050
るんるん気分で廊下を歩く。
油断すると鼻歌にスキップまで出てしまいそうだ。
すれ違う生徒たちに怪訝な視線を向けられたけど、そんなことは気にならない。今の僕は女子の制服なので、変な奴がいたという噂が流れたところで困らない。
昇降口を出て校門に向かうと、そこにストロベリーブロンドの美髪少女を発見する。どうやら向こうは僕に気付いていないようだ。
彼女の視界に入らないよう大きく弧を描き、後ろからそっと近付いて――
「
その髪をわしゃわしゃーっと思いっきり撫で回してやった。
「ぎゃー!」
「へぶっ!」
その感触を楽しむ間もなく鞄ハンマーが飛んできて、顔面にクリティカルヒットした。僕は衝撃に踏ん張ることができず、仰向けに倒れてしまう。
顔に手をやって確認する。どうやら鼻血は出ていないようだ。
「いてて」
「今のは
「調子に乗りました。ごめんなさい」
いっけねー。
「完全にセクハラだよ? 私じゃなかったら通報されてるよ?」
「帆波さん以外にこんなことしないよ」
「っ……そういう問題じゃない! 人違いだったらどうするの?」
「僕が帆波さんの髪を見間違えるなんて万が一にも有り得ない」
「うぅ……そういう問題じゃない!」
となるとどういう問題なのか分からないんだけど、なんであれ僕が有罪であることは確実だった。
帆波さんは「まったくもう!」とぷんすか可愛らしく怒りながら、乱れた髪を手櫛で整える。
僕はブレザーとスカートに付いた塵を払いながら、先程の自分の発言に誤りがあったことに気付く。
「あ、ごめん。髪をわしゃわしゃする相手は
「うん、知ってる。それは本人から聞いたよ」
「そっか」
「あと『真釣くんは帆波ちゃんの髪も狙ってるから気を付けて』とも言われた」
「何言ってんだ千尋さん」
「事前に聞いてなかったら、もう2,3発叩いてたかもねっ」
「よくやった千尋さん」
「ふふふっ、冗談だよ。……ごめんね? 痛かったよね?」
完全に僕が悪いのに、そう言って心配してくれる優しい帆波さん。うっかり惚れそうになるね。もう恋なんてしない宣言はどこに行ったのやら。
「大丈夫だよ。血も出てないし、鼻も折れてないし。僕の方こそごめんね。嫌な思いさせちゃって」
「んー、嫌ってわけじゃないんだけど……恐怖は覚えたね」
「申し訳ない」
「タイミング的にも、ほら、昨日気味の悪いストーカーを見たとこだし」
「誠に申し訳ない」
そうだよね。相手が誰だろうが、急に触られたら怖いよね。さっきのは『触る』なんてレベルじゃなかったし。
何も考えてなかったなあ、僕。
「今回は許してあげるけど、次からはちゃんと事前に言うこと! いいね?」
「えっ、今から触りますって予告すれば触っていいの?」
「……やっぱりダメ」
ダメなのか。
「真釣くんが言う『髪触らせて』って、他の人とは意味が違うというか、意気込みが違うじゃん?」
「そうかもしれない」
「だから、うん。なんか恥ずかしい」
「なるほど」
一般的な『髪触らせて』は『握手しようよ』と同じ括りで、僕の『髪触らせて』は『胸触らせて』と同じ括りってことか。違うか。違わないのか?
今の僕は女の子の格好だから傍から見れば女子同士でじゃれ合っているだけなんだけど……そういう問題でもないよね。
ひょっとして、僕は変態って奴なのか?
そんな疑問を抱きながら、帆波さんと並んで寮へと続く並木道を歩き始める。
「そーんなことよりっ! その表情を見るに、上手くいったみたいだね」
「うん。完全勝利と言っても差し支えないかな」
「先生相手にすごいねー。その先生がうちの担任ってのがちょっと複雑だけど……」
帆波さんが校門で僕を待っていたのは、この話をするためだ。誰かさんの所為で髪の話からスタートしちゃったけど、ようやく本題に入る。
「教えてもらえる? 真釣くんが何を考えて、何をして、何を得たのか」
「おっけー」
帆波さんには
「さて、どこから話すべきかな?」
「うーん……じゃあ、まずは今回の目的から聞かせて?」
「目的、ね。まあ幾つかあったんだけど、一番はやっぱり仕返しかなあ」
「えっ、仕返し?」
驚いた様子の帆波さん。先生の弱みを握るためとか、そういう答えを予想していたのだろう。
間違いとは言えないけれど、それは目的というより手段だ。
「星之宮先生が流した例の噂の所為で、僕と君たちの仲って一時期微妙になったじゃん? あれが不愉快だったから、ちょいと仕返しをね」
「……意外と子供っぽい理由だね」
「あはは。僕は紛れもなく
あの噂があったおかげで今の帆波さんとの関係があるとも言えるけど、だからって感謝も容赦もしてやらない。
良くないことをして僕を傷付けたんだ。説教が効くような相手でもないし、釘を刺さなきゃ気が済まない。
「にゃるほどねー。それで? 星之宮先生を一泡吹かせるために何をしたのかな?」
「先生に『他クラスの生徒を意図的に
「……和解できれば良いのにって思うけど、そういう問題でもないんだよね?」
「うん」
平和を愛する帆波さんにはあまり楽しくない話だろう。しかし彼女は僕の友人としてか、星之宮先生の生徒としてか、はたまたただの好奇心からか、「それでそれで?」と先を促す。
「録音と言えばボイスレコーダーだ。でもそれは先生だって警戒してるはずだし、この学校の教員が相手じゃ一筋縄にはいかないだろう」
「先生のこと、随分評価してるんだね」
「過小評価して足元を掬われるよりは良いでしょ?」
「にゃはは、それもそうだね。……ところでその『先生』と『教員』って、どういう使い分け?」
おおっと。そんなところに引っ掛かるのか。
全然意識してなかったわ。
「うーん……『先生』は特定の個人を示す代名詞で、『教員』はこの学校で教職に就いている人の総称、かな? 特に考えず使ってたけど、多分そんな感じ」
「ふむふむ。あ、話逸らしちゃってごめんね。ボイスレコーダーをどう隠すか、だよね?」
「うん。と言っても、絶対に見つからない隠し場所なんてないからね。音を拾う必要がある以上あんまり深くには仕込めないし。だからとにかく、思い付いたことを全部やるしかないんだよねえ」
「全部ってことは、1個や2個じゃ済まないよね? ポイントは足りたの?」
「いや全然。千尋さんと
「……むぅ」
帆波さんは不機嫌そうに口をへの字にする。なんだなんだ可愛いな。キスしてやろうか。
……ええ、そうですよ。考えるだけでどうせ実行はできないヘタレですよ。
でも頭は回るんでね。彼女の不機嫌の理由は分かるんですよ。
「ポイントの貸し借りはトラブルに繋がる危険も大きいし、あまり褒められたことじゃないよね。分かってる。今回は相手が相手だから万全を期すために無理しちゃったけど、今後はできるだけ控えるよ」
「いや、そうじゃなくて!」
あれ? 違うの?
「なんで私には頼ってくれなかったの?」
「あ、そういうこと」
「
「堀北さんが頼るって分かっていたからだよ。僕まで借りちゃあ帆波さんの負担が大き過ぎるでしょ?」
「んー……気を遣ってくれるのは嬉しいけど、仲間外れにされたみたいでなんか嫌だなー」
「そんなこと言われてもなあ……次に何かあったときは帆波さんを真っ先に頼るから、それで許してよ」
「うんっ! 約束だよ!」
どうやら帆波さんは博愛少女というだけでなく、誰かの力になりたガールでもあったようだ。
僕としては友達に
……まあ、僕の行動の主軸であるAクラス移籍計画こそ、帆波さんをこの上なく頼りにしてるんだけどね。
「あ、また話が逸れちゃったね。えっと……ボイスレコーダーをたくさん用意して、それで?」
「まず自分自身に5個仕込んだ。襟の裏に1個、リボンに1個、ウイッグに1個、胸ポケットに2個」
「同じ場所に2個? ……あっ、囮作戦か!」
「そういうこと。あと携帯もボイスメモアプリを起動した状態でポケットに入れてた。それから部屋に仕掛けたのが3個。テーブルの裏、給湯室のドアの裏、そして座っている椅子の裏」
改めて並べると我ながら凄い数だ。
「録音包囲網だね!」
「片っ端から食い破られたけどね」
「ええっ!? さすが先生だね!」
「まあそれも想定内だったけどね」
「ええっ!? さすが真釣くん!」
褒めてもらえるのは嬉しいけど、そんなに大したことじゃない。何十通りも想定して、その内の一つが当たっただけだ。
それに、僕としてはあまり嬉しくない方の想定だった。1個くらいは生き残るかと期待してたんだけどなあ。
「あれ? でもそれだと完全勝利どころか完全敗北だよね? 全部見抜かれたんでしょ?」
「そうだね。確かに全部見抜かれたよ。
先生がメンタリズムの類を使えると想定すると、僕が全てのボイスレコーダーを把握しておくのは危険だった。だから、外部に発注した。
「もしかして……千尋ちゃん?」
「うん、正解。隠し場所も個数も指定せずに、自由に仕込んでもらった」
厳密に言えば、僕が直前に仕込む予定の場所は伝えて、そこは避けるようにお願いした。
しかし個数に関しては、完全に自由にした――
自分が仕込んだ分が全て見つかった時の「こりゃ参った」という感情が少しでもリアルになるように、運任せならぬ千尋さん任せにした。
もし「少なくとも1個は」という指示をしていたら、先生が残りのボイスレコーダーを探ろうと1からカウントアップした際、僕は2ではなく3で反応していただろう。
この場合、千尋さんが仕込んだのが1個か2個以上かの賭けになる――
いくら出せと言われても、僕は場所を把握していないから出すことが出来ない。そうなると、先生による強制持ち物検査が始まってしまう。非力な僕では碌に抵抗も出来ない。千尋さんが他に仕込んでいたとしても一緒にバレてしまうだろう。
先生は1個見付けたらそれで満足するかもしれない? いいや、甘い考えだ。
隠し場所を把握していないことが演技ではないと気付かれると、僕の策全体が先生の中で組み上がってしまう。そうなると徹底的に探られてジ・エンドだ。
あの部屋に監視カメラはない。防音性も高い。
万が一誰かが入って来たら言い訳できないので、先生としても力任せの手段は不必要には選べない。それでも、必要とあれば躊躇なく来るだろう。
抵抗? 逃走?
相手が女性だろうが僕には無理だ。
それに、そんな勝ち方は望むところではない。星之宮先生にしっかりと敗北感を味わってもらうために、正々堂々真正面から出し抜いてやりたかった。
「帆波さんに時間を稼いでもらったのは、その間に千尋さんから制服を受け取って、着替えて、自分での仕込みをするため。ありがとね。助かったよ」
「それはいいけど……え、どこで着替えたの?」
「特別棟の廊下には監視カメラがないし人もほとんど来ないって聞いてたから、そこで」
「ええー……理に適ってはいるけどさあ……」
他に浮かばなかったんだから仕方ない。
トイレで着替えられれば楽だったけど、男子トイレから女子の格好で出てくるのも、女子トイレに男子の格好で入るのもおかしいだろう。
着替え中は千尋さんに見張りをお願いしていたし、もし誰かが来ても須藤君騒動の現場を見に来たとか言えばなんとかなる。最善手かは怪しいけど、そこまで悪い手だとも思わない。
「あれ? 千尋さんが仕掛けたボイスレコーダーは、どこにあるか真釣くんが把握しちゃダメなんだよね?」
「そうだね」
「着替えてたら嫌でも気付かない?」
「そうだね」
話を聞いただけでそこまで思い至るのか。大したもんだ。
僕は左の袖の内側からある物を取り出して、帆波さんに渡す。ついでにポケットからボイスレコーダーも取り出す。
「アーミーナイフ?」
「重さも硬さも大きさも、なんとなく似てるでしょ?」
「うーん、そうかなあ? あ、でも服の中に隠された状態だと全然分かんないかも。にゃるほどにゃるほど。これをカモフラージュにして、自分を騙したってわけだ」
「そういうこと」
安物とは言え個数が個数なので、これにもそれなりのポイントを使ってしまった。というか、千尋さんに使わせてしまった。
「作戦としては納得できるけど……真釣くんって結構お金遣い荒い人?」
「必要な物には出費を惜しまない人と言ってほしいな」
「否定にはなってないね」
「そりゃまあ、万単位で借金してる身だからね」
「堀北さんと
「そうなるとDクラスのDは
「あははっ! 面白いこと言うねー」
「僕は全然笑えないよ」
なんだよ借金クラスって。悲しすぎるでしょ。言ったの僕だけど。
悲嘆に暮れていると前方に寮が見えてきた。口ばっかり動かして足を動かしてる意識は無かったんだけど、これが帰巣本能ってやつか。違うね。
「んー、ちょっと回り道しようか」
帆波さんにはどうやらまだ聞き足りないことがあるらしい。僕は「了解」と頷いて、寮から逃げるように左に曲がる。帆波さんも隣に来る。
「えっと、まだ何か聞きたいことがあったんだけど……なんだっけ?」
「僕に聞かれても知らないよ……」
「あっ、思い出した! どうして女の子の格好してるの?」
そういえばその話はしてなかったね。
「男子の制服の予備は持ってないの?」
「持ってるけど、それじゃ意味がないんだよね」
「意味ってどんな意味? 先生の動揺を誘うとか?」
「不正解ではない。でも、一番の目的は別にある」
先生が見抜いた『演技を隠すなら演技の中』というのも一つの正解ではあるけれど、これもやっぱり一番ではない。そんなことが出来たらいいなーってレベルだ。
「うーん……分かんない!」
「答えは至ってシンプルに、変装だよ。あの場にいたのが
「……どゆこと?」
「クラス同士を競わせているこの学校で、あるクラスの担任が他のクラスの生徒と密室みたいなあの部屋で、二人っきりで話をするんだよ? どんな理由があるにせよ眉を顰められてしまうよね?」
「にゃるほど! だから真釣くんは自分ではない何者かに、
「実在しないというのは大きなポイントだよ。『○○と会っていただろ!』よりも『誰かと会っていただろ!』の方が攻撃力は低いでしょ? それに星之宮先生は保健室の主だからね。会っていたのが女子生徒であれば、『体の悩みで相談を受けた。彼女の尊厳の為に個人名も相談内容も明かせない』とか言えば逃げられるでしょ?」
「ほへー……」
横を見ると、帆波さんが口をぽっかりと開けたままこちらを見つめていた。そんな間の抜けた顔も可愛いけど、どういう感情でその表情になったのか分からない。
「どうかした?」
「ややっ、出し抜いてやるとか言ってたけど、先生が弱みを握られないように考えてるんだなあって。やっぱり優しいね、真釣くん」
「優しさではないよ。星之宮先生に何かあったら僕のAクラス移籍計画に支障が出るってだけだから」
「ツンデレってやつだね」
「違う」
なんで僕が一回り以上年上(多分)の先生にツンデレを発揮せにゃならんのだ。星之宮先生は亜麻色の綺麗なセミロングだけど、だからって別に恋愛対象にはならないからね!?
いや、恋愛対象ならツンデレになるってわけでもないけどね!?
「そもそも僕自身が先生の弱みを握ってるわけだし」
「そういえばそうだった」
今日のメインテーマでしょうよ。なに忘れてんのよ。
「……それ、どうするの?」
帆波さんは僕の右の腰ポケットを指差した。ここには
僕はそれを二つとも取り出して、「どうもしないよ」と言って彼女に渡す。
「えっ……?」
「どうせ使わないもん。先生が
「で、でも、折角頑張って手に入れたのに」
「先生に一杯食わせた時点で、後はもう正直どうでもいいんだよね」
極論を言ってしまうと、今日の星之宮先生との対決は別にやる必要はなかった。不戦協定なんかなくても先生はこれ以上僕に余計な手は出さないはずだし、僕もまた先生をどうにかするつもりはない。
弱みを握る握れないは二の次で、一番大事なのは僕が満足することだ。
僕は気分が良くなって、先生は嫌な気分になった。
それこそが目的で、目的はそれだけだった。
この達成感を得るためだけに友達に何万もの借金をした。誰が見たってド下手糞な買い物だと言うだろう。しかし、僕としてはそう悪い買い物でもなかった。
……数日後、数週間後、数か月後にも同じ気持ちでいるかは分からないけど。
「
「えっ、私が!?」
「その方が安心でしょ?」
いくら帆波さんが僕を信用していても、自分のクラスの担任が他クラスの生徒に弱みを握られているという状況はやっぱり嫌だろう。後始末は彼女に任せるのが一番だ。
「それはまあ、そうだけど……勿体ないとは思わないの?」
「思わないよ。勝ったところでこれといった利益のない無意味な勝負だってことは、最初から分かってたから。その音声データには最早なんの価値も無い。誰かに奪われたときの危険性を考えると、むしろマイナスだね」
「……分かった。じゃあこの場で消しちゃうね」
「どうぞどうぞ」
帆波さんにぽちぽちと操作されるボイスレコーダーを見ても、これっぽっちも惜しいとは思わなかった。
綾小路君なら絶対こんなことしないだろうなあ。この程度の
でも僕、綾小路君じゃないし。
脳みそを絞って、小細工を弄して、友達を頼って――そうしてやっとこさ手に入れた勝利の後には、達成感以外に何もない。
僕らしいっちゃ僕らしい、かな?
「ん、んん?」
データを消していたはずの帆波さんから、困惑するような声が漏れた。
「どうしたの?」
「いやー、録音データが見つからなくて」
「ホームボタン押したら普通に出てくるはずだけど?」
「押したんだけど……ほら」
むむむ、録音履歴が表示されていないだと?
千尋さんにはこの服を渡す直前に録音を開始するようお願いしていた。渡された時に本人に確認したけど、抜かりはないとのことだった。彼女が僕に嘘を吐いた? 有り得ないね。
では僕がうっかり消してしまったか? いや、そんなうっかりが起きるほど触っていない。
では星之宮先生が? さすがにそれはないだろう。先生は指一本触れてないんだから。
では帆波さんが? 自分で消しておきながら、最初から無かったかのように演技した? いやいや、そんなことをしてもなんの意味も無いだろ。
となると、ボイスレコーダー自体の問題か。
「二つとも録れてないの?」
「そうみたい」
……理由なんてどうでもいいか。どうせ消すつもりのデータだったし。
でも……これは流石に想定外だったなあ。
「ふふっ」
「真釣くん?」
「ふはっ、あはははは!」
「真釣くん!?」
これはもう笑うしかないでしょ。
全てが僕の計画通りに進んだと思っていたら、完全勝利だと確信していたら、まさか一番重要なピースが欠けていたなんて。
脳みそを絞って、小細工を弄して、友達を頼って――それでもどうにも上手くいかない。望んでいた勝利は掴んだものの、そこまでの道のりは予定から大きく逸れていた。
僕らしいと言うなら、これこそ実に僕らしい。
「あひゃひゃひゃ!」
「真釣くんが壊れちゃった!」
相手が先に仕掛けてきて、借金を抱えつつ迎え撃って、最後に得たものは何もない。
そういう意味では須藤君騒動と似たような終わり方だ。
「面白いよね」
「何が!?」
残念ながら達成感は幾らか削がれてしまったものの、満足感に変わりはない。うん。それでいいじゃん。
スムーズにもスマートにもいかなかったけど、経過はなんであれ勝ちは勝ちだ。僕の勝ちだ。
作戦は気付かぬうちに破綻していた。
それでも勝てたのは……運が良かったから?
――否。
僕は運に任せたんじゃない。千尋さんに任せたんだ。
神頼みなんかしていない。千尋さんに頼んだんだ。
作戦の要を我が愛すべき友人に丸投げしたことこそ、僕の一番の勝因だ。
ふふふ。
これはお礼をしないといけないね。
借金を完済してポイントに余裕が出来たら、その時は千尋さんに何か美味しい物を――そうだな、フレンチクルーラーでも奢ってあげよう。
1個や2個じゃ少ないかな?
まあ、10個もあれば足りるよね。
α
高度育成高等学校学生データベース
氏名 緒祈真釣(おいのり まつり)
クラス 1年D組
学籍番号 S01T004691
部活動 無所属
誕生日 8月1日
評価
学力 A
知性 A-
判断力 B+
身体能力 E
協調性 B-
面接官からのコメント
筆記試験の成績及び面接試験での受け答えは非常に優れており、全体的にAクラス相当の高い能力を有している。全国平均に遠く及ばない身体能力を加味しても、Bクラスへの配属が妥当と思われる。しかし調査報告書を鑑みるに本校の他の生徒に多大な悪影響を与える可能性が憂慮されるため、不合格とする。
別途資料記載の事情により、Dクラスへの配属とする。
担任メモ
Bクラスに友人が多いようです。他クラスとの交流は悪い事ではありませんが、Dクラス内でも積極的に交友を深めてほしいと思います。
ここまで読んでいただきありがとうございました。これにて第2巻部分完結です。
活動報告にあとがきを載せています。
もしよろしければそちらも是非。