ。

 椿はその強い人たちのおかげで今があるという優しい考えに至ったが、ハヤテが真実を伝える。

 

「俺たちよりも強い人たちは皆が悪人の皆殺しに心が折れたり、発狂しておかしくなったり、死神様を殺すための妖刀になった」

「……え?」

「星族の過激派にだって悪人じゃない人達はいたんだよ。ほかの過激な奴らも同じ。嫁に来て真実を知らされていなかった女性。まだその集団の闇を知らない青年。共にいるからってだけで悪人と一緒に狩り続けた」

 

 椿が驚きのあまり口を抑えて悲しげな顔をしているが、ハヤテは話を続ける。

 

 憎しみは連鎖する。

 故に死神様は皆殺しを指示した。

 

 ハヤテ達よりも強く、昔から死武専にいた人たちはその殲滅戦に対して疑問に思い、反旗を翻した。発狂して人として死んだ。死神様を超えるために妖刀になった。

 

「……それら全てを俺やシュタインやシドが殺した。たまたまだったんだよね、ブラック☆スターが生き残ったのは。たまたまホワイト☆スター達が最後の殲滅対象で、戦いが一旦終わるからこそシドはブラック☆スターを、自分を裁いてくれるかもしれない子として育てることを決意した……俺はそう思ってる」

 

 ホワイト☆スターを殺した時点で残っていた強い職人はその三人だけだった。

 シドは自分がやった事が正しいことなのか分からず、狂気に飲み込まれそうになっていた。

 シュタインはあれから更に解剖へとのめり込んだ。

 

 そしてハヤテは……全く何も変わらなかった。武器であるスピリットもミーラも多少は変わったのに、アリスも全く変わらなかった。

 

「今のシド先生はそんな風に思っていないと思います。ブラック☆スターを保護する時はそんな考えだったかもしれません。でも、ブラック☆スターを見るシド先生の目はとても優しいんです。どんなに馬鹿をやっても。それにブラック☆スターは直接口にしませんけど、シド先生が大好きですから」

「……君は強くなれるよ」

「えっと、頑張ります」

 

 こんな話をすれば必ず人はハヤテから少し距離を取る。平和な今の世にそれだけのことをした奴なんて悪人側にもいない。

 だが椿はそんなハヤテから目を離さず、真摯に受け止めていた。

 

 こんな子だからこそ、あのブラック☆スターについていけるのかとハヤテは感心しながら、椿の頭を軽く撫でる。

 椿は恥ずかしいような、照れくさいような、いくつか表情を変えてから撫でる手に頭を委ねた。

 

「……あと五年早ければな」

「何がですか?」

「いや、何でもない」

 

 絶対に手を出していたとハヤテは思った。もちろん今のハヤテは教師なので、生徒に手を出すような真似は絶対にしない。それがハヤテに課せられた秩序だから。

 

「……あの、なんでハヤテ先生がブラック☆スターに嫌われているかって聞きましたっけ?」

「いや、ここからだよ。と言っても簡単なもんだ。シドはブラック☆スターに甘い親になった。激甘で全然怒らない。だからこそ俺はブラック☆スターに強く当たったんだよ。ひたすら厳しくして、しかもブラック☆スターを強くするためにボコボコにもした」

 

 大の大人がまだ幼稚園児程度の子供に、死武専でやっている戦闘訓練やらせたりした。

 当然ブラック☆スターはついて行くことすら出来ない。

 

「でもブラック☆スターは子供の頃から自尊心が強くてね。一度も諦めなかった。だから俺は更にきつくしていじめ抜いた」

「うわっ……」

 

 動乱期の話では引かなかった椿だったが、ブラック☆スターのまだ子供だった時に、ボコボコにしたという話には思いっきり引いている。

 ハヤテは()()()からくる確実に強くなれる方法を試しただけだったのだが、ブラック☆スターにはそれで嫌われてしまった。

 今のハヤテならわかる。あれはやり過ぎたと。

 

 ハヤテは咳払いをして、場をリセットしたあと面談を終らせにかかる。先程から椿の目が結構痛いのだ。

 

「椿には先に言っておく。ブラック☆スターが悪に堕ちる強さを得ようとしたら、俺は容赦なく殺すから」

「……はい」

「椿が妖刀になったとしても、中務だとしても容赦なく殺す」

「はい!」

「だからこそお願いだ、道を踏み外さないでくれ。君たちだけじゃその時勝てない敵もいつかは倒せる。逃げることは恥じゃないとちゃんと覚えて、ブラック☆スターを制御してあげて」

「分かりました。貴重なお話、ありがとうございました」

 

 ハヤテは自分の義理の息子を殺したくないし、そのパートナーの子を殺したくはない。そんな思いがあったからこそ、ブラック☆スターに今も強く当たっている。

 椿はそんなハヤテの思いをちゃんと理解し、頷いてから部屋をあとにした。

 

 

 

 椿が部屋をあとにすると、ハヤテはソファーに深く座り込む。

 

「言い過ぎた……いや、しょうがないよな。中務は俺やアリスにとって呪いみたいなもんだし、ブラック☆スターはギリの息子だし」

 

 中務がいたから三船が出来た。中務が居なければ三船の業は生まれなかったとハヤテは思っている。

 

 そしてハヤテはブラック☆スターにどうしても自分を重ねてしまうのだ。

 粛清された一族の息子と粛清されるべき一族の息子。もし動乱期に三船が死武専に見つかっていれば確実に皆殺しだったはずだ。ただ運良く免れただけだ。

 

 ハヤテは気持ちを切り替えるために、熱いお茶を一杯飲んだあと、次のペアはどんな人達だったか確認する。

 

「また濃いな。胸焼けしそう、てかまーた星族か」

 

 そこには()()の女の子ペアの名前が書いてあった。

 

 

 ***

 

 

「春鳥つぐみです。三船疾風先生は日本出身ですよね?」

「そうだよ。もし日本の料理が作りたくて道具がなかったりしたらいつでも言ってくれていい。うちにはそれらの道具は一式あるからね。死武専には各国の料理はあるくせに道具は売ってねえからな」

「……もしかしてお餅をペったんぺったんこするあれとかありますか?」

「杵と臼だな、当然あるよ。もち米もある」

「おおおお! ()()とも! 前に言ってたお餅つき大会が出来るよ!!」

 

 新しい担任があのシュタインのような変人ではなく、同郷の人で、デスシティーでは見つからなかった道具があることが分かり、テンションを上げるつぐみ。

 そんなつぐみを微笑ましげに見る三人は、ひとしきりつぐみを愛でたあと自己紹介を始めた。

 

「アーニャ・ヘプバーン。『槍』の部分を使うのが得意です」

「多々音めめです。『斧』の部分を主に使うのが得意です」

「星野蒼です。ハルバードの『鎌』の部分を使うのが得意ですッ☆」

 

「うーん、濃い」

 

 ハヤテが席に座るように促すと、誰がつぐみの隣に座るかのじゃんけん大会が始まり、勝者は蒼とアーニャだった。負けためめは落ち込みながら、アーニャの横に座ろうとしたが、

 

「おいで!」

「つぐみちゃん!!」

 

 つぐみの開いた股ぐらに座り、敗者が勝者となった瞬間だった。

 敗者のくせに一番いい思いをしているめめを、アーニャと蒼は羨ましげに睨んでいるが、これ以上漫才に付き合っていると話が進まない。

 ハヤテは咳払いをして話し始めた。

 

「君たち、蒼を除いた活躍はシュタインから聞いた。あのゴーゴンの一人の倒したそうじゃないか」

「二人がいたからこそです!」

「つぐみさんがいたからこそですわ」

「そうそう、つぐみちゃんがいたから私は救われたんだよ?」

「そう……かな?」

「……お力になれず申し訳ございません」

 

 三人が三人を褒め合う中、その時はまだつぐみのパートナーになってなかった蒼は落ち込みながら頭を下げた。

 

「蒼ちゃんはこれからだから! 蒼ちゃんの魂威に助けられた事なんて何度もあるよね?」

「魂威の技術を使って、一瞬で共鳴率を引き上げる蒼さんの技はオンリーワンですわよ?」

「そうだよ! それに比べて私なんて操られて迷惑をかけちゃって」

「めめちゃんは、」

 

「ストオオオオプッ!! イチャイチャし合うのはいいが、今は面談中だ! つぐみは俺の横、アーニャとめめと蒼はそっちのソファーに座りなさい!」

「「「はい!」」」

 

 ハヤテの迫力に負け、三人は素直に従った。残りの四人目のめめはつぐみの股ぐらのポジションから最後まで出たがらなかったが、つぐみが『あとでなんでも言うことを聞いてあげる』という条件に陥落した。

 蒼とアーニャはまた一人勝ちしためめを間に挟み、可愛らしい嫌がらせをしている。そんな嫌がらせにめめは我慢できず吹き出すが、ハヤテは絶対それに反応しない。

 

 女が三人集まれば姦しいというが、昔のハヤテだったらうまく流れを持っていけてたかもしれない。自分の年齢やノリの良さに衰えを感じ、若干危機感を抱きながらも、未だに二十代前半の容姿を保っている事実を思い出して安堵する。

 アリスが前にボソリと『魔女肌』とか言っていたが、何となくそれだと、肌年齢が低そうで嫌だったりする。

 

「君たちの活躍は聞いているし、今見た限り仲も良さそうだね。喧嘩とかしてる?」

 

 仲が良いペアは更に強くなるには思う存分喧嘩をするに限る。そんな思いから口に出したのだが……

 

「めめちゃんが勝手にご飯食べちゃった時とか?」

「つぐみさんが海藻なんてものを食べさせようとした時ですわ」

「蒼ちゃんが裸でつぐみちゃんのベッドに侵入した時は許せなかった!」

「アーニャ先輩が共有資産で変なものを買ってきた時ですッ☆」

 

 四人は順番を考えず、一気に四人が口を開いた。そして互いが互いを見つめ合う。どうやら互いに言った言葉は聞き取れたようだ。

 

「あの素晴らしい物達の価値が理解できない蒼さんの愚かさにはほとほと呆れますわね」

「お腹が減ってたから……でもあの時はアーニャちゃんが勝手に私のお菓子を食べたから!」

「海藻は食べ物なの! タコだって化け物じゃないのに、そんなものを食べる人とは一緒に暮らせないとか言うし!」

「全裸で入っていませんけどねッ☆。つぐみさんが脱がせてきたんですよ?」

 

 ハヤテはまたやってしまったようだ。

 

「日本人だけどタコだけはダメ。アーニャちゃんはサソリのオブジェなんて買ってきて、もしかして私を虐めたい? ゴーゴンなんかに言い様にされてとか思ってるんだ」

「私は脱がせてないからね!? 蒼ちゃんが勝手に脱いで脱がせようとして!!」

「あれは私のお金で買ったものであって、めめさんのものではありませんよ? 結局蒼さんが脱がせていたのではありませんか!」

「めめ先輩も全裸で夜這いをかけたんですから、おあいこですよねッ☆☆」

「もしかして、庶民は夜這いをかける風習が!?」

「めめちゃん! 好き嫌いは駄目だからね! サソリを言い訳にして嫌いなものを残そうとするし!」

「あの日はちょっと暑くて無意識に脱いじゃっただけで。そんなこと言ったらアーニャさんだって」

 

「アリスゥゥゥゥゥ!! ヘルプッ!!」

「畏まりました。少し教育を致しますのでハヤテ様は部屋から出てください」

「頼む」

 

 ハヤテは自分だけでは対処できないと悟り、大きな声でアリスを呼んだ。そのアリスはハヤテの真横にいきなり現れ、チョークを四人同時に投げて沈黙させた。額に当たったチョークの痛みで呻いている四人の横で、アリスはハヤテを部屋から出した。

 

 ハヤテは談話室から少し離れた壁に寄りかかり、溜息をつく。そして思う。

 

「ハーレムに憧れるスピリット先輩はやっぱりすげえわ。俺は複数の女性の制御とか絶対に出来る気がしねぇ」

 

 首元の傷を抑える血塊がハヤテの言葉に突っ込むように、軽く痛みを発生させるのだった。

 

 

 

 そのあと少ししてアリスがハヤテのもとに来たので部屋に戻ると、アリスは職人三人に『お姉様』と慕われていた。

 どんな教育をしたのかとハヤテは聞いたところ、

 

「女性同士の明るい未来はこのデスシティーにはある事。そして焦ればミョルニル(行き遅れた)デスサイズ(代表)みたいになると教えこんだだけですよ?」

 

 ハヤテはアリスの攻め(魔法の言葉)に負け、更に貸しがひとつ増えた。ミョルニルには勝てなかったよ……。

 

 

 

 後日、ハヤテは四人を街中で見つけた。周りの人が言うには、家を買うために必死に働いているとか。

 訓練のために()()()()()()()()()()()家を買うべく努力をしているそうだ。ハヤテはしっかり裏の意味を理解し、死神様学生ローンというEAT限定の特別ローン方法を教えるのだった。




三連休中には次回更新予定。
容姿の説明が全然ありませんが、それを書いていると文字数が酷くなるので省いています。申し訳ございません。

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