皆が読むような物語には、必ず始まりと終わりが存在する。だが、その始まりと終わりは全てに対してあるのではないだろうか。身近にあるような物が作られ、人がそれを使い、いずれ壊れていく。それと同じように、人や星だって、産まれ育ち、徐々に老いて、最後は亡くなる。
少し考えれば当たり前な気がするが、次から次へと始まり終わるこの流れを考える方が少ないのではないだろうか。なぜなら、そんなことをしているくらいなら今を少しでも楽しく生きようとするからだと僕は考えてみた。
…………今までの辛いことはもう終わったことなんだ。これからは、きっと楽しい未来が待っている。そうでなければこの仮説は成立しない。そう考えながら、あいも変わらず退屈な授業を受け流していた。
「……今日はここまで。日直の人は号令を」
「きりーつ、れい。ありがとうございました」
屋上での一件は、普通の自己紹介や食事で終わってしまった。まぁ、時間もそこまであった訳じゃないから仕方ないような気もするが。
「……ねぇ、紅葉」
「ん?どうしたの、蘭」
次の授業の準備……もとい睡眠をとるための準備をしていると、蘭さんが声をかけてきた。さっきの内容わかんなかったのかな。
「……その……」
すごく話しにくそうにする蘭さん。やはり何かわからない部分があったのか?それとも別のことか?ダメだ……よく分からない。お互いがお互いに話を始められず、黙り込んでいるとチャイムが鳴ってしまった。
「授業が始まるから、また後でね」
「…………うん」
僕は何を言いたかったのか分からないモヤモヤを、蘭さんは言いたいことを言えなかったモヤモヤを抱えて、授業を受けることになった。今回はいつも以上に退屈で、教師の言葉は呪文のように聞こえてきた。
「……なんで僕はこんなとこ居るんだろうな」
現在放課後。蘭さんはバンドの練習に行き、僕は一人屋上で物思いにふけている。結局、彼女は僕に何を伝えたかったのか。それと同時にしっかり父親に言えるのだろうか。この二つを考えながら人気のなさそうな場所へ移動していたら、ここにたどり着いていた。今の僕は余程彼女に入れ込んでいるのだろう。
『お前は、彼女のことをどう思うんだ』
……僕は……俺は、彼女を昔の自分だと思った。だから、見捨てることが出来なかった。あのままじゃ、そのうち内側から崩れかねない。
『別に、お前じゃなくてもよかっただろう。仲間内だけで解決させても問題なかったはずだ』
それはそうなんだけどね。でも、他人事に思えなかった。自分が変わるチャンスだと思ったからまとめて助けただけだ。
『相変わらず、嘘を返すんだな。まぁいいか。ならお前は俺をどう思う』
お前は昔の俺だ。それ以上でもそれ以下でもないし、今の俺とは別な存在だろ。
『そうか?お前は、俺は、何も変わっちゃいないさ。ただ逃げているだけだ。あの時みたいにな』
……いや、俺は変わった。もうあの時みたいな情けない逃げ方はしない。
『……さて、どうだろうな。まぁ、君のこれからを楽しみにしているよ』
「あれあれ?どうしてこーくんがここに居るの?」
自問自答を繰り返していたら、近くにモカさんがいることに気づかなかった。
「僕は考え事。そういうモカさんは?」
「私はね、こーくんがここに居る気がしたから来てみたの」
彼女はよくわからない。ふざけたことを言っているはずなのに、的を射た発言をする。のんびりしているからなのか、人のことをよく見ているし仲間思いである。僕とは違っているのにどこか似ているし、僕よりも強い少女に見える。
「きっと、こーくんは蘭の事で悩んでるんだろうなーって思ったから様子を見てたんだ」
「……そんなわかりやすいか?」
モカさんは本当に人のことをよく見ているし、勘が働く。僕と蘭さんは同じクラスの人なだけで、他に大きな繋がりはないのに、よくわかるなと感心してしまった。
「好きな人同士って、自分が思ったより似るからねー」
好き……か。僕にはよくわからない。何をもって人を好きというのか、これを恋心と呼ぶのかなんてことを僕は全く知らない。だから、僕が彼女に抱く気持ちを好意と言っていいのか不安だ。
「……というか、モカさんは練習行かなくていいの?」
「なんと私はバイトがあるという理由をつけて行ってないのです」
それはダメなんじゃ……ってか、しっかり練習しないと皆より遅れることになるんだぞ。と言いたいのに言えなくなった。……彼女の目を見れば分かる。練習よりも優先する何かがあるような目だ。多分それは、僕が隠している秘密にほかならない。
「なるほど?それで、君は何が知りたいのかな?言っておくけど、そこまで面白い秘密なんて抱えてないよ。」
「いやいやー、面白くなくても知る必要があるんだなー。君が昔にあった出来事を、詳しく。ね?」
……どう隠しても絶対に暴こうとするあの目。僕はそれが怖くて知られたくなかったのに。そうやって僕の秘密を暴いて、晒して、皆で利用しようとして。僕は、俺は……そんな目が嫌いなんだ。だから、そんな目をしないでくれ。自分が自分でいられなくなる気がする。
「やめろ……やめてくれ……っ、俺にそんな目を向けるな……っ!」
「いっ……でも、私は絶対に君を馬鹿にしたりしないよ。私だけじゃなくて、ひーちゃんもトモちんもつぐも……当然蘭も。だから、もっと君らしく居ていいんだよ」
思わずモカさんの胸ぐらを掴んで近場の壁に押し付けてしまった。この時点で冷静になっていたが、モカさんの優しくも強い声に怯んでしまう。なんで……なんで君たちは僕の考えをことごとく打ち砕くんだ。そんなことすんだ……。
「……本当に笑わないか?アイツらみたいに、俺を馬鹿にしたりしないのか?」
「モカちゃんは、ちゃんとこーくんの味方であり続けるし、蘭だってこーくんを裏切ることなんてしないよ」
モカさんを傷つけてしまった後悔とモカさんの強気の説得に、思わず後ろに下がる。俺は……僕は、何をそこまで恐れている。いや、答えはわかってる。そんな目を向けたヤツらは、俺を利用することしか考えてなかった。それに対して、彼女は違った。何があろうと僕を裏切らないという絶対的な自信があるから、近づいてこようとする。
……全くもってわからない、未知な存在だ。だから僕は怖いなんて考えるのだろう。わからない。彼女のその自信がわからない。昔の話をして、彼女たちに引かれないか、わからない。蘭さんが、モカさんが、この話を聞いて俺のことをどう思うかわからない。僕は、俺は、僕して今を生きていたのに、過去の俺を引き出そうとしている。わからない、何もかもがわからなくなる。
なんで俺はここにいる。なんで僕は彼女を信じきれない。なんで信じきれない相手に自分をさらけ出そうとしている。なんで自ら辛い過去を出そうとしている。何も、わからない。呼吸が浅くなり、息苦しくなる。手が震え、目の焦点が合わなくなる。モカさんが違う少女に見える。少しずつ、確実に。昔、俺が恋をしていた少女に見えていた。僕のことを知っていて、味方をしてくれたのに。助けられなくて、辛い決断をさせてしまった彼女に、重なって見えた。……そうか。モカさんのあの目は、彼女が僕に向けていた目だったんだ。
「こーくん、今までよく頑張ったね。もう我慢しなくていいんだよ」
この一言と共に、モカさんは僕に抱きついてきた。この言葉は、今までの僕を認めてくれたような気がした。とても暖かくて、それと同時に安心できて。今まで溜め込んでいた感情が一気に溢れて。俺は彼女を抱きしめながら子供のように泣いてしまった。
「悪いな、みっともない姿を見せた上に制服汚して」
「それはいいよー?けど、ちゃんと話を聞かせてもらいたいかな。こーくんに何があったの?」
しばらくして、僕は彼女を抱きしめるのをやめて一度離れた。彼女は気にしてないと言ったが、さすがに涙で濡れた制服を着せておくのも嫌なので、僕のブレザーと交換することにして、話を始めることにした。ここからは、僕の昔の話だ。
……俺は、平たく言えば完璧な人間だと言われていた。成績優秀で、運動神経抜群で、眉目秀麗。人付き合いも程よくあることもあり、親も担任も俺のことを褒め称えた。常に上位の成績をキープしていて、有名な学校から声をかけられるほどだった。最初の頃はまだ良かった。皆が俺と仲良くしようとしていたから。しかし、徐々にそんな僕をイレギュラーとして見始め、受け入れられないものとして扱い始めた。きっかけは両親だった。
「私には紅葉が分からないの!なんで私達の子供なの!?」
「俺だってわからないさ!こんな普通の二人から、どうしてあんな天才が産まれるんだ!俺にも紅葉が何を考えているのかがさっぱりだよ!」
俺が寝てると思い込んでいた両親は、毎日のように愚痴や喧嘩を言い合っていた。きっと、職場でも言われていたのだろう。天才の落合紅葉に対して、親である二人には何故才能がないのかと。だから、あの二人は俺を受け入れきれず、見捨てることを決意していた。
その時から、俺は両親の子供としての落合紅葉では無く、イレギュラーな天才としての落合紅葉になっていた。それから程なくして、俺に気に入られようとする生徒と、俺を気に入らない生徒の二つの勢力に分かれていた。担任やほかの教師は、俺を恐るようになっていき、言ったことをなんでも聞くようになって。俺は俺として認められた訳では無いと悟るようになり始めていた。
「……後は、蘭達に話した通りの内容だよ」
「なるほどねー、だからこーくんは自分の正体がバレることに必要以上に怯えてたんだね」
モカさんが何か納得するように頷いた後、また僕を抱きしめてくれた。……この人は優しいな。本当に笑わないし、馬鹿にしないんだ。
「ねー、こーくん。これから私のことをモカって呼んでよ」
「これまた急だね。何かあったかな?」
「ううん。ただ蘭のことを呼び捨てなのに、私だけさん付けなんだなーって」
モカさんは、そう言いながら僕のことをじっと見つめてくる。どうやら拒否権は無いようで、素直に受け入れるべきだなと考えた。
「わかったよ、モカ」
「意外と素直なんだねー、そういう所好きだよ」
好き、という言葉に思わずドキッとする。モカが言う好きは恋愛に対するそれとは違うことは分かっている。分かっているのに、色々と考えてしまう。弱みを見せると途端にポンコツになるんだな、俺は。
「さてさて、暗くなる前に帰ろう?こーくん」
「そうだな、家まで送るよ」
ここまで迷惑をかけたのに送らないわけにはいかない。優しさを見せた訳では無いが、そうでもしないと俺の気が晴れないのだ。
「ううん。私よりも、蘭の傍に居てあげて」
「……?どういう……あぁ、なるほど」
モカさんが見た方向を見てみると、そこには蘭がいた。どこから聞いていたのかはわからないが、一番聞かれたくなかった部分はしっかり聞かれていたはずだ。
「はは、今度は蘭とモカに助けられたな」
ポソッと呟きながら、蘭の所に歩いていく。俺の心はもう決まった。何があろうと蘭を助ける。そんでもって幸せにしてみせる。そのためなら、何を犠牲にしてもいい。
……今日の夕日は、いつもより赤く綺麗に見えた。
短い上に大変お待たせしました……。
ひとつ言い訳をさせていただくと、書いてたものが消滅してしまいまして、半分心が折れながら書きあげたので、微妙な出来かもしれません。
俺と僕が入り交じってるのは仕様ですので、間違ってないですw
次回は、私が一番書きたかったシーンを書く予定なので……ぜひお楽しみにしててください。では、また会いましょう。
……感想書いてくれてもいいんですよ?壁|ω・`)チラッ