このすばアフター!カズマ&めぐみんのターン   作:ぽいんと

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完全なアクア回になりました。


第4話 アクアと居場所とカズマと

 俺は、逃げ出したアクアを追っていたのだが・・・・・・

 

「ねぇお願い!お願いだから私にスキルを教えさせてよ!」

「放せぇ!俺はお前からスキルを教えてもらう気はない!」

 

 俺とアクアは何故か逆の立場となり、ダスティネス家の庭園の片隅で不思議なやり取りをしていた。事の始まりは1時間前に遡る。

 

 

 

 

 

 ダクネスと死闘を繰り広げた俺は、ダスティネス家の屋敷の中で逃げたアクアを探していた。

 

 普段は救いようのないアホの子であるアクアだが、どうでもいい時は妙に頭が良かったりする。そういえば前に、ダクネスのせいで納税させられそうになったことがあったな。その時アクアは俺を囮にして逃げようとしてたんだっけか。

 ・・・・・・ということは今回もダクネスを囮に使うことに躊躇いなんてないだろう。それに無駄に目立つアイツは外に逃げればすぐ街で話題になる。だから必ずこの屋敷の中にアクアはいる。そう考えていたのだが・・・・・・。

 

『ぜ、全然見つからないな、あいつどこ行きやがった・・・・・・』

 

 探索系のスキルと、潜伏系のスキルを駆使して屋敷の中を隈なく探索したがアクアは見つからなかった。これだけ探しても見つからないということは、アクアしか入れない場所でもあるのだろうか?

 そこまで考えて俺は閃いた。あるじゃないか、あいつしか隠れられない場所。俺はニタッと笑いその場所へと向かった。

 

 

 ダスティネス家にはそれはそれは大きな庭園がある、今は冬だというのに、品種改良でもされた高級種なのか、そこかしこに色とりどりの花が咲き乱れている。そしてなにより、ここには大きくて深い池があるのだ。

 俺は池に向かって一直線に歩いていくと、風光明媚な空間に似合わないものが落ちていた。小さな白い陶磁器だろうか。疑問に思った俺はそれを拾い上げる。

 

『・・・・・・これってどうみても盃だよな?なんでこんなところに―――』

 

 そこまで考えて、ふと盃の落ちていた芝を見てみた。・・・・・・ちょうどさっきまで誰かが座っていたような跡がある。

 勝った!俺は確信した。思わず吹き出しそうになる中、俺が勝ち誇ったように池の中を覗き込むと―――

 

 水底に、胡坐をかきながら酒瓶を咥えているアクアがいた。

 どうやらアクアは水中でも酒を飲もうとしていたらしい。まぁもちろん上手く飲めないようで、不思議な顔をしているが。

 馬鹿だ、馬鹿がいる!!

 堪え切れなくなり爆笑するが、水中で酒瓶を咥え眼を瞑っているアクアには気づかれていないらしい。面白そうなのでこのまましばらく観察していよう。

 

 不思議そうな顔で瓶に蓋をして、いろんな角度から瓶を観察するアクア。どうやらなぜ酒が飲めないか分かってないらしい。水中だからに決まってんだろ。お前それでも水の女神かよ。

 おっと耐えかねて瓶をたたき出したな、それで治るのはスー〇ァミだけだぞ。

 そんなことを考えていると、ふと周りを見渡したアクアと目が合う。

 

 俺が笑顔を浮かべてアクアを見つめると、何故かどや顔を浮かべてシッシッと手を払ってくる。ほぉ・・・・・・?どうやらこいつは自分の立場を理解してないらしいな。それにアクアが何か喋っているみたいだ。遺言ぐらい聞き届けてやろう。そう考えて『読唇術』スキルを発動させる。

 『読唇術』は相手の口を見ることで、話している内容が大体わかるスキルだ。ちなみにアクアは少し精度は落ちるがスキル無しで似たようなことが出来る。相変わらず無駄なところで無駄スペックを発揮する駄女神だ。

 

『――ってなわけよ!私ってば天才よね!それよりそこのクズマさん!あんたじゃどうせこの水の中に入ってきても何も出来ないでしょ?それより私に謝る気はないかしら?私に三日三晩誠心誠意尽くしてくれたら、スキルの件だって少しは考えてあげなくもないわよ?』

 

 聞くだけ無駄だったな。その言葉をお前の最期にしてやろう。そう思った俺は詠唱を始める。使うのはもちろんダクネスお墨付きの雷魔法『カースド・ライトニング』だ。俺の詠唱をセルフ読唇術で読み取ったアクアはみるみる顔色を悪くしていき・・・・・・。うんうん、また何か言ってるな。よし今謝るなら許してやろう。

 

『ね、ねぇ冗談よね?冗談って言ってよ!ねぇカズマ』

 

 謝罪じゃなかったらしい。詠唱を終えた俺は右手に黒雷を纏わせながらアクアに微笑んで。

 

「俺とお前も長い付き合いだからな、俺が本気かどうかなんてお前はわかってるはずだよな?」

『謝るから!私謝るから!お願いだからその魔法を水の中に打つのだけは辞めて!ねぇお願いってばカズマ様ーー!』

 

 さっきまでの余裕が完全に消え失せたアクアはそれはもう必死になって弁明している。だがまだ謝ってない。俺は右手を前に突き出したまま、左手で『上がれ』の合図をする。

 観念したアクアは水中から浮き上がり。芝生の上におずおずと正座する。そして―――

 

「誠に、申し訳ございませんでした」

 

 水の女神様はそれはそれは見事な土下座を敢行した。

 普段何を言っても聞かないコイツが土下座をしてくるのは珍しい。・・・・・さて、それじゃあさっさとスキルを教えてもらおう。ダクネスで想像以上に時間を使ったので昼までもう時間がないのだ。苛立ちながら頭を下げたままのアクアに声をかける。

 

「・・・・・これは逃げたことに対する謝罪だよな。それじゃあ約束通りスキルを教えてもらおうか」

「うう・・・・。ホントに教えなきゃダメなの・・・・・・?」

 

 涙声ながらも拒否するアクア。コイツはまだ抵抗する気なのか。だが今回こそは逃がす気はない。アクアのスキル―――つまり上位の神聖魔法は本当に貴重なスキルで、持っている人間はほんの一握りしかいない。それにアクアの場合効果強化系のスキルも全て揃っているため、一番効率が良いのだ。・・・・さて、どう説得したものか。

 

「いいかアクア、上位の回復魔法さえあれば俺は昨日みたいな怪我をせずに済んだんだ。回復魔法が弱かったせいで俺が死んだら、お前は責任とれるのか?」

「そ、それは確かにそうだけど・・・・・・。でも、傷なら私が付いていけば治せるじゃない・・・・・・」

 

 少しは思うところがあるのか、申し訳なさそうな顔をするアクア。しかしそれでもアクセル唯一のアークプリーストの誇りは譲れないらしい。ならば・・・・・。

 

「あのなぁ、いつもお前が付いてこられるわけじゃないだろ。それにもし俺がスキルを覚えればお前は墓地の除霊にも、けが人治療の呼び出しにも行かなくてよくなるんだぞ? なんならお前は一日中家でゴロゴロしててもいい」

「・・・・・・・・・それはありね」

 

 神妙な面持ちで頷くアクア。おい、アークプリーストの誇りはどうした。

 

「じゃあスキルを――」

「って駄目よダメダメ!危うくカズマさんの甘言に惑わされるところだったわ・・・・・」

 

 そう言って涙目のアクアは首を振る。結局説得は振り出しに戻ってしまった。俺は溜息をつきながら最終手段を実行する。口でダメなら力を・・・・・そう、脅しである。

 

「そもそも俺はお前に賭けに勝って権利を得たんだ、その権利を蔑ろにするっていうなら俺にも考えがあるぞ」

 

 俯いたまま震えているアクア。その表情はここからでは分からない。俺はめいいっぱい見せかけの悪意を詰め込んで言葉を続ける。

 

「まずはゼル帝を焼き鳥に変える、そしてお前が大切にしている謎の石コレクションや芸に使う小物を全部捨ててやる。そして最後にはお前の神器を売っぱらってやる!どうだ?悔しいか?」

 

 かなり強い口調で言ったはずだ、しかし無反応のアクア。挙句の果てに無視作戦に切り替えたのか・・・・? 流石に苛立ってきた俺はアクアに掴みかかる。

 

「おい、さすがに無視は卑怯だろ、何かいえ・・・・・よ・・・・・・・・・・・」

 

 

 アクアの顔を見た俺はそれ以上言葉を続けられなかった。体中が罪悪感でいっぱいになる。俯いていたアクアは俺の方を見上げて。

 

 

「ほんとに・・・・・ほんとに教えなきゃダメですか・・・・・・?」

 

 

 肩を震わせ、大粒の涙をボロボロとこぼしながら、かすれた声でそう呟いた。

 ガチ泣きじゃねえか・・・・・・・・・・。

 いや、俺が泣かせたのだ。ここまでアクアを追い詰めるつもりはなかった。それにここまで傷つくのだとも思っていなかった。

 本当に・・・・・申し訳ないと思った。

 

「いや、やっぱりいいよ。それよりゴメンな。そんなに傷つけるつもりはなかったんだ」

「・・・・・・・・!」

 

 俺の心からの言葉を聞いたアクアは、その沈痛げな表情をいくらか緩める。

 そしてそっと俺に抱き着いてきた。

 

「お、おいアクア。何してるんだお前」

「グスッ・・・・・カズマさんってば、泣いたら許してくれるのね」

 

 少し安心したような声で、そんな事を言うアクア。・・・・・・俺はこいつの涙に弱いのだ。

 

「時と場合に寄るけどな、嘘泣きなら容赦なくドロップキックを喰らわせるぞ」

「はいはい、そんなこと言って私の演技には気づけないんでしょ・・・・・・?」

「・・・・・・お前のはガチ泣きだろ」

「全然違うわよ・・・・・・」

 

 涙声で否定するアクアに説得力なんてものは無い。それにしてもこのまま抱き着かれた状態で話を続けるのはさすがに・・・・・・。いくらこいつが俺の対象外だとはいえ、この状態じゃドキドキもする。それに・・・・その、最近のアクアはたまに・・・・・ホントに稀にだが、かわいい時がある。

 

「・・・・なぁアクアさすがに離れてくれないか?お前ってそんなに誰にでも抱き着くビッチだったのか?」

 

俺の言葉を聞いたアクアが一瞬体を強張らせたが、特に何もなく俺に抱き着いたままだ。そしてぽつりぽつりと呟く。

 

「・・・・・・そうよね、カズマからしたら私の気持ちなんて分かんないものね」

 

 ・・・・こいつってこんなロマンティックな事言うやつだったっけ?でもまぁ・・・・・。

 

「なんだ?告白か? でもごめんな、お前は俺の対象外なんだよー、それにめぐみんとダクネスっていう先客もいるからな。というわけでごめんなさい」

「ちっがうわよヒキニート!なんで私がアンタに告白して、しかもあろうことか振られたみたいになってんのよ!!」

「違うのか!?」

「違うわよ!私が言ったのは、私がスキルをアンタに教えたくない理由よ!」

 

 違ったらしい。まぁ本気の告白なら真面目に答えなきゃいけないので、正直ホッとした部分もあるが。・・・・理由か、聞いてみたいな。それはそうとしてだな・・・・・・。

 

「というかいい加減離れろアクア!こっちは思春期の男なんだよ!いくらお前でも無駄に意識とかしちゃうんだよ!」

「嫌、話しているときに顔見られたくないから離れないわよ」

 

 俺に抱き着くより顔見られる方が嫌ってこいつはどういう神経してるんだよ。ちなみに今俺たちはずぶ濡れである。主にアクアのせいで。そのため端から見るとかなり如何わしい状態になっている。目立たない場所にいるので、さすがに見つかることはないのが幸いか。そんなことを考えていると、アクアがゆっくりと語り始める。

 

「私ね、今でもたまにあのダークプリーストが夢に出てくるの。あいつが来て、そしてみんなにアクセルの街から追い出されるの。そして迫害されて、いらない子扱いされて、最後には独りぼっちになっちゃう。そんな夢を見ることがあるの」

 

 アクアの言うダークプリーストとは元魔王軍幹部のセレナの事だろう。確かにアクアはあいつにかなりの苦手意識を持っていた。なぜならあいつの能力のせいで、アクアは親しくしていた冒険者達にいらない人扱いされたからだ。

そいつは今は無力化され、脅威にはならないはずなのだが、アクアの心に残した傷跡は大きかったらしい。

 

「別にあいつのせいってだけじゃないの、私ってその・・・・・・ほら、あんまり、物凄く賢いってほどでもないじゃない?それにホントたまにだけど迷惑も掛けちゃうじゃない?」

「賢いというか馬鹿だし、迷惑をかけるのはいつもだな」

「うっさいわよ!ここは黙って聞きなさいな!・・・・・・・それで昔から、なんでみんな私と仲良くしてくれるのかなーーって考えてたの」

 

 表情は分からないが、きっと不安げな顔をしているのだろう。震える声からそれくらいは俺でもわかる。

 

「それで・・・・・きっと・・・・・・私が・・・・・女神としての強い力を持ってるから仲良くしてくれるんだと思ったの」

 

 俺は頷き続きを促す。

 

「だから・・・・だから!私の魔法の力が貴重だから・・・・・みんな仲良くしてくれるのだと思ってるの。もし・・・・私がスキル教えたら・・・・・私はいらない子になっちゃうんじゃないかって、みんなからも置いて行かれちゃうんじゃないかって!」

 

 話を終えたのか、アクアが俺の元を離れ前に立つ。やはり不安げな顔だった。

 アクアが魔法を教えたがらない理由がやっとわかった。あれだけ普段は自信満々な態度をとっているアクアだが、心のどこかでは皆が魔法だけを目当てに仲良くしてくれていると思っていたのだろう。それであんなに『居場所』を失うのを嫌がっていたのか。

 馬鹿だなぁ・・・・・・。

 あまりにも馬鹿なアクアの考えに俺がクスクスと笑っていると。

 

「ちょ、ちょっとカズマさん!?今の話するのに私かなり勇気ふり絞ってたんですけど!それに本当に真剣に話してたんですけど!それを笑うなんて酷いわよ!」

「い、いやぁ、あんまりにもおかしくってさ。アクアも悩むことあったんだな」

 

 ギロッと俺を睨みつけてくるアクア。

 そんなアクアに俺は珍しく本音を言ってやることにした。

 

「いいかアクア、一度しか言わないからよく聞けよ。まずお前が街の皆と仲がいい理由だが、それは単にお前が盛り上げ上手で無駄に高いコミュ力を持ってるからだ!」

「えっ?も、盛り上げ上手?」

 

 アクアは素っ頓狂な声をあげる、なんだこいつ?気が付いてなかったのかよ?いつもこいつが中心になって宴会を盛り上げてるってのに。

 

「次に冒険者連中に能力目当てにされてるって話だったな、当たり前だろ!誰だって使える奴に話しかけるに決まってるじゃねーか!俺を見ろよ、勇者になったってのに誰も俺を頼ってこない、だったらお前はまだましだろ!」

 俺の言葉に思わず吹き出すアクア。・・・・・・恥ずかしいからこんなこと言いたくなかったんだけどな。それに次はもっと恥ずかしい事だ。

 

「最後に、お前とは長い付き合いだからな、例えお前が女神としての能力を失ってただの人間になったとしても、俺だけは最後まで面倒見てやるよ。い、一応大事な仲間だからな」

 

 い、言い切った。恥ずかしかったけどなんとか言い切ったぞ。顔が熱い。さて、アクアの反応はどうだろう・・・・。少しは元気になっただろうか?

 恐る恐るアクアの方を見やると・・・・・・。

 

「ふあああああああああああ、うわあああああああああああああ」

「な、なんで泣いてるんだよ!?お、おれは今回は珍しく酷いこと言ってないだろ!?」

 

 無駄に奇麗な顔を涙でぐちゃぐちゃにするアクア。そんな様子にオロオロしていると、アクアが鼻声で。

 

「ち、違うの、私今本当に嬉しいはずなの、グスッ、なのになぜか涙が出てきちゃうの、ふああああああああああああああああ」

 

 どうやら嬉し涙だったらしい。俺は安心して胸を撫で下ろす。この様子ならもう大丈夫だろう。出来ればもう二度とあいつのあんな顔は見たくない。

 しばらく泣き続けたアクアを俺は特になにもせずに待っていた。

 

 数分後。

 落ち着いてきたアクアはいつも通りの表情を浮かべて。

 

「なんだか胸のつっかえが一つとれた様な気分だわ、だから・・・・・その・・・・・ありがとね?二度は言わないわよ?」

 

 滅多なことでは感謝しないコイツがありがとうを言ってきた。満足した俺はニヤリと笑って。

 

「分かってるって。もう泣くなよアクア。お前はいつものそのアホ面の方がお似合いだからな」

「あらまぁカズマさんったら、カズマさんもキモ優しいカズマさんじゃなくて、いつものゲスマでクズマなカズマさんの方がお似合いよ?」

 

 俺たちは互いに睨み合い、いつも通りにいがみ合う。そんな中どっちからだろうか、ふと笑い声が漏れた。

 俺はなんだか楽しくなって吹き出し、アクアも心からの笑い声をあげていた。

 

 

 

★★★★★★★★★

 

 

 

 しばらく二人で笑いあった後、アクアが意外なことを言ってくる。

 

「ねぇカズマ?そんなに私のスキルを覚えたいの?仕方ないから教えてあげてもいいわよ?」

 

 さっきから妙にご機嫌なアクアが首を傾げながら聞いてくる。この提案は願ってもない提案だ。

 

「な、なんなんだよお前、ちょっと優しすぎて不気味だぞ?どうしたんだ?」

「うーん、まぁサービスよサービス。さっきは・・・・その・・・・・嬉しいことも言ってくれたしね・・・・・。それでカズマはどうするの?」

 

 そう言ってほのかに頬を赤らめるアクア。・・・・妙にドキッとさせるのは辞めてほしい。

 

 さて、今のアクアなら頼めばスキルを教えてくれるだろう。

 俺が一番欲しがっていたスキルがただで手に入るのだ。

 最上級の神聖魔法、考えるまでもないだろう。

 だから俺は―――

 

「教えなくていいよ」

 

 そんな俺の返事を受けて、アクアはどこか安心したように微笑む。

 

 めぐみんにとっての爆裂魔法のように。

 ダクネスにとってのクルセイダーの矜持のように。

 アクアにとってはそのスキルこそが全てなのだろう。実際はそうでなくとも、あいつらにとっては多分そうなんだろうな。

 みんな足りない部分だらけで、どこかおかしい奴らだけど、俺にはない譲れないものを持っている。それを俺みたいな本当の半端者が傷つけるのは良くない。

 

 さて、アクアから魔法を教わるのは断念したが、俺は上級神聖魔法を諦めるつもりは毛頭ない。どう考えてもあれは必要な物だ。どこかにアクア並みに腕がよくて、若くて美人なアークプリーストはいないものだろうか?

 ・・・・・・まぁいないよな、俺もこの世界で色々な職業の人間に会ってきたが、アークプリーストはアクアとゼスタのおっさんだけだった。

 ただでさえ貴重なアークプリーストだ、そんな女神のような人は見つからないだろう。

 ―――女神?

 俺が唯一思いついた、優秀な神聖魔法の使い手に思いを馳せていたからだろうか。

 

「カズマのそういうところ、私は好きよ」

 

 小さな小さなアクアの呟きを、俺は聞くことはできなかった。

 そんなことを露程にも知らない俺は。

 

「よしっ!今からエリス様にスキル教わりに行ってくる。じゃあなアクア」 

 

 そう言ってテレポートで屋敷を後にしようと―――

 

「させないわ!『セイクリッド・ブレイクスペル』!」

 

 して、アクアに妨害された。俺は舌打ちしてアクアを睨みつける。

 

「おいアクア!なんで邪魔するんだよ!」

「ふああああああああ、だってだってカズマが私よりエリスなんかを選ぶから!」

 

 いつもの泣き顔で俺に掴みかかってくるアクア。

 

「ねぇお願い!お願いだから私にスキルを教えさせてよ!」

「放せぇ!俺はお前からスキルを教えてもらう気はない!」

「なんでなんで! あ、分かったわ! カズマったらさっき『教えなくていいよ』とか似合いもしない事をドヤ顔で言ってたのを気にしてるのね?」

「返せ! さっきまでの良い雰囲気を返せよ!俺がめいいっぱいカッコつけたのにどうしてくれるんだこの空気!」

 

 その後俺たちはしばらくいがみ合っていたが、途中でこのやり取りの無為さに気が付いた俺がアクアにスキルを教えてもらって終わった。

 スキルを教えるアクアがまた泣いたりしないかと心配していたが、アクアは終始ご機嫌だった。とは言え俺が傷つけたのも事実だ。今日の晩御飯はとびきりのものを用意してやろう。

 そんなことを考えながら、2人で屋敷を後にするのであった。

 

 

 

 


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