真選組女中の非日常   作:むに

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『なあ鈴。俺、江戸に行くことにした』
『江戸?それって…』
『ここから遠い場所だ』
『わ、わたしも行きたい!』
『おばさん達が許してくれないだろ』
『うーん、たしかに…』
『…3年。3年もしたら、俺も立派な侍になってるだろうから、また顔出しに帰ってきてやるよ』
『絶対だよ!私、待ってるから』



何をするにも一緒だった、唯一無二の存在である幼馴染が侍になるべく江戸に独り立ちした。

その1年後。
私も江戸の地に立っていた。

「1年が限界でした」





1 小さな間違いが大きな問題になる

幼馴染を追いかけて訪れた江戸。

侍を象徴する町と聞いていたのだが、一体何だろう。

遠くにそびえる無駄に高いタワー。空に飛び交う飛行機。

町を触れ歩く人の形をした生物。

 

これが江戸?本当に?

…なにはともあれ、私が目指すは真選組の屯所。

 

 

 

 

 

「…真選組の屯所ってどこだよ」

 

田舎者が都会に出てくることだけでも体力と精神を削られるというのに、さらにこの複雑な町を探索しなければいけないだなんて。だめだ、考えただけで疲れる。

まだ昼だけど今日は休んで、明日ホテルを出る時に屯所の場所を聞こう。

 

駅から一番近いところにあったホテル、池田屋に運よく空いている部屋があったのでチェックインをした。

エレベーターで15階まで上がり部屋へ入る。

 

「つかれたぁー!」

 

荷物ぱんぱんの大きな風呂敷(ちなみにウサギさん柄)を放り投げ、畳に寝転びひと息つけるかと思った、その時。

 

「御用改めである。神妙にしろテロリスト共!」

 

低くてドスのきいた声が、部屋の外から聞こえた。

 

「しっ…真選組だァっ!!」

「イカン、逃げろォ!!」

「一人残らず討ちとれェェ!!」

 

気を緩めることができたのも一瞬、反射的に体を起こして外を警戒する。

なんか、逃げろとか討ちとれとか真選組とか…

 

「…ん?真選組?」

 

………。

 

「真選組ですか!?」

 

思わず勢いよく戸を開け大声をあげた私に気付き、1人の男が振り返る。

それはさっきドスのきいた声を発していたらしき人で、瞳孔がかっ開いていた。

 

「なんだお前は」

「あの、えっと…怪しい者ではないんですけど」

「てめーも桂の仲間か?」

「カツラって誰ですか、違います私は」

「怪しいな。オイ総悟!この女縛ってパトカーん中突っ込んどけ」

「人の話聞けよお前!」

 

なんだコイツ!腹立つな!

何が「怪しいな」だよ怪しくないってば!

 

人の話を聞け、と言う私の言葉をも無視して瞳孔ガン開き男はどこかへ去ってしまった。

その代わりに違う男が姿を表す。亜麻色の髪に甘いマスク、先ほどの男が"総悟"と呼んだ人だろうか。

 

「アンタかィ、縛られてーって奴は」

「断じて違います」

 

逆になんで縛られたいって風に解釈するの?馬鹿なの?ドSなの?

 

「ま、どっちでもいいや。つーか下まで降りなきゃなんねぇじゃねーかめんどくせー」

「あの、私何も関係ないんでマジで」

「怪しいな。とりあえず縛って…おいザキ、この女パトカー突っ込んどけ」

 

だから怪しくないっつってんだろ!コイツもかよ!

 

亜麻髪の男はどこからか取り出した縄を私に巻きつける。謎の手際の良さで10秒も経たぬうちに私の体は縄でぐるぐる巻きだ。

 

うそでしょ?ねえ待ってよ。私が呆気にとられている間に亜麻髪の男も消え、次はいかにも地味な男が現れた。

ええと、なんだっけ。ザキとかなんとか呼んでたな。

 

「ザキさん、マジで私をパトカーにぶち込む気ですか」

「うーん…まあ上司からの命令だし仕方ないよね」

 

乙女の必殺技、上目遣いを繰り出してみるもなんの効果もなかったからこの人たぶんオネエかホモだ。

ザキさんはヨイショと私を肩に担ぎエレベーターで下まで降りる。

外に出ると徐々に遠ざかるホテル池田屋の扉。悲しくなった。

 

そしてパトカーに乗せられて、ぐるぐる巻きのまま放置される。

…と思いきや。

 

「で?君は桂の仲間?」

 

なぜかザキさんもそのまま車内に残った。

その質問、さっきも受けたけど。

 

「違いますって、大体カツラって誰なんですか」

「とぼけてるの?」

「とぼけてない!私、田舎から出てきた者なんで」

「…田舎から?これまた何のために」

「…真選組で働かせてもらうために、です」

 

正確に言えば、真選組に"いるはず"の幼馴染に会いに来た。だけど。

 

「働くって言っても、ウチ女隊士は募集してないよ」

「隊士なんて無理ですよ!女中として働きたいなと」

「…物好きだね」

「そうですか?」

 

確かに女中って言っても、ただの雑用係だもんな。

行く宛てのない私としては屯所に住み込ませてもらえるなら何だってするつもりだけど。

 

「まあ何ていうか、桂の仲間ではなさそうだね」

「さっきからそう言ってるじゃないですか」

 

何にせよ、こうしてザキさんと落ち着いて話が出来たおかげで、ホテルでの騒動が落ち着いたら屯所で改めて話をする機会を設けてもらえた。

 

……局長や副長の許可が出たら、らしいけども。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやァすまんな、トシも総悟も帰ってくるなり昼ドラを観に行っちまって」

 

目の前に座るゴリラのような局長さんは、そう言って苦笑を漏らした。

 

現場から帰ってきて速攻昼ドラ?アンタらに用がある人が来てるのに昼ドラ?大丈夫かこの警察。

しかも昼ドラ観に行ったなら戻ってくるの1時間後じゃん。

1時間もここでゴリラと2人きりですか、客間室という名の檻の中でゴリラと2人きりですか。

 

左に目をやれば縁側と子綺麗に手入れされた庭。小さな池もあり、ししおどしは一定のリズムを保って間の抜けた音を鳴らす。

 

「悪ィ、待たせたな近藤さん」

 

その言葉と共に、男は現れた。

ホテル池田屋で最初に会った目つきの悪い男だ。その後に続いて、亜麻色の髪をした男も部屋に入ってきた。

 

「トシ、総悟。昼ドラはいいのか?」

「始まったと思ったとたん例の池田屋事件のニュースに切り替わっちまった」

 

軽く溜め息交じりに言えば、トシと呼ばれた目つきの悪い男は近藤さんの隣に腰を下ろし、総悟を呼ばれた亜麻色の男は障子の戸に背をもたれさせた。

 

こっちが副長の土方十四郎、こっちが一番隊隊長の沖田総悟だ。と近藤さんが紹介してくれる。

 

その後に、沖田さんが口を開きこう言った。

 

「てめー、誰かと思えばさっきのメス豚じゃねェか」

「誰がメス豚だコラ」

「桂の仲間がなんでこんなところにいるんだよ」

 

私に対してありもしない事を好き勝手言う2人を近藤さんは制し、「とりあえず聞いてくれ」と言った。

 

「この子はメス豚でもないし桂の仲間でもないらしい」

「ンな根拠どこにあるんだよ」

「根拠か?それは知らん」

 

近藤さんはしれっと言ってのければ私に視線を向ける。

 

「だが、俺はこの子が悪者だとは思えん。ましてや豚だとも思わん」

 

客間室に、少しの沈黙が流れる。

無理もないだろう、近藤さんは根拠もなくただの勘のみで私を悪者ではないと言ったのだから。

私自身も悪者ではないのは事実だがぽかんとしてしまった。

それと同時に、この人の人柄の良さを直々に感じさせられた。

 

「…本当、近藤さんはもう少し人を疑ってくれ」

 

沈黙を破った土方さんが溜め息交じりに言う。

そして、続けるように口を開き「オイお前」と私へと目を向けた。

 

鋭い視線が突き刺さり、背筋がぴんと張る。

 

「…履歴書」

「え?」

「履歴書出せっつってんだよ」

 

思わず呆気にとられた。

履歴書出せってことは、その……いいんですか?

 

あ、でも、すみません。

 

「履歴書忘れてました」

「…ふざけてんのかテメー、面接に履歴書は必須だろうがよ」

「まずは江戸に行くということしか頭になくて…」

 

私と土方さんのやりとりを見て、近藤さんは豪快に笑う。

 

「誰だってうっかりする時もあるさ!履歴書は後で渡すからそれに書いてくれればいい」

「あっ…ありがとうございます!」

 

こうして、無事真選組の女中になれはした、みたい。

けど私の本当の目的はその次であって。

 

武士になりたいと江戸へ発った幼馴染。

もし彼の願いが叶っているならば、ここにいるはずだ。きっと。

 

 

 

 

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