あの子の涙と僕の嘘   作:日向 ゆい

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この前ミッシェルこと奥沢美咲ちゃんに告白されるという大イベントな夢を見たことがきっかけで蘭ちゃんと美咲ちゃんの2人を推しにしてしまった罪深き人です。

まだまだキャラが安定していませんがそれは許してください


僕の嘘

誰だって涙を流す。鬼の目にも涙という諺が実際にあるように、強面の人だって泣くし冷たい態度の人だって泣くことはある。Afterglowのボーカルである美竹蘭さんは泣きながら走っていったのを僕は見た。柄じゃないが放っておくのも嫌なので追いかけていた。

 

「ねぇ、なんで君は泣いていたの?」

「別に……アナタには関係ないです」

 

近場で泣いていた蘭さんに声をかけたが、関係ないと言われてしまった。確かにその通りだ。僕には全くもって関係ない。Afterglowの面々ならまだしも、全く知らないし関わりを持たない人間に話すことなど無くて当然だろう。けど、ここまで来た以上は引き下がるわけには行かない。

 

「関係ない人間だからこそ、余計な情に流されないで話が出来るんじゃないかな」

「……それでも、やっぱりアナタに関係ないです」

 

……さて困ったな。彼女は一回言い出すとなかなか意見を曲げない性格なのかもしれない。なら、事情を吐き出させるよりお互いに秘密として弱みを握らせた方がいいのかもしれない。口外したら話す。そう脅し脅される間になれば話を聞いて対策を練れるかも知れない。

 

「少し、お話しよう。……僕の昔の話だ」

 

それだけを言って独り言のように話を始めた。

 

僕は親に見放された。そう悟ったのは小学生の高学年に上がってからだった。人というのは不思議なもので、自分の理解を超えた何かを見ると許容できなくなってしまう。両親からすれば、僕はそんなイレギュラーだったのかもしれない。僕は、誰の目から見ても完璧すぎたのだ。学業優秀、スポーツ万能、見た目もそこそこ良く、愛嬌もある。こんな奴に表面上は仲良くしようとするやつが大半で、残りの生徒は僕のことをいけ好かない奴としていじめようとしていた。

 

最初は可愛いもので、靴を隠したり筆入れやノートを捨てたりしていた。途中でなれた僕は、先生の許可をとって職員室に大事な荷物を預けるようにしていた。次に、いじめっ子は陰口を言い始めた。誰も何も言わないから最初こそ調子に乗って色々言ってきたが、相手にされてないと気づいてからは陰口をやめていた。

 

最後は直接的だった。校舎裏などの人気のない場所に呼んで暴力を始めた。僕はスポーツができていたけど、喧嘩ができるわけじゃない。ただ痛くて蹲っていたよ。痛いけど逃げられるわけじゃないし、怖くて体は動かないし。そのことに味をしめたいじめっ子達は言うことを聞かないと殴る、と言った感じで僕をパシろうとした。まぁ、結局先生に見つかって怒られてたみたいだけど。

 

「そこからかな……学校が嫌いになって、私生活と学校生活で自分を使い分けてるんだ」

「……それ、私に言ってどうしたいんですか」

「僕もあんまりわかってないんだ……けど、悩んだり泣きそうになってるのは君だけじゃないんだ。だから怖がらないで」

 

弱みを握り握らせようと話してしまったが、一方的に話したのだから逃げられる可能性もある。しかも説得しても無駄っぽそうな少女なのだ。僕が話した内容でいびられることもありえる。あれ、僕ってここまで天然だっけな……

 

「……私、父と喧嘩したんです」

 

平静を保ちながら、心の中ではどうしたものかと悩み続けていると、蘭さんはぽつりぽつりとだが話をしてくれた。どうやら、蘭さんのお父さんと喧嘩してしまったらしい。自分の所属するバンドのことを酷く言われたことに相当怒って思わず家を出てしまった。しかも、メンバーのことを馬鹿にするようなことを言われて悔しくて泣いていた。要約すればこんな感じだ。

 

「 ……なら、お父さんを見返してあげたらどうだろう」

「見返す……ってどうやって」

「簡単だよ。自分たちの演奏を聞かせればいいんだ」

 

蘭さんのお父さんはバンドに対する熱意を知らないはず。自分たちがここまで本気で取り組んでいるんだ。決して遊びじゃないと、そう証明すればいいんだ。

剣士が剣で力を証明するように。蘭さんには音楽がある。なら、その武器を使って見せつけるべきだ。というか、それしか方法が浮かばなかった。

 

「そっか……そうすれば良かったんだ」

 

蘭さんは小さく呟いた。どんな表情なのかは暗いせいもあって分からなかったが、声のトーンは明るかった。きっと、さっきのような負の感情は消えたのだろう。

 

「さぁ、そろそろ帰ろう」

「……まだ帰りたくない」

 

せっかく元気出たと思って明るめに声かけたのに。台無しじゃないかと言おうと思ったが、仕方ないか。さっきまで親と口喧嘩してたのだ。顔を合わせにくいだろう。

 

「少しだけ……紅葉さんの家に泊めてもらえませんか」

「……いいのかい?知らない人の、しかも男の人の家に泊まるなんて」

 

クラスメイトではあるが蘭さんにその認識はないはず。だから、彼女が使うライブハウスでバイトしてる人というほんとにそれだけの接点という感じで話している。だが、彼女はそう甘く行かなかった

 

「……アンタ、私と同じクラスの落合紅葉でしょ」

 

呆れ気味に蘭さんに言われた。バレていただと。一体いつから悟られていた。髪もいじって頑張って明るく接していた。呼び方も変えていた……というか関わらないようにしていたはず。なのに何故だ。いや、カマをかけているのかも知れない。ここは冷静にだ。

 

「っ……どうしてそう思うのかな?」

「一人称と話し方を変えないからバレバレ。あと、今の話で察しがついたかな」

 

話し方か……それなら仕方がないかもしれないな。一度ついた習性ってのはなかなか直ったりしない。恐らく教師と話していた時の話し方を聞かれてしたのだろう。まさか普段の生活からバレていたとは思ってなかったな。

 

「……君は、意外と人のことを見ているんだね」

「別に……違和感に気づいてから注視してただけ」

 

褒めたつもりだったが、どうやらお気に召さなかったらしい。蘭さんはそっぽ向いたまま立ち上がり、勝手に歩き出してしまった。

 

「早く。夜も遅いから帰ろう」

「わかったよ……とりあえず僕の家でいいんだよね」

 

それだけ言うと、蘭さんの先に行き歩き始める。途中で隣に並ばれたが、特に気にすることもなく歩いていった。そういえば部屋綺麗にしてたっけなと考えたり、客人用の布団あったかなと考えたりしたが、隣に女の子がいるという事実を改めて確認し始めたらそれどころではなかった。

 

「着いたよ。ここが僕の家」

「……私の家から近い」

 

あぁ、あのでっかい屋敷みたいなのは蘭さんの家だったのね……そう考えると確かにここから近く、歩いて三分くらいの場所にある。いつでも顔を出すことも出来るし、いよいよ逃げ道がなくなってきた気がする。

 

「……これから何も無いといいなぁ」

「お邪魔します……」

 

男の人の家に上がるのは初めてなのか、落ち着かなさそうにしている。僕もそうで、同じクラスの子を、ましてや女の子を家に上げるのは不安でしかなくて自宅なのに落ち着かない。まぁ、受け入れた以上はもてなすしかない。

 

「……何か、お菓子でも食べるかい?」

「甘いのは嫌いだから……それ以外で」

 

そういえばモカさんが蘭さんは甘いのが苦手だと言っていた気がする。だから苦めのお菓子に追加できるクリームを添えていたが、やはり正解だったようだ。さて、苦いお菓子というとビターチョコを使ったケーキとかクッキーが作りやすいだろうか。

 

「んー……チョコ買い忘れてるな」

 

ここで問題発生。チョコレートを買うのを忘れていた。材料は少ないうえに甘いものは作れない。さて困ったものだ。と悩んでいたらたまたま粉末状のインスタントコーヒーの袋が目に入った。

 

「ティラミスなら……作れるな」

 

そう思いつくと少し手の込んだティラミスを作ろうと準備を始める。ここからは長いので割愛しよう。

 

「……出来たよ」

「うん。ありがと」

 

それだけで会話が終わってしまい、お互いにティラミスと食べたりコーヒーを飲んだりし始めた。単に会話がなくなったから自然とお菓子に手を伸ばしただけなのだが。自分で作ったにしては上出来で、お金取れるんじゃないかなと思えるレベルだった。

 

「……美味しい」

「そう言ってもらえてよかったよ」

 

蘭さんの好みに合わせているだけあって、高評価だったようだ。お互いに食べ終わり、食器の片付けを始める。今更だが、この家は二階建てで上の階に僕の部屋と物置と化した部屋の二つがある。下の階はリビングになってる。まぁ、滅多なことがない限りリビングに布団敷いて寝てるんだけどね。

 

「そういえば、蘭さんは着替えとかどうするの?」

「……考えてなかった」

 

ふと気になって蘭さんに着替えの話をしたのだが、着替えがないのはほんとにどうしようもない……今までのは何とかなったが、流石に服がないのは辛い。明日は授業があるから休むわけにもいかないし、最悪服は貸せても下着までは無理だ……。

 

「と、とりあえず服は寝やすいやつを貸す。その……し、下着は我慢してくれ……」

「な、なんでアンタが照れてるの……」

 

恥ずかしいんだよ察してくれよ。と心の中で呟き、お互いに顔を赤くする。とりあえず服は貸すということで決着がついた。タオル等も適当に選んでもらってお風呂に行ってもらった。その間、僕は久しぶりに上の階に行き、自分の分の布団を敷く。ベッドは蘭さんに使ってもらおう。滅多に使わないから大丈夫だとは思うが一応消臭剤を使っておこう。

 

「あ……使い方分かってるかな」

 

僕の家の風呂場は少し型が古いもので、温度を調整するボタンとかを押さないと熱かったりすることがある。まぁ、普通の温度にしてるはずだから大丈夫だとは思うし、分からなかったとしても時間が経ってるからもう上がってる頃だと思う。

 

「蘭さん?使い方大丈……ぶっ!?」

「っ……こっち見んな!」

 

何でこんなことになるのさ。ラブコメの神様は美味しくも酷なことをする。可愛い女の子と接触し、家に泊めるなんてこと自体すごい事なのに。よく断られなかったなって今更思ってきた。まさか着替え中の蘭さんを見ることになるとは。

 

「……なんか、可愛かったな」

「もう忘れて……」

 

蘭さんが上がって僕の番。まぁ、ここも割愛なんだけどね。だって特筆することもないし。強いて言えば蘭さんが仕返ししようとして失敗したことくらいかな。とりあえず可愛かったと思う。

 

「さて、明日のこともあるから寝よう。蘭さんはベッド使ってよ」

「……紅葉が上で寝てよ。私布団でいいから」

 

……ここでまた論争。どっちがベッドで寝るかってだけなんだけどね。まぁ、結局蘭さんの押しに負けた結果

 

「どうしてこうなった……」

「……一緒に寝たら早いって言ったの紅葉じゃんか」

 

そう、僕は蘭さんと一緒に寝ることになってしまった。相当恥ずかしいのか蘭さんが今まで以上に落ち着かなさそうにしている。普通に考えればそうだよな。僕もかなり恥ずかしくて落ち着かない。

 

 

「……ねぇ、まだ起きてる?」

 

「うん……起きてるよ」

 

「……今日のこと、ありがとう」

 

「別に、何もしてないよ」

 

「ううん。紅葉が居てくれなかったら私は一人で潰れてたかもしれないから」

 

「……君のことが放っておけなかったから、昔の僕を見てた気がしたからさ」

 

「そっか……すごく嬉しかった」

 

「……明日みんなに謝っとけよ……」

 

「うん……わかった。それと……私のこと、蘭って呼んでよ」

 

「わかったよ……蘭……」

 

「ねぇ……紅葉、きっと私は……」

 

 

そこで僕は意識を手放し、最後の彼女のセリフを聞き取ることが出来なかった。




少しだけ修正させていただきました
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