幼馴染、なっちゃんとは一年ぶりの再会だった。
三年待てば帰省してくれるものを私が待たずに江戸へ来てしまったのはさすがに予想外だったようで、それと同じくなっちゃんが真選組に入っていなかったのはこちらとしても予想外であった。(あれ、そしたら私、真選組に就いた意味…?)
話したいことが山ほどあったが、また明日ゆっくりと二人で話をしようと約束をして、恒道館を後にした。
翌日。5時ピッタリに起きた私は寝巻き甚平から普段着甚平へと着替え、朝食を済ませて門前の掃除をしていた。
するとそこへロケバスらしき車がやってきて、中からカメラや照明を持った人たちが出てくる。
「おはようございます、大江戸テレビです。今日はよろしくお願いします」
突然の来客にうろたえる私に、ちょんまげを結った男の人が会釈をするのでつられるように会釈し返したが、頭の中はハテナでいっぱいだ。
「テレビ?」
「はい。密着取材24時というものをやらせていただくお話を…」
聞いてねえ!初耳なんだけど!ちょっとそういうの誰か言ってよバカ!!
ていうか男の人の横にカメラさんがいるんだけどさカメラ回ってない?撮られてんのもしかして?
「あ、ああそうなんですね!てかカメラ回ってます?」
「貴方は女中さんですか?ずいぶんとお若いですねェ」
「新人なんですけどね。てかカメラ回ってますよね?」
来て早々私撮ってるよカメラさん。
ちょんまげも無視すんなよ。
「おい、何やってんだ」
後ろから声が聞こえ、振り向くと土方さんと近藤さんが歩いて来ていた。
「あ、大江戸テレビの方々です。私来るって聞いてないんですけど」
「そりゃ言ってねーからな。話が決まったのはお前が来る前のことだし」
いや、それでも教えてくれてたってよくない?
近藤さんはテレビ局の人と挨拶を交わして、それから軽く話をしたあとにこちらを振り返り「それじゃあトシ、頼んだぞ」と笑顔を浮かべた。
「ああ」
「近藤さんテレビ出ないんですか?」
「今日は朝から大事な用があるとか言ってな」
「へえ。あ、私も昼から用事あるんでお仕事休ませてもらいますね、それじゃあ」
「おう。…って、おいゴルァ!」
逃げるが勝ち。
「へー、じゃあ鈴もテレビ出るんだな!録画しとこうかな」
「いや普通にカットだろうね」
土方さんと佐藤さん(先輩女中)にバレないよう屯所を抜け出し、蘭蘭蘭という飲食店で幼馴染と会う。密会?
「ほら、俺の奢りだからいっぱい食えよ」
「さすがなっちゃん!」
「だからその呼び方やめろっての…変わんねえな」
小さい頃からこの呼び方なのに、彼はあまり気に入っていないらしい。凪だからなっちゃん。私は可愛いと思うんだけど。
「奢り?マジでカ!」
「「…え?」」
少女の声が聞こえ、なっちゃんの隣を見ると。
赤いチャイナ服を着た女の子が平然とした顔でメニューを眺めていた。
「悩むアルな~、でも食べ放題なんだよネ?それなら迷う必要ないか」
「おま…なんでここにいるんだよ、神楽ちゃん」
「なっちゃん、知り合い?」
うん、となっちゃんが頷く。
「万事屋って店の従業員」
「凪、誰アルかこの子。私というものがありながら浮気アルか!?」
「誤解まねく言い方やめろバカ、コイツはね俺の幼馴染の鈴」
神楽ちゃん、と呼ばれた少女は「幼馴染?」と私に目を向ける。
「凪に幼馴染がいたなんて初耳アル。私神楽、よろしくネ鈴」
「うん、よろしくね神楽ちゃん」
なんだかよく分からないけれど私には友達が出来たようだ。
…何気に江戸に来ての友達って初めてかも。あ、嬉しい。
「神楽ちゃんがここにいるってことは…銀さんや新八くんも来てんの?」
「おうヨ、向こうの席座ってるアル。姉御も」
「お妙ちゃんも?」
お妙ちゃん…ってのは近藤さんの想い人か。
で、ギンサン、シンパチクン?誰だろう、私だけ置いてけぼりなんですけれども。きょとりとした表情で黙っている私に気付いたなっちゃんは、「あ、ごめんな」と苦笑を浮かべる。
「せっかくだし紹介するよ、あっち行こっか」
そう言いながら席を立つなっちゃんにうんと頷き私も立ち上がる。
神楽ちゃんについて行くと、四人用のテーブル席にお妙ちゃんとメガネの少年、そして銀髪の男の人が座っていた。
「銀さん、こんにちは」
「ンあ?おー、凪か。あっれー?女連れかよお前、ったくチャラつきやがって」
銀さんと呼ばれた銀髪の男は頬杖をつきながらじとりと兄を見据える。その向かいに座っていたお妙さんが、私の顔を見て「あら、貴方は…」と口を開いた。
「鈴ちゃん、よね?」
「あっ、はい」
「ふふ、昨日凪さんから名前聞いたの。銀さん、この子凪さんの幼馴染なんですって」
「へえ、幼馴染なんていたのお前」
銀さんはまじまじと私の顔を見つめる。するとおもむろに懐から名刺を取り出し、私へ突き付けた。
「坂田銀時ですぅ、頼まれたら何でもやっちゃう万事屋経営してるんで、よかったらご贔屓にィ」
「あ、どうも。名刺は無いんですけど真選組女中の鈴っていいます」
何でも屋、か。こんな仕事もあるんだなあ。
そう思いながら名刺を受け取る。
「で、なんで万事屋とお妙ちゃんがここに?」
なっちゃんが小首を傾げて問うと、坂田さんはソファの背にもたれお妙さんを指さし言う。
「一丁前にストーカーされてんだとよ。それで万事屋にどうにかしろって言うの」
瞬時に目を逸らした。心当たりがありすぎて何故か物凄く申し訳ない気持ちになる。私の上司がストーカーで本当すみません。
「ふふ、鈴ちゃんはなにも悪くないわよ」
私の欲しい言葉をくれたお妙さんはくすりと笑う。
「でもね、最初はそのうち諦めるだろうと思ってたいして気にしてなかったんだけど…どこ行ってもアイツの姿があって、ホント異常なのよ」
困ったように眉を下げるお妙さんに対し、坂田さんはさほど興味なさげに頭をかく。
「えーと…なんだっけ、甚平女もそのストーカーと同じ真選組なんだろ?ガツンと言ってやったらいいんじゃないの」
「え?甚平女って私?鈴なんですけど。ていうかそれでストーカーやめるなら今こんなに困ってませんよお妙さん」
現に昨日近藤さんを連れ帰ってから土方さんが説教じみたことを浴びせていたのにも関わらず懲りてないようだし。
「んだよ、つーかそんなの俺にどーしろって言うの。仕事の依頼なら出すモン出してもらわにゃ」
「銀さん、僕もう2ヶ月給料もらってないんスけど。出るとこ出てもいいんですよ」
「ストーカーめェェ!!どこだァァァ!!成敗してくれるわっ!!」
何この態度の変わりよう。扱いやすいな坂田さん。
「なんだァァ!やれるもんならやってみろ!!」
銀さんが叫ぶなり、他の人様のテーブルの下からガタガタと出てきたストーカー、近藤さん。
「…近藤さん」
「あ、鈴ちゃん。…いやちょっと待ってそんな冷たい視線向けないでお願い!」
まさかここにいたなんて。
なに、朝土方さんが言ってた大事な用事ってこのこと?…こりゃ土方さんに報告だな。
「そういえば、凪さんと鈴ちゃんは二人だけでゆっくりお話するんじゃなかった?私たちは放っておいて席に戻りなさい」
不意にお妙さんがそう言うと私となっちゃんの背中をポンと押す。そうだ忘れてた。確かに貴重な時間だし、ここはお妙さんのお言葉に甘えて席に戻ろう。
なっちゃんと目を合わせ互いに頷くと、その場を離れ元の席に戻った。
「…なっちゃんは、なんでお妙さんと一緒にあの道場に住んでるの?」
「正しく言えば、お妙ちゃんと新八くんとだけどな。あの二人姉弟だから」
彼は先ほど店員が持ってきたウーロン茶を一口飲めば、「話せば長くなるんだけど」と苦笑を浮かべた。
(ストーカーと呼ばれて出てくるとは、バカな野郎だ。己がストーカーであることを認めたか?)
(人は皆、愛を求め、追い続けるストーカーよ)