インヘリテッド・ストーリー ~銃と少女と女神と共に~ 作:鼠返し
この時はイヴの顔が見えなくて少しほっとした。何となくだ。悲観した少女の顔を見て『可愛い』なんていう人(?)の顔はあまり見たくない。
「案外早いお目覚めでしたね。まあ、重要なことは説明し終えましたのでいいでしょう」
そう言い終わると同時に、イヴはクロエへと身を乗り出した。まるでドラマや映画などで見る犯人を尋問しているシーンのようだ。いや、この場合だと犯人が拉致して脅迫している表現の方が正しいか。
「さて、あの時は頭が回らなかったでしょうから改めて聞きます。ここで死んでいただくか、マスターに一生ついていくか。どうします?」
「…………っ」
クロエの涙が目に見えて目から大量にあふれる。演技ではないそれに強烈な罪悪感を感じる。イヴの話の通りだとここで情けを掛けるべきではないのは分かっているが。良心の呵責というやつか。
もしクロエを自由にさせた結果周りにばらされた場合、多分俺とイヴを殺しに来る数は少なくはないはずだ。世界規模の宗教なんて相手にしたくない。
できれば無理やりにでも従わせてクロエを殺すことだけは避けたいところだ。イヴの質問に従うと答えてくれればそれで丸く収まるのだが、果たして。
「……えぐっ……お母さん……っ……!」
心がえぐられる。こんな状況に追い込んだのは俺ではないのだが、それでも辛いものは辛い。イヴがあきれたようにため息をついて俺に振り向く。その顔はため息の様子と同様に呆れているようだった。
「早く答えを出してほしいものです。ねえマスター?」
「いやいや無理だろ。まだ小さいんだぞ?」
綺麗な顔をして中々にえげつない発言をするものだ。人とは思えない言動だと思ったが、イヴは人間ではないことを思い出し妙に納得してしまった。人間らしさは俺がイヴに教えていく必要がありそうだ。
「……とりあえず、魔法を解いてやったらどうだ? 体だけでも自由にさせてあげないと俺が見てられない」
「……甘いですねマスターは。逆上してマスターが殺されるかもしれないんですよ?」
「それでもだ。さすがに可哀想で……ただ、殺されるのは勘弁だから近くで見ていてくれ」
「はーい。人間の優しさというものはあまりわかりませんね」
少し強引にイヴに言うことを聞かせると、あまり納得していない様子だがしぶしぶ従ってくれるようだ。手のひらから白く半透明な魔法陣を出すと、それを指先で軽くパリンと音を出して弾いた。文字列が一つ一つに分解されて塵となり、同時にクロエの手と足からきらきらしたものが舞い上がった。どうやらこれで魔法が解けたようだ。
クロエは自由になった手で涙を拭き、俺たちから距離を話すように壁際へじりじりと身をよじって後退する。いじめているみたいですごく気分が悪い。
少しの間顔を歪ませながら泣いた後、クロエはゆっくりと何かを覚悟したように深く息をついた。嗚咽交じりの状態だが話す気にはなったようだ。
「……ぐすっ……お、お願いっ……します。なんでもしま、っしますから……殺さないでくださいっ……!」
クロエからはこの場を丸く収める返事をいただいたが、俺の罪悪感は一切拭えなかった。