インヘリテッド・ストーリー ~銃と少女と女神と共に~   作:鼠返し

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 書く時間をどう捻出しようと必死にもがいています。


第10話 自己紹介

「……戻る方法わからないんですけど」

 

 率直にそう言ったところで、何かが解決するわけじゃない。わかってはいるが、言わずにはいられなかった。クロエはますます委縮し「すみません……」と消え入るような声で謝ってきた。……俺が悪者みたいに思えてきた。

 

 何をどう話していいかわからず、そのまま数十秒と経過する。話題を今必死で探しているが、彼女やクロエもそうなのだろうか。

 

「……自己紹介がまだでしたね。クロエといいます。お二人のお名前も聞かせて貰っていいですか?」

 

 意外にもクロエが話を切り出してくれた。そうだ、まだ名前を聞いていなかった。……何で俺は今までこの人の名前を聞いてなかったんだ?

 

「えっと、末富龍治です。よろしくお願いします、クロエさん」

「……もう一度、お願いできますか? 大和の名前は聞きなれなくて……」

 

 大和……日本のことか? 疑問に思ったが、後で聞いてみることにして今は自己紹介が先だ。それに、彼女の名前も気になる。

 

「すえとみ、りゅうじです」

「……ど、どちらがお名前でしたっけ?」

「下のほうですけど」

「えと、えと……リュージさん、ですね」

 

 見た感じここは西洋っぽいから、日本のような名前は聞きなれないのだろう。クロエには申し訳ないが、俺の名前なんてどうでもいい。この隣にいる彼女のほうが気になる。

 

 次はそっちの番だと言わんばかりに彼女へ視線を送る。「あ、私ですか?」と呑気なことを聞いてくるのでうんうんと首を縦に2回振って答える。

 

「マスター、私の名前って何ですか?」

 

 一瞬頭が固まった。何を言ってるんだ一体。記憶喪失にでもなったのかと勘ぐってしまう。俺の命を救った彼女とは、まるで別人のように感じてしまう。こんなにしっかりしてなかったか?

 

「私、マスターのおかげでこの姿があるわけでして。何百年も前に私はいましたけど名前なんてなかったんですよ。ですからマスター、私の名前を付けてください」

 

 はい? はい? 次から次へと訳の分からない言葉が出てくる。前半を聞くのは二回目だったが、それでも理解はしきれない。そもそも何百年前って何歳だよ、というか人間じゃないだろ。

 

 無意識のうちにクロエと顔を合わせて同じように困惑した表情を見せあっていた。再び彼女の方に顔を戻しても期待したような表情を浮かべているままだ。

 

「……詳しく聞きたいんですけど、何者なんですか?」

「えーっと……女神、そう女神です! 厳密にはちょっと違うんですけど、あなたたちの言う神様ですね」

 

 嘘、とはもう思わないが、この世界は本当に何でもありだなというのが素直な感想だ。

 

「神様なのに、名前がないんですか? 私は聞いたことがないんですけど……」

 

 クロエの言った後、同じような疑問を抱いた。神様やなんやかんやに詳しいわけではないが、大抵名前はあるものだったはずだ。そもそも、名前がないと信仰のしようがないじゃないか。

 

「実はですね、私生まれるだけ生まれてそのまま放置されてまして……。ちゃんとした名前がないんですよ。ですから、名前を付けてほしいな、なんて。人間みたいな親しみやすい名前ですよ?」

「急にそんなことを言われても……」

 

 事情は分かったが、いきなり名前をつけろと言われてもなかなか思いつかないものだ。今まで何かに名前を付けることなんてしたことがないから、全然浮かんでこない。

 

 顔はハーフのような、日系ともヨーロッパ系とも取れるような非常に均整のとれた顔つきだ。顔で名前を決めるわけじゃないが、名前にするような情報がそれしかない。それと神であるということぐらいか。

 

 神々しいような、それでいて案外聞き覚えのありそうな名前は、そうだな……

 

「イヴ……とか?」

 

 言った後に失敗したと思った。ヨーロッパ系と自分で思っておきながらつけるのが英語圏の名前とは。まあ、訂正するほどでもないか。

 

「…………イヴ。なんか、すっとくる名前です。クロエさん、イヴです。よろしくお願いしますね」

「あ、はい。イヴさん、こちらこそ」

 

 どうやら気に入ってくれたようで、彼女、イヴは嬉しそうに自己紹介をした。その後すっと俺に振り向いて口を開く。

 

「マスター、イヴです。どうか、よろしくお願いします」

 

 笑顔で名前を名乗るイヴは、最初に見た彼女より美しかった。

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