昼からカズマとのデートを控えた私は、アクセルで一番大きな屋敷の前にいた。
この屋敷は、仮面盗賊団の下部組織である我が盗賊団のアジトである。世間知らずの下っ端が、不動産屋で交渉・・・・・もとい権力で無料で手に入れたものだ。・・・・・まぁ、あの子にはそんな自覚はないだろうが。
そんな屋敷の前で私は胸に手を当て、深呼吸していた。
集うのは個性的で奔放すぎるメンバーたち、今日こそは皆のペースに飲まれてはならない。仮面盗賊団と我が盗賊団の共同戦線についての相談をしなければならないのに、ここ数回、一度も会議できなかったのだ。
大丈夫。大丈夫、私は強い。
そう言い聞かせ屋敷のドアに手をかけると―――
「これなんなのさ!? いやーーーーー!助けてーー!スライムに飲まれる!誰か!誰かーーー!」
「ああっ!なんて素晴らしいのっ!! どれだけ飲んでもグレープところてんスライムがなくならないなんて!! ああっお姉さんはここで死んじゃうの!?」
「馬鹿なこと言ってないで早く助けてよ!! いやーーーっ!!」
――そこには紫色の粘液体に全身を包まれた、クリスとセシリーの姿があった。
「あ、あなたたちは何をやっているのですか!!」
私は二人を助けるべく、杖をもってスライムに飛びかかった。
この人たちをまとめ上げなければならないのか・・・・・・。
・・・・・・・さっそく心が折れそうだ。
★★★
「ああ・・・・・新作ところてんスライムが・・・・・。床に落ちた上の部分だけならまだ飲めるかしら・・・・・? ってめぐみんさん!! もしかしなくても私を助けてくれたのね!? 目に涙を溜めて私を心配してくれたなんて!! なんて愛らしいの!?結婚してください!!」
「違いますよ! あなた達の不甲斐なさに思わず泣きそうになっただけって抱き着かないでください! あ、ああっ・・・・・体中がベタベタに・・・・・」
スライムが倒され放心していたセシリーは、私の姿を見るや否や抱き着いてきた。
・・・・・全身に甘ったるいところてんスライムを纏わせながら。おかげでこっちの服までダメになってしまった。
「ううっ・・・・・ありがとねめぐみん。まさかところてんスライムがこんなに怖いものだとは思わなかったよ・・・・・」
同じく全身をベトベトにした、涙目のクリスが私にお礼を言ってくる。小さく震えている辺りよっぽど怖かったらしい。
「いえ・・・・・。でもクリスほどの人がこの程度のスライムに手こずるとは思いませんでしたよ」
「私だって・・・・・寝こみを襲われなければこんなことには・・・・・・・」
どうやら不意打ちでやられただけだったらしい。まぁそうでなければおかしい。クリスは私が最も尊敬する仮面盗賊団のお頭だ。当然戦闘の腕だって凄腕のはず。
それにしてもこの惨状は・・・・・・。思わず溜息が出てしまう。
「それでお姉さん、今回は一体何をしでかしたのですか?怒らないので言ってみてください」
「ねぇめぐみんさん、どうして私のせいだと思うのかしら? 無条件で疑われるのは私も悲しいのだけれど?」
「違うのですか?」
「・・・・・・・・・・・・・・。それはそうとして、前にも言いましたがめぐみんさん!! 魔王討伐おめでとうございます!アクシズ教教義に従って、あなたを特別名誉アクシズ教徒に任命します!!」
「いりませんよそんなもの! 誤魔化そうとしても無駄ですよ!さっさと白状してください!」
「べ、別にお姉さんは何もしてないわよ?」
そう言ってセシリーは口笛を吹き始めた。・・・・・・この人は!
この期に及んで誤魔化そうとするセシリーにつめ寄り、前髪を引っ張り上げる。
「ちょっとめぐみんさん!?」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「ああっ!なんて冷たい目!こういう目も私は好きだけどやっぱりいつもの可愛いめぐみんさんの方がって、痛い痛い痛い!髪が、私の奇麗な髪が、ごめんなさいめぐみんさん!話すから!話すから離して欲しいの!」
「・・・・・・分かりました」
私が手を放してやると、さすがに痛かったのか前頭部を撫でているセシリー。何があったかを話させるためだけに、ここまで手こずらされるとは思わなかった。
あの男が普段アクアに対して抱いている感情はこんな感じだったのだろうか。・・・・・これからは少しだけあの男に迷惑を掛けないようにしよう。
そんなことを考えていると、セシリーがおずおずと事の顛末を話し始める―――
「あ、あなたはバカなのですか・・・・・?」
どうやら、今回の事件の原因となったところてんスライムは、セシリーが改造に改造を重ねた逸品だったらしい。どこで拾ったか分からないリッチーの髪の毛を用いて強化したことにより、ドレインタッチの能力を習得。人に触れれば魔力を吸い取り際限なく増殖するものだったとか。さすがに危険すぎないだろうか・・・・・・。
「だって!改造したところてんスライムの方が美味しいんだもの。その都度改造するのが面倒だから勝手に増えるようにしただけよ?」
「・・・・・お姉さんが危険な品を発明しちゃったのは分かりました。でもそれはこの状況の説明になりません。一体何があったのですか?」
まったく反省した様子の無いセシリーは私の問いかけを聞くと、グチョグチョと音を立てながらが立ち上がり・・・・・・。
そしてクリスを指差した。
「・・・・・・クリスさんのせいだと思います」
「ちょっとセシリーさん!? キミは何を言ってるのさ!」
突然の糾弾にショックを受けるクリス。そんなクリスに向かって、セシリーは自信満々に言い放つ。
「ソファーに寝転ぶクリスさんに、『暇ならアクシズ教徒としてところてんスライムの販売を手伝って欲しいです』と頼んだのに、この人ったらあろうことかそのまま寝てしまったんです。きっとクリスさんったらところてんスライムの素晴らしさを理解してないんだわ!だから寝ているクリスさんのお腹の上に魔改造ところてんスライムを乗せて―――」
「キミかぁ!! キミのせいなのかぁ! 寝苦しいと思ったら体中をスライムに覆われて身動き出来なくなっててビックリしたよ!! 私が死んじゃうとこの世界は大変なことになっちゃうんだからね!?」
「お姉さん・・・・・・さすがにそれは・・・・」
衝撃の事実に激昂してセシリーに詰め寄るクリス。それに私も同調する。本当に一体この人は何をしているのだろうか?珍しく怒り狂うクリスが声を荒げて。
「大体私を暇そうって言ってるけど、セシリーさんだっていつも暇そうじゃないかぁ!!」
「私は暇ではありませんよ? 今日もエリス教会でステンドグラスに石を投げ、エリス像の胸を削り、襲い掛かってきたプリーストの慎ましやかな胸を揉みしだいて―――」
そこまで聞いた瞬間、銀のダガーを抜き、泣きながらセシリーに襲い掛かる。
「うわああああああああああああこの神敵め! 私の教会になにをやってるのさああああああああああ! というか本当に辞めて!私の敬虔な信者たちをいじめないでよぉ!」
「おっと!邪悪なエリス教徒め!正体を現したわね!」
そしてそれを間一髪で躱すセシリー。何気にクリスが私の教会とか信徒とか言っているのが気になるが・・・・・・。これがカズマの言っていた、クリスのエリス様になりきりたい病なのだろうか。セシリーがおかしいのは分かっていたが、常識人らしきクリスも実はそうじゃなかったらしい。
というかお頭として、そろそろ喧嘩を止めないければ。
「クリスは落ち着いてください。そしてお姉さんはクリスに謝ってください。・・・・・・二人とも私の話を聞いていますか。・・・・・・・おい、それ以上お頭の話を無視するなら考えがありますよ。・・・・・・だから話を聞けって言ってるでしょうが!!!!」
★★★
喧嘩を仲裁・・・・・ではなく乱入して制圧した私は、クリスとお風呂の順番待ちをしていた。3人ともスライム塗れだったが、クリスに話があったのでセシリーに順番を譲ったのだ。
「ごめんねめぐみん・・・・・。思わず取り乱しちゃったよ・・・・・」
「今回の件も全面的にお姉さんが悪いので気にしなくていいですよ。・・・・でもあのお姉さんも、一応悪い人ではない・・・・・・・はずなので嫌わないであげて下さいね」
「私もセシリーさんは悪い人じゃないと、分かってはいるんだけどね。・・・・・これでも人を見る目には自信があるから!!」
そう言ってニカッっと笑うクリス。どうやら相当自信があるらしい。
・・・・・・あれだけアクセルにいて、有名人のバニルやウィズの正体に気が付いていない時点でこの人の目は節穴だと思うのだが。
まぁそれはそれとして、今日の本題に取り掛かることにした。
今日の本題・・・・それはつまり、仮面盗賊団と我が盗賊団の連携の事である。
特に気になるのはカズマとクリスがその正体を明かすのかどうかだ。
私たち全員が仮面盗賊団の正体を共有していれば、これからの連携も取りやすくなると思うのだが・・・・・・。
そんな私の提案は―――
「――だめだね。さすがに正体は明かせないかな」
冷静なクリスの言葉によって打ち砕かれた。
私たちは、仮面盗賊団を応援する気持ちを元に集まった。
『それがたとえ王女でも、いたいけな少女が危険に晒されるとあっては見過ごせない。困っている人がいるのなら、そこが貴族の屋敷だろうが王城だろうがどんな場所にでも忍び込む。それが仮面盗賊団だ』
これは仮面の男の言葉である。この話を私から聞いたゆんゆんとアイリスは、仮面盗賊団に強い憧れを抱き、本気で協力することを誓ってくれた。
今でこそ我が盗賊団を遊び場として活用している二人だが、カズマやクリスから聞いた仮面盗賊団の新たな活躍話をしてやると、目を輝かせて食いついてくる。それくらいには私と同じ意志を共にする仲間のはずなのだ。
正体を知れば出来る連携も増える、だから仮面盗賊団にとってもプラスになると思うのだが・・・・・・。
「・・・・・どうしてですか?私たちがそんなに信用できませんか?」
「信用はしてるよ? めぐみんたちは私と助手君の正体を知っても、他の人に言いふらしたりしないと思うしね」
クリス、いや仮面盗賊団の頭領はやわらかな口調で、けれどと言葉を続ける。
どこか悪戯っぽく笑いながら。
そして、涼し気な水色の瞳を光らせて言った。
「世界を守る義賊は、いたいけな少女たちの夢を守るのも仕事のうちなのさ」
カッコいい。
なんて格好いいんだろう。
仮面の男と銀髪の頭領は、誰にも理解されず、その行いが知られることがなくとも、世界のために戦い続けている。そしてそれだけでなく、ゆんゆんとアイリスの憧れまで守ろうとしているのだ。
一度正体を知ってしまえばそれは身近な存在となり、今までのように憧れることは出来なくなる。それに今の関係性も壊れてしまうだろう。それで教えられないと言ったのだ。
「それに私たちの行動は世界を護るためだけど、立派な犯罪でもある。正体を知ればその身に危険が及ぶかもしれない、だから神に選ばれたものにしか正体を明かさないのさ」
そして何より私たちの身の安全を案じて正体を隠していたのだ。私にだけ正体を明かしたのは大魔法使いの私が神に選ばれし存在だったからだろう。実に気分がいい。
「・・・・・これでめぐみんなら納得してくれるかな。セシリーさんにバレるとそれをネタに脅されそうだから隠してるわけじゃないよ、ホントだよ?」
小声でそんなよく分からないことを言った気がしたが、気のせいだろう。最高の義賊がそんなことを言うはずがない。
ともかく、銀髪の頭領の慈悲深さに対する浅慮を恥じた私は、出来る限りの謝罪をすることにした。
両手両足を床に平伏して行う謝罪行為、
―――そう、土下座である。
「すみませんでした! ファンを自称するこの私としたことが、クリス様の考えに気づかないだなんて!」
「めぐみん、いいからいいから、別に謝ることでもないし土下座はやめてえ!あとクリス様って呼び方はなんなのさ!!」
「勿論尊敬の意を込めて言っているだけです。下っ端と呼ぶわけには参りませんので」
「逆に目立つからやめてえ!! 普通に今まで通りクリスで、口調も普通でいいから」
そ、そういうものなのだろうか。仕方ないので顔を上げると、クリスは若干照れ臭そうな顔をしていた。
そしてコホンと咳ばらいをして、何か企んだようにニヤリと笑うと。
「そういえばさ、お頭様に相談があるんだよ」
「お、お頭様!? 他の人ならいざ知らず、仮面盗賊団のお頭にお頭様と呼ばれるのは違和感しかないのですが!!」
「何言ってるのさ、今の私はめぐみん盗賊団の下っ端だからね、お頭様をお頭様と呼ぶのは何もおかしくないよ? ねっお頭様?」
「うう・・・・・・。わ、分かりました、そ、それでは下っ端様・・・・・・。ご要件はなんでしょうか・・・・・・」
他の人たちにお頭と呼ばれるのはむしろ大歓迎なのだが、銀髪の首領にそう言われるのは本当に気恥ずかしい。顔が赤くなっていくのを感じる。そんな私の反応を見たのかクリスがニヤニヤして。
「下っ端に様を付けちゃだめだよ? そこはしっかり呼び捨てで呼ばなきゃ、さぁ下っ端の意見を聞く頭領風に言ってみてよ」
「うううううううううう・・・・・・。し、したっぱは何の相談が・・・・・・。もう勘弁してください・・・・・」
あまりの羞恥に真っ赤になる顔を両手で覆い隠すが、どうやら耳まで熱くなっているらしい。うう・・・・・・どこかに隠れてしまいたい・・・・・。
「あはははは、めぐみんったら可愛いね。さて、下っ端扱いされてた意趣返しも出来たし。ここからはきちんとした相談をしようか」
「・・・・・うう、なんでしょうか・・・・」
顔が熱すぎて冷えるまで相当時間がかかりそうだ。クリスが何か言っているが正直それどころじゃない。
「実は今回の作戦にテレポートを使いたいと思ってるんだけど、テレポート覚えてるのってゆんゆんだけだよね? 私たちって5人だから1回のテレポートで移動できないんだよ。だから私が知ってるテレポートを使える人を盗賊団に加えてほしいんだ」
さっきから話が頭に全然入ってこない、まぁクリスが選んだ人ならその人に任せておけば・・・・・・・。
「・・・・・ということで助手君を新たにメンバーに加えてほしいんだけど」
任せておけば・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・え?
「今なんと?」
「・・・・だからカズマ君をメンバーに入れてほしいんだけど」
カズマというのは私の大好きなあの男の事で、しかも憧れの仮面の盗賊というわけで、それが私の盗賊団の下っ端に・・・・・?
いやいやいや、おかしいおかしい!!。
「ちょっと待ってください!! 仮面盗賊団のファンであるこの私に、仮面盗賊団のお二人を下っ端扱いさせるつもりであると!? い、いったい私にどれだけ恥ずかしい思いをさせるつもりなのですか!?」
「まぁまぁそう言わず、頼むよお頭様」
「お、お頭様って言わないでください!! というか何故あの男なのですか!!」
「それはね―――」
取り乱す私をなだめるように話すクリスによると、今回、仮面盗賊団の二人はめぐみん盗賊団の一員として屋敷に向かう予定なのだとか。そして、隙を見て別行動を開始し、仮面盗賊団として皆の前に姿を現すつもりらしい。カズマにも話は付けてあるそうだ。そういうことならと私も了承した。
ギリギリまで正体を隠して、一番いい所を持っていくというのは紅魔族的にもかなりの高評価だ。
「それは格好いいですね!! 敵を騙すならまず味方からというやつでしょうか!?」
「だ、騙すってのは人聞き悪いなぁ・・・・・。指示を出すときに私と助手君がこっちにいる方が都合がいいからだよ。さて、めぐみんも許可してくれたし、後は全員が集まってから説明するだけなんだけど・・・・・」
「・・・・・・・そういえばあの二人は遅いですね。まったく」
大方、同年代の友人が出来て喜んだゆんゆんが下っ端を連れまわしているのだろう。
下っ端―――即ち、ベルセルク王女のアイリスは、私たちのアジトに来る頻度が増えている。それは、アイリスがドラゴンスレイヤーとしての実力を認められたこともあるが、最大の理由は、魔王が討伐され世界が平和になったかららしい。
・・・・・・さすがに、一国の王女が護衛なしでうろつくのはどうかと思うが。案の定、毎回お付きの二人組がアジトに乗り込んでくる。そしてそれをアイリスがあの手この手で撃退したり、そのまま連れていかれたりするまでがセットだ。
ドアの開く音がしたので見ると、風呂上がりで、全身を楽な部屋着に着替えたセシリーがいた。
「ねぇ、めぐみんさん、やっぱり私と風呂に入る気はないかしら? お姉さんはめぐみんさんが望むならいつでもバッチ来いよ?」
「お断りします。クリス、私はゆんゆん達を迎えに行かなければならないので先に風呂に入らせてもらいますね」
私と同じくスライム塗れのクリスに断りを入れる。
「勿論いいよ、なんならお頭様命令でもいいよ?」
「だからもうやめてください!!」
私はキッとクリスの方を睨みつけ、スライム汚れを落とすためにお風呂に入るのであった。
★★★
「クレープぅ・・・・私の・・・・・私のクレープがぁ・・・・・」
「あなたはいつまでめそめそしているのですか。大体、あなたがいつまでも街をふらついてるのが悪いのでしょう」
「お頭様はちょっと乱暴すぎると思います・・・・・・何も私の串焼きまで食べなくてとも」
「あなたもあなたですよ。テレポートで移動してきたらすぐにアジトに来て下さいと言ってあるじゃないですか、遊びに行くなら全員揃ってからなら付き合ってあげます」
ゆんゆんから奪ったクレープと、アイリスから奪った串焼きをさっと食べた私は二人を引き連れアジトに戻ってきた。
ちなみに案の定二人は商店街をふらついていた。
「えっ、本当に? 本当にめぐみんが付き合ってくれるの? えっじゃあ今度アクセルに出来るカジノに遊びに行ってみたいんだけど」
「カジノですか、それはいいですね。って違いますよ!!」
危うくいつものペースに巻き込まれるところだった、今日こそ仮面盗賊団の話をしなければならないのだ。
そのことを告げ、二人を残りのメンバーの待つ居間に招き入れると、目を輝かせたセシリーがバッと立ち上がり。
「あっ!! めぐみんさんおかえりなさい。そしてゆんゆんさんにイリスさん、今日こそ是非アクシズ教団に入信して私と結婚してください!! アクシズ教団では重婚も同性婚も認められてるわ!!」
「お姉さんも馬鹿なこと言ってないで座ってください、今から全員に話があります。そしてクリスはこっちに来て下さい」
やたらテンションの高いセシリーをなだめ、クリスをこちらに手招きする。今回の計画についてクリスと口裏を合わせる予定だからだ。
これからの予定を軽く照らし合わせた後、テーブルの前に立ち、そこに両手を突いて身を乗り出した。
「それでは皆さん、今日はお集り頂きありがとうございます。私の活躍により魔王が倒され平和になったことですが、それでも私たちの活動は終わることはありません。そして今日は我が盗賊団の未来に関わる重大発表が二つほどあります」
「「「重大発表?」」」
クリス以外の3人が首を傾げる。
「めぐみんったら遂に取り返しのつかない犯罪を・・・・?」
「お頭様・・・・・・今度は誰を爆破してしまったのですか・・・・・・?」
「もしかしてお姉さんに嫁入りを!?」
「あなた達は私をなんだと思ってるのですか!! 違いますよ、一つ目は新たな仲間が加入するという話です。」
テーブルをバンバン叩き、新メンバーが加入することを告げる。
流石に真面目な相談だと理解したのか三人もうって変わって真剣な表情で私を見つめてくる。
「今日はこの場にはいませんが、まぁ全員面識があるので問題ないでしょう。新しい仲間というのはカズマのことです」
「ええっ!? カズマさんが参加するの? 前に誘ったけど断られたって言ってなかったっけ?」
「ま、まぁ我が盗賊団の活躍を聞いて、加入する気になったのでしょう・・・・・・」
「私たちの活動って、友達と遊ぶことじゃなかったっけ」
「友達と遊びたいだけなら今すぐ出て行って、二度と帰ってこないで下さい」
一瞬で涙目になったゆんゆんを片目に、残りの二人を見やるとアイリスは不思議そうに首を傾げ、セシリーは肩を震わせ顔を俯かせている。
「・・・・・確かにお兄様と行動を共に出来るのは嬉しいのですが・・・・・・。これは一体・・・・・? 大丈夫なのでしょうか・・・・?」
よく分からないことをブツブツ言っているアイリス。・・・・・・この子はあの男を慕っているのだから素直に喜べばいいのに。
そんなことを考えていると、セシリーが急に立ち上がったかと思うと、私に詰め寄り、
「男であるカズマさんが、私のロリっ子ハーレムに入ってくるなんて・・・・・・。許せないわ!! せめてカズマさんが良い男でお金持ちだったら恋人にしてあげてもいいのだけれど・・・・・・。あれ?カズマさんって勇者だから名声はあるし、アクセル一番のお金持ちよね・・・・・・。そうだわ! 私カズマさんと結婚するわ! そして養ってもらって、めぐみんさんと毎日イチャイチャするの!!」
「ふ、ふざけないでください!! それにカズマはろくな男ではありませんよ!!」
こんなふざけた人にカズマは渡せない。というか大好きなダクネスやアクアであっても渡す気はない。私はもう決心したのだ。歯を食いしばってセシリーを睨みつける。それに対して何故かセシリーは優し気に微笑み。
「ふんふん、なるほどね。お姉さん分かっちゃったわ!!」
「な、なにが分かったというのですか。というか微笑むのをやめて下さい」
私がそう言うも、セシリーは柔らかな表情を浮かべたまま耳打ちしてくる。
「めぐみんさんってば、カズマさんの事が好きなのね?」
「ッ・・・・・・・・・・・!?!?!?、そ、そ、そんなわけでは!!」
本当に余計なところで鋭いセシリーの言葉に、私の耳が赤くなった。
自分で言う分には堂々と出来るのだが、人に言われるとどうにも恥ずかしくて仕方ない。しかも昨日のカズマとの事もあって・・・・・うぅ・・・・・・。
「あらあら、めぐみんさんってば可愛いんだから。お姉さんはその乙女なめぐみんさんの表情が一番好きよ?」
「だ、だから、ち、違いますよぉ・・・・・」
すっかり恋心を見抜かれてしまった私は体中から力が抜けへたり落ちてしまう。そんな私の頭を撫でてくるセシリー。
「もしその事について悩んでいるなら相談に乗るわよ? なにせお姉さんは相談役だからね!」
「・・・・・・・あ、あとで、お願いします」
この人に隠すのはもう諦めることにした。優し気に微笑むセシリーはなんだかちゃんとした聖職者に見える。この人はたまにこういう意外な姿を見せるからズルいと思う。
そうしていると、手持ち無沙汰だったクリスが近付いてきて。
「あはははは、めぐみんって恋愛に対して男らしいと思ってたけど、やっぱり年相応の可愛らしい部分もあるんだね。それじゃあこの後の話は私が引き継いでおくよ」
「あっ、それもお願いします・・・・」
そう言って私の代わりに、ゆんゆんとアイリスの前に立つクリス。どうやら、盗賊のツテで仮面盗賊団と接触し、その際に協力を求められたという体で話を進めるようだ。
「なんて健気で気高い人たちなの・・・・・・・決めた、私全力でその人たちの支援をするわ!!」
「素晴らしいです!! 他には!! 特にその仮面の男は何か言っていませんでしたか!?」
「あ、ありがとう。あと仮面の男は特に何も言ってなかったよ。変な人だったし」
ゆんゆんとアイリスは、クリスが引くぐらいの勢いで体を乗り出し話を聞いている。まぁこの様子なら大丈夫だろう。それよりも今は私の事だ。
「それじゃあ恋の相談に乗っちゃうわよ。とはいってもカズマさんはめぐみんさんにベタ惚れだと思うわよ? めぐみんさんってばこんなに可愛いらしいんだもの」
「そ、そうなのでしょうか、あの男は気の多い男ですから。言い寄られれば誰にでもホイホイ付いていきそうなのですが・・・・・」
これが今の私が抱える一番の不安である。昨日は勇気を振り絞って猛アタックを仕掛けたが、恋人関係になることは出来なかった。・・・・・覚悟が決まるまで待ってくれ、と言っていたのであと一歩だとは思うのだが・・・・・。
すると、顎に手を当て何かを考えていたセシリーが。
「そうねぇ、それじゃあカズマさんをめぐみんさんに夢中にさせるっていうのはどうかしら」
「む、夢中にですか。それが出来るのなら既にやっているのですが・・・・・・。何かいい方法はないでしょうか。今日は昼からデートの予定があるのですよ」
実際そうできれば文句なしなのだが・・・・・。押し迫るやり方は正直昨日の夜這いで限界だ。
「ああっ!! なんて羨ましい!! 私も付いて行っていいかしら!? そしてカズマさんを排除してめぐみんさんとランデブー!!」
「私は真面目に相談しているのですが・・・・・・・」
「・・・・・そうね、流石に今のはお姉さんが悪かったわ。それでデートでカズマさんに何か仕掛ける予定なのね?」
「あっ、はい。そういうことです。何かありませんでしょうか・・・・・・?」
一応はスキルを教えるという建前はあるが、どうせそんなに時間は掛からないので残りの時間は全てデートに使うつもりだ。それにしても1対1のデートは初めてなので何をすればいいのか分からない。
「・・・・・男の人って、仲の良い女の子に急に素っ気なくされると、燃え上がるらしいのよね」
「・・・・・・・・つまり?」
「つまり、『押してダメなら引いてみろ』ってことだわ」
確かに・・・・・・。そういえばカズマに対して押すばかりで引くことはしてこなかった。『押してダメなら引いてみろ』・・・・・・いい言葉だ。
「それはいいですね!! お姉さんありがとうございます、今日はその方針で頑張ってみます」
「うふふ、どういたしまして。それじゃあ上手くいったら教えてね?」
これはいい事を聞いた。セシリーに感謝を伝え、結果を報告することを約束した。
それと時を同じく、クリス達の方も話を終えたらしい。
「ねぇ?めぐみんとセシリーさんはクリスさんから話を聞かなくていいの? 仮面盗賊団との協力ってとっても重要な話だと思うわよ?」
「それは大丈夫ですよ。私とお姉さんは二人が商店街で遊び惚けている間に、話を聞いていましたので」
「「それはごめんなさい」」
申し訳なさそうに声を揃えるアイリスとゆんゆん。ちなみにセシリーにはクリスが話をつけてくれた。
「それでお頭様は、セシリーお姉さんと何の話をしていたのですか? かなり大事な話をしているように見えたのですが」
そう言って首を傾げるアイリス。ゆんゆんもそれに同調する。それを見た私はフッと笑い。
「子供の二人には関係のない話ですよ。私とお姉さんは大人の話をしていたのです」
「あんたちょっと待ちなさいよ、この中で一番子供っぽい体つきのめぐみんが何を言っているのよ!!」
「私は子供ではありません!! 戦いにおいても勉学においてもお頭様より私の方が大人だと思うのですが!!」
私の言葉に激しく反応する二人の手下に、やれやれと首を振る。
「そうやって簡単にムキになる所が子供なんです。それに―――」
そこまで言おうとして、いきり立ったゆんゆんが言葉を遮る。
「またカズマさんを引き合いに出して、私の方が大人っていうつもりなんでしょ? させないわよ。それに風呂に入ったことも、一緒に寝たこともただの事故なんでしょ? やっぱりめぐみんは子供じゃない」
「はぁ・・・・その程度の事ではありませんよ」
「な、何よ? ま、まさかめぐみん?」
唇に指を当て、物憂げな表情を浮かべながら言ってやることにした。
「もうこの唇は、あの男に奪われてしまったのですから・・・・・」
「「ええええええええええええええ」」
「ちょっ!? な、何をするんですか、やめっ! やめろお! 放してください!! たった2回キスしただけですよ」
「ちょっとめぐみんどういう事!? あの男ってカズマさんの事よね? これも事故でしょ?事故なんでしょ? ねぇ事故って言ってよ!!」
「おお、お兄様とキスをしたのですか!? そ、それも2回も、か、軽い奴なんですよね?」
掴みかかってきた二人を押しのけ、私は乱れた服の襟を正すと。
「いえ、口の中に舌を這わせ、唇を貪り、息が切れるまで続けましたが」
「え、え・・・・・・ま、まさかのディープ・・・・・・?」
「そ、そんな激しく・・・・・。めぐみんさんは淑女としてはしたないですよ。・・・うぅ・・・・羨ましいです」
私の平然とした様子に、格の違いを知って青い顔をしてよろめく二人。実は言ってて結構恥ずかしいのだが、二人はそれに気づけないだろう。
そんな二人にとどめを刺してやることにした。
「実は今日も、昼からカズマとデートする予定なのです。というわけで今日のところはここでお開きにしましょう?」
「ま、ま、負けただなんて思ってないからああああああああああああ」
「デ、デート・・・・・・あの誘われたら誰にでも付いていきそうなお兄様とデート、お兄様を誑かすものは排除しなければ・・・・・・・」
泣きながら屋敷から逃げ出すゆんゆん。そして放心状態でブツブツ呟いているアイリス。そんな二人を見て私は勝ち誇ったように笑っていると―――
「イ、イリス様! やはりここに居られましたか!! 今日は許可を出した覚えはありませんよ!! 早くお城にお戻りになってください!!」
と、居間の入口から、突然泣きそうな声がかけられた。
振り返ると、そこには白いスーツに身を固め、腰に剣を刺した女性がいる。
ああ、またこの人か。アイリス専属の変態を眺めながらそう思った。
そしてここからはお決まりの展開なのだ。
私もクリスもセシリーも、楽し気にその様子を眺める。
「ク、クレア、お願い! 今だけ、今だけは!! このままだとお兄様が誑かされそうなんです!!」
「それはとてもいい事です。 あの男はアイリス様にとって悪影響を及ぼす男です。 むしろさっさと所帯をもって尻に敷かれてしまえばいいのです。さぁアイリス様抵抗なさらず」
それだけは許さないとばかりにアイリスに掴み掛ろうとする。しかしアイリスは腰を低くし――
「『エクステリオン』!!」
「ちょっ」
光り輝く長大な大剣を抜き放ち斬撃を飛ばす。そして避ける間もなくクレアに突き刺さった。手加減したのか傷こそないものの・・・・・そのままクレアは気絶した。最近のアイリスは本当に容赦がない。
「あははははは、クレアもレインもララティーナも、私の周りの人達はお兄様との婚約を邪魔するものばかり。そんなのチョー許しません!! 歯向かうものはマジで全員切り伏せます!!」
どこで覚えたのか奇妙な口調で高笑いするアイリス。かつての御淑やかで我儘を言わないお姫様はどこに行ってしまったのだろう。
今日はアイリスの勝ちか。そんなことを考えてクリスと微笑み合う。
と、アイリスの横の空間が突如として捻じ曲がる。
そしてフードを被った魔法使い――レインが現れた。
「申し訳ありません。『テレポート』」
「ああっ、レイン、それはマジ卑怯ですよ!? 私はお兄様のデートを妨害しなけれ――――」
往生際の悪いアイリスと、気絶したクレアはレインに連れられ、そのまま転送されていった。
その愉快ないつもの風景に、残された私たちは思わず笑いあう。
それにしても忙しい人たちだった。
「さて、ゆんゆんとアイリスも行ってしまったことですし、今日はここら辺でお開きにしますか」
「そうだねー、それじゃあまたねめぐみん」
「屋敷の番は私に任せてほしいわ!!」
実質アジトに住み込んでいるセシリー。そしてアジトをお金の掛からない寝床として活用しているクリスに別れを告げる。
今日は『押してダメなら引いてみよ』をモットーにしてみよう、そんなことを考えながらカズマとの待ち合わせ場所に向かう。
――心をウキウキさせる私は、今から待ち受ける絶望など、予想だにしていなかった。