041
「あっ、
「やっほー
「やっほー
「一人?」
「いや、
ほらあそこ、と言ってカウンターの方を指差す。
彼は注文も支払いも任せろと言ってくれたので、一応一回は断ってから仕方なく折れるという形でそれに甘えた。僕ってば甘えてばっかりだね。そのうちちゃんと借りを返さないと。
2人席にいた彼女たちに、折角だから4人席でみんなでお喋りしましょうよと提案する。幸いにもこれが快く受け入れてもらえたので、空いていた隣のテーブルに移動した。
ほどなくして神崎君も合流する。
「奇遇だな、一之瀬、
「やっほー神崎くん」
「ど、どうも」
神崎君が持ってきたトレイの上には僕が頼んだドーナツと、彼が頼んだのであろう見たことのない麺料理があった。緑がかった半透明のスープに、白い平打ち麺と葉っぱと蒸した鶏肉。フォーってやつかな? なんか違う気がする。
なんであれドーナツ屋さんで提供される類の品ではないと思うのだけれど、ある程度がっつりと食事をしたい人用に置いているのだろうか。
僕はどちらかと言えば少食なので、お昼はドーナツ3個で十分だったりする。
ドーナツが乗ったお皿とアイスミルクをお礼を言って受け取りながら、珍しく余所余所しい態度の千尋さんに目を向ける。
「そういえば千尋さんと神崎君って、あんまり話したことないんだっけ?」
「うん。私、男の子とはあんまり喋らないし」
「俺も女子とはそこまで喋らないからな」
「あはは。神崎くんは男子ともそんなに喋らないじゃん」
「へえ、そうなんだ。ちょっと意外だなあ」
彼の教室での姿を想像してみる。誰かと話している姿が上手く想像できないけれど、これは神崎君がどうと言うより、僕がBクラスの他のメンツを知らないだけだろう。
顔と名前が一致するのはここにいる三人以外だと、サッカー部所属の元気っ子
「意外と言うなら緒祈と白波の仲こそ意外だがな。お前が誰かを下の名前で呼んでいるのは初めて聞いたぞ」
「確かに千尋さんだけだね。下で呼んでるの」
「私も真釣くんだけかも……。ねえ一之瀬さん、帆波《ほなみ》さんって――帆波ちゃんって呼んでもいい?」
「もちろんだよ! 私は千尋ちゃんのこと千尋ちゃんって呼んでるし」
女子二人が和気藹々としているので、僕も男子として対抗する。
「ねえ神崎君。
「母親と同じ呼び方は流石に止めてくれ……」
「ふふふ、冗談だよ。
「それなら構わない。俺も真釣と呼ぶようにしよう」
「じゃあ、改めてよろしくね、隆二君」
「こちらこそよろしく頼む、真釣」
親密度が10上がった。
……ん?
気分よくフレンチクルーラーを食べている僕に、千尋さんがキラキラした瞳を向けてくる。欲しいのか?
いや、違うな。
「ねえねえ真釣くん」
「この流れに乗って一之瀬さんのことも下の名前で呼べってかい?」
「ナイス以心伝心!」
千尋さんは僕と一之瀬さんをくっつけたがっているからなあ。でも一週間待つって約束したはずだよね? これはあくまでも自然な会話の流れだと言うつもりかな? 別に良いけどさ。
相変わらず彼女には甘いなあと自覚しつつ、一之瀬さんにお伺いを立てる。
「千尋さんはこう言ってるんだけど、えっと、嫌なら嫌って言ってくれていいんだけど」
「全然オッケーだよ! 私も真釣くんって呼ぶね」
「うん。じゃあ、そういうことで、よろしく」
「うんっ。よろしくね、真釣くん」
こちらも親密度が10上がった。
普通に会話ができるということは、どうやら昨日話した件に関しては早くも結論を出せたみたいだ。今週末はたっぷり使うかと思ったんだけど。
1個目のフレンチクルーラーを食べ終え、冷えた牛乳で喉を潤す。
楽しくお喋りも良いけれど、真面目な話もしておかないと。
「帆波さん」
「うん?」
「昨日言ったことは、考えてくれた?」
「うん」
昨日とは打って変わって毅然とした態度で彼女は答えた。
千尋さんは何の話だか分かっていないようなので後で説明してあげよう。隆二君は午前中に同じような話をしたからか、展開を理解できているようだ。
「私にとって緒祈くんは――真釣くんは『友達』だよ。過去にあったことも受け止めるし、受け入れる」
彼女は僕を真っ直ぐ見て、はっきりとそう言った。
昨日のように瞳が揺らぐこともなく、心の整理がついたことが窺える。
「そう。ありがとう」
「でも一つだけ条件を付けさせてほしい」
「なにかな?」
「Bクラスに危害を加えるようなことは絶対にしないで。その時は真釣くんを『敵』として扱わざるを得なくなる」
ごもっともな注文に、僕は少し意地の悪い質問を返す。
「つまり緒祈真釣の友達である一之瀬帆波より、Bクラスの委員長である一之瀬帆波を優先する。そういうことでいいんだね?」
「っ……うん」
ほんの少し躊躇いはあったけれど、それでも彼女は力強く頷いた。そうだ。それでいい。
自分が守るべき範囲を、手を差し伸べるべき境界を、一之瀬帆波はしっかりと線引きした。
これならそう簡単に潰されることはないだろう。
「そう言ってくれて良かった。これで心置きなく君と、君たちと仲良くできる」
「一応確認させてくれ。
「ない。というか最終的には、僕は君たちのクラスに入るつもりだよ」
「それは、2000万ポイント貯めてってこと?」
千尋さんの質問にどう答えたものか少し迷う。
……丁度良い機会だし、僕のAクラス移籍計画を話しておくか。
「貯めるつもりはない」
「じゃあどうやって――」
「肩代わりしてもらうんだよ、移転先のAクラスに。40人で分担すれば1人50万。十分に現実的な数字でしょ?」
1人で貯めるのが困難なら、みんなで集めればいい。簡単な話だ。
「随分と他力本願だな。しかし移籍したいと言ったところで、そう都合よく協力が得られるとは限らないだろう」
「その通り。だからそれだけの価値を僕に付ける必要があるんだけど、これが難しそうなんだよねえ」
「まあ、そうだろうな」
最終的には他力本願になってしまうけれど、そこに辿り着くまでの『自力』がえげつない。
この学校のシステムをもっと深くまで理解しないと、自分の価値を上げるための算段は中々立てられないだろう。
「一番の理想は卒業前最後の試験の直前、君たち
「うーん、そんなに上手くいくかなあ?」
千尋さんが首を傾げる。
「難しいことは百も承知だよ。でも、不可能じゃない」
「しかし真釣、その状況を狙って作るくらいなら、普通にクラスでAに上がる方が楽なんじゃないのか?」
「そうだね。そうかもしれない。でもクラスか個人かの方針を今決める必要はないし、贅沢を言えばギリギリまで両方の手を持っておきたい。今大事なのは、少なくとも三年の二学期が終わるまでは君たちと敵対するつもりはないってこと」
「にゃるほどねー」
もしかすると学校側から敵対を強要されることが今後あるかもしれないけど、その時こそ僕は細心の注意をもって立ち回らなければならない。
僕がBクラスのスパイだと思われるのは別に構わない。
しかし僕と仲良くしている所為で万が一にもここにいる三人が、特に帆波さんがDクラスのスパイだと疑われてクラスメイトからの信用を失った場合、これは相当厄介な展開だ。
そうならないように動くつもりではあるけれど、保険もいくつか考えておくべきだろう。
フレンチクルーラー(2個目)にかぶりつき、脳に糖分を補給する。
「しかしなぜ俺たちのクラスに拘るんだ? 今のAクラス――
隆二君がそんな疑問をぶつけてきたけれど、おそらく彼の中でも答えは想像できているだろう。確認作業みたいなものだ。
「あそこは2大派閥で内部紛争してるんでしょ? 下手に近付いて巻き込まれるのは勘弁だよ」
「ふむ。ではクラスが纏まっているというならCクラス――
「あはは、冗談でしょ? 僕は
龍園君は入学から1か月経たずしてクラス全体を支配したという恐ろしい存在だけれど、だからと言って恐れすぎることはない。
所詮は人間だ。完璧じゃない。
「Bクラスを選んだのは単純に、君たちと縁があったからってのもあるけどね」
「そういえば私が初めて真釣くんと話したのって、学校のミスがあったからだもんね」
「あれがなかったら、こんなに仲良くはなっていなかっただろうね」
もし合格通知書に間違えて記された配属クラスがBではなくAやCだったら、話は全く別の展開になっていたはずだ。
「ま、そういう訳だからさ。僕は君たちがAに上がる手助けをしたいと思っているし、逆に
そこで一旦話を区切る。フレンチクルーラーは3個目に突入した。もぐもぐ。うまー。
その絶妙な甘さと食感に舌鼓を打っていると、一之瀬さんから心配そうな表情で尋ねられた。
「真釣くんのクラス内での立場は大丈夫なの?」
「というと?」
「クラスメイトとの
ふむ。確かに卒業前に移籍するつもりだなんて知られたら反感を買うかもしれない。しかしそもそも茶柱クラスがAにまで上がれたのならその時は僕が移籍することも当然ないのだし、恨まれるのは筋違いだ。
「言ってしまえば長いものに巻かれろ戦法だからなあ……」
「どう転んでも真釣はAクラスで卒業できるというわけか」
「あんまり下手な転び方だとそうもいかないけどね。基本的には『僕が欲しいならAクラスまで上がってみろよ』ってスタンスかな?」
極論を言うと、僕が卒業時にAクラスにいるならそこまでの過程はどうでもいい。
もっと言うと、別にAクラスで卒業できなくても「やっぱりダメだったかー」と諦める準備はある。僕はその程度の薄弱な意思しか持っていない。
「ふふっ」
「どうしたの隆二君?」
「いや、真釣はもっと自己評価や自己肯定感の低い男だと思っていたのだが、案外そうでもないようだな」
「うーん、どうだろうね」
これはちょっと予想外の意見だ。
確かに今のAクラス移籍計画を聞けば、緒祈真釣は自分に自信を持っている人間だと判断されても仕方ない。実際、僕は自分のことを運動以外はそこそこ出来る人間だと思っているし、自己評価や自己肯定感はむしろ高い方だ。
しかしそれはあくまでも僕の一面に過ぎず、諦めることに抵抗のない消極的な僕というのも存在する。
どれが本当の僕だとか、そういうことじゃない。時と場合によって性格は変わるという、誰にでも当てはまる当然の話だ。
……Aクラス移籍計画についてはこれくらいで終わりにしていいかな? まだ大枠しかできていないから、これ以上話すことも特にないんだよね。
シリアスは一旦お
「話は大きく変わるんだけど」
「うん?」
「名前呼びして気付いたんだけどさ、君たちって三人とも名前に漢数字が入ってるね」
「言われてみれば」
「おー、確かにそうだね」
「流石真釣くん。無駄に鋭い」
白波
僕にだけ無くてちょっと疎外感。
「もしかしてBクラス全員……?」
「なわけないでしょ」
千尋さんから厳しめのツッコミをいただいた。
まあ、そりゃそうだわな。元気っ子柴田君の下の名前は
「逆に
「いないってことはないんじゃないか?」
「高円寺くんの下の名前って、六助じゃなかった?」
「あー、言われてみればそうだったかも。よく知ってるね帆波さん」
「にゃははー。彼、変人で有名だから」
そんな感じで平和な雑談を20分くらい楽しんで、気付けば時刻は14時前。誰からともなく『そろそろ移動するかなー』という空気になり、この後の予定も決めぬまま席を立った。
4人分の空いた食器を一つのトレイにまとめ、一銭も払っていない僕がそれを返却口まで持って行く。先に出ていてくれて構わなかったのだけれど、何故か千尋さんだけ付いて来た。
「真釣くんって、フレンチクルーラー好きなんだね」
今更かよと思いつつ、とある高名なお医者様の名言を引用して答える。
「この世にあるもので神様がお創りになったのは、整数とフレンチクルーラーだけなんだよ」
「……なに言ってるの?」
僕はこの言葉結構好きなんだけど、残念ながら彼女の心には響かなかったようだ。
ちぇっ。
042
店を出たところで帆波さんと隆二くんが待っていてくれた。しかしそれだけではなく、計ったようなタイミングで僕の友人がもう一人現れた。目が合って、「あっ」「おっ」と短く驚きの声を漏らす。
Dクラスのミスター無表情こと綾小路君だ。
「やあ綾ハ路君、奇遇だね」
「よう緒祈、奇遇だな……ってちょっと待て。
「一之瀬さん以外は面識なかったよね? 紹介するよ。こちらDクラスの綾ハ路君」
「おい無視するな。オレの亅をどこにやった」
「そしてこちらがBクラス白波千尋さんと、神崎隆于君」
「亅が余計だぞ、緒祈」
「それオレの亅!」
「おおっと失礼。改めまして、こちら神崎隆二君」
「よろしく」
「そんでこっちが綾小路
「ああ、よろしく。……やっと亅が帰ってきた」
「ふふふっ」
「あはははっ! 君たち面白いねー」
綾小路君とのいつもの掛け合いを、本日はオーディエンスがいたのでロングバージョンでお届けした。
女性陣には好評のようだけど、巻き込まれた隆二君は微妙な表情だった。許してにゃん。
しかしこのタイミングで綾小路君と会うのか。後でメールか電話をするつもりだったんだけど、手間が省けた。怖いくらいに都合がいいな。
厄介事の予感がしないでもないけど、ここは彼の方に行ってみるか。
「ごめん皆。ちょっと綾小路君に用があるから、今日はこれで」
「ああ、分かった。じゃあまた学校で」
「ばいばーい!」
「またねー」
Bクラスの面々に別れを告げ、綾小路君の隣に並ぶ。
こちらの意図を探るような彼の視線に、とびっきりの営業スマイルを返してあげる。
「じゃあ行こうか! どこに行くか知らないけど」
「……なんか今日テンション高いな」
「まあね」
綾小路君はケヤキモールを出て、僕が数刻前に歩いた道をなぞるように歩く。これはもしや――
「カメラシティに行くの?」
「ああ。と言っても買い物をするわけじゃない。今日は下見だけだ」
「わお! 僕と一緒じゃないか」
嘘じゃないよ?
つい1,2時間前に行ったばかりだろと言われればその通りだ。
しかしお恥ずかしながら先程はボイスレコーダーを買って、それで満足してしまって、もう一つの目的を忘れていたのだ。ある物の値段を知っておこうと思ったのに、すっかり忘れていた。
「それで、何の用だ?」
「僕もちょっと下見にね」
「そうじゃなくて、オレに何の用だ?」
「ああ。いや、須藤君の件どうなったかなって」
「……そういえばそれに関してお前にクレームがあるんだった」
クレーム?
基本関わらないようにしていたはずなんだけど、何か迷惑をかけただろうか? 心当たりが全く――あ、あるわ。ばりばりあるわ。昨日のことのように思い出せるわ。というか昨日のことだわ。
「堀北さんか」
「ああ。急に一人でやると言い出した。どうせお前の仕業だろ?」
「んふふー。まあね」
須藤君騒動の解決に協力しろってうるさいから、軽く煽って追い払ったんだった。そっかー、やっぱりまずかったかー。
「なんとかしろ」
「随分ざっくりとした注文だね」
「堀北に暴走されると面倒だ。オレとしては須藤の完全無罪で決着させたいが、このままではそれが難しい」
「なるほどね。それは確かに問題だ」
よく考えると、実力を隠したがっている綾小路君は隠れ蓑がいないと碌に動けないんだった。悪いことしちゃったなあ。許してにゃん。
「でも僕、関わるつもりないからなあ」
「既に関わってるだろ。責任を取れ」
そう言われると弱っちゃう。
おっかしーなー。関わらないつもりだったんだけどなー。帆波さんの紹介とか、中途半端に手を出したのがダメだったかなー。
「分かったよ。堀北さんを元に戻すくらいはやってあげる。でもその前に、君のプランを教えてよ」
「プラン?」
「どういう経過を辿ってどういう形で終わらせるつもりなのか。それを知っておかないと、堀北さんにどこまで話していいのか分からない」
「……あとでメールする」
「よろしく」
明日の予定が一個増えるかもなー、こりゃ。
炎天下を数分歩き、現れたのは空よりも濃い青色の看板。家電量販店カメラシティに本日二度目のご入場だ。ついつい「ただいま」と言いそうに――ならないね。なるわけないね。
「緒祈は何を探しに?」
「僕自身が買うわけでも使うわけでもないんだけど、監視カメラをね。ダミーので十分なんだけど」
「……やはり思い付いていたか」
「まあ、これくらいはね」
僕が考えた
「さっき言っていた『須藤君の完全無罪』ってのは、今僕の頭にあるシナリオと同じと考えていいのかな?」
「ああ。それが最善手だろ?」
「ふーん……綾小路君なら僕には想像もできない、もう一歩進んだ手を持っているかと思ったんだけど」
「……何故そこまでオレを過大評価する?」
「過大評価じゃないよ。だって君、実力を隠しているでしょう?
「そうだな……確かに俺は本気を出していない。目立たないよう、ほどほどにやっている。それなのに何故お前はオレが実力を隠していると気付いた?」
意外にも彼はあっさりと認めて、そのうえで僕が何故気付いたのかを聞いてきた。
今後の参考にするためかな?
「これと言って明確な根拠はないんだよね。小さな出来事の積み重ねって感じで。ただ一番大きなピースを挙げるなら、綾小路君さ、前に本性の一端をちらっと見せてくれたよね。その時に気付いたというか悟ったというか――思い知らされた、かな」
時と場合によっては敵対することも
――
「なるほどな。あれは失敗だったか」
「そうだね。目立ちたくないとか言っておきながら、どうしてあんな軽率なことを?」
「……お前を脅威に感じていたんだろうな」
「脅威だなんて大袈裟な」
僕が変なことしないように釘を刺しておいた、ということか。そんなことしてくれなくていいのに。
「あ、でも過去形ってことは?」
「いや、今でもお前はオレの脅威に成り得る存在だ」
「えー? それこそ過大評価だよ」
「正当で妥当な評価だ。少なくともオレと同等か、それ以上に頭が回るんだからな」
「そんなことないんだけどなあ」
綾小路君の方が嫌がる話題だったはずなんだけど、気付いたら僕の方が逃げるように商品棚を眺めていた。
逃げるもなにも、一応こっちが主目的ではあるんだけど――
「あっ。あったよ、監視カメラ」
「……結構いい値段だな」
カメラコーナーの片隅にひっそりと置かれていたそれは、残念ながらDクラスの僕たちがおいそれと手を出せる値段ではなかった。
「緒祈、手持ちはどれくらいある?」
「人に貸せる程はないよ」
「となると一之瀬あたりに借金するしかないか……」
「その時は君たちで勝手にやってね。僕は僕で近々Bクラスの別の子に借金する予定だから」
「……惨めだな、
「あはは。涙が出ちゃうね」
貧乏な僕らは何を買うこともなくお店を出た。お互いこれ以上の用事はなかったので、一緒に寮まで帰る。
その道中、綾小路君は少し考えてこんなことを言った。
「明日暇か?」
「時間を作れないこともないけど、どうしたの?」
「じゃあ昼頃に、さっき行ったカメラコーナーの辺りをうろうろしといてくれ」
「別にいいけど、なんで?」
「保険を一つかけておきたい」
「……ふうん」
詳しく説明するつもりはないらしい。
うーん、これはいよいよ須藤君騒動に本格参戦させられる感じかな? 面倒くちゃー。
寮に着いて、綾小路君がエレベーターに乗ったので僕もそれに続く。彼は僕のひとつ上、4階の住人だ。
「じゃあ、また明日」
「ああ。堀北の件も頼んだぞ」
「任せときー」
予想はしていたけれど、彼に付き合った所為で随分と仕事が増えた。折角フレンチクルーラーでテンションが上がっていたのに、完全に相殺されてしまった。
そもそも須藤君がCクラス相手に問題を起こさなければ――そんなこと言っても意味ないよね。分かってる。地道に一個ずつ片付けていくしかないよね。
とりあえずは部屋に戻って、
043
夜。
綾小路君が想定している今後の展開をメールで教えてもらった。それは僕の予想にはなかった流れだったので、僕自身の今後の予定をいくつか変更する。
そしてまずは堀北さんにメールした。
須藤君の件で話したいことがあるので明日の午前中に会えないか聞いたのだけれど、存外あっさりと了承してくれた。どうやら彼女も一人で解決することに限界を感じていたようだ。
次に千尋さんに電話して、いくつかの頼みごとをした。
「5万ポイント貸してくれ」とは言わなかったけれど、それくらいの大きな借りを作ることになった。金の切れ目は縁の切れ目と言うので正直不本意ではあるのだけれど、これから挑む相手を思うと準備は万全にしておきたい。
それから帆波さんにも協力をお願いした。
綾小路君のプランでは水曜日に須藤君騒動が終幕するそうなので、その翌日の放課後に星之宮先生を呼んでもらう。場所は邪魔の入らない生徒指導室だ。
決戦の日は7月11日、木曜日。
作戦は練りに練ったけど、通用するかは五分五分だ。
高度育成高等学校の教員がどれほどのものなのか、見せてもらおうじゃないか。