生存本能ヴァルキュリア   作:ろっぴー

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第4話

 城ヶ崎莉嘉にとって、姉である城ヶ崎美嘉は誇りであり目指すべき目標であった。

 優しく、格好良く、影ながらの努力家で。

 美嘉が戦乙女LiPPSの一員に名を連ねたときも、当然のことと思う気持ちとさらなる姉への憧れに胸を熱くし、思った。

 

――私も、絶対おねーちゃんみたいに強くなるんだから!

 

 

 

 

 その焦がれるほどに憧れた美嘉が今、自分の前に立ちはだかり、攻撃の構えを見せていることに莉嘉は戸惑うばかりだった。

 

「……おねーちゃん?」

 

 莉嘉のその声は発せられると同時に自分を覆うようにしている靄にかき消されてしまう。

 

「……!」

 

 目の前の美嘉が何か声を掛けている様子なのだが、その声が聞き取れない。

 

「おねーちゃん! おねーちゃん!!!」

 

 莉嘉は無音の恐怖に耐えかねて何度も姉を呼んだ。

 

 

 

 

「……ダメ、莉嘉に話しかけても全く反応がない」

 

 美嘉の声には焦りと不安が色濃くにじんでいる。

 

「落ち着いて、美嘉。冷静にならないとあちらの思うがままよ」

 

 速水奏はそう言うと美嘉の肩に手を乗せた。

 

「奏……」

 

 美嘉は視線を奏に送り、力んで強張っていた肩の力を少し抜いた。

 冷静に、とは言うが、周囲一帯は莉嘉から発せられた力に触発された人々の負のエネルギーが渦巻き、さながら台風の渦中にも似た強風が吹き荒れている。

 

――莉嘉、こんなことになるなんて

 

「美嘉ちゃんに憧れる気持ちが強すぎたんだろうねー」

 

 唇を噛むようにしている美嘉の横に塩見周子が立つ。

 

「純粋すぎる莉嘉ちゃんの心にこの悪しき力の集約――カオス――が流れ込んで増幅されちゃったんじゃないかな」

 

 周子はそう言うと、扇子をひらひらと仰いだ。

 

「抑圧された悪しき力が集約したカオスはいずれ暴発して甚大な被害を巻き起こす……」

 

 奏の言葉に美嘉は振り向く。

 

「暴発って、まさか、莉嘉……」

 

 そしてまた目の前に立ち塞がる莉嘉を、莉嘉を覆い尽くすカオスを鋭く睨むと呟いた。

 

「……カオスはそのものの浄化か時空ごと封印するしか今のところ対処法はない」

 

 だが

 

「今の力学均衡式では浄化のプロセスはまだ完成していない」

 

 奏が美嘉の言葉を引き継ぐ。

 

「つまり、時空ごと封印するしか今のところ方法はないってことね。でもそれも……」

 

 その次に繋がる言葉の重みを思うと奏はそこで言葉に詰まる。

 

「……術者共々カオスと一緒に封印されてしまう」

 

 パチリ、と扇子を閉じながら周子は奏の言いよどんだ言葉をつないだ。

 

 封印は浄化プロセスの完成までのつなぎ。

 

「浄化プロセスが完成していない今の状態で封印を行ったら術者がいつ封印から解き放たれるのか分からないってのがナンセンスだよねー」

 

 周子はそう言うと少し芝居がかった様子で首を横に振った。

 

――それでも

 

 それでもここでの暴発は阻止しなくてはならないことを理解しているが故の、ほんの小さな抵抗であった。

 

「……やるしかないのね」

「そうだねー」

 

 奏と周子はそう声を掛け合うと莉嘉を覆い尽くすカオスに攻撃の構えを見せた。

 

「待って」

 

 二人の前に美嘉が立ち、両腕でそれを制した。

 

「私が行く」

「何を言っているの、美嘉!」

 

 美嘉の言葉に奏が異を唱える。

 しかし、美嘉はそんな奏に笑ってみせた。

 

「莉嘉ってさーすっごい寂しがり屋だから、アタシが行ってあげなくちゃ」

 

 その笑顔は莉嘉が憧れるカリスマ的存在城ヶ崎美嘉の自信に満ちあふれたもので、奏は刹那それに見とれた。

 

「……まったく、格好つけなんだから」

 

 見とれてしまったことを誤魔化すように奏がそう言うと、美嘉は優しい目で奏と周子を見た。

 

「志希ちゃんとフレちゃんによく言っといてね。人の寝顔に落書きなんかしたら承知しないんだからって」

 

 そう言い残すと美嘉は莉嘉の元へと駆けだした。

 

――莉嘉!

――おねえちゃん!

 

 お互いに届かないはずの二人の呼び声が呼応する。

 カオスはその異変に気付き、その脅威を排除するため全ての力を集約していく。

 

――ダメっ!!!

 

 莉嘉の声にならない叫びがカオスの動作を僅かに押さえつける。

 

 その隙を逃さず、美嘉の両手は激しい光を集める。

 宝石が光を反射するかのように美嘉の両手から放たれた光はカオスも莉嘉も包み込んでいく。

 

――美嘉!

 

 奏の呼び声に、美嘉は不敵な笑みを浮かべた。

 

――美嘉! 美嘉! 美嘉!

 

 呼び声は光の中へと消えていく。

 

「美嘉!」

 

 額に珠のような汗を浮かべて奏は目を覚ました。

 

 

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