インヘリテッド・ストーリー ~銃と少女と女神と共に~ 作:鼠返し
魔力が順応しすぎている。そう聞くだけなら簡単だが、どういうことか俺にはさっぱり理解できない。
「そう、ですね。多分魔力を手に入れたということで、使い方を覚えればマスターも魔法を使えるかと思います。が、ですよ」
おぉ、俺にも魔法が使えるのか。浮かれてしまいそうだったが、とりあえずはイヴの話を聞いてからだ。
俺に話しかけながら、イヴは手のひらを上に向けて赤い魔法陣を出した。それから程なくして、陣の中央から炎が現れた。なるほど、これが魔法か。
「魔力というものは程よい関係性というものが大事でして。均衡がとれてるとこの炎は安定していますけど、それが崩れていると……」
イヴの言葉に続くように、魔法で作られた炎は空気を入れすぎたガスバーナーのように消えてしまった。百聞は一見に如かず、非常にわかりやすい。
「とまあこのように上手くいかないんですよね。マスターの魔力は体から離れていこうとしないので、身にまとうような魔法は使いこなせると思いますが、距離があると駄目な気がしますね。火の玉とか氷の矢なんか飛ばしたりなんかは恐らく難しいかと」
「……なるほど?」
言葉を聞いて何となくは理解できる気はするが、如何せんどうもぴんと来ない。魔法なんて使ったことがないから当然といえば当然だろう。何事だってやったことがないと想像することすら上手くいかないものだ。
そんなことが伝わったのかどうかは定かではないが、苦笑いしながらもイヴは話を続けていく。
「慣れればある程度は自分で制御できるんですよ。人によって魔力の特性が違いますから、そこは頑張って身に着けるしかありません。ちなみに言っておきますと、マスターの魔力特性は内側ですね。逆に魔力が離れていきやすい場合は外側だとか外に向いているとも言います。クロエさんはどっちですか?」
「え、私ですか……?」
クロエは急に話を振られたことが意外だったようで、少しおびえるような様子を見せる。向けた俺の視線にも多少びくついてしまったようだ。ほんとに弱気な子だな。
「……私は、極端に外に向いてしまっています。強制具を使っても全く効果がないくらい、です……」
「強制具って?」
「内側外側の魔力の均衡を取る道具です。内なら外の、外なら内の強制具を使うことで魔力特性を適度に変えて魔法を使いやすくするんです。まあ、専ら魔法初学者か特性の偏りを逆手に取れるほどの熟練者しか使いませんけどね。クロエさんの腕輪がそうです」
実物があるのか。確かにクロエの右の手首に銀の腕輪がついている。太さもそんなになく柄も派手ではない。ぱっと見は全然わからない、ただの普通の腕輪だ。
「……よくわかりましたね」
「私、魔力の流れには敏感なんで」
むふー、という擬音がぴったりな様子でイヴは軽いどや顔を放つ。それに一瞬見とれつつも、疑問をクロエにぶつけてみる。
「でもクロエさん、強制具は効果がないんじゃ……」
「……気休めです。それに、母がくれたものですから。付けていても邪魔にはならないですし」
腕輪を手でさすりながら、クロエは優しく微笑んだ。何かを懐かしむような柔らかい表情を久しぶりに見た気がする。
「さてさて。ではマスター、丁度いいですし練習してみましょうか」
振り向きながら「何を?」と聞いてみる。聞いておいてあれだが、考えてみても答えは一つしかない。
「決まってるじゃないですか。魔法ですよ、魔法」
「……お、おう」
魔法、か。ちゃんと俺に使えるのかどうか不安だ。だが、身に着けるしかあるまい。
この世界で生きていくには、多分避けては通れない道だ。