「単刀直入に言う。俺を弟子にしてくれ!」
クリスと盗賊団の活動の約束をした次の日、俺は上級魔法をはじめとする多種多様な魔法を教えてもらうために、アクセル一の魔法使いの元にやってきていた。
「ええっ!で、弟子ですか・・・・・・・。時間のある時に魔法を教えるのは一向に構わないのですが、私にもお店がありますし・・・・・・。弟子を取ること自体には憧れがなくもないのですが・・・・・・・」
もちろんその魔法使いとはウィズのことである。めぐみんも大魔法使いではあるが、あれは当たれば勝ちのギャンブル魔法しか使えないので例外である。
上級魔法を教えてもらうだけならゆんゆんに頼んでもよかったのだが、俺はリッチーのスキルも欲しいのでウィズに頼むしかない。お店があるとのことで俺の弟子入りを断っているウィズだが、弟子を取ることに憧れがあるのか、ウィズはあと二押しぐらいで承諾してくれそうだ。
「前にウィズが魔法を使った時を見て思ったんだが、ウィズって本当に凄い大魔導士だよな。若くて美人だし、大人で優しいし。俺が知ってる中で最高の大魔導士だと思うよ」
「そ、そうですか? わ、私なんてまだまだですから……!しかも若くて美人だなんて・・・・・・」
俺の言葉に照れて慌てているウィズは、まんざらでもなさそうな表情をしている。あと一押しで引き受けてくれそうだ。しかし、店の奥から出てきたバニルが余計なことを言う。
「おっとそこのハーレム小僧よ、貴様の言う若くて美人の大魔導士とは一体誰の事であるか?ここにいるのはとっくに結婚適齢期を過ぎ、実年齢がおばあさんの域に入りつつある店主しかおらぬが。おっとその悪感情、大変美味である。フハハハハハハハハハ」
「おいふざけんなよてめぇ!せっかくあと一押しでウィズを説得できそうだったのになんてことを言ってくれるんだよ!」
「・・・・・・・バニルさん。何度も言いましたが私は20歳です」
ピシッっという音とともに俺の前にあったコップの中の茶が凍り付く、ウィズは魔力を練り始め、空気が張り詰める。頼むから流れ弾をこっちに当てないでくれよ・・・・・・?そんなことを祈っていると、バニルが呆れたように口を開く。
「・・・・・・だから店の中で魔法を使うなといつも言っているであろうが。それにだな、実際問題貴様がこの小僧の師匠になられると困るのだ。店はどうするのだ?貴様は吾輩との約束を破る気であるか?」
「うっ、それは確かにそうですね。仕入れを担当している私がいなければお店は成り立ちませんもんね・・・・・・・」
「いや?負債生産装置の貴様に求めるのは店番だけであるが。というわけで小僧、貴様の要望は叶わぬ。この店主にはやらねばならぬことがまだまだ残っておるのだ。もっとも、この大量の不良在庫を掃けさえすれば店主にも暇ができるであろうがな」
そう言ってバニルは俺の方を見てくる。・・・・・・・こいつ、最初から俺に不良在庫を処理させる気だったのか。まぁアンデッドの王であるリッチーにスキルを教えてもらう授業料と考えれば安いくらいか・・・・・・。魔王討伐報酬もあるから金ならいっぱいあるしな。
「それじゃあ、授業料としてウィズの店の売れ残りの品を全部買い取るってのでどうだ?それならウィズにも時間ができるだろ?」
「へい毎度!おいそこの人間でもないのに人間の弟子を望む店主よ、さっさと才無き小僧の師となるがよい!」
「ええっ!?店はどうするんですか?というかカズマさん、うちの店の在庫を全部買い取ってくれるんですか?」
「金さえ入れば貴様などいらぬわ!フハハハハハハハ!先日、小僧がマナタイトを買った金を合わせてこれでかなりの金額になるな。この街にカジノを作る計画を進めても良いかもしれんな!フハハハハハハハハハ!」
俺から金を巻き上げたバニルは実に愉快気に笑っている。でも、どうせいつものようにウィズに使い込まれるんだろうなぁ。ほぼ確定しているであろう未来に思いを馳せていると一つの考えが浮かんだ。もしかしたら俺に負債生産装置を押し付けてその間に大掛かりな商売を始めるつもりなのかもしれない。・・・・・・さすが見通す悪魔だな。
こういうわけで、ウィズは一時的にお店をバニルに預け、しばらくの間俺の師匠となってくれることになった。
★★★★★★★★★★
ウィズが俺の師匠となってから一週間が流れた。
朝は早起きして魔法の素振りをし、昼からはウィズの手ほどきを受ける。そして夜は魔法関連の書物を読み込み、早めに眠りにつく。日本でヒキニートをやっていたころには考えられないほど勤勉で真面目な生活を送っていた。正直いって家でダラダラしているのが至高の幸せだと思っている俺には似合わない生活だ。こんな生活を送っているのにはいくつか理由がある。
まず一つ目として、単純に魔法の習得難易度が高かったことだ。単純に、名前を叫べば発動する初級魔法。ちょっとした手順が必要な中級魔法。このあたりの言ってしまえば誰でも使える魔法と違って、上級魔法はその習得だけでもかなりの難易度を要する。上位魔法は魔法ごとの身振りや専用の詠唱、魔力の流れなども正確に習得しなければならない。それに、いくらスキルを覚えるだけで魔法が使えるとはいえ、しっかりと魔法の動作や仕組みを理解している者としていない者では大きな差が出るのだそうだ。そのため、ウィズに宿題として魔法の素振りと魔導書の読み込みを課せられたのだ。
そして二つ目だが、ウィズが想像以上の魔法ガチ勢だったことだ。そのため俺も真剣にならざるを得なかった。
「それではカズマさんに質問です。多数の陸上に生息するモンスターと相対した時、どのように対応しますか?」
「ええっと・・・・・・・確か、ボトムレス・スワンプで足止めし、範囲系の大技で仕留める。・・・・・・で合ってますかね?」
「・・・・・・・50点、といったところでしょうか。陸に足の着いたモンスターを足止めをするところは良いのですが、時間のかかりすぎる大技は相手に脱出させるチャンスを与えることもあり、有効打にならないことがあります。こういう時は早めの魔法で、集団の外側の敵の足を重点的に負傷させるといいですよ。そうすれば内側の敵は出られなくなり、大きなチャンスが生まれます。他にも―――――」
それらは普段の温厚なウィズからは考えられないほど、戦略的でガチな戦術だったり・・・・・・
「それでは今日は私の得意魔法でもある『カースド・クリスタルプリズン』についてお話しますね。この魔法は、古代の魔術大国ザーディアスで開発されたと言われていまして――――――」
必要なのか分からないような魔法の歴史の話だったり・・・・・・・・
「今日紹介する魔道具はこちらです!これって私のオススメなんですよ!食べるだけで防御力がとんでもなく上昇するというキューブです!」
見たこともない謎の魔道具の紹介だったり・・・・・・・。というか最後のは関係ないだろ。それにウィズのオススメの商品ってことは絶対ろくでもないデメリットがあるに決まってる。ちなみにそのマジックアイテムは食べると防御力が上がる代わりに、普通の人だと気絶するレベルの激痛に襲われるというアイテムだった。・・・・・・ダクネスが欲しがりそうだし買っておくか。
そして最大の理由は・・・・・・
「それでは今日はここまでです。お疲れさまでした!最近カズマさんはかなり真剣に鍛錬に取り組んでくれてるみたいですね。師匠の私としても嬉しいです。この調子で頑張ってくださいね?」
「は、はいっありがとうございます、これからも頑張ります!ウィズ先生!これからもよろしくお願いします」
自分でも似合わないことを言っているのは分かるのだがこんなことを言っているのは、ウィズの褒めて伸ばす方針に俺がどっぷり浸かってしまったからだ。いざこの状況になって初めて分かったことなのだが、俺は褒められることに心の底から飢えていたらしい。確かに今思えば、この世界を生きてきてカスマだのクズマだの罵倒された覚えはいっぱいあるのに、褒められたことなんて殆どなかったな。
しかもこの状況はよく考えると、美人で巨乳のお姉さんに毎日家庭教師をしてもらっているようなものだ。そんな中で頑張れば頑張った分だけ、お世辞かもしれないが先生に褒められるのだ。恋愛云々はともかく、この状況を喜ばない奴なんてそれこそ男じゃないと俺は思う。
―――そんな訳で気合を入れて朝から魔法の詠唱の練習をしていると、ダクネスが心配そうに俺に尋ねてくる。
「なぁカズマ?お前が自主的に努力するなんていったい何があったのだ・・・・・・?私は不当な権力の行使はしないつもりだが、お前が困っているようなら手を貸すのもやぶさかではないぞ?」
・・・・・・・は?
「いや、別に何もないけど? 俺は数多の魔王軍幹部に加えて、魔王すら倒した勇者カズマさんだぞ? そんな勇者が鍛錬をしてたって何もおかしくないだろ?」
「はぁ、お前でなければ何も思わないのだが。・・・・・・いや、努力すること自体はいいことなのだが、カズマがやっていると考えると奇妙でな。」
失礼にもほどがあるだろ!謝れ!俺の努力に謝れ!湧き上がる怒りに任せてダクネスを睨みつける。
「おいふざけんなよ!こんなに頑張ってる俺の行動が奇行に見えるのか?そんなに俺が努力するのがおかしいのか?」
「ああおかしいとも。カズマという男は金を得れば怠慢になり、冒険者の責務も果たさず家でダラダラし、風呂上がりの私に嘗め回すようないやらしい視線を向けてくる、そんな鬼畜男のはずだ。それが今のお前はなんだ?毎日早起きして鍛錬に励み、昼は真面目に討伐クエストを果たし、夜は必死に勉学に取り組む。私の知っているカズマはそんな男ではなかったはずだ!」
こいつ!言わせておけばいい気になりやがって、そもそも今回は本当に文句を言われる筋合いはないはずだ。
「真面目になったんだったらいいじゃねぇかよ!お前はダラダラしてる俺にいつも文句言ってくるくせに、真面目になっても文句を言うんだな。どっちかにしろよこの融通の効かないドMの変態が!」
「くううううぅぅぅぅぅ、この容赦ない罵倒!やっぱりお前は私の知っているカズマだったのだな」
こいつの判断基準はどこにあるんだよ。前から思ってたがダクネスは本当にめんどくさい性格してるな・・・・・・・。
と、俺たちのやり取りを眺めていたアクアが俺の方に駆け寄ってくる。
「ねぇカズマさん? 最近、アンタとウィズってば何をやってるの? 街では『ついに貧乏店主さんにも手を出し始めたハーレム野郎』やら『借金まみれの店主さんに体で借金を返させてる鬼畜男』だの噂されてるけど、さすがにそんなことはないわよね?」
「おい待て、なんだその噂、いったい誰が流してるんだ!」
街の連中も好き勝手言ってくれるな! スキルを揃えたら噂を流している張本人を見つけてシバいてやる・・・・・・・・・・。そういえばこいつらにはまだ俺が弟子入りした話を伝えてなかったな。
「本当は全部のスキルをマスターしてから話そう思って黙ってたんだが、今俺はウィズに弟子入りして魔法を教えてもらってるんだよ。朝の鍛錬は上級魔法を使うために必要だからやってるだけだよ」
そう聞くとアクアはこぶしを机に叩きつけ、ダクネスは期待するような眼差しを向けてくる。
「ちょっと!?女神の従者であるアンタがリッチーに弟子入りするなんて認められないんですけど!」
「誰が女神の従者だ!大体、お前らが不甲斐ないから俺がいろいろスキルを覚えて穴を埋めてやろう思ってやってるのに、どうしてここまで言われなきゃならないんだよ!」
魔王を倒したとはいえ、実際問題俺たちのパーティーはジャイアントトードの群れにすら苦戦する点は何も変わってない。勇者御一行がそれはさすがに恥ずかしすぎる。
そんなことを考えていると、さっきから目を輝かせて俺を見つめてくるダクネスが。
「な、なぁカズマ?その魔法とやらはどこまで覚えてるんだ?」
「・・・・・・一応、上級魔法とリッチーのスキルは一通り教えてもらってるから使えるぞ。練度が低すぎて安定してないけど・・・・・・」
「まさかカズマが上級魔法を覚えたのか!?しかも先ほどから練習している詠唱は上級雷魔法か!!凄いではないか!」
「ま、まぁそうだけど。そこまで言われると照れるな・・・・・・。いやうん、今の俺は前までとは違うんだ、尊敬を込めてカズマ様と呼んでくれたっていいんだぞ?」
さっきは努力を否定されてイライラしていたが、逆にここまでまっすぐに褒められると照れるな・・・・・・・。そんなことを考えていると、ダクネスは頬を赤らめながら。
「その・・・・・・。カズマ、私は高い魔法耐性を持つ。どうだ、ここは一つお前の雷魔法を私に試してみないか?私たちはパーティーメンバーだ。ならば仲間のスキルの威力を把握するのは当たり前ではないだろうか!?」
変態は息を荒くし、俺の方を期待するような眼差しで見つめてくる。・・・・・・・こいつ俺を褒めてるわけじゃなくて、自分が魔法を受けたいだけだったな。
「いや、お前話聞いてたか?バインドの時とはわけが違う。俺が練習してるのは高い威力を持つ上級魔法だぞ?それに、今の俺は大幅にパワーアップしてるからな。いくらダクネスが硬さ全振りとはいえ無傷では済まないぞ?雷魔法を試したいなら中級魔法なら使ってやってもいいが・・・・・・」
前までの俺なら上級魔法を覚えても、無駄に硬いダクネスには電気マッサージぐらいの効果しかなかっただろう。だが今の俺は大きく上がった魔力とウィズの指南により一撃熊ぐらいなら難なく倒せるようになっている。さすがにそれを変態とは言え仲間に撃つのは・・・・・・・・・。
だがそこの変態はそんな俺の言葉にさらに興奮した様子で。
「上級魔法がいい!!そうでなければ気持ち良くな・・・・・・・・ではなく、それでいい。今練習している方の魔法を試さないと意味がないだろう?」
「・・・・・・・・・今気持ち良くないって言ったか」
「言ってない」
「いや確かに言ってたろ」
「言ってない。・・・・がそんなことはどうでもいいから早くしろ、貴様はあんなに気持ちよさそうな雷魔法が使えるというのにお預けにするつもりか!?」
こいつ開き直りやがった!変態の相手をするのがもう面倒になってきた俺はダクネスに向き直り手を突き出す。
「じゃあいくぞ!『クリエイトウォーター』からの『カースド・ライトニング』!」
それを受けまずは水が、そして次に黒い雷撃がダクネスに襲い掛かる。
「ひぎゃああああああああああ、しゅごおいのおおおおおおおおおおお、あぁ・・・・・・いぃ」
「っっ・・・・・・・!?」
魔法を受けたダクネスが屋敷中に響き渡る大声を上げ、ビクビクと痙攣して庭に倒れ伏す中、俺は水で濡れたダクネスから目が離せなくなっていた。
ちなみに今のダクネスの服装は薄めの部屋着である。それが水に濡れて倒れてるわけで・・・・・・・・・・ダクネスのエロい肢体やら下着やら何やらが透けて・・・・・・・。見る気はないんだ。そう、目線が勝手に吸い寄せられるだけなんだ。
「・・・・・・っ、はぁっ・・・・・・・・はあっ・・・・・・・! お、お前というやつはいつも私の予想を超えてくるな・・・・・・!!やはりお前と私の体の相性は最高のようだ!!」
「お、お、お前何言ってるんだよ!紛らわしい言い方はやめろ!大体今回はお前から言い出したんだろ、服が透けてるのだって事故だ事故!」
「そんなことを言っているくせに、さっきから私を嘗め回すようないやらしい視線を向けているではないか!!」
「む、向けてねぇから!」
俺たちのやり取りを見ていたアクアが立ち上がって、呆れたように話しかけてくる。
「カズマがどうしようもなく手遅れなのはもう諦めたけど、ダクネスもその痴女痴女しい性癖をどうにかした方がいいと思うの。正直ドン引きよ?」
「そうだぞダクネスー。お前が性欲をもて余してるのは分かるが勢い余って俺を襲ったりしないでくれよ?」
「ち、ちち痴女とかいうな!これはカズマの魔法威力をこの身で確かめるためでな・・・・・・・・。というか私はお前を襲ったりはしない!」
「「・・・・・・・・・・・・・」」
「ふ、二人して私をそんな目で見るな・・・・・・。くぅ・・・・・はぁぁ・・・・・・んっ」
「お前興奮したのか」
「興奮したのね」
「・・・・・・・・・し、してない」
俺も手遅れなクズなのかもしれないが、目の前の全身を濡らして息を荒くし、二人に罵倒されて悦ぶダクネスはどうしようもなく手遅れだった。
★★★★★★★★★★
ダクネスとひと悶着あった後、魔法の素振りを終えた俺はウィズとの待ち合わせ場所の森に来ていた。今日は実戦演習の日である。実戦演習自体は初めてじゃないし、危なくなった時にはウィズが守ってくれるので安心して戦うことが出来る。・・・・・・はずなのだが、今俺はおびただしい数の敵に囲まれていた。
「『ファイヤボール』、『ライト・オブ・セイバー』ってあっぶな!今の当たったら死んでたぞ!ひいいいいぃぃぃぃぃ敵が、敵が多すぎます先生!助けてくださいーーーーーーーー!」
「ファイトですカズマさん、今のあなたなら倒せるはずですよ。おっとこっちに敵が『ドレインタッチ』」
俺の救援要請を聞いていたであろうウィズは自分に襲い掛かる敵だけ倒しながら、俺に微笑み返してくる。違う、そうじゃない!早く助けてください。
「いや、本当に無理、無理だから!俺普通の人間だから!勇者でもなんでもないただの一般人だから、いや微笑まなくていいから助けてくださいって!あぁもう!『フラッシュ』」
俺を囲んでいた敵は俺の方だけを注視していたのか効果は抜群だった。詠唱を妨害してくるモンスターの動きが固まっている。チャンスだ!俺は残りの大半の魔力をつぎ込んで魔法を発動する。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ『カースド・クリスタルプリズン』!」
体の奥底から根こそぎ魔力が持っていかれる感覚と共に、氷柱が地面を伝ってほとばしり周囲の敵を氷結させていく。そしてギリギリ全ての敵を固めたところで魔法が止まった。生命力まで削ったのか体がちょっとだるい・・・・・・。俺が体力と魔力を回復させるべく、氷の隙間からドレインタッチをしているとウィズが駆け寄ってくる。
「思った通り、今のカズマさんならこれだけの敵なら余裕でしたね。さすがです」
「いやいや!?全然余裕じゃないですって!正直死にかけてましたって」
「そうでしょうか? でもその割には冷静に敵の攻撃避けつつ、必要な魔法を撃ててましたよね? 普通なら焦っている人は判断力を欠いてしまうものですが、カズマさんはピンチにこそ実力を発揮しているような気がします。さすがですね」
「あ、ありがとうございます・・・・・・・」
文句の一つでも言いたかったが、ここまで真っすぐな目をしたウィズに褒められると何も言えなくなってくる。ちなみに敵の攻撃をなんとか避けられてるのは、『ブレッシング』と『自動回避』の合わせ技のおかげであり、つまるところ運である。あとピンチに力を発揮するのは、出来損ない三人娘と活動するといつもピンチに陥るので慣れているだけである。
そんなことを考えていると、また敵感知に多数の反応がある。これで本日3度目だ。
「ちょっとウィズ先生!また敵感知に反応があるんですが!なんかちょっとおかしいですよ!しかも今日一番の群れですよ。俺はまだ回復終わってないんで戦えませんよ?」
「そうですか。なら今回は私が戦いますね。ちょっと試してみたいモノもありますし」
そうかそうか、ならよかっ・・・・・・ん? 今、ウィズが試したいモノがあるって言わなかったか?
「あ、あのウィズ先生?その手に持ってるポーションの効果ってなんなんですか・・・・・・?」
俺はもう何度経験したか分からない嫌な予感がしながら、おそるおそる聞いてみる。
「これですか!?これはですね!飲むだけで魔法抵抗力が極限まで上昇するポーションなんです!しかも今回は飲みやすさにも工夫していて、とっても美味しいらしいんですよ!」
「それ絶対いつものダメなやつでしょ!?」
俺はそのポーションを奪うべく飛びかかった。しかし、ウィズは華麗なステップで俺を避けると。
「ちょ、ちょっとカズマさんダメですよ、そんなに飲みたいなら後で分けてあげますから。これは今から戦う私が飲むんです。」
「違う違うって!ウィズ先生それ絶対飲んじゃダメですよ・・・・・・あっ」
ウィズは瓶の蓋を開けてポーションに口を付けた。お、終わりだ・・・・・・・
「ふぅ・・・・・・これ凄く美味しいですね。さて戦いに・・・・・ってあれ、すごい眠気が・・・・・・・・・」
ポーションに口を付けたウィズは体から力が抜け、地面に倒れたかと思うとスヤスヤと眠り始めた。あのポーションの効果は多分『魔法抵抗力が極限まで上がる代わりに、凄まじい眠気に襲われる』だったのだろう。そもそもリッチーには高い魔法耐性があるのであんなものはいらないはずなんだけどな。起こそうとしてもどうせ起きないだろうし放置だ。
まぁ俺の魔力もだいぶ回復できたから問題ない。敵が襲い掛かってくる前にテレポートで脱出するだけでいいはずだ。そして俺はテレポートの詠唱を始めて、ウィズに手を触れると――――
ウィズに対してのテレポートが不発した。
な、なんでだ?テレポート用の魔力ぐらいなら回復できたはずなんだけど・・・・・・・。ほかにテレポートが失敗するときといえば、魔法に抵抗する時しか・・・・・・ん?魔法抵抗?
あっ・・・・・・・、魔法抵抗のポーションのせいかあああああああああああああああああああああああ。
俺は現状を整理する。目の前には無防備で眠りこけるウィズ、周りにはあと少しまで迫った屈強なモンスターの群れ、そして魔力切れ寸前の俺。ここから導き出される結論は・・・・・・・・・・・!
「この世界はやっぱりクソゲーだああああああああああああああああああ!」
泣きながらウィズを抱えて逃げる、俺の魂の叫びが森にこだました。
★★★★★★★★★★
それは夜が更け始めた頃、ボロボロになった俺はなんとか屋敷までたどり着いていた。
「ただいま・・・・・・・・」
「「「おかえりー!」」」
玄関のドアを開けると、心配げな表情を浮かべた3人が玄関に飛び出してくる。というか抱き着いて押し倒してきた!
「「「カズマーーーーー!」」」
「ちょ、お前ら押すな痛い痛い痛い、傷が開く、お前らいったいどうしたんだよ?」
「それはこっちのセリフですよ!こんなにボロボロになって一体何があったのですか?しかもこんなに遅くに帰ってきて、どこをほっつき歩いてたんですか!?」
みんなのセリフを代表しためぐみんが俺に馬乗りになりながら紅い目を輝かせ、泣きそうな声で言う。俺はアクアに傷の治療をしてもらいながら今日の出来事を話した。
ちなみに、あの後俺は狭い洞窟に逃げ込みウィズやモンスター達からドレインタッチで魔力を吸い取りながら戦い続けた。ウィズの持っていたモンスター寄せの魔道具に気が付くまでは本当に厳しい戦いを強いられた。
回復魔法とドレインタッチを使える俺だったから何とか戦い続けられたものの、少しずつ回復できないダメージが蓄積されていき、ウィズが目覚めたころには体がピクリとも動かなくなっていた。そして気を失った俺をウィズがテレポートで連れ帰ってくれたのだ。
俺の目が覚めるとウィズはひたすらに謝ってくれた。俺はいいと言ったのだがそれでは気が済まないというので、今度一つお願いをする権利を貰った。まぁあんまり無茶苦茶なお願いをするつもりはないが・・・・・。
そして話し終えるとみんなはホッとしたように息をついている。そんなみんなの様子を見ているうちに、張り詰めた糸が解けたようにウトウトしてきた。それにいつの間にかアクアに膝枕されている。なんというかちょうどいい柔らかさだし、いいにおいがする・・・・・・・。
そんなことを考えているとニヤニヤしているアクアが。
「カズマさんってばやっぱり私がいなきゃダメダメね! ねぇねぇ、アンタの傷を治療してあげたこの私に向かって言うべきことがあると思うんですけど?」
「・・・・・・・・いつもありがとな。問題ばっか起こすけどお前の回復魔法には本当助けられてきたし・・・・・・・お前といると安心するよ・・・・・・・・」
「!? そ、そこまで言われるとは思ってなかったんですけど。あ、あ、でもそうよね私ってば偉いでしょ!」
何故か顔を赤くして照れてるアクアが得意げな顔で鼻をフンと鳴らしている。・・・・・・俺何か変なこと言ったかなぁ? 何も考えられないや・・・・・・。
「カズマカズマ!私には!私には何かないのですか!?」
「私にも何かないのか!?私はいつもカズマの盾となっているはずだが?」
めぐみんとダクネスが身を乗り出して、興奮しながら聞いてくる。・・・・・何を期待しているんだ・・・・・・・?
「・・・・・・・・・・・めぐみんは仲間思いだし、どんな敵でも一撃で倒せる心強い奴だよな・・・・・・。それにダクネスは真面目で心優しく、王国一の防御力でいつも俺たちを守ってくれたよな・・・・・・・・2人とも最高の仲間だよ・・・・・・ありがとな」
「「!!」」
めぐみんとダクネスは顔を真っ赤にして体をよじっている。ダクネスはともかくめぐみんにそんな趣味あったっけ・・・・・・・・・。いかん、眠い。だんだん瞼が重くなってきて・・・・・・・。
「ちょっと!ちょっとカズマさんこんなこと言う人じゃなかったんですけど!カズマさんってば死んじゃうの!?」
「違うと思いますよ、でも本当に疲れているのでしょう・・・・・今は寝かせてあげましょう」
そんな二人の言葉を聞きながら俺は意識を闇に落とした。
★★★★★★★★★★
玄関で気を失うように眠りについてからどれくらいたっただろうか。気が付けばベッドの上で眠っているようだ。多分誰かが俺の部屋に運んでくれたのだろう。・・・・・それよりさっきから誰かが俺の頭を撫でている。重い瞼を開けて確認すると。
「めぐみんか・・・・・・・どうした? 夜這いか?」
「ち、ち違いますよ。ほんっとデリカシーのない男ですね。カズマが余りにも寝苦しそうにしていたもので、看病をしていたのですよ」
そう言っている黒いワンピースを着ためぐみんを見ると、濡れタオルを手に持っている。俺の体が濡れていることから、おそらく拭いてくれていたのだろう。
「そっか、迷惑かけたな。そういえば他の奴はどうしたんだ?」
「もう真夜中ですしアクアは寝てしまいましたよ。あと、ダクネスもカズマの看病をしたがっていましたが、カズマに夜這いした前科があるので断っておきました。あっ、でもカズマを部屋まで運んでくれたのはダクネスなので明日の朝にでもお礼を言っておいてくださいね」
「なるほど、みんなに世話になったな。俺が変な気分になる前に行ってくれていいぞ」
俺はめぐみんを部屋から出ていかせようとする。というか暗い部屋で二人きりの状況はピュアな童貞にはつらいものがある・・・・・・。めぐみんも何もする気がないから良い雰囲気になる前に出ていって欲しい。
そんなことを考えていると、突然めぐみんが俺に抱き着いてきた。そして艶っぽい表情を浮かべて、どこか寂し気な上目遣いで・・・・・・
「二人きりなのに・・・・・・何もしてくれないのですか?」
や、やめてくれよ・・・・・・。窓から射す月明かりが、めぐみんの白い肩を照らしている。
「お、お前はいつもそんなこと言って俺をからかってくれるな。こちとらやりたい盛りの年頃なんだからな。一度その気になった男から簡単に逃げられると思うなよ!」
「その気になってくれていいのですよ? アクアを連れ戻す前に、終わったらスゴイことをしましょうって約束したではありませんか? それに・・・その、あの、カズマだって・・・・・まんざらでもないのでしょう・・・・・・?」
こ、こいつは何を言ってるんだ? その気になるってのはつまりはそういうことで、俺が童貞じゃなくなるってわけでアレがアレでこれがそれで・・・・・・・。
それにさっきから俺に抱き着くめぐみんの熱い息が首筋に当たってこそばゆい。あぁ・・・・・・・イケナイ。これはすごくイケナイ。
「お、お前のことは好きだけど、俺たちはまだ友達以上恋人未満の関係で・・・・・・・そういうことは」
言い切る前にめぐみんに口を塞がれた事によって、言いかけた言葉が遮られた。めぐみんが俺の首に両手を回し、情熱的に口を吸ってくる。口の内をめぐみんの舌がチロチロと這い、頭がぼーっとしてくる。自然とこちらもめぐみんを抱きしめ、そのままめぐみんに伸し掛かろうとするが。
「・・・・・・・んっ。私はあなたのことが大好きですよ、たまらなく大好きです」
伸し掛かろうとする前に、めぐみんが急に唇を離す。俺は自然とめぐみんを見つめていた。めぐみんは息を荒くし恍惚とした表情を浮かべながら。そして・・・・・・
「あなたに好きといわれただけで・・・・・・・私はこんなに嬉しくなってしまうみたいです。気が付いたらキス・・・しちゃってました」
「!!!????お、おおおお前それはさすがにそれはエロすぎるだろ!!」
「え、エロいとかもっと他に言い方はなかったのですか・・・・・・。いえ、まぁこれはこれであなたらしいですね」
正直もう我慢できないというか、下半身が大変なことになってる。早く開放されたいです。
めぐみんを再度見つめて、伸し掛かろうとして・・・・・・・・そこをめぐみんの手に制止された。
「待ってください!その・・・・・・すごいことをする前に、カズマの気持ち・・・・・・・聞かせて貰えませんか?」
「俺の・・・・気持ち? めぐみんのことは俺も好きだぞ?」
「どういうところがですか?」
「あ・・・・・え・・・・その爆裂魔法とかだな」
「さっきはもっといい褒め方してくれたのに、この男は大事な時にどうして適当なんですかね・・・・・・・・。まぁそういうところも好きと言ってしまった反面怒ることもできないのですが・・・・・・。」
ガッカリしたように肩を落とすめぐみんは呆れながらもどこか楽し気な表情を浮かべていた。俺も、緊張してなければもっといいこと言えたんだけどな・・・・・・。めぐみんの良いところは分かるのだがいざ口に出すとなると照れてしまう。それとさっきってなんだ?記憶がないんだが・・・・・・。
というかまたお預けをくらってしまいそうな雰囲気になってきた。もうお預けはごめんだ。だったらここは・・・・・。
「じゃあ・・・・・・めぐみん、もう一度・・・・・・・・キスしていいか?」
「あ、あのっ私も、できれば、もう一度キスしたいところなのですが・・・・・・」
もしかしてこれは断られるパターンか・・・・・・。その割にはめぐみんも耳まで真っ赤にして俯いている。
「えっ・・・・・・ダメか?」
「はい、その・・・・・あのですね・・・・・。ここから先をしたいなら責任をですね・・・・・・。取ってほしいのですよ」
「ああ、そっか、そりゃそうだよな・・・・・・」
責任・・・・・・。はっきり言ってめぐみんのことは好きだが、いざ責任となるとちょっと重いものを感じてしまう。俺はダクネスにも思いを寄せられている。もし俺がめぐみんと恋仲になれば今の関係は崩れてしまうかもしれない。少なくともダクネスの誘惑に屈することは許されなくなるだろう。世間でクズマだのカスマだの言われてる俺だが、それくらいの倫理観はあるのだ。
でも・・・・・・。
それでも・・・・・・・・。
その関係を壊してもいいかもと思うくらいには、何をするでもなくめぐみんと手をつないで一緒に楽し気に話しながらデートするのが楽しみな自分もいる。
俺は・・・・・・・・・どうしたらいいんだろう。
「・・・・・・カズマは気の多い男です。勇者になってからその周辺をうろつく女も増えていますし、その誘惑に負けてしまうのではないかと心配しているのですよ。実際、最近はウィズと仲がいいではないですか。カズマはウィズの事が好きなのですか?」
「ん・・・・? そりゃウィズの事は好きだけど、それは先生としてだぞ?」
「そうでしたか!それは安心です。実はダクネスもアクアもこのままカズマが出て行ってしまうのではないかと心配していたのですよ。もちろん私もです」
そんな心配をかけてたんだな・・・・・・。それで最近やたらとみんなのスキンシップが多かったのか・・・・・・・。めぐみんは俺に背中を向けて言葉を続ける。
「・・・・・そんな気の多いカズマですが、変なところで誠実なのも知っています。きっとあなたは、一度付き合い始めれば責任をもってくれるでしょう?」
「・・・・・・それは当たり前のことだと思うんだが。さすがに俺もそこまでクズじゃない」
めぐみんは俺の答えを聞いて満足げにクスクス笑っている。
「実はですね、私はカズマから手を出してくるまで待っておこうと思っていたのですよ?実はここ数日、私はずっと部屋でカズマのことを待っていたのです」
な、なんてかわいい奴なんだ。めぐみんは、俺のことを思いながら部屋でずっと待っていてくれていたのか!
ヤバい、嬉しい。こんなに真っすぐな好意を向けられて嬉しくないわけがない。
「でも今日、気が変わったんです。私はいつものようにカズマの帰宅を待っていたのですが、カズマがいつになっても帰ってこなくて・・・・・・・。もし、このまま一生帰ってこなかったらと考えると・・・・・・・・本当に・・・・・・・本当に寂しくて・・・・・・・切なくて・・・・・・頭がおかしくなりそうで・・・・・・・。それで気が付いたんです」
そう言っためぐみんは俺に向き直る、その目はいつになく真剣で過去最高の紅い輝きを放っていた。そして・・・・・・・・・
「他の誰にも、カズマのことを渡したくないんです」
その身の持てるありったけの好意を俺にぶつけてきた。
「・・・・・・・・だから、ちょっとずるいですがこうさせて貰いました。私がすべてをさらけ出したんです、カズマも正直な気持ちを教えてください――――」
俺は・・・・・・・答えなきゃならない。めぐみんの思いに、真っすぐ正直な気持ちで答えなければならないはずだ。
―――今の、俺の気持ちで。
「俺はめぐみんの事が好きだ。エロい事だってしたいし、一緒にデートしたりするのだって本当に楽しそうで、できれば今すぐにでも恋人になりたい。・・・・・・・・でもまだ責任は持てない。俺は覚悟が出来てないんだ。だから、俺の覚悟が決まるまでまってくれないか?」
今この場で責任を持てると言ってしまえば、きっと俺はこの辛い気持ちからも解放される。本当はそうしたい・・・・・・・。でもそれでは俺が性欲に負けて付き合ったみたいになる。それじゃあめぐみんの真摯な気持ちを裏切ることになってしまう。それだけは・・・・・・・それだけは嫌だ!!
俺の言葉を聞いためぐみんは満足げにクスクスと笑って。
「・・・・・はい、今はそれで十分ですよ。なんだかんだで真面目なカズマならそう言うと思っていました。・・・・・・・本当は私もちょっと切なくなってきたのでやっちゃってくれても良かったんですけどね。」
「じゃあ今から」
「ダメですよ、台無しじゃないですか」
「先っちょだけ、先っちょだけだから!」
「なんですかそれは! ふざけてるんですか! だいたいそれで許可する馬鹿がどこにいるんですか!?」
「だ、ダメか・・・・・・・」
あれぇ?俺の国だと有名なセリフだったはずなんだけどな。実際に使ってる人がいたのかは知らないけど・・・・・・
「と、ともかくっ。もしこれ以上のことをしたいならきちんと責任をとってください。私たちが恋人同士になった時には、今度こそすごいことをしましょうね」
「えーーーーーーーーーーー」
「残念そうな顔をしないでくださいっ!そんな顔をしている人にはこうです!」
「!?」
めぐみんは俺の頬に突然手を添えた。
唇に熱いものが押し付けられる。
そして俺の唇を貪るだけ貪る。
そして透明な糸を引きながら自身の唇を離した。
頭がくらくらする、理性なんて吹き飛びそうなんですが・・・・・・・。
「・・・・・・・・んっ。これはここまで我慢した私へのご褒美です。それでは」
そう言ってめぐみんは早足で部屋から出て行ってしまった。
えーっと・・・・・・・。俺はこの無駄に昂った気持ちをどうすればいいんだ・・・・・・・・。
というか、またお預けかよ・・・・・・。