あの子の涙と僕の嘘   作:日向 ゆい

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俺と君の約束

人には落ち着く空間というものがある。

お風呂だったり自室だったり、トイレだったり友達との空間だったり。人によって千差万別であるこの空間は、リラックス出来るからなのか、いいアイディアが浮かんだりするらしい。何かを考えたりする人じゃない分、俺にとっては半ばどうでもいい話なのだが。

 

というのもだ。蘭のバンド活動の許可が降りたこともあり、Afterglowによる親父さんの説得も兼ねた演奏が無駄と化したことが判明した。

よかったと安心する反面、無駄になったことで少し落ち込むメンバーに対し、名前を売るチャンスだろうと代わりの提案をすることになった。

幸いにもCircleでやるイベントだった為、僕は彼女達のサポートも可能になる。それがわかった途端みんなが元気になり、大成功させると盛り上がっていた。

 

「あ、そういえば。紅葉にお願いがあるんだけど」

「ん、どしたのさ?」

 

皆がわいわい会議をしてる時、蘭が僕のところに近寄ってきた。お願いというくらいだ、打ち上げのセッティングとかだろう。

 

「私達と一緒に演奏して」

「えーっと……マジで?」

 

蘭からのお願いが僕の予想を超えていた。真っ直ぐ見つめながら話す蘭に、目を逸らして答える僕。冗談抜きでやらせる気だというのが伝わった。

 

「一緒に演奏するのはいいが、僕はどこのパートをすればいいんだよ」

「私と一緒のことしてよ。ギターとボーカル、同時にさ」

「いや、それは無理だよ。そこまで器用じゃないし」

 

とりあえずここは逃げなければ。そこで諦める少女じゃないことはわかっているが、とにかく会話を伸ばして逃げ口を見つけなけいといけない。なんだったらまりなさんに何言われるかわかったもんじゃない。

 

「……紅葉は才能があるから、大丈夫だよ」

「へぇ、随分と高く評価してくれるんだね」

 

蘭の苦し紛れな言い分に思わず喧嘩腰になってしまう僕。大人気ないことはわかっている。けど、表に出るのが嫌いな分仕方ないとしか言えない……けど、言い過ぎたかな?

 

「私は、ただ紅葉と……演奏してみたいなって」

 

……結論、言い過ぎた。なんか悲しそうな声になってるし、これは完全に僕が悪い。だからといって絶対にやりたくない。これはどうしたものかと言い訳を考え始めることにした。

 

「私も、蘭にさんせーだなー」

 

言い訳を考えてすぐ、モカが蘭の味方になった。元々読めない相手だから。余計に想定外であり、俺の負けが決まった瞬間だった。

 

 

「ここを押さえて引いてみて」

「こ、こうか?」

 

決まったすぐ後は、個人練習と称して蘭とモカによる特訓が始まった。……まぁ慣れてない人からしたらコードを押さえるとか指つっちゃうよね。

 

「そろそろ、切り上げようか」

「そうだねー。これ以上やると、こー君が大変なことになりそうだしー」

 

俺がギブと言おうとした時に、二人から解放の宣言をされた。助かったと言いたかったが、あえて言わないことにした。余計なこと言うと続行させられそうで怖い。

これはまだ最初でしかない。これから曲を覚えて、歌詞を記憶して。他の人に合わせて、完成させなければいけない。だから、まだへばるわけにはいかない。

 

「……ねぇ、こー君。あとで話があるから残っててくれる?」

「了解……手短にね」

 

片付けてる最中、モカが耳打ちしてきた。蘭達には言っていないあたり、秘密裏に二人きりになりたいということだろうか。

 

「それじゃ、解散で。お疲れ様!」

 

ひまりさんの合図でそれぞれがバラバラに行動を始める。

 

「ねぇ、一緒に帰ろう」

「……すまん、これから用事があるんだ」

「そっか……わかった」

 

蘭の提案を渋々断る。本当なら心配なのも含めて一緒に帰りたかったが、モカの約束が先だったし優先するしかない。……何事もないように願うか。

 

「んで、用事って何かな?」

「前みたいな話し方の方がモカちゃん好きだなー」

「はぁ……それで、用事ってなんだよ」

 

モカには化けの皮が通じない。一度バレたからなのか何なのか、いつもの話し方をするとすぐ拒否されてしまう。

 

「明日は空いてるー?」

「練習も無いし空いてはいるけど」

「……ならよかった、ちょっと買い物に付き合って欲しくてさー」

 

嘘だな。恐らく買い物以外にも用事がある。疑ってかかるわけじゃないけど、今の間は明らかに不自然で、何かを考えるようだった。

 

「もしかして、デートの誘いだったか?」

「こーくんは蘭のことが好きなんでしょ?なら、それはデートじゃないよ」

 

見方を、言い方を変えればそれは方便になる。たかが高校一年生の男女の会話のはずなのに、大人による裏の探り合いのような心理戦の図を呈している。俺が蘭に抱いている気持ちを好意だと言うなら、モカに抱く気持ちは何なのだろう。モカだって大切な人の一人で、護ってやりたい。

……けど。なんだ、何かが引っかかる。俺はモカを知っている。蘭達よりもっと前に。いや、知らないはずだ。青葉モカという少女と会った記憶はどこにもない。忘れようとしているわけでもないし、いじめられていた時の記憶はハッキリ残ってる。大切な人に裏切られて泣きそうになった事だが…………その大切な人が誰なのかは全くわからないし、頭がこんがらがってきた。頭も痛いし、もう、今日はやめよう。

 

「……こーくん?大丈夫ー?」

「あ?あぁ。悪いな、気を遣わせて」

 

掛け時計を確認すると、わずか二分しか経っていなかったが俺には数時間にも感じた。その思考の時間はモカを不安にさせるには十分だったようで、声には出ていないが目線で心配しているのが伝わった。

 

「とりあえず、明日は出かけるんだな?」

「そーだよー。屋上で待っててね?」

 

要件はそれだけだったようで、絶対に忘れるなよと言わんばかりの含みを持ったセリフを言われた後は、モカを送ってその後帰宅した。

 

ピコンッ♪

 

「……何故モカから?」

 

家に帰る途中、携帯から着信音が鳴った。何時もは通販サイトからの連絡だが、こんな夜に連絡を入れてくるほど忙しい昼間をすごしている訳では無い。なら誰だ……と携帯を見た結果、予想外の青葉モカからだった。

 

『やっほーアナタだけのモカちゃんですよー』

『勝手に人のものになるな。要件なんだ』

『要件がないとダメなのー?』

『いや別にダメじゃねーけど』

『連絡先が共有されました:美竹蘭』

『は?』

『蘭が連絡先を聞きたがってたから

追加してあげて』

『あいよ』

『なんだったら通話してあげたらー?

蘭も喜ぶかもよー』

『気が乗ったら、な』

『ダメー。蘭に通話しなさーい』

『……へいへい』

 

「……よし、会話終わったな?」

 

長かった……いや、これが普通なのか?イマドキってやつがわかんない分会話をどのくらい伸ばせばいいかわかんねぇなと一人ぼやく。SNSはよく分からないし、交換したところでさっぱりだ。……ん?なんでアイツが俺の連絡先知ってるんだ?

 

「っと……蘭に通話しろって言ってたな」

 

モカのことは気にしても仕方が無い。アイツはそういう奴だし、俺が問いただしたところで答える保証もない。なら諦めるのが吉というものだろう。

 

「……もしもし」

 

通話の時に流れる特有のコール音が二回目に突入する直前に蘭が通話に出た。……後ろからドタバタ聞こえたがまぁ聞かなかったことにするか。

 

『きゅっ、急にどうしたの』

「一緒に帰れなかったから、詫びも含めて通話してみた」

『そ、そっか。……ありがと』

 

通話越しの彼女の声は少し大人びて聞こえた。彼女の全てを知っている訳では無いが、俺にはまだあどけない少女に見えていた。普段見えている顔と表情が見えない通話はそのあどけなさを消している。

 

「やっぱ顔見えてた方楽だな」

『突然なに?』

「いや、クールな蘭より可愛い蘭の方いいなって」

 

この気持ちは嘘じゃない。クールな蘭も良いとは思うが、可愛い蘭も何時も見ている分しっくりくる。可愛いのがかっこよさも取り入れた時にどう化けるのかが楽しみだと思う。

 

『……変な事言ってないで早く寝たら?明日学校だよ』

「そうか、明日平日か。学校行きたくねぇ」

『はいはい、明日迎えに行くから。逃がさないよ』

 

口喧嘩は蘭にもモカにも負ける。と言うより逃げ道を徹底的に潰されている気がする。そのうち手を足も出せずに色んなことが決められそうな気がしてきた。

 

「……別に逃げたりしねーよ。じゃぁな、また明日」

『逃げても追いかけるから、大丈夫。

……おやすみ、紅葉』

 

明日はモカとの約束もある。忙しくなるであろう平日に心做しか楽しみに感じている俺が居た。




お待たせしました、ゆいです。
なりふり構わず書いてしまったバンドリシリーズがあと2作あります。
奥沢美咲、氷川日菜ヒロインのそれぞれの話を今書いていて、この作品とも絡むかもしれません。


……ぜひ感想お待ちしてます。あまりに酷い悪口書かれると心折れるので勘弁してくださいw
それでは次回おあいしましょう。
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