生存本能ヴァルキュリア 作:ろっぴー
頭の奥の方が鈍く痛み、美嘉は目を覚ました。
「……あれ? アタシ?」
呟くような美嘉のその声に反応した莉嘉が美嘉の胸に飛び込む。
「お姉ちゃん!!!」
「ちょ、ちょっと莉嘉! どうしたの?」
美嘉が困惑しながらも飛び込んできた莉嘉の頭を優しく撫でると、鈍い痛みで焦点のずれていた世界が一気にクリアな情報となって脳に流れ込んできた。
「ここは!? みんなは!?」
「色々とあってねー、説明するの面倒だから結論からでいいかなー?」
美嘉の問いかけに志希が応える。
「封印されるのを完全に警戒しちゃってるあのカオスを”なんとか”しなくちゃいけなくなりましたー」
そう言いながら志希が指差す方向を美嘉が見ると、黒く渦巻くカオスから絶え間なく放たれ続ける旋弾と、それを受け止める結界を維持する文香の背中があった。
「ちょっと!? えっ!? 文香さん!?」
「……こうしてご挨拶するのは……不思議な感じ、ですね」
文香は視線だけ美嘉に送って笑みを浮かべてみせたが、その黒く長い髪が汗にまみれて額や頬に張り付いているのを見るに、既にかなりの時間カオスの旋弾を受け止め続けていることが伺えた。
「今、奏さん、フレデリカさん、周子さん、そして美波さんがカオスの行動範囲を押さえ込んでくれているんですけど、力学均衡式の三要素のひとつ、Paの力を欠いている状態なので互角に渡り合っているように見えて段々と皆さん旋弾のダメージが蓄積していて……」
藍子はそう言うと自罰的な目で自らの手を見た。
「私も……戦えるのに……」
消えそうな藍子の声を、その華奢な肩を夕美が優しく抱いた。
「あまり自分を責めないで。みんなちゃんと理由があってああやって戦っているんだから」
そう藍子に言い聞かせ、ね? と志希に振り返る。
志希は夕美の視線に、まっかせなさーい、と笑う。
「志希ちゃんにすんごいアイディアがありまーす」
――時間は少し遡る
「……くっ」
呻くような声を上げて奏は意識を取り戻した。その背に走る旋弾の痛みは自らの咎の大きさを示しているように感じられた。
「奏さん、大丈夫ですか?」
声のした方向に振り返ると奏の背に手を当てているありすの姿があった。
「ありす……?」
奏の声にありすは、よかった、と息を吐いた。
「あくまで応急的な処置ですが、いま治癒の方術が終わりますのでもう少し――」
「美嘉は!? 美波はどうなったの?」
ありすの言葉を遮るように奏は言葉を発した。
「美嘉さんと莉嘉ちゃんはまだ意識が戻っていないですけど無事です」
奏の言葉に藍子が応じるとありすの方術が終わるのを待たず奏は立ち上がり、美嘉のそばに向かった。
「美嘉……」
カオスと共に封じられていた時と変わらない穏やかな寝顔に奏は言葉を零す。
「私は……どうしたらいいの?」
「なんとかしたい、そんな奏ちゃんに耳寄りな情報があるんだけどー?」
フレデリカがそう悪戯っぽく笑いながら奏に声を掛ける。
「さぁさぁ、どーする? 聞きたい? 聞きたい?」
「もったいぶらないで早く聞かせて」
わざと焦らすフレデリカに奏は次の言葉を促した。
「LiPPSとアインフェリアのウルトラスーパー共闘大作戦を絶賛展開中なんだけど、どうです? お嬢さん、あなたも一枚噛んでみませんか?」
そう言いながらフレデリカが指差す先に奏が目をやると、美波と周子が旋弾を避けながらカオスの動きを抑えるように立ち回っている姿があった。
「大層な作戦名だけど、あれじゃカオスをただ足止めしているようにしか見えないわ」
「ワォ! さすが奏ちゃん、ご明察ー。そう、ぶっちゃけちゃうと時間稼ぎなんだよねー」
奏の少し苛立ちが込められた言葉をフレデリカは全く意に介していないように笑ったのだが
「封印を警戒するカオスはもう浄化するしかない、だけどその方法は確立されていない」
と、静かに言葉を継いだ。
「だからもうここでカオス浄化の方法をぶっつけ本番で作っちゃおーって感じなんだー」
フレデリカの言葉に奏は目を丸くした。
「ぶっつけ本番って……」
そう言うと奏の肩が小さく震える
「ふふ……旋弾を受けて少し気が動転しているのかしら」
それはこみ上げてくる笑い
「なんだかそんなスラップスティックコメディも今は悪くない気がするわ」
奏は立ち上がり、フレデリカと肩を並べた。
横目で奏を見たフレデリカがまた悪戯っぽく笑った。
「いい……笑顔です」
「茶化さないで、いくわ」
文香の結界の外に出た奏は周囲に響き渡るすさまじい旋弾の音量に眉をしかめた。
「……まるで騒音ね」
「今度から耳栓用意しとこーねー」
カオスが渦巻く度に放出される数多の旋弾を避けつつ奏とフレデリカは美波と周子の元に走った。
「奏ちゃん!」
「美波……」
奏を視界に捕らえた美波が心配そうな顔を浮かべて声を掛けてきたことにどう応じればいいか奏が言葉に詰まっていると
「積もる話は全部終わってからってことにして、ま、取り敢えず今をなんとかしよかー」
周子が奏の肩を軽く叩いた。
「そうね、今は志希ちゃんの作戦実行までの時間をつながなくちゃ」
でも、と言いかけていた奏に美波は笑みを浮かべてそう言った。
「ホント、お人好しね、美波……」
奏はそう言うとカオスの方に向き直った。
――いま、すごく小さな声で
周子は表情を変えること無く
――ありがとって言ったのを聞いたけど優しいシューコちゃんは黙っていてあげよう
と、考えていた。