真選組女中の非日常   作:むに

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6 男なら真っ向勝負で

翌朝、これから会議室へ向かうと思われる近藤さんと偶然廊下で会った。左頬を大きく腫らしながらも笑みを浮かべている。

 

「おはよう!…アレ鈴ちゃん?なんで目合わせてくれないの?」

「やだな、合わせてますよ。おはようございます」

 

 

 

 

 

もう手慣れてきた門前の掃き掃除。

いつものようにホウキを動かしていると、玄関からゾロゾロと黒い大群が姿を現した。その先頭を切っているのはハゲ。じゃなくて、原田さん。

 

「どうしたんですか皆さん」

「鈴か。お前もコレを町に張っていってほしい、頼んだぜ」

 

どうしたの問いには答えず、おもむろに私の手にチラシのようなものを十数枚ほど押し付けるといかつい大群は門の外へ去って行ってしまった。

手元の紙に目を落とす。そこには乙女である私には到底口に出せないくらい乱暴な言葉で”銀髪の侍”への挑戦状に似たものが書かれていた。

 

「頼んだぜって普通に嫌だ」

 

ていうかこんな事したら町から見た真選組の印象めちゃくちゃ悪いじゃん。ウチらの大将負かされましたってメガホン片手に叫んでるようなもんじゃん。

……コレって結構ヤバいよね?

 

 

 

「土方さん!」

「テメッ副長室入る時は一言声かけてからって……その手に持ってんのなんだ」

 

スパァン!と勢いよく副長室の戸を開くと、そこには土方さんだけでなく沖田さんの姿もあった。二人の前に原田さんから貰った紙を置くと、土方さんは眉間のシワをより一層ひそめる。

 

「コレだ、例の張り紙ですぜ」

「アイツらこんなもの…」

 

どうやら彼らも今この話をしていたらしい。

 

「派手にやりまくってる割にゃ成果はサッパリみたいですけど」

「…どうするんですか?」

 

土方さんは深いため息をひとつつくと、その場から腰を上げて「行くぞ」とだけ言う。

 

「鈴。お前も暇なら手伝え」

「別に暇じゃないですけど」

「昼から休憩入ってるだろィ」

「なんで知ってるんですか」

「お前のシフト誰が作ってると思ってんの」

「お…沖田さんが…!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんですって?斬る!?」

 

土方さんのいきなりの発言に、私と沖田さんは少々目を丸くした。

 

「ああ斬る」

 

バッサリと。

電柱に無造作に貼り付けられた例の張り紙を剥がしながら、彼は言い放った。

 

(くだん)の銀髪の侍ですかィ」

「でけーことになる前に俺で始末する」

 

その剥がした紙をくしゃりと丸めては、沖田さんの持つバケツの中にポイと投げ入れる。そのバケツには既に丸まった紙の山が出来上がっていた。

 

「土方さんは二言目には『斬る』で困りまさァ」

 

あ、あっちにも張り紙。こっちにも張り紙。

思った以上に張りまくってんなアイツら。

 

「…銀髪の侍かぁ」

 

はがした紙に殴り書きされた、銀髪の侍の文字を眺める。

…ん?私どっかで銀髪の男の人見なかったっけ?喋らなかったっけ?それもすごく最近の話。なんとなくポケットの中に手を入れてみる。と、そこに小さな紙があった。

 

「名刺…」

 

万事屋 坂田銀時

 

「マジで殺る気ですかィ?銀髪って情報しかこっちにはないってのに」

「近藤さん負かすからにはタダ者じゃねェ。見ればすぐ分かるさ」

「あああ!分かったァァァ!!」

 

そう叫んでは、立ち止まっていた私を置いて先を行く二人の背を追う。

分かった!私分かったよ!

 

「オイいきなり大声出すんじゃねーよおま…」

「おーい兄ちゃん、危ないよ」

 

土方さんに名刺を見せようとしたその時、不意に頭上から気だるげな男の声がしたと思い顔を上げると、骨組みの木の束が土方さんへと降ってきていた。

 

「うぉわァアアアァ!!」

 

幸いにも私は彼の後ろにいたので直撃しそうになるということはなかったのだが。

 

「あっ…危ねーだろーがァァ!!」

「だから危ねーっつったろ」

「もっとテンションあげて言えや!わかるか!!」

 

地に尻餅をつきながら怒鳴る土方さん。

そしてそれを面倒臭そうに受け答えながらハシゴを伝って屋根から降りてくる男。

 

「うるせーな。他人からテンションのダメ出しまでされる覚えはねーよ」

 

あ、この声も。聞いたことある。

そうだよ、なっちゃんが弟子入りしたいって、憧れだって言ってた人。銀髪の、坂田銀時。

 

「てめーは…池田屋の時の…!」

 

土方さんと沖田さんも、坂田さんのことを知っているようだ。池田屋ホテルで出会ってたのかな。

だが、それに対して坂田さんはいまいちピンと来ていないのか、覚えていないのだろう。

 

「…えーと。君、誰?」

 

そう言って少し考えた後に、「あ…」と土方さんの肩に手をかける。

 

「もしかして多串(おおぐし)くんか?アララすっかり立派になっちゃって。なに?まだあの金魚デカくなってんの?」

「…多串くん?」

 

なにそれ、土方さんの本名?土方ってまさか偽名?理解に苦しみ、首を傾げる。すると今度は私と坂田さんの目が合った。

 

「よう、テメーはさすがに覚えてるわ。えーと確か甚平女ちゃんな」

「オーイ!!銀さん早くこっち頼むって」

「はいよ。じゃ多串くん達、俺仕事だから」

 

屋根の上からしたおじさんの声に、坂田さんはまたハシゴを登っていってしまった。

 

「鈴なんですけど」

 

なんて訂正する暇もなく。

 

「甚平女ちゃん、お前銀髪の侍と知り合いだったのかィ」

「誰が甚平女だそのまんまじゃねーかコノヤロー。…そうですね、ついさっき思い出しました」

 

先ほど見せようとした名刺を出す。

 

「万事屋、坂田銀時…。総悟、ちょっと刀貸せ」

 

土方さんは名刺の名前に目を通した後、坂田さんが登っていった屋根の上を見据えては沖田さんの刀を要求する。

不思議そうな表情をしながらも、黙って刀を渡す沖田さん。土方さんはそれを受け取るとハシゴに足をかけた。

 

「殺る気満々ですね、あの人」

 

そう言って沖田さんを振り返る。が、彼はそこにいなかった。キョロキョロと辺りを見回すも姿はどこにもない。

いつの間に消えたのだろう、と頭に浮かんだ疑問符を消し飛ばすかのように、上からガキィィン!と鈍い音が降ってきた。喧嘩勃発。…喧嘩どころじゃないか、あの人斬るとか始末って言ってたし。

そんなことを思いながら屋根を見上げようとしたと同時に。

 

「いっだァァァ!」

 

何か固いものが頭に直撃し、脳みそを揺らす。

地面に落ちたそれを見てみるとそれは刀の鞘だった。おそらく土方さんが投げ捨てたのだろう。

大きく舌打ちをしては土方さんへの恨みを募らせるこの間にも、侍同士の斬り合いは続いている。しかし刀と刀がぶつかり合う時に起こるはずの金属音がこれまで少しも聞こえていない。聞こえるのはドタドタと駆ける音、瓦の割れる音くらいで。

確かに土方さんは鞘から刀を抜いたはずだ。(じゃないと私の頭に墜落したりなんかしない)

じゃあ、坂田さんが刀を抜いていない…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくすると、刀の折れるような音が聞こえた。つい先ほどまでうるさかった屋根の上が嘘のように静かになる。

恐る恐るハシゴをよじ登ってみて顔を出す。屋根瓦は想像以上に破壊されており、その中の崩れていないところに土方さんは仰向けに寝転がっていた。

 

「土方さん!大丈夫ですか」

「別に動けなくて寝てるわけじゃねーよ」

 

そばに駆け寄る。よく見れば土方さんの体には傷ひとつ無く、かたわらに折れた刀だけが転がっていた。

 

「決着つけられちまった。俺の負けだよ」

「…やっぱり、強かったですか?」

「あぁ、ありゃナメてかかるもんじゃねェな」

 

土方さんはゆっくりと体を起こす。

 

「っし、帰るか」

「多分まだ張り紙はがし切れてませんよ」

「……」

 

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