インヘリテッド・ストーリー ~銃と少女と女神と共に~ 作:鼠返し
「…………」
朝。目が覚めて、俺はある一つの困難へと直面している。
「マスター。そんなに緊張しなくても」
「まあ、そうなんだが……」
据え膳食わぬは男の恥。わかってはいるが、それでも怖いものは怖い。
「リュージさん、大丈夫ですよ。ちゃんと私だっていますから」
「わかってる……」
俺にできるのだろうか。そう、食事が。
パンに野菜。朝食とはあまりいえないような量だが、果たして今の俺には耐えられるだろうか。ベッドで体を起こしたまま膝に乗せているのは、またすぐに横になれるようにだ。
しかしどちらにしろ食べないと飢え死にへ一直線なのだから食べないわけにはいかない。何度同じことを思っているんだと自分でもうんざりだが、そう考えざるを得ない。
まずは前菜から。用意されたフォークでレタスっぽいものを突き刺し、一瞬手が止まりかけたが口へと放り込む。咀嚼した感じは別に問題はなく、いたって普通の野菜だ。問題は飲み込んだ後。
ごくんと飲み込み、数秒ほどじっと待つ。水はものすごい勢いできたのだが、野菜はどうなのだろうか。
待つ。待つ。……が、来ない。念を入れてもう少し待ってみよう。
……何もない。もしかしてもう俺の体は魔力を受け入れられるようになったのか? 少しの希望を抱いてもう一口。うん、なんともない。
「……大丈夫です?」
「……うん、まあ。もう魔力がどうとかってのはなくなったのかな?」
「ん~……」
イヴに聞き返してみると、首を傾げて考え込んでしまう。何を考えているかを察するには経験も知識もないため、答えを出してくれるのを待つしかない。
「少し失礼します」
そう言うと俺のほうへ身を乗り出し、手のひらを俺の顔に近づける。何をするんだと少し顔を逸らすが、意に介さない様子で額へと触れる。
イヴの手は、話に聞くような女性の柔らかさそのものだ。優しく包んでしまいそうなそれは、何をするでもなくずっとそのままだ。
「むむ……何というか、すごいですねこれは」
一体何がしたいのかと聞こうとするが、それより前に意味深な発言をされた。様子からして慌てるようなことではなさそうだが、訳の分からない俺にとっては不安でしかない。
「クロエさん、少しマスターの魔力を見てもらえますか?」
「え、私ですか? ……では、失礼します」
あまり乗り気ではなさそうだったが、そばで見ていたクロエはベッドへ身を乗り出し、イヴと同じように俺の額へ遠慮しながら手を当てる。見た目通り子供っぽい感じはするが、それでも触れていて嫌な気分ではない。
とそれは置いておいて。何をしているのだろうと待っていると、クロエが急に困惑したような表情を浮かべた。
「……訳が分からないです、これは。イヴさん……」
「ですよね。私も正直驚いてます」
「当の本人はわかってないんだけど、どうなってるんだ?」
耐えかねて聞いてみると、「あ」といった具合にイヴが俺を認識した。忘れていたのだろうか。だとすると少し悲しい。
「ごほん……まあ単刀直入に言っちゃいましょうか。マスターの体に魔力が『順応』しすぎてます。馴染みすぎて魔力自体がマスターから離れるのを拒むほどにです」
……つまり、どういうこと? そんな俺の疑問は、さらに膨らんでいくばかりだった。