インヘリテッド・ストーリー ~銃と少女と女神と共に~ 作:鼠返し
机に皿を置き、椅子へ腰を落ち着けるとため息が漏れた。この短時間で驚くことが多すぎた。元の世界では中々体験することはないだろう。
「やけにお疲れですね」
「うん、まあ……そうだな」
もう言い返す気すら湧かなくなった多分これからもこんな調子で付き合っていくのだから、いちいち言っていたらこちらが持たない。まあそれは向こうも同じことを思うかもしれないが。
……こんなことを考えたところで時間が進むわけじゃない。とりあえず空いた腹を満たすためにもらった魚を食べることにする。
手に取って適当に身にかぶりつこうとしたのだが、歯は空をかみ切ることしかできなかった。ガチン、と歯が鳴って案外洒落にならないほど痛い。
「出されたものを真っ先に食べちゃ駄目ですよ。毒が盛られていたらどうするんですか?」
イヴから諭され、珍しく一発で理解できた。クロエから見れば俺たちは殺そうとした相手だ。毒を盛って殺そうと考えてもさほどおかしくはない状況なのは言うまでもない。できればそんなことは考えたくはないしするとは思えないが、万が一ということもある。それに、ただ単に腐っているだけかもしれない。その程度で流石にくたばりたくはない。
「……まあ、確かに」
「というわけで、私が毒見役です」
ぱく、と小さく口に含み、もぐもぐ咀嚼し顔を歪ませる。味に問題があるのかとも思ったがそうではないらしく、量にしては咀嚼する回数が多すぎる。
ごくんと一口飲み込んだ後、続けて今度は大きくかぶりつき合計して4分の1ほどをかっさらっていった。今度は噛む回数も普通で、普通に美味しそうに食べていた。……毒見というのは半分嘘だったのか。
「特に問題はないですね。どうぞ」
「……どうも」
微妙な表情を浮かべているのを自覚しながら差し出された欠けた魚を受け取り、対抗するべくこちらも少し大きくかぶりつく。最近は魚をあまり食べていなかったからか、相当おいしく感じた。飲み込みすぐに2口目、3口目と食べ、残った4分の1ほどをイヴに渡す。これで合計してお互い半分くらいのはずだ。
「ありがとうございます。美味しいですよね」
「そうだな」
この世界に来て初めての食べ物に体も喜んでいるようだ。胃だけではなく全身が発熱しているようだ。まるで風邪でも引いているかのよう……
「あれ? マスター、大丈夫ですか?」
「え……?」
イヴに言われて体へ意識を向けてみると、確かに急にだるくなったような気がする。段々体が斜めに傾いて、意識が薄れていき、床が近づいていく。
だがぶつかる寸前、柔らかい壁のようなものに支えられ景色が止まる。……あれ、何で俺は倒れてるんだ?
「マスター!? あの、大丈夫ですか? マス……」
ああ、何か言ってるんだろうな。その思考を境に、俺はあの時と同じように意識が闇へ吸い込まれていった。