どうにか実力至上主義の教室へ   作:祭灯キャロット

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054-056 龍園翔の影

 054

 

 

 

 どうして僕は須藤君の家庭教師みたいなことをしているんだろう?

 

 どうしてって、そりゃあ堀北さんとの取引で僕が勉強会に手を貸すって言ったからなんだけど、今思うとあれ必要だったかな? 僕が何もしなくても、綾小路君と堀北さんは自分たちで勝手に協力関係に戻った気がする。

 

 でも結果的には堀北さんのあの黒髪に触るチャンスが舞い降りたわけだから、全くの無意味ではないよね。うんうん。僕はそのためにこんな面倒なことをしているんだ。

 

 ……いや違う。須藤君を退学させないために、だ。

 彼に全科目で赤点を取らせないことが使命で、全科目で50点以上取らせることは希望だ。

 

 というわけで僕は日曜日の朝っぱらから『バスケで覚える期末テスト対策帳』を鋭意制作中である。やり口は一時期話題になった『う○こ漢字ドリル』と同じだ。使用者の興味を惹く要素を絡めることで、意欲と集中力を高めさせる。

 

 今日中に渡したいんだけど、間に合うかな? まだ午前中だし何とかなるかなあ……とか考えていると、部屋のインターホンが鳴った。昨日相談があるとかないとか言っていたあの子だろうか?

 

「はいよー」

 

 ドアを開けるとそこにいたのは予想通りの千尋さんと、予想外の帆波さんだった。二人とも浮かない表情をしていらっしゃる。

 

「おはよう二人とも。どしたの?」

「おはよう真釣くん」

「昨日言った通り相談があってね。入っていい?」

「どうぞどうぞ」

 

 二人を中に招き入れ、何も敷いていない床に座らせるのも申し訳ないのでベッドに腰掛けてもらう。来客用にクッションとか買った方がいいのかな……。

 

「それで、相談って?」

 

 冷えた麦茶を用意しながら問う。

 

「それが……私、嫌がらせを受けてるみたいなの」

「……へえ」

「誰かが夜中に千尋ちゃんの部屋に来て、インターホンを鳴らしてるんだって」

「二日連続でね。出てみたら誰もいないし、要はピンポンダッシュだよ」

 

 小学生かよ。

 

「夜中ってのは、具体的には何時くらい?」

「3時過ぎとかだったかな」

 

 となると目的は睡眠を妨げることで間違いないかな。

 犯人自身もその時間まで起きてなきゃいけないけど、生活リズムを変えればそこまで苦にはならないはず。その調整は部活をやっている生徒には厳しいだろうから、おそらく帰宅部だろう。

 ……いや、現時点でそこまで決めつけるのは早計か。

 

「犯人に心当たりは?」

「多分、Cクラスだと思う」

 

 帆波さんの回答に溜息が出る。またCクラスかよ。須藤君騒動が終わった途端にこれかよ。元気いいね。何かいいことでもあったのかい?

 

 BクラスとCクラスの間で度々衝突があったのは聞いていたけど、こうして関わるのは今回が初めてだ。

 大事な友人の頼みなので、『巻き込まれた』とは思わない。須藤君のことなんか放っておいて、こちらに尽力するとしよう。

 

「千尋さんが狙われる心当たりは?」

「強いて挙げるなら……コンクールが近いことかな」

「コンクールって、絵の?」

「うん」

 

 千尋さんは美術部員だ。

 昨日、土曜日なのに学校に行っていたのは、そのコンクール用の絵を描くためかな。基本的には平日だけの活動だって聞いてたし。

 

「締め切りは今月末なんだけど、期末テストもあるからさ。あんまり余裕ないんだよね」

「なるほどね……」

 

 そんな忙しい身の千尋さんに、僕は『制服にボイスレコーダーとダミーのアーミーナイフを仕込んでほしい』とかいう七面倒くさいお願いをしていたのか。申し訳ない。

 

「千尋ちゃんは中学生の時に全国で賞を取ってるすごい子なんだって!」

「へえ、そうだったんだ」

「褒めてくれていいんだよ?」

 

 えっへんと胸を張る千尋さん。

 ではお望み通りわしゃわしゃタイムだ。

 

「すごいすごい」

「きゃー!」

「二人とも仲良いね……」

「帆波さんもしてあげようか?」

「い、いや、大丈夫!」

 

 断られてしまった。ちょっと悲しい。

 

「遠慮しなくていいのに」

「千尋さん、それは僕の台詞だよ」

 

 僕以上に僕と帆波さんのスキンシップを求めているちょっと変わった友人の頭から手を離す。

 

 えーっと、何の話だっけ?

 絵のコンクールがもうすぐあって、そこでの好成績が期待されている千尋さんが夜中にピンポンダッシュされて睡眠を妨げられているんだっけ?

 

「部活で活躍した生徒にはポイントが支給されるって話だし、それを邪魔したいのかな。あとは期末テストで赤点を取ってくれれば尚良し、と」

「多分、そんな感じだね」

「いい迷惑だよ……ふぁ~あ」

 

 眠たそうにあくびをする千尋さんを見るに、今のところCクラスの企みは順調に行っているようだ。

 しかしピンポンダッシュで睡眠を妨害するなんてのは、手段としては随分とお粗末じゃないか? 対処はいくらでもできるし、何か他に目的があるのかな?

 

 これがもし龍園(りゅうえん)君が企てた嫌がらせで、しかも嫌がらせ以上の意味がないのであれば――彼の評価を数段下げることになる。須藤君の一件と合わせて考えてみると、『思い付いたことをやってみる悪戯大好き少年』という印象だ。

 

「真釣くんには犯人探しを手伝ってもらいたいんだけど、いいよね?」

「僕が頷くと確信している聞き方だね。それはもちろんいいんだけど、手伝うってことはある程度方針は固まっているのかな?」

「ううん。なーんにも浮かんでないよ。帆波ちゃんは?」

「まずは管理人さんに監視カメラの映像を見せてもらうのがいいんじゃないかな?」

 

 そりゃそうだ。犯人を知りたいならそれで一発だろう。

 それをする前に僕の所に来たのは、千尋さんが言っていた僕と帆波さんをくっ付ける『恋のキューピット計画』とやらがあったからかな。改めて考えるとセンスの欠片も無いネーミングだ。モノローグでも言ってて恥ずかしくなるわ。

 

 まあそれはいいとして、今後の話だ。

 

「千尋さんは――帆波さんでもいいけど、犯人を見付けて、その後はどうするつもり?」

「え? どうするって、学校に報告じゃないの? それであっさり解決するかもしれないし」

 

 『かもしれない』ということは、それだけでは終わらない可能性もちゃんと考えてるみたいだね。

 

「帆波さんは?」

「私も同じ考えだけど、龍園君が裏で糸を引いているならそう簡単にはいかないと思うの」

「うんうん、そうだろうね。それで?」

「それで……えっと、実行犯の子に『もうしないで』って直接説得しに行くしかないんじゃないかな?」

 

 うーん、それはまあ正攻法の一つだし、彼女らしいやり方ではあるんだけど――

 

「もしその子に『5万ポイントくれたらやめてあげる』って言われたらどうする?」

「そ、それは……」

 

 帆波さんは困ったように俯いてしまった。

 

 よかった。これで「もちろん払うよ」とか即答されたら僕が困っていた。一度その手で解決してしまうと、龍園君はまた同じようなことをしてくるだろう。

 そうなったらまたポイントを払うのか?

 それでは永遠に搾取し続けられる。

 

 では二回目以降は拒否すればいいのか?

 他に解決の手段があるならそれでもいいけど、そうでなかった場合大きな問題が発生する。『千尋さんの為にはポイントを払ったのに、○○の為には出せないのか』という不満が発生するのだ。不和が生まれるのだ。信用と友情で纏まっているBクラスには痛い一撃だ。

 

 だからポイントで解決する手だけは打ってはならない。

 それくらいは帆波さんも分かっているようだ。

 

 千尋さんはどうだろうな。

 どこまで考えているんだか。

 

「ねえ真釣くん、とりあえず下に行って監視カメラの映像を見せてもらおうよ」

「……うん、まあ、そうだね」

「あれ? あんまり乗り気じゃない?」

 

 相手が須藤君騒動の黒幕である龍園君なら、監視カメラの前で見られて困ることはしていない、というか()()()()()()だろう。

 夜中に人の部屋のインターホンを鳴らしても言い逃れ出来る方法――

 

「千尋さんの隣の部屋って、Cクラスの人?」

「よく知ってるね。その人が犯人ってこと?」

「いや、そうじゃない」

 

 協力者ではあるけれど、実行犯ではないだろう。

 

「監視カメラの映像を見れば分かると思うよ。行こうか」

 

 帆波さんはポイントを要求された場合のシミュレーションをしているのか、まだ暗い顔で俯いている。その肩をぽんと叩き、意識をこっちに戻してもらう。

 

「行くよ」

「う、うん!」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()――そんな想像に顔を歪めながら、僕は二人の友人の後に続いて部屋を出る。

 

 湿湿(じめじめ)とした夏の空気が、ただただ不快だった。

 

 

 

 055

 

 

 

 監視カメラの映像は、意外にもあっさりと見せてもらえた。

 ばっちりと映っていた犯人の顔を、多分使わないけど一応ばっちりと脳に焼き付け、三人で僕の部屋に戻った。

 

「真釣くんが言ってたのは、あれのことだったんだね」

「うん」

 

 千尋さんの言葉に頷く。

 

 ほぼ間違いなくCクラスの生徒であろう女子生徒は夜中の3時過ぎに千尋さんの部屋の前に現れ、インターホンを3回4回押していた。それからドアを見て何かに気付いたように後退(あとずさ)り、次に隣の部屋のインターホンを押した。するとすぐに部屋の住人が出てきて、その女子生徒を招き入れた。

 一昨日の夜の映像も見せてもらうと、映っていたのは違う女子だったけど、やっていることは同じだった。

 

 要するに彼女たちは、「部屋を間違えました」という言い訳ができる状況を作ったのだ。

 

 そんな言い分、百人が聞けば百人が信じないだろう。しかし故意であるという確固たる証拠はないので有罪だと断定するのは難しい。夜中に寮の外に出ることは禁じられているけれど、寮内をうろつく分にはそれを縛るルールはないわけだし。

 千尋さんに迷惑がかかっているとはいえ、学校に報告したところで厳重注意がいいとこだろう。ポイントが動くことはないはずだ。

 

 ……龍園君はそれを調べたいのか?

 こういうトラブルに対して学校がどう動くのかを知りたいのか?

 

 須藤君騒動もそうだったりして。

 目撃者のいない(実際には佐倉さんがいたけど)暴力事件に対し、被害者と加害者の言い分が食い違う中、学校がどんな審判を下すのか。それを調べるためにあんな茶番劇をしたのかもしれない。

 

 となると今回の一件は、どうせ罰を与えることが出来ないなら学校に報告しないことこそ一番の抵抗――

 

「――だと思うんだけど、どうかな?」

「うーん……」

 

 僕の提案に、帆波さんはあまり気が乗らないようだった。悪いことをした人間は裁かれるべきだとか、多分そんなことを考えているのかな。

 千尋さんも口をへの字にして不満気だ。

 

「私は……やられっぱなしは嫌だなあ」

「へえ、千尋さんって意外と好戦的なんだね」

「そうじゃないよ。狸寝入りは悔しいってだけ」

「……泣き寝入り?」

「あ、それだ」

 

 狸寝入りは好きにすればいいけど、泣き寝入りをさせるつもりはない。千尋さんが泣くくらいなら僕は加害者連中を泣かせる。

 

「とりあえず、しばらくは帆波さんの部屋で寝かせてもらえば?」

 

 弥縫策(びほうさく)を一つ提案する。

 消極的な手だけど、問題の解決というか回避はできるだろう。

 

「えっと……帆波ちゃん、迷惑じゃないかな?」

「全然! 困った時はお互い様だし、気にしないで!」

 

 帆波さんの部屋は16階だったから、隣がCクラスということはないはずだ。

 しかし部屋を間違えたという言い訳は隣でなくとも、階数を間違えたバージョンでも一応成立する。龍園君はそこまでしてくるかな?

 

 勝手に黒幕を龍園君だと決めつけてるけど……それが一番厄介な可能性だし、大丈夫だよね?

 

「犯人というか実行犯たちのことは、僕が何とかしておくよ」

「流石真釣くん、頼りになるぅ!」

「千尋ちゃんは真釣くんのこと、本当にすっごく信頼してるよねー。管理人さんの所に行く前にここに来たくらいだし」

「それは借りを返す機会を僕に与える為でもあっただろうね」

「流石真釣くん、分かってるぅ!」

 

 別に貸し借りが無くともこれくらい協力するけど。むしろ相談してくれなかったら逆に寂しくて落ち込むレベル。……そんなこたないか。いや、あるかな?

 

「でも何とかするって、具体的には何をするの?」

「案はいくつか浮かんでるんだけど……ねえ千尋さん」

「うん?」

「千尋さんが帆波さんの部屋に泊まっている間、僕が千尋さんの部屋に泊まってもいい?」

「えっ!?」

 

 帆波さんが驚嘆とともに目を大きく開いて僕を見る。

 あれ? 何か変なこと言ったかな?

 

「いいよー」

「ええっ!?」

 

 快い返事をくれた千尋さんにも、帆波さんは開いた口が塞がらないといたご様子だ。

 何をそんなに驚いているんだろう? ただ友達の部屋に泊めさせてもらうだけなのに。

 

「すごい信頼関係だね……。二人は本当に付き合ってないの?」

「あははっ。ないない。有り得ないよ」

「うんうん。私もそのつもりはないから、帆波ちゃんが付き合ったらいいと思う」

「「……」」

 

 当事者二人の前ではっきりと言わないでよ……。どんな顔で帆波さんを見たらいいのか分からないじゃん。

 僕は逃げるように窓の向こうに視線を飛ばす。

 

「私はさ、帆波ちゃんがどこぞの馬の骨と付き合うのは嫌だし、真釣くんがどこぞのメス猫に(たぶら)かされるのも嫌なんだよねー」

「馬の骨て……」

「メス猫て……」

「だから二人が付き合ってくれれば万々歳なんだけど」

「もうっ! 千尋ちゃん! そんな話をしている場合じゃないでしょ!」

「まったくだ。さっきまでの相談はどこに行ったんだか」

「とか言って、二人とも満更でもないくせに」

 

 それは肯定しちゃうとほとんど告白みたいなものだし、かと言って否定するのも相手に失礼だよね。厄介なこと言ってくれやがって。この恋愛脳め。

 

「あ、こんなのはどう? 真釣くんが私の部屋に泊まって、私が帆波ちゃんの部屋に泊まって、帆波ちゃんは真釣くんの部屋に泊まるの!」

「にゃにゃっ!?」

「意味が分からないよ……」

 

 女の子が男子のフロアで寝るのはキツいだろ。

 僕が女子のフロアで寝るのも、精神的にノーダメージという訳ではないけど。

 

「真釣くんのことは好きだけど、部屋に泊まるのは流石に抵抗が――」

「好きっていうのは恋愛的な意味で!?」

「友達的な意味で!」

 

 千尋さんが暴走している。

 えっと、何の話をしてたっけ……?

 

「千尋さん、落ち着いて」

「私は落ち着いてるよ!」

「感嘆符付けて言われてもなあ……」

 

 仕方ない。

 本日二度目のわしゃわしゃで落ち着いてもらおう。

 

「きゃー!」

 

 その後なんとか話を元に戻して、僕が千尋さんの部屋に入り、犯人たちをなんとかするという事で結論が出た。結論も何も千尋さんが話を脱線させただけで、僕は最初からそう言ってたんだけどね。

 

「頼んだよ真釣くん」

「協力できることがあったら遠慮なく言ってね」

 

 そう言って二人は自分の部屋に帰って行った。

 僕は……さて、どうしよう?

 

 とりあえず……そうだな。空になったグラスを洗うとしようか。

 

 

 

 056

 

 

 

 高度育成高等学校には4つの寮がある。

 1年生寮、2年生寮、3年生寮、そして敷地内で働く人の寮だ。

 

 僕が住む1年生寮を詳しく見ていこう。

 18階建てのマンションのような建物で、生徒が住んでいるのは2階から17階の計16フロアだ。2階から9階までが男子のフロア、10階から17階が女子のフロアとなっている。

 

 さらにそれぞれ上から順にA、B、C、Dクラスの生徒が割り当てられているのだけれど、そちらは綺麗に2フロアずつで区切られているわけではない。

 例を挙げると僕が住む3階はほとんどがDクラスの生徒だけれど、中にはCクラスの生徒もいる。逆に4階になるとほとんどがCクラスの生徒で、その中に綾小路君や須藤君といったDクラス生徒も少し混ざっている状態だ。

 

 さて。

 千尋さんに嫌がらせをしてくるCクラスの生徒がどこの部屋か知りたいので、まずは候補を絞る為にCクラス女子に割り振られている20部屋を特定する。

 方法は簡単だ。BクラスとDクラスの部屋が分かれば良い。帆波さんと櫛田(くしだ)さんに協力してもらい、これは簡単に済んだ。

 

 次に毎度おなじみの小道具を仕入れに買い物に出る。と言っても今回はボイスレコーダーや防犯ブザーのような物は必要ない。500ポイントも使わないだろう。

 ちょっと気になることがあるので綾小路君を誘おうかと思ったんだけど、やめた。多分早すぎるし、別に明日でもいいし。

 

 というわけで一人で買い物に行って、一人で帰って来た。

 

 千尋さんの相談に関しては一先ずやることがなくなったので、須藤君用の教材をやっつけで仕上げる。完成したのは午後5時半過ぎだった。

 一部予定よりも質が落ちた箇所はあるけれど、もう疲れたし須藤君が部活から帰ってくるまで時間もないし、これでいいや。

 

 1階に下りてそのテキストを403号の郵便受けに入れる。その時千尋さんに下りて来てもらい、彼女の部屋のカードキーを受け取る。スペアのキーは管理人さんに言えば一個目までは無料で貰えるのだ。

 

「失くさないでね」

「もちろん」

 

 それから部屋に戻って仮眠をとった。

 

 目が覚めて携帯を確認すると、まもなく日付が変わる頃だった。予定よりがっつり寝てしまった。仮眠と言うより本眠だな。

 

 あとメッセージが二件届いていた。一つは須藤君からの「テキストを受け取った」という報告だった。今頃それを使って勉強中だろうか。

 もう一つは千尋さんからの「部屋を空けた」という報告だった。今頃は帆波さんの部屋でパジャマパーティーだろうか。

 

 まだ廊下を歩いている生徒がいるかもしれない時間なので、ひっそりと行動したい僕は自室に籠り作戦を見直す。上手くいくかどうか、そして上手くいかなかった場合に僕や千尋さんにどれくらいの損害があるか。

 嫌がらせのターゲットにされてる時点で既に損も害もあるけどね。

 

 午前1時前。

 女子のフロアに男のままで行くのも、こんな夜中に制服姿なのもおかしいだろう。ということで男物ばかりのクローゼットの中から、比較的フェミニンな服を選ぶ。万が一誰かに見られた時に備えて、部屋を出る時は男として出る。

 エレベーターを使うと万が一ロビーに誰かがいた場合見られてしまうので、非常階段で11階に上がる。その途中で小道具と一緒に持ってきたウイッグをかぶり、女の子になる。

 

 非常階段から廊下に出る前に、携帯にメモしておいたCクラス女子の部屋を確認する。小細工を仕掛けるべき部屋を再確認する。

 今宵の実行犯が何子ちゃんかは分からなくとも、どこの部屋の住人かは特定できる。名前なんかどうでもいい。部屋番号さえ分かれば手を出すには十分だ。

 

 11階から14階まで計20部屋に仕掛け終えた頃、時刻は深夜の1時を少し過ぎていた。

 

 最後に千尋さんの部屋にも細工をする。

 迷惑なピンポンダッシュを封じるのは簡単だ。相手は「部屋を間違えた」という言い訳を用意してやっているのだから、その言い訳を使えなくしてやればいい。

 僕はインターホンのボタンの上に目立つように黄色いテープを貼り、そこに「白波千尋の部屋」――でもよかったんだけど、本人が知ったら嫌がるだろうから「Bクラス」と書いた。そしてそれを一応念の為、携帯のカメラで記録しておく。

 

 実を言うと、千尋さんの安眠を取り戻すだけなら部屋の移動なんかしなくてもこれだけで十分だ。僕の夜更かしも女装も必要ない。

 それなのに僕が今回こうして出しゃばったのは、攻撃の姿勢を見せるためだ。不用意に手を出してくるなら、その手に噛み付いてやるぞという意思表示。

 

 その程度で龍園君が大人しくなることはないだろうけど、それでも何か仕掛けようとする時に多少なりとも二の足を踏ませることはできるだろう。くだらない嫌がらせが少しでも減れば万々歳だ。

 

 あとはまあ、僕の気分の問題だ。

 千尋さんに手ぇ出してんじゃねえぞっ♪みたいな。

 

「僕にそこまで友人を想う気持ちがあったとはね」

 

 明日の夜にはこの件は解決していると思うけど、さあて、どんな形で終るやら。今後の展開を何パターンも想像しながら時間を潰した。千尋さんの部屋で眠ることなく待機していたけど、終始静かな夜だった。

 

 午前4時前。

 諸々の仕掛けを確認・回収して自分の部屋に戻る。インターホンは鳴らされなかったけど、部屋の前までは来てたっぽいな。

 

 午前7時半過ぎ。

 学校に行く前に、その来たと思われるCクラスの生徒の部屋の郵便受けに手紙を入れておいた。

 そこには僕のフリーメールのアドレスとともに、こんな文章を記した。

 

 ――――

 

 昨晩はお疲れ様でした。

 お陰様であなたを停学させる材料が揃いました。本日7月15日の24時00分までに下記のアドレス宛に3万ポイント振り込んでいただければ、今回の件は()()()()()()()()()()無かったことにしてあげます。

 振り込みを拒否される場合は「私はヘマをしました」と龍園くんに正直に言って停学になるか、黙って停学になるか、好きな方を選んでください。

 

 

 

 

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