インヘリテッド・ストーリー ~銃と少女と女神と共に~ 作:鼠返し
……被り物か何かなのだろうか。俺の目には、女の子の頭に犬の耳が生えているようにしか見えない。ずっと見つめていると、ピコンと跳ねた。ギミックか何かか?
ただ今までのことを鑑みると、これも本物のような気がしてならない。これまでの人生で見たことがないから信じたくないだけかもしれない。
ゆらり、と女の子の後ろで何かが揺らめいた。尻尾のように見えたのは多分気のせいではないだろう。
「…………お邪魔、でしたか?」
「いやいやそんな!」
反射的に軽く叫んでしまった。こう言ってしまっては肯定しているみたいに思ったのは、もちろん手遅れになってからだ。
「クロエさんです。マスターの治療をしてくれたんですよ」
彼女は何も気にしていないかのように話を進めた。ここまで無反応だと少し悲しくなる。いや、俺と彼女がそういった関係というわけではないのだが。
「……獣人族を見るのは初めてですか?」
クロエは自身の耳を指し示しながら俺に聞いてきた。初めてというより知らないのだが。しかし、興味はあるので聞いてみることにしよう。
「えぇ、まあ……本物ですか?」
「仮に被り物があるとしても身に着ける人はいません。本物ですよ」
発言に少し違和感を覚えたが、証明としてなのかピコンピコン動いたのでどうやら本物のようだ。注視してみると陽の光が透けて少し血管が見えている。ここまでくれば本物と認めざるを得ない。
「獣人族は初めて見ましたね……触ってもいいですか?」
近くに居た彼女は立ってクロエの方へと近づく。それまでの間、目に見える様子でクロエはおろおろし始めた。見た目に違わない性格のようだ。
流石に少し変わった彼女も常識はあったようで、少女の前で立ち止まり返答を待つ。非常に困っている様子だったが、数秒かけて考えた後首を縦に振った。顔を赤らめるぐらいなら断ればいいのに。いや、断りたくても断れないのか。
頭を撫でる要領で彼女は耳を撫で始めた。ふさふさしていて撫で心地がよさそうだ。そんなことは頼めはしないが。
「んっ……あの、そろそっ……!」
何も聞いていない。俺は何も見てない。
体感で30秒ほど触っていた後、ようやく手を離した。振り返り俺の方に戻ってくる彼女はものすごく満足した表情を浮かべ、クロエはかなり体力を消耗したようだ。先輩が後輩をいじった後のようで可哀想に思えてくる。しかし、だ。
「……私の時と感じが違いますね」
「マスターは私のマスターですから。クロエさんは可愛い女の子ですから」
答えになるような、ならないような微妙な返事をいただいた。個人的にはもっと細かい説明を求めていたのだが、あまりにも堂々とそう言われると聞き返す気力もわかない。
「はぁ、はぁ……こほん! えっと、お体の調子はどうですか?」
クロエは息を整え、まだ赤みが残る顔で俺に問いかけてきた。少し変な気分になりそうだ。
失礼なことは考えずに答えることに集中しよう。確か右肩の骨が折れていたのだったか。手を当ててみると、痛みは無く完璧に治っていた。骨折がどのくらい元通りに治るかはわからないが、俺の右肩は何もなかったと言い切れるほどだ。
「大丈夫、ですね。痛みもありませんし……どうやって治療してくださったんですか?」
「治癒魔法です。あんまり得意ではないんですけど、ちゃんとできたようで何よりです」
「魔法、ですか……やっぱり」
さらっと治療魔法なんて聞こえてきた。やはり、俺はファンタジーな世界に入り込んだらしい。どうやって入り込んだのか、それがわかる人は本当に教えてほしい。
「やっぱりって、どういうことですか、マスター?」
「えっと、そのことなんですけど……」
彼女に聞かれ、意を決して口にすることにする。外れてたら外れた時だ。それに、この考えは多分当たっている。
「……私は、異世界から来たんだと思います。だから、魔法なんて知らないんです」