「みんなー!こちらが先日から女中として働いてくれている鈴ちゃんだ!」
ガヤガヤガヤガヤ
「仲良くしてやってくれよー!」
ワイワイワイワイ
まったく聞いてねーなコイツら!!
今宵は私の歓迎会とやらを開いてくれたみたいで、私としてもそわそわしながら宴会場である大広間の襖を開けたのだがそこにいたのは既に出来上がっている連中ばかりで。近藤さんが今日の主役である私を紹介してくれるも誰ひとり耳に入っちゃいない。
現に私の肩を抱く近藤さんもふんどし一丁だ。服を着ろ服を!
「今日は無礼講だからな!鈴ちゃんもハメを外して楽しんでくれ!」
「ハメじゃなくてふんどし外そうとしてる人いるんですけど!おまわりさーん!!」
「ここにいる顔の赤い奴全員お巡りさんでさァ。まあ隣来いよ」
沖田さんに腕を引かれ、隣の席に座る。そしてお猪口を渡された。
「いや、私未成年なんでお酒は…」
「俺の酒が飲めねーってのか」
「刃!刃当たってる!!ちょっと断っただけで刀抜かないで!!」
刀を抜き私の首筋に当てる沖田さんも、ほんのりと酒くさい。酔ってんなコイツも。しかしまあおっかねえ!
「盃を交わさねーことには本当の意味で真選組の一員にはなれねェぜ」
「アレここ極道?わかったわかった飲みますから!!物騒なもん直して下さい!」
しぶしぶ私が頷くと、沖田さんは満足げに刀をおさめ私の持つお猪口にお酒を注いだ。その瓶のラベル鬼嫁って書いてない?名前からしてヤバそうだけどこれ飲んで大丈夫?
しかしもう後には引けない。今の私には飲むか斬られるかの二択しかないのだ。
「こんなの水じゃァァァい!」
なみなみ注がれた酒を一気に飲み干す。それと同時に、喉から胸のあたりがカアッと熱くなる。あ、これ、やばいな。
「おーおー良い飲みっぷりじゃねえか。ほらもう一杯」
アルコールの免疫なんてまったくと言っていいほどないのに、こんな明らかに度数の高そうなアルコールを摂取してしまえば後は知れてる。それにも関わらず沖田さんは面白がってまたお猪口に酒を注いだ。
「うう…気持ち悪い」
沖田さんの標的がザキさんに変わったことで私へのアルコールハラスメントは3杯で終了した。かろうじて意識は保っているが、ものすごく顔が熱い、いや、もう全身が熱い。
酔い覚ましにと屯所を抜け出し少し散歩に出る。夜風が涼しくとても心地いい。しかし、まだ江戸の土地勘がない私が歩き過ぎてしまえば間違いなく迷子になってしまうので、そろそろ元来た道を引き返そうとした時。
「…誰かいるんですか?」
通りかかった路地に、人影が見えた。その影はゆっくりとこちらへ近付き、街灯に照らされその姿を現わす。
「年端もいかねェ娘がふらついて夜道を歩くなんざ危ねえぜ」
笠を深くかぶり顔はよく見えないが、着ている紫の着物はとても派手なものだ。
「少し飲みすぎてしまって、酔い覚ましに散歩してたんです」
「へぇ。その酔い、一瞬で覚ましてやろうか?」
「なっ…」
口を開いた時には、目の前にいた男は私の背後へと回り首筋に刃を当てられていた。(どいつもこいつもポンポン刀抜きやがって!ていうか廃刀令のご時世に帯刀してるよこの人!)
沖田さんの時とは違う空気に、背筋に恐ろしい戦慄が走る。突然のことにただ固まる私を見て、男はクククと笑い刀を収めた。
「だから言ったろ、危ねえって」
冗談でもやっていいことと悪いことがあるだろテメー!!クククじゃねーよ笑えねーよ!!
そう叫んでやりたかったがそれこそ殺されかねない。かしこい私が言葉を飲み込んだところで、後ろの方から車の走行音が聞こえ、振り向くと赤いサイレンが光る真選組のパトカーがこちらに向かって走って来ていた。パトカーを道の傍に止め、車内から出て来たのは土方さんだった。
「ひじか…」
「テメーこんなとこふらついて何してんだバカ!!」
土方さんのガツンとした怒鳴り声に脳みそが揺れる。
「遅れて大広間行ったら主役のはずのお前がいねェし、部屋にもいねェからまさかと思ったが」
「ちょっと酔っ払っちゃったんで、夜風に当たれば覚めるかなって」
「だからって女が一人で夜道歩いてたら危ねーだろ!ほら、いいから早く乗れ」
同じようなフレーズをついさっきも聞いたことを思い出し振り返るが、笠の男はもういなかった。後部座席に乗り込み、車に揺られていると緊張の糸がほどけたのかまだ酔いが残っているのか一気に眠たくなってくる。
「特に最近は高杉の目撃情報が出てるからな、夜は勝手に出歩くんじゃねェぞ」
「高杉?」
「攘夷浪士の中でも最も過激で危険な男だ」
そうだ、さっきの男も、充分ヤバい奴だった。刀持ってたし。それを土方さんに伝えようとするも眠気が邪魔をして喋れない。あっという間に私は眠りに落ちてしまった。