町と町を繋ぐ大きな橋の上に、僧侶の衣装を見に纏い佇む一人の男。
まさかこの男がお尋ね者であるとは誰も思わないだろう。
桂小太郎はこの国の行く末に想いを馳せる。
いったい、世が変わるのはいつのことになるのだろう。
侍が侍として生きられるために、俺はーー
あ、今日午後から雨だっけ。洗濯物取り込むの忘れてた。
橋の隅に佇む僧侶に従来者が目をくれることはなかったが、不意に目の前に置いた空き缶に小銭が投じられた。初めてのことに驚いた自分は少しだけ顔を上げる。そこに立っていたのは、年頃の娘にしては珍しく甚平を着込んだ
「少ないですけど」
そう言ってはにかむ少女とぱちりと目が合ってしまい、笠を深くかぶる。
「…いや、かたじけない」
「あの、お坊さんって愚痴とかも聞いてくれたりするんですか?」
あろうことか少女は俺の隣にしゃがみ込み、そんなことを言い出した。
「私の上司なんですけどね、もう無茶苦茶で。マヨネーズのストックがないからって怒られて、買いに行かされて。今その帰りなんですけど」
返事もしていないというのに少女は勝手に喋り出す。手元を見れば確かにビニール袋にマヨネーズが大量に詰まっていた。その上司はかなりのマヨラーなのだろう。
「あとまた別の上司なんですけど、夜中にジャンプ買いに行かされたんですよ、寝ようと思ったときに!女中をなんだと思ってんだアイツら!」
はあ、と盛大な溜め息が少女から漏れる。パシリに使われ相当苦労していることと見受けた。
「確かに無茶苦茶な上司ではあるな。別の職を探そうとは思わないのか?」
「…うーん、それは考えてなかったです。一応、優しいときもあるし」
「なるほど、DV男にはまりやすいタイプだな」
「なんでそうなるんですか?」
スッと少女が立ち上がる。
「そうだ、はやく帰らないとまた怒られる。愚痴聞いてくれてありがとうございましたお坊さん!ちょっとだけスッキリしました!」
少女はぺこりと一礼をして、駆け足で去って行く。なんとも自由な人間だ。
その少女と入れ違いに、奴は現れた。
「誰だ?」
「…ククク、ヅラぁ。相変わらず幕吏から逃げまわってるよーだな」
「ヅラじゃない桂だ。なんで貴様がここにいる?幕府の追跡を逃れて京に身をひそめているときいたが」
「祭りがあるって聞いてよォ。いてもたってもいられなくなって来ちまったよ」
屯所へ戻った私は、とりあえず袋に詰まったマヨネーズを届けようと土方さんの部屋へ向かう。すると、通りかかろうとした会議室からぞろぞろと隊士たちが出てきた。会議室の中へ目をやると、土方さんの姿が。
「あ、土方さん。マヨネーズ買ってきました!」
「ご苦労。次からはストックに気ィつけろよ」
「えっなんで私が注意されてんの?…なんの会議してたんです?」
「てめーにゃ関係ねェ」
そう言われると思った。女中に話しても無駄ですよねーだ。
「祭があんでさァ。そーゆーの好きだろ鈴」
「お祭り!?好きです!江戸のお祭りって絶対大きいですよね、行きたい行きたい!」
「テメッ総悟!俺たちは遊びで行くんじゃねーぞ」
「どっちみち祭があることは知っちまうでしょう。連れてってやって遊ばせときゃいいじゃないですか」
どうやら、近々祭が催されるが真選組は任務のために出動するようだ。沖田さんが連れてってやればって言ってくれたのは嬉しいけど、みんなと一緒に回るのは難しいらしい。
「万が一厄介ごとに巻き込まれでもしたらどーすんだ」
「そんなに心配なら俺が特別任務として鈴の
「ただサボりてェだけだろテメーは」
土方さんは小さく溜め息をつくと会議室を後にした。ちゃっかりマヨネーズの詰まったビニール袋を持ちながら。来るなよ、という後押しがなかったということはお祭りに行ってもいいのかな。
結局なんのために真選組が祭に出動するのかは分からないけど、私は楽しむのみ!