インヘリテッド・ストーリー ~銃と少女と女神と共に~ 作:鼠返し
目が覚めた。いや、気が付いたという表現が正しいか。何せ俺は急に倒れたのだ。あの時のことを思えば不思議なのだが、記憶ははっきりしている。あれほど倒れる前は朦朧としていたのに。
今俺はベッドの上で横になっている。大方イヴが何とかしてくれたのだろう。その点は感謝しておかなくてはいけない。
湿った布が額の上に乗っている。まだ乗せたばかりなのかひんやりとしていて気持ちがいい。それと薄い布を除けて体を起こすと、体中に関節痛に似た痛みを感じた。ここ数年間はなかったが風邪を引いているかのようだ。その割には体はだるくないし咳き込んだりということもなさそうだ。ただ体が熱く痛いだけ。
「マスター、起きても大丈夫なんですか?」
体の状態を確認しているとイヴから話しかけられた。俺が起きているのを見るや否やすぐに飛んできたようだ。
「まあ、今のところは。それより、俺に何があったんだ?」
「あの魚を食べた後、急に倒れて……。ちゃんと毒がないことは確認したんですが」
なんかものすごく落ち込んでいる。自分に責任でもあるかのような感じで、自由にやりたい放題やっていたかのような前の面影は全くない。初めて会った時のような真面目さが容姿も相まって栄えて見える。だが、今聞きたいのはそういうことじゃない。
「そういうことじゃなくてさ。俺自身はわからないんだけど、どうして倒れたのかとか」
「……何となく検討はついてます。確定ではないので可能性があるということを念頭にお聞きください」
「あぁ……」
少し辛くなり頭を横に振って違和感を拭おうと試みる。脳の中心がぼーっとしている感じが未だ残ってしまっている。
「無理しないでください」
「……ありがとう」
そんな様子を見かねたのか、イヴが俺の体を支えて横にしてくれた。ほんと律儀だな。
それにしても、体からだるさを抜いた風邪という表現が我ながらぴったりあっている気がする。俺の体に何があったのだろうか。
「この世界には魔力と呼ばれる、目に見えない力があります。この世界にある実体を持つもの全てが持っているものです。マスターが今寝ているベッドも、私と一緒に食べたあの魚もそうです」
「その言い方だと、魔力が何か関係してきそうだな」
「私やクロエさんの推測になりますけど」
「……クロエ?」
なぜその名前が出てくるのかと周りを見てみると、イブとは別方向に木製の水が入った桶をそばに置いたクロエが座っていて、目を合わせると会釈してくれる。寝たままで少し失礼だとも思ったが小さくこちらも返し、イヴに目線で話の続きを促す。
「マスターは他の世界から来ました。ということは、当たり前ですがマスターの体はこの世界に順応していない可能性が十分にあります。そして今回のこの状態の結論ですが」
ここでイヴがクロエに目線を振り、「……こほん」と咳ばらいを一つして口を開く。話を振る必要はないように思えるが気にしないでおこう。
「……順応しきれていないリュージさんの体の中で、魔力が暴れているんだと思います。食事は、私たちが魔力を補給する基本的な手段ですから……」
「なるほどね……」
いや、待てよ。よくよく考えてみるとこれは、順応しなければ食事は満足に取れないということになる。
食うか死ぬか……ということか。