インヘリテッド・ストーリー ~銃と少女と女神と共に~ 作:鼠返し
やはり異世界、どんな常識があるかわかったものではない。いや待て、さっき存在していましたと過去形で言ってなかったか?
「いた? 今はいないのか?」
「今回の話の本題です。神は、昔に殺されました」
神が殺された。俺のいた世界で聞くと神話での出来事なのだろうが、この場合は実際の『神』という存在、人が殺されたのだろう。
「聖戦と呼ばれる、神の下についた信徒と、神に支配されることを拒む異端者の戦争がありました。いろいろありましたが、結果的に神は異端者によって殺されました。戦争自体は信徒が勝ったんですけどね」
トップが死んだのに勝ったとはこれ如何に。しかし、この話で重要であろう部分は神が殺されたという所だろう。
「一応補足しておきますと、聖戦は世界規模のものです。ただ一人の神に支配されるかどうか、それだけの戦争だったのです。マスターのお言葉から推測するに、そちらの世界では国ごとに宗教が違うのでしょうが、この世界では宗教というものは存在しません。いえ、言ってしまえば全ての国が同じ宗教なのです」
唯一神ならぬ統一神といったところか。一気にスケールが大きい話になってきて頭が回らなくなってきた。気を引き締めていこう。
「……世界中が信仰していた神が殺された。信徒はどうなると思いますか?」
この話を聞いて俺は昔の踏み絵を思い出した。日本にいた宗教が違う者を炙り出すために誰かがやったあれだ。確か信仰している神を絵とはいえ踏めなかったと聞いた。それほどまでに強い信仰の対象が殺されたとなると、どうなるか。
「……そりゃあ怒るだろうな。逆に殺したやつを仲間まで殺すんじゃないか?」
「そうです。実際には全員はしませんでしたが。そして関係するもの全てを憎みました。本人の家族親戚関係者、国、時代背景、思想、そして凶器」
……そういうことか。イヴにここまで言われてようやく気が付いた。間違いない。
「……銃か。神を撃ち殺したんだな?」
「ええ」
少し前に銃規制に成功したのかなどと考えていたことは間違いだったらしい。なるほど、この世界では銃は忌むべき存在だということか。……いろいろ見えてきた。
「世界中が信仰していた神を殺した銃を禁忌として扱い、その習慣が今でも残っている。そしてクロエは目撃して逃げ、それを辺りに言いふらされる前にお前はクロエを黙らせた、ということか」
「流石です。そしてマスターの世界には無い法則がありまして」
まだ違う常識があるのか。覚えることが多くて大変だ。
「マスターの言う世界の神というのがいない、というわけではないんです。思いが形になるといいますか、なんというか……物に強い想いが込められると、自我を持つんです。純粋に人の想いのみで出来上がる存在があります。憎まれ続けた私がこうしているように……」
……まさか、そんなことがあるのか? 会ったばかりのことを思い出してみると、イヴは自分のことを『神』だと言っていた。今こんなことを言うということは、イヴはその想いが形になった存在ということに他ならない。
「二種類の神がいます。人間として信仰の対象となった、人としての神。普段神というとこちらを指します。そして人間の間では知られていませんが、概念というものが形として成した付喪神という神。私は後者の、その銃の付喪神です」
信じられない、というのが普段の俺なら出ていたかもしれない。が、この状況では、イヴが嘘を言っているようにも思えなかった。