このすばアフター!カズマ&めぐみんのターン   作:ぽいんと

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第7話 のほほん王都デート

 晴れやかな日差しに照らされ、俺とめぐみんはアクセルを散歩していた。

 デート……なのだが、特にプランを決めていなかったのでこんな感じになっている。

 ちなみに爆裂魔法関連スキルを教えてもらうのは後に回した。一度スキルを使えば後は動けなくなるしな。

 

 それはともかくとして……今はさっきから妙に近いこいつが気になる。

 

「あ、あのなぁ、ちょっと近くないか? 肩が当たりそうな距離なんだが……」

「そうですか? あまり気にしなくてもいいと思いますが」

 

 めぐみんは何事も無いかのように、俺の真横で微笑み返してくる。嫌でも感じる仄かな体温に胸が高鳴るのを感じる。今までだって冒険の一環として、おんぶしてやったり、暗闇の中で手を繋いだりしたことは一度や二度じゃない。それよりもずっと軽いスキンシップのはずだが……デートとして意識するだけでここまで変わるものなのか。

 

「流石に離れろって……、さっきから好奇の目線を向けられて辛いんだよ」

「いやです。私はずっと全力で行くと誓いましたので。んっ」

 

 そう言って、俺の肩に頭を寄せてくる。……そんな一つの仕草だけでここまでドキドキされてしまう俺が情けない。別に嫌ではない……嫌ではないのだが……、周りの目線が痛い。

 

「おいおい、あの鬼畜のカズマが頭のおかしい爆裂娘と付き合ってるぞ!!」

「あんな小さな子供と!! あのエセ勇者はロリコンって噂を聞いてたけど本当だったのね!!」

「あの、頭のおかしい爆裂娘があんなに大人しくなるなんてな。さすがクズマの名前は伊達じゃねぇ!!」

 

 ……好き勝手言ってくれるなこいつら。俺が文句の一つでも言ってやろうと思ったその時、横に感じるめぐみんの体温が突然消えた。

 

「おい、誰がロリっ子で頭がおかしいのか聞こうじゃないか。我が爆裂魔法はもはや詠唱なしで発動できます。そこらへんの事をよく考えてから発言することですね」

 

 杖を突きつけると、ガヤを飛ばしていた人たちは青い顔になり後ずさる。俺もニヤリと笑い手をワキワキさせながら周りを睨みつけ。

 

「と、いうわけだ。魔王すら倒した俺たちへの口の聞き方には気を付けることだな。そして今の俺はあらゆるスキルを使いこなす。ウィズ先生お墨付きの上級魔法を喰らう覚悟が出来たら掛かってこい」

 

 淀みなく言い切る俺に本気を感じたのか、蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。ふんふんとその様子を見届けた後、俺たちは顔を見合わせ、ゲスい笑顔でハイタッチをかます。

 

「「イェーイ!!」」

 

 と、その衝撃でめぐみんのポーチから、手帳サイズの何かが零れ落ちた。……パンパンに膨れたこれは………財布か?

 

「おい、めぐみん何か落としたぞ……、はいこれ」

「ありがとうございます。って私の財布ですか。すぐに気が付けてよかったです」

「…………」

 

 めぐみんが財布と言い張るそれは、膨れ上がり中身がはち切れんばかりの状態である。前に財布を貸してもらったことがあるのだが、中には商店街のポイントカードやら、クーポンやらが詰まっていた。今の財布の様子から、さらに増えたのかもしれない。そう考え、思わず悲哀の目線を向けていると。

 

「な、なんですか? 私の財布がおかしいですか?」

「……おかしい。どんだけポイントカードため込んでるんだよ。使わない分まであるだろ。お前無駄な買い物しないんだから、そんなにカード必要ないと思うんだが」

「いえ、ポイントは貰えるだけ貰っておくのがいいですよ? 貰って減るモノではありませんし、節約にもなります。クーポンだってしっかり活用すれば―――」

 

 いえ、節約談義は結構です。そのままペラペラと節約術について話し続けるめぐみんを見て、思わず遠い目になってしまう。

 そういえばめぐみんは普段、ほとんどの金を俺に預けてるんだよなぁ。

 渡した金も殆どを実家に仕送りに使い、残ったわずかな金も、生活必需品や食料品に使うばかり。今持っている装備だって、キャベツ狩りの時に買った杖が一番のはずだ。

 

「どうしたのですか? 上手なポイントの溜め方が気になるのですか?」

「いや、そうじゃなくてだな……」

 

 俺たちは一応は一端の大富豪だ。今は諸事情で生活費+α程度しか残ってないが、あと少しで魔王討伐の報酬が出る。そんな金持ちの俺の仲間のめぐみんは、何故か未だに数着しかない私服を使いまわし、倹約に努めている。たまに高価な装備品を『これいいですね!! これいいですね!!』と欲しがるだけで実際に買うことはない。

 

「それではクーポンですか? クーポン系は有効期限に注意ですね。ただ、有効期限に惑わされて買わなくていいものを――」

「だからその話はいいって!! それよりまたちょっかい掛けられるのも面倒だし、別の街に移動しようぜ」

「むぅ……節約は大事ですよ? まぁいいです、それでどこへ?」

 

 少し頬を膨らませ、首を傾げる。せっかくだし倹約家のこいつに、何かを買ってやることにしよう。となるとこの国で最も大きな街が最適かな。

 

「お前普段俺にお金を預けてるだろ? 今日はその分俺が色々買ってやるよ。だから王都へ行こうぜ」

 

 

 

 

 ――テレポートで王都についた俺たちは、王都の商業区を歩いていた。

 相変わらずめぐみんは俺の真横に張り付いてくるが、流石に慣れてきたのか緊張はしなくなった。

 

「しかし、本当に賑やかな商業区ですね。人もアクセルと比べものにならないくらい多いですし、凄まじい熱気を感じます」

「もう少しで魔王討伐記念祭があるからな、それの準備で忙しいんだろ」

 

 隣り合う俺とめぐみんは、改めて街の様子を見る。そこかしこに色とりどりの箱や、道具などが積み上げられ、壁という壁にはチラシが貼られている。思わず息が詰まるような人ごみの中、各商店の店員は、出店する予定の出店(でみせ)を整備したり、逆に既に完成した出店では接客したりと忙しそうだ。

 

 そういえば、こんな光景を見るのは二度目だ。一度目はエリス・アクア祭だったか。あの時は祭りのアドバイザーとして奮闘したっけ。忙しくて騒がしくて迷惑も掛け合った盛大な祭りだったが、今考えると楽しかったものだ。 

 それに街を歩く人々は皆、安らかな顔をしている気がする。

 と、隣にいた3人組の声が聞こえてくる。

 

「もうあの魔王軍襲撃警報を聞かなくてよくなったと思うと、ホント嬉しいよ。いや、まぁ俺はびびってないけどな?」

「嘘つきなさいよ、いつも真っ先に逃げてたくせに。でも魔王軍がいなくなったおかげで物価が下がって嬉しいわ」

「それもこれも勇者様のおかげだな!!」

 

 心底愉快気に笑いあう人達をみて、思わず俺たちも顔を見合わせ微笑みあう。そういえば、この世界はずっと魔王に苦しめられてきたんだっけか。別にこの世界のために魔王を倒したわけじゃないんだが、感謝されると悪い気はしない。

 

「な、なぁめぐみん、今ここで『自分が魔王を倒した勇者です』って名乗ってみたいんだが」

「ダメですよ。嘘つき扱いされるカズマが目に見えます。それより、私こそ紅魔流の名乗りを上げてみたいのですが」

「それこそダメだろ。お前の頭のおかしさを王都にまで広める必要はないぞ」

「私は謙虚でミステリアスな大魔法使いなので大丈夫です。それよりカズマこそ、王都でカズマが悪徳勇者呼ばわりされないことを祈ってますよ」

 

 そう言って、クスクス笑うめぐみん。失礼な事を言われた気がするが、もはや俺はその程度では動じない。魔王を倒した勇者は、心の広さも勇者級に成長したのだ。

 そんなことを考えていると、俺を指さしてヒソヒソ話をするカップルがいて……。

 

「あっ!! あれって卑怯者のカズマじゃねーか。まじで卑怯者って感じの顔してるな!!」

「あれが噂に聞く、陰湿な嫌がらせを繰り返す男なのね」

 

 ……………。平常心、平常心だ。

 

「お、あいつこっち見てないか? 俺の彼女にエロい目線向けやがって、許せねぇ!!」

「キャーカッコいいー!! でもあんな色情魔に睨まれても私は気にしないわ」

 

 …………。なんだろうこの気持ち。

 

「うおっ、なんか手をワキワキさせ始めたぞ、あれが『バインド』の構えか!! 気持ちわりぃ!!」

「違うわ!! あれはパンツだけを奪う女の敵『スティール』の構えよ!! キャーコワーイ」

 

 死にたいらしいな。

 

「『カースド・ペトリ――』」

「ちょっとカズマ!! ムカつくのは分かりますが殺す気の詠唱をするのはやめてください!! 目がマジですよ!!」

「……ッ! ………ッッッッ!!」

 

 卑怯者の顔をしているらしい俺はめぐみんに取り押さえられ、バカップルは悪魔に追われたように逃げていった。

 

 

 

 

 バカップルへの怒りをなんとか鎮めた俺は、本来の目的を思い出して服屋に来ていた。

 目的は俺の服ではなく、めぐみんの服だ。こうでもしないとめぐみんは最低限以外の服を買おうとしないだろうしな。

 

 そんなこんなでめぐみんの試着を待っていた。すると試着室のカーテンが開いて。

 

「ど、どうですか? 似合っていますか?」

「………かわいいな」

 

 見た俺は思わず小さな声が漏れてしまった。出てきたのは純白のワンピースを着こなすめぐみん。簡素な作りが逆にめぐみんの白磁の肌と絶妙にマッチし、その華奢な体を際立たせる。そして艶やかな黒髪とのコントラストが見事で、男の庇護欲を誘ってやまない、そんな姿だった。

 直視できずに目を逸らしたせいか、ニマニマしながらめぐみんは寄ってきて。

 

「なんといいましたか? よく聞こえなかったのでもう一回言ってくれると嬉しいです」

「な、なんでもねぇよ。次だ次」

 

 鬱陶しく構ってくるめぐみんを手で押しのけ、次の服を渡す。ちなみに服を決めているのは俺だ。めぐみん自身は余り服に興味はない……と言っていた。その割には楽しそうだが。

 しばらく待っていると、次の服に着替えてめぐみんが出てきた。

 

「珍しいタイプの服ですね。なんとか着られましたが」

「………………ずるいだろ」

 

 今回のめぐみんは茅色のトレンチコートを着ている。ひざ丈までの長さのコートを上手く着崩し、爽やかな表情を浮かべている。さっきまでとは打って変わってボーイッシュな美少女といった感じか。………なんでこんなに似合うのだろう。

 そういえば、ファッションでよく言われる言葉に『美男美女ならなんでも似合う』というのがあったな。………さすがに理不尽なんじゃないだろうか。フツメンの俺に謝ってほしい。

 

「それでそれで? どうなのですか?」

「まぁ………似合ってるんじゃねぇの?知らないけど」

 

 それを聞いて嬉しそうに微笑む。なんだか悔しくなってきた俺は、逆に似合わないもの探すことにした。そう………これは戦いなのだ。決して顔面格差に屈してはならない、これは人権をかけた聖戦だ。

 

 その後俺は必死に格闘した、ある時はぶかぶかのトレーナーを着せ、ある時はダサい文字入りTシャツを着せ、男モノ、田舎のおばちゃんスタイル、ゴスロリなど、色々と試してみた。………でも、その全てが似合っていた。素材がいい、ただこれだけの事実が、時に理不尽な格差を産むのか………そう諦めかけた時、一つの服が目に入った。これならいけるかもしれない。

 

「こ、これを着るのですか? これは男モノですし、ちょっと地味だと思うのですが……」

「さっきからお前は男モノでも、地味系服でも無駄に似合ってただろ。いいから着てみろ」

 

 ささやかな抗議の目を無視し、そのまま試着室に押しやる。着替えを待つ間に必要な小物を見つけた俺は、今か今かとめぐみんを待ち受ける。

 

「……なんというか、普通に薄着過ぎて恥ずかしいです」

 

 そう言って出てきたのは、水色の短パンと白シャツを着ためぐみん。この時点だとバカ可愛いロリっ子でしかない、そこで俺は二つの小物を渡す。一つは麦わら帽子、もう一つは虫取り網だ。……なんで、虫取り網が服屋に置いてあるのかは知らない。そして最後にセリフを書いた紙を見せる。

 

「というわけでめぐみん、ここに書いてある台詞を出来るだけカッコよく言ってくれ」

「よく意味が分からないセリフですね。…まぁいいですが」

 

 麦わらを被り、虫取り網を片手に持っためぐみんは軽く目を瞑る。そして身を翻し虫取り網を高らかに揚げ………

 

「ポ〇モン!!ゲットだぜ!!」

「ッ……!!ッッッ……!!」

 

 堪え切れず腹を押さえて爆笑しながら、目の前の『むしとりしょうねん』を見る。そして俺は思わずガッツポーズをしていた。何を着ても可愛い少女が、見事に少年にクラスチェンジした瞬間だ。勝った!! 完全に少年にになっためぐみんを見て俺は満足した。どんな服でも似合う美少女なんてやっぱりいなかったんだな。こういう時はめぐみんの体型に感謝だ。

 

 そんな事を考えていると、頬を赤くしためぐみんが俺に詰め寄る。

 

「ちょっ!! なんで爆笑してるんですか!?」

「いやぁ………今日ほどめぐみん少年の平らな体型に感謝したことはなかっ」

 

 言い切る前に、胸元を掴まれ、深紅の瞳で睨みつけられる。ガチなゴミを見る目だ。

 

「おい、服を選ぶと言っておきながら、人で遊んだ挙句セクハラとはいい度胸じゃないか」

「ご、ごごめんって」

「乙女の期待と努力を裏切ったのです。謝るだけで済むと思わないことですね。何か言い訳はありますか?」

 

 いつもと一線を画す怒り様のめぐみんに、俺は頭を掻きながら。

 

「だ、だって、お前どの服でも似合うってずるいだろ!! だから悔しくなって………」

「そ、そうですか………ま、まぁ私は美少女ですから当然ですね」

 

 頬を仄かに赤らめためぐみんは、胸を掴む手の力を緩める。おっ……?もしかしてコイツってチョロイのか?

 

「じゃ、じゃあ許してくれるか?」

「それはダメです」

 

 違ったらしい。チョロくないめぐみんは虫取り網をペチペチと俺の顔に当てながら。

 

「大体あなたが服を選んでくれると言い出したのですよ? それなのにふざけるとかどうなのですか」

「う、うん、それは正直すまん、でもだったら自分で選べばよくないか?」

「いえ、私は服にはあまり興味が無いのです」

「あれっ、結構服に興味深々だったと思うんだが」

 

 めぐみんは手渡した服を毎回まじまじと眺め、自分なりに着崩し、それに合った振る舞いをしていた。そんなこいつが服に興味がないとはとても思えないのだが……。

 

「違いますよ。私はカズマの好みについて考えていただけです。カズマに可愛いと思ってもらえるように、仕草や着方なども工夫してみたりしました」

 

 ……なんでこいつは涼しい顔で恥ずかしいことを言えるのだろう。というか、あれだけ色々着せて全部似合ってたのは、俺の好みに合わせて調節してたからだったのか……。そう考えると胸の奥が熱くなる。気持ちを裏切った分、今は正直に返事をしよう。

 

「……その、ありがとな。……正直言って滅茶苦茶俺の好みだったよ」

「それは良かったです」

 

 そう言って微笑むめぐみん。確かに可愛い、可愛いのだが……。

 

「……そろそろ虫取り少年スタイル辞めていいぞ」

「せめて少女と言ってください!!」

 

 

 

 

 

 俺はプンスカと怒るめぐみんが着替えを終えるのを待った。

 出てきためぐみんが俺の方を見て哀しそうな顔をして。

 

「……それでは、私の純情を弄んだカズマは、どの服を買ってくれるのでしょうか?」

「う゛っ……。そ、それは……え、えっとだな……」

「………………」

「分かった!! 分かった全部買ってやるからそんな顔しないでくれ」

 

 哀し気な顔を浮かべるめぐみんに耐えきれず、俺は思わずそんな事を口走る。しかしめぐみんは、

 

「……やはりあなたは根は優しいですね」

 

 そんな事を言いながらクスクス笑っている。どうやら俺を試していたらしい。………こいつにはやっぱり適わないなぁ。

 

 結局、全部は買わず、最初の方に選んだ特に似合っていた服などを買うことにした。

 

「では、6点合わせまして、合計81,000エリスとなります。――はい85,000エリスのお預かりですね。では、4,000エリスのお返しです。あとくじ引き券もつけておきますね。ありがとうございました! またのお越しを!!」

 

 会計を終え、服の入った紙袋を手渡す。するとそれを大事そうに抱えためぐみんが上目遣いで。

 

「こんなに高いものを、私のために買ってくれてありがとうございます。カズマの好きな女の子になれるように頑張りますね」

「お、おう…………」

 

 ……もうとっくに好きなんだけどなぁ。気持ちを自覚したからか、よりはっきりとそう思ってしまう。

 

「それはそうと、この店は変わった服が多かったですね。トレンチコートでしたっけ?少なくとも私は見たことがありませんでしたよ」

「そうか? 俺の国だと割とありきたりな服だったと思うんだけど」

「カズマの国というのは、本当に変わっていますね」

「俺からしたらこっちの方がおかしいんだけどな。……確かにこの店内は日本の服屋に似てるな」

 

 まぁゲームオタクだった俺は服屋なんて全然知らないんだけどな。それでもこの店は他の店と一線を画していると分かる。恐らくチート持ちの連中の誰かが、デザインの提案をしたのだろう。

 ふと、店の奥を見てみてると着物が吊るしてあった。確信した俺はめぐみんにちょっと待っててくれと告げ、店主の女性に話しかける。

 

「すみません、もしかしてここって着物扱ってるんですか?」

「着物………?ってああ、この服の事ですか。そうですよ、うちのお得意様に高名な黒髪の冒険者がいらっしゃいまして、その方の依頼でお作りしました。うちはオーダーメイドも対応してますから」

 

 どうやら予想通り、この店の品々は日本人が伝えたもののようだ。これなら話が早い。しかも見た感じ、腕も信用できる。

 祭りと言えば浴衣だ。まぁ魔王討伐記念祭は夏じゃなくて春だから着物だけど。めぐみんだけに買ってもいいのだが、そういうのはきっと嫌がるし、あの二人も悲しむだろう。というかアクアは間違いなくキレる。

 俺の仲間は見てくれだけは無駄に良いので、きっと似合うはずだ。スキルを教えて貰う対価としてこれくらいは買ってやるか。

 そんなことを考えながら、店主さんにオーダーメイドの依頼をするのであった。

 

 

 

 

 オーダーメイドの予約を終え、店から出た俺は辺りを見渡す。すると、店の横で紙袋を両手で抱えて、幸せそうに頬を緩めるめぐみんがいた。

 ………こんな反応をしてくれるなら、買った方としても嬉しいものだ。

 と、俺に気が付いたのか手を差し出してくる。

 

「人が多くて歩き辛いので、手を繋いでくれませんか?」

「ん? あぁ、いいぞ」

 

 俺は出来るだけ表情を変えずに答え、しなやかな細い手を取る。手を繋ぐのは初めてじゃないからその程度では緊張しない……しないはずだ。

 そんなことを考えていると、唐突に手の感触が変わる。包み込むような感触と共に、柔らかな指が隙間に入り込んできて……。――指?

 

「お、おいめぐみん。なんだよ、手のつなぎ方が変だぞ?」

「そうですか? 私はこっちの方が好きですが」

 

 呆気らかんと振舞うめぐみんに思わず戸惑ってしまう。ふと手を見れば、指と指を絡ませ、手をピッタリと密着させていた。……いわゆる恋人繋ぎという奴だ。

 

「いやいや!! これって恋人繋ぎじゃねーか。街中でやるのは恥ずかしいんだが……」

 

 思わず慌てた俺はめぐみんにささやかな抗議の目線を向ける。まぁこいつのことだ、特に気にもしないんだろうな……。しかし……、

 

「き、気にしなくていいです、私は全く恥ずかしくありませんから。それにデート中なのでなにもおかしくないですって……多分」

 

 いつもの落ち着いた反応……ではなく、慌てた様に周囲を見渡す。

 あれっ? もしかして恥ずかしがってるのか? こいつってこんな乙女な反応する奴だったっけ。

 いつも手玉に取られて弄ばれるのは俺ばかり、そんな悪女じゃなかったっけ。

 そう考えて、改めてめぐみんを眺めると、ほんのり頬を赤くし、紅い瞳を泳がせている。

 もしかしてめぐみんは……。

 少し悪戯心の芽生えた俺は、顔を目と鼻の先まで寄せて。

 

「本当か? 本当に恥ずかしくないのか?」

「……ッ!! は、は恥ずかしくなんてありませんよ!? というか顔が近くないですか!?」

 

 裏返った声を出しながら、目を逸らすめぐみん。そんな挙動不審になる様子を見て確信する。

 分かった。こいつはあれだ。自分から迫るのは得意だが、迫られるのは苦手なんだ。

 だから平気な顔を出来るラインを超えると、こうもオロオロしてしまうのだろう。

 ……今までの仕返しをさせてもらうか。

 心の中でだけ笑い、めぐみんの耳元に口を近づける。そして、軽く息を当てながら囁く。

 

『俺は手を繋げて嬉しいぞ。だってめぐみんの事が好きだからな』

「え!!!??? ううぅぅぅ……あ、あなたは何を言ってるのですか!? こ、こんな街中で!!」

 

 何ってお前がいつもやってくることだよ。体を震わせながら口をぱくぱくさせるめぐみんをに、俺は追い打ちをかける。

 

「いやいや、前にもちゃんと伝えたはずだぞ? 俺はめぐみんのことが好きだって」

「ちょ、ちょっとカズマ!? 純情な乙女を弄ぶのは良くないですよ!? 乙女はそんなことを言われたら本気で意識しちゃうんですからね!?」

 

 泣きそうな声で訴える乙女は、耳まで真っ赤にして瞳を潤わせている。俺の言葉にドキマギしている様子を見るのはなかなか楽しい。……こっちまで恥ずかしくなってくるが今は我慢だ。そう考え、繋いだ手を見せびらかすように前に引っ張り上げ、

 

「意識してくれていいよ。こんな風に出来て俺は幸せものだよ」

「いつもなら絶対そんなこと言いませんよね!? というか周りの目が恥ずかしいのですが!!」

 

 あーあ、そんなこと大声で言うから逆に注目されてるよ。めぐみんが照れている様子を見ると、いつも俺の反応を見てクスクス笑っていた理由が分かる気がする。

 

「いやいやー、せっかくだし見せつけてやろうぜ」

「辞めてください!! 離してくださいっ!! お願いだから離してくださいっ!! 恥ずかしいですからああああああああ!!」

 

 全力で抵抗する乙女めぐみんに満足した俺は、微笑ましい目を向けながら解放してやった。

 その後しばらく口を聞いてくれなかったのは言うまでもない。

 

 

 

 なんとかめぐみんの機嫌を直し、俺たちは商業区のある一角に来ていた。

 

 それは商店街のある一角にある、くじ引き場。

 そこで俺たちは、未来を掛けた戦いを繰り広げる。

 

「受け取れめぐみん!!『ブレッシング』ッ!! ここは俺に任せて先に行け!!」

「カ、カズマ!! 私は忘れません……、あなたの雄姿を忘れはしませんよ!!」

「ちょ、ちょっと助手君離して!! というかなんで無駄に壮大なのさ!!」

 

 抵抗する銀髪の女盗賊を羽交い締めにし、俺はホッと息をつく。

 なんということか、女盗賊――すなわち我らがお頭は、くじ引き場に現れてしまったのだ。

 クリスは幸運の女神エリスの化身である。この世界で唯一俺に運勝負で勝てる人物……いや神物だ。そんなクリスが俺たちより前にくじ引きに参加すればどうなるか? 答えは明白だ。景品は根こそぎ奪われてしまうだろう。だからこそ拘束する必要があった。

 

 ちなみに服屋で貰ったくじ引き券は八枚だ。それを全てめぐみんに渡している。狙うは二等の『超特上カモネギ肉』、そして一等の『王都の高級レストラン食事券1か月分』だ。それを聞いた瞬間、俺たちの意思は固まった。どんな手を使ってでもそれを手に入れる。

 ついに順番となり、めぐみんは手持ちのくじ引き券を受付に全て渡す。

 

「それじゃあ8回分ですね、まとめて回しちゃっていいですよ」

「……カズマの仇です。……いきます」

 

 頼む、頼むぞめぐみん……。俺が背後に控えている、きっと俺の幸運も発動してくれるはずだ。そんな俺の思いが通じたのかは分からないが、神妙な面持ちでガラガラを回し始める。

 

「「おおっ!!」」

 

 周囲に歓声が上がる。最初に出てきたのは3等の赤玉。景品は知らないが好調な出だしだ。

 ――しかしそんな俺の思いに反して、微妙な結果が続く。

 赤三つ。

 緑二つ。

 白二つが排出され、残りは一回となる。

 

 まずい、このままでは負けてしまう!! クリスに構っている場合じゃない、今すぐめぐみんを手助けしなければ。焦った俺はめぐみんに駆け寄り、声を掛ける。

 

「カズマ!? 死んだはずでは!?」

「死んでねぇよ。それより俺も力を貸す、だから悔いの無いよう全力を出し切るぞ!!」

 

 力強く気合を入れる俺に、めぐみんは顔を輝かせ、

 

「ッ!! 分かりました、それでは共に手を取り最後の戦いに挑みましょう!!」

「ねぇ?キミたちはくじ引きをやってるんだよね?」

 

 意味不明なツッコミを入れてくるクリスを無視し、ガラガラの取っ手を二人で掴む。

 めぐみんだけならともかく、最高の幸運を持つ俺ならきっと引き寄せられるはずだ。

 

「この一投に全てを掛けます!!」

「「いっけええええええええええええええええええ」」

 

 俺たちの渾身の一振りが未来を紡ぐ――

 

 

 

 

 

 

 ――ことはなかった。

 出てきたのは赤玉。

 

 俺たちは地面にへたり込む。最後に出たのは、一等の金玉でも二等の銀魂でもなく、……三等の赤玉だった。

 悔しさのあまり拳で地面を殴りつける。

 

「ちくしょう……ちくしょう……!! おれに、おれにもう少し力があれば……」

 

 そしてめぐみんはボタボタと涙を落とす。

 

「ごめんなさいカズマ……私たちの大事なものを護れませんでした……」

「え、えっと……ガラガラの話だよね……? こんなバカなこと言ってる人たちが魔王を倒したって思いたくないんだけど……」

 

 バカなことではない、通販でも手に入らない超特上カモネギ肉と、半年先まで予約が埋まっている高級レストランの食べ放題券だ。あれだけ……あれだけ望んでも手に入らなかったのに……。

 

「ま、まぁ残念だったね。それじゃあ私はこれで…………」

 

 どうやらクリスは俺たちに呆れて、くじ引きに行ったらしい。

 と、くじ引き会場から、凄まじい歓声が上がる。

 

「やべぇ!! あのイケメンの兄ちゃん1等と2等を同時に当てやがったぞ!!」

「さっきの頭のおかしい二人組も中々だったが、あの兄ちゃんは格が違うな!!」

「姉ちゃんだよ!!」

 

 周りのヤジに、律儀に怒鳴りつけるクリス。どうやら俺たちの後にちゃっかり当ててしまったらしい。それを理解した俺たちはゆらりと立ち上がり、

 

「どうして先に引いた俺たちじゃないんだよぉ。どうしてぇ?どうしてだぁ?」

「理不尽ですねぇ、誰のせいでしょうかぁ?」

「ちょっと二人とも目が怖いよ!? というか先に引いても後に引いても確率は一緒でしょ!?」

 

 にじり寄る俺たちに、クリスは怯えたように後ずさる。そもそもここにクリスが来なければ、俺たちは両方の景品を手に入れられたはずだ。つまり、その景品は俺たちにも所有権があるはずである。異論は認めない。

 

「よしめぐみん、俺がクリスを取り押さえる。お前は交換所で待ち伏せしろ、交換所までは距離がある。絶対に手に入れるぞ」

「分かりました。私の盗賊としての力、今こそ発揮します」

「じょ、冗談だよね? とういうか最早それだと盗賊じゃなくて強盗だよ? そういうのよくない、よくないよ!!」

 

 俺は鋼鉄製の捕縛用のロープを取り出し、めぐみんは走り出すために構える。そして互いに頷きあった。作戦開始だ!!

 

「おらああああああああああ」

「いやああぁぁぁぁ、こっちこないでええええ、助けて、助けて!! 私がお世話になるのはまずい気がするけど警察の人助けてええええええ!!」

 

 

 

 

 結局俺たちは、逃げ足の速いクリスを捕まえきれなかった。スキルを使おうとしたところ、ちょうど居合わせた警察に注意されたからだ。……幸運の女神って恐ろしいな。

 というか冷静になってみると、今回は物欲で明らかにおかしくなっていた。今度クリスにはしっかり埋め合わせをしよう。

 そんなことを考えていると、くじ引きの引換所からめぐみんが出てきたようだ。

 大量の荷物を抱えながらほくほくとしている。

 

「いやぁ、1等や2等ばかりに目が眩んでましたが、他の景品もなかなかいいものですね」

「重い奴渡せよ?……って確かに多いなこれ。ちょっと高級めのくじ引きだったからか」

「そうですね、調味料セットや、石鹸洗剤がもらえて嬉しいです。自分で揃えようと思うと地味に高いですからね」

 

 そう言って微笑むめぐみんは、とても家庭的で落ち着いた美少女に見える。……まぁ実際は線香花火みたいな生き方をしているわけだが。

 と、何かのチケットの様なものを手渡してくる。

 

「あっ、あとこれ今度みんなで見に行きましょうよ。私たちの活躍を見られるらしいです」

 

 めぐみんに手渡されたそれは、3等賞の景品の劇場のチケットだった。

 

「えーと、何々……ベルセルグ王国第一劇団……演目は『勇者物語』……か? なんだこれ」

「ベルセルグ王国第一劇団は、この国で最高クラスの劇団です。そして『勇者物語』はごく最近公演を開始した物語らしいです。というのも、勇者が魔王を討伐するまでを描いた、ノンフィクションだそうですよ」

 

 ノンフィクションってことは事実通りってことだよな……。えっ……? 何それ、もしかして? 俺は思わず、心を躍らせ身を乗り出して、

 

「……もしかしてその勇者って、あれだよな?」

「はい、この世界に魔王を倒した勇者は一人しかいません。カズマ、あなたの事ですよ」

 

 ……き、きたんだ、やっと俺の時代が来たんだ!! あれだけ散々罵られて馬鹿にされてきた俺が、やっと報われる時が来たんだ!! 苦しかった日々が思い出され、思わず涙が零れてしまう。

 

「ちょ、ちょっとカズマ!? どうして泣いているのですか?」

「いやぁ………俺も遠いところまで来たもんだなぁ、って思ってただけだよ……」

「……カズマは人一倍苦労を重ねてきたと思います。少しぐらい報われてもいいはずです」

「ありがとう、今度みんなで見に行こうな」

 

 普段から褒められることの少ないのは俺だけではない。ダクネスもアクアもそのはずだ。きっといい慰安になるだろう。これは案外いいものを手に入れたのかもしれない。

 さて、だいぶ日も暮れてきた。夕焼けが優しく街を包み込み、白レンガを茜色に変えていく。

 そろそろ俺たちも帰る時間か。でも何か忘れているような…………。

 

「どうしたのですか?何か気がかりでも?」

「いや……大事なことを忘れてるような気がしてな」

「なるほど……そうですね…………。あっ、そういえば夕飯の食材を買っていませんよ」

 

 そういえばそうだった。昼間はアクアを泣かせちゃったから、御馳走を用意してやると決めてたんだったな。………本当にそれだけか?他にも何か忘れてるような………。

 まぁいいや、どうせ大したことじゃない。気にするだけ無駄ってもんだろう。

 

「それじゃあ今日はお土産として美味しいものでも買っていってやるか。帰ったらめぐみんも調理手伝ってくれ」

「分かりました。カズマの料理の腕を盗ませていただきますね!!」

 

 めぐみんはそう言ってニヤリと笑う。俺は料理スキルを持っているから簡単には超えられないはずだけどな。

 

 

 

 食料品店から出た俺たちは、既に薄暗くなりつつある空の下で帰路に就く。

 それにしても今日は楽しかった。実質初めてのめぐみんとのデートだったが、一緒にバカ言いながら歩くだけでも楽しいものだ………。それこそ、うぶなカップルみたいな考えだが、そう思ってしまった。

 さて、そろそろ帰ろう。そう思って俺はテレポートの詠唱を始める。

 と、めぐみんが顔を上げて満面の笑みを浮かべて、

 

「今日は楽しかったです。また連れてきてくださいね!!」

 

 ……やっぱり直球は苦手だ。一言で甘酸っぱい気持ちにしてしまうこいつは、なんてずるい女なんだろう。それとも俺がチョロイだけなのだろうか。

 でも確かに俺も楽しかった。それはこいつがいたからだろう。

 

「もちろん。また一緒に来ような」

 

 

 

 こうして俺の長い長い一日は終わりを告げた。

 

 ちなみに、爆裂魔法の補助スキルを教わる約束を思い出したのは寝る前だった。俺はともかく、めぐみんが爆裂魔法の事を忘れるなんて珍しい。………まぁデート前半は俺がブチ切れてたので仕方ないが。

 まぁいいや、ウィズ先生に休みを伸ばしてもらって明日にでも教えてもらおう。

 そんなことを考えながら、次のデートに思いを馳せ、いつになく安らかな眠りに就くのであった。

 

 

 

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