インヘリテッド・ストーリー ~銃と少女と女神と共に~ 作:鼠返し
どうにか血を見ることは避けられはしたが、この状況をどうしてくれようか。クロエが泣き止む様子はないし、イヴはイヴで何かこの場を収めることとは別のことをしそうだ。
「最初からそう言えばいいんですよ。それと、少し失礼しますね」
そう言ってイヴがベッドへ上がると、クロエはさらに身を縮めて震え始めた。結局魔法を解いても解かなくても見ていられない状況に変わりはなかったようだ。
「殺しはしませんから。顔を上げてください」
近寄りつつ言うイヴだが、クロエは顔を守る腕の力を緩めるだけで上げるまでには至らない。仮に俺がクロエと同じような年齢で同じ状況ならこうなっているかもしれない。見た目とは真逆に怖い存在と認識されているのは間違いなさそうだ。
完全に逆らうことはないと分かっているのか、それ以上は何も言わずイヴはクロエの頬へ手を添え、優しく顔を上げさせる。目は赤く腫れ拭った涙が再び流れる。それを気にもせずイヴは――キスをした。
「――っ!?」
「なっ……!?」
これには俺も驚いた。いや、驚かない人はいるのだろうか。なぜこの状況でキスをするのか。落ち着かせるとかなら普通に抱きしめるとか他の方法があるじゃないか。イヴ本人がやったところで効果はあまりないだろうが、キスは訳が分からない。
抵抗しようとするクロエだが、自ら逃げる場所を失っているためそれ以上後ろには下がれない。やがて観念したように体の力が抜けイヴにされるがままとなった。息遣いや長さ的に、しているのはディープだろう。
変な想像をしてしまいそうなこの状況だが、今の俺はそれをただ驚愕しながら見ることしかできなかった。俺の感覚でだがまだ会って1時間も経っていない彼女だが、やる行為そのものに意味がないことはあまりなかった。特に俺が理解できない行動には必ずあったように思える。今回もその中に含まれているような気がしてならないのだ。
10秒ほど続いた接吻が終わり、クロエは茫然としたように虚空を見つめる。涙が収まっていることだけを見れば良いことをしたように思えるが、それとは少し違うように思えた。
「……イヴ、何をしたんだ?」
「私の魔力をクロエさんの体に馴染ませました。それと心を落ち着かせる魔法もかけてみました」
「キスまでする必要はあったのか……?」
「魔法の効き目を強くしたりすぐ効かせたりする時、そしてごく一部の魔法には粘膜接触が必須なんです。もっとも、相手が受け入れてくれないと時間がかかっちゃいますけどね。さっきのクロエさんはちょっと苦労しました」
「そ、そう……」
さも当然のように放たれる言葉に渋々納得したように反応するしかなかった。まだまだこの世界の知識が足りていないせいか、イヴがぶっ飛んでいるせいか。
「……それで、クロエは大丈夫なのか? ずっとこんな調子だけど」
「え? あ、ほんとですね。強くかけすぎました……?」
……おい、それは大丈夫なのか?