057
7月15日、月曜日。
昼休みの騒々しい教室の中、綾小路君は誰にも誘われることなく独り取り残されていた。僕に声をかけられるのを待っているのかな? 無視するのも面白そうだなあとか考えていると目が合った。
……分かったよ。誘ってやるよ。
彼には放課後に付き合ってもらう予定だったけど、折角だしこの時間に済ませてしまおう。僕の考えすぎかもしれないけど、確認しておきたいことが一つある。
「善光寺君、学食に行こうか」
「それは構わないんだが、信心のない老婆が角に布を引っ掛けた牛を追いかけてもオレの所には来ないぞ」
「ごめんね、人の名前を覚えるの苦手でさ」
「久し振りにスタンダードな間違い方だったな」
「反省したんだよ。最近は奇を衒い過ぎていたなあって」
「そもそも間違える必要が無いんだが……」
そんないつものやり取りをしつつ移動する。
今日は何にしようかなー。
学食では7月から夏季限定メニューというものが登場していた。興味はあったんだけど、いつもすぐに売り切れになるので僕はまだ食べられていない。
今日も無理かなあと思いつつ券売機の前に立つと、一つだけまだ残っているものがあった。ちょっと高いけど買っちゃえー!
……こんな調子だから帆波さんに「お金遣い荒いね」って言われるのか。明日から気を付けまーす。
カウンターで食券と品物を交換して、既に着席していた綾小路君の対面に座る。僕のトレイの上を見て、冷やし中華を混ぜていた彼の手が止まる。ちなみに夏季限定の筆頭みたいな料理のくせに、この学食の冷やし中華は通年メニューだ。
「なんだそれ」
「冷やしビビンバ」
「……なんだそれ」
黄色っぽい謎のお米とその上に並べられた三色のナムル、そして細く切った牛肉をスプーンでぐちゃぐちゃに混ぜる。確かビビンバは『混ぜご飯』って意味だったっけね。
コチュジャンの濃い赤色が全体に広がってきたので、いざ実食。
もぐもぐ。
「どうだ?」
「んー……美味しいは美味しいけど、ビビンバだと思って食べたらなんか違う」
普通のシュークリームだと思って食べたら中に餡子が入ってた、みたいな? 多分そんな感じ。違うかもしれない。どうだろう。分かんない。僕に食レポの才能はない。
「そっちはどう?」
「どうもこうも、緒祈が想像している通りの冷やし中華だ。見た目と味になんのギャップも無いぞ」
「だろうね」
そんな感じで毒にも薬にもならない話を続けて、やがてお互い器の底がちらちらと見えてきた。
忘れないうちに聞いておくかな。僕は視線が不自然に揺れないよう注意しながら、確かめたかったことを一つ綾小路君に尋ねる。
「ねえ綾小路君」
「どうした緒祈」
「今の僕って、誰かに監視されてたりしない?」
相変わらず何を考えているんだかよく分からない彼の双眸が、僕に真っ直ぐ向けられた。
「……気付いていたか」
「あ、本当に監視されてるのね」
「気付いてなかったのか……」
本当に気付いていなかった。でも、想定はしていた。
もし千尋さんと帆波さんの動向が監視されていたのなら、二人が僕の部屋に相談に来た時点で僕もまた監視対象になるだろうという想定だ。
今回の真夜中ピンポンダッシュの目的は色んな可能性が想像できて逆にどれが正解なのか分からない。しかし本来の目的はなんであれ、帆波さんと僕の間に繋がりがあると分かったことは龍園君にとって一つの収穫になっただろう。
ただの繋がりではない。今回のようなトラブルが起きた時に、わざわざ相手の部屋まで直接相談しに行く程度には深い繋がりだ。手駒に余裕があるのなら、僕のことを監視させていてもおかしくない。
僕自身にそれを確かめる察知能力があるかは微妙なので何でも出来そうな綾小路君を使ってみたけれど、結果は黒。昨日の夜というか今日の未明も見られてたのかな。
だとしたら……いや、これと言って困ることもないか。
「また何か厄介事か?」
「まあね」
「オレを巻き込むなよ」
「もちろん。こんなところで君への貸しを使いたくはないからね」
それに『この程度のことでオレを頼るのか』とか思われるのも嫌だしね。
とか言って勿体ぶって使わなかった所為で破滅したら笑い者だけど、今回は上手くいかなかったところで
龍園君に標的としてロックオンされてしまうかもしれないけど、その時こそ綾小路君を頼ればいいだろう。
「綾小路君は龍園君についてどれくらい知ってる?」
「何も知らないぞ。一回顔を見たことがあるだけだ」
「そっかー。僕は会ったことも無いんだけど、君から見てどんな人だった?」
今回の件で彼と接触するかは五分五分だけど、どうせいつかは対峙する相手だ。少しでも情報を得ておこう。
「体を鍛えている感じはあったな」
「ふむふむ。それから?」
「須藤の件を考えると狡猾な人間だろうが、その点に関しては緒祈の方が上だろう」
「過大評価するなら、せめて褒めてほしかった」
「あとはオレの個人的な印象だが……加虐趣味がありそうだった」
「サディストかー」
「まあ、それくらいだ」
「うん。ありがとう」
僕の想像から外れるような話はなかったけど、それも一つの収穫だ。
「龍園とやり合うのか?」
「さあ?」
あの手紙を読んだ誰かさんが、彼の支配をどの程度受けているかによるだろう。ポイントが貰えるならそれが一番嬉しいパターンなんだけど、普通に龍園君に相談している可能性もある。はてさてどうなることやら。
色々と考え過ぎて逆に無計画になっている僕に、綾小路君が忠告をくれる。
「お前は殴り合いとか全然出来ないんだから、無茶するなよ? 龍園はこの前のストーカー男とは格が違うぞ」
「ご心配どうも。でも、それならそれで、それなりの戦い方をするだけだよ」
「そうか」
「万が一僕が死んだら、その時は鳥葬してくれ。来世では鳥になりたいんだ」
「……そうか」
ツッコミどころが多すぎたようで、悩んだ末にスルーされてしまった。
まあボケと言えばボケだけど、本音と言えば本音だからね。鳥葬されてみたいのも、鳥になりたいのも――万が一には死ぬことも。
058
学校から帰って来た時点で既に16時間近く、それも普段とは大きくズレた時間帯に起きて活動していたため、眠気がヤバかった。というわけで最後の気力で着替えだけしてすぐに寝た。
目が覚めたのは8時間後だった。
携帯を確認する。手紙に記した例のタイムリミットは既に過ぎていたけれど、僕のポイント残高は増えていなかった。
ふーん。となると停学云々の
シャワーを浴びて眠気を覚まし、下準備をして昨日と同じように午前1時過ぎに自分の部屋を出る。そして非常階段で11階まで上る。
あー、きっつ。
昨日と同じようにCクラス女子の20部屋に仕掛けを施すけど、多分使わないだろうな。一応の念の為だ。
最後に千尋さんの部屋のインターホンにも仕掛けをして、準備完了。
……このタイミングでなんらかの接触があるかと思っていたんだけど、何事もなく終わっちゃった。ちょっと拍子抜けだ。
考えるべきことは既に考え尽くしたので、携帯のチェスアプリで時間を潰す。最高ランクのCPUと10戦したけど、やっぱり強いね。3回も負けちゃった。
何事もなく時計の針は進み、午前4時過ぎ。
ウイッグをかぶり、仕掛けの確認と回収に向かう。
14階を終えて13階、そして12階に来たところで、ようやく期待していた展開になった。あの手紙に対して何の反応もないのが一番面倒だったんだけど、幸いにも無視はされなかったようだ。
1210号室のドアに、一人の男が
背は僕より握りこぶしひとつ分くらい高く、顔つきは心なしか毒蛇のように獰猛に見える。髪は男にしては長いけど、僕の好みではない。長けりゃいいってわけじゃない。
僕の存在を確認した彼――龍園翔は、背を預けていたドアの左上、蝶番の上に目を向けた。そして憎らしい笑みで話しかけてきた。
「ドアが開いたら折れるようにシャー芯をテープで固定して、夜中に出歩いたのがどこの部屋の住人か調べたのか。面白いことするじゃねえか」
「お褒めに与り光栄です」
僕は女の子の格好をしているので、口調もそんな感じにして返答する。
「これの差出人はお前だな?」
「ええ」
龍園君の右手には、僕が昨日1210号室の住人に出した手紙が握られていた。僕にも龍園君にもビビることなく、普通に報告したのか。誰だか知らないけどやるねえ。
まあ、彼に宛てた手紙と言っても過言ではないし、そういう意味では無事届いたようでなによりだ。
「舐めた真似しやがって。『停学にさせる材料』だあ? バレバレのブラフだなあ、おい」
「うふふ。そうですねえ」
「こんなのでポイントを奪えると本気で思ったのか?」
「まさか。ほんの悪ふざけですよ」
と言いつつ、ちょっとは期待していた。あの手紙を受け取った仮称C子ちゃんが、罪悪感と保身からポイントを振り込んでくれないかなあって。
そうなったら僕はそのことを龍園君に報告するつもりだった。手紙なりメールなりで「お前は計画も手駒も大したことねえな」と
そんなことをすれば彼には目の敵にされるだろうけど、その分Bクラスを率いる帆波さんの負担が減るなら別に構わない。むしろ推奨だ。
結果としてはご覧の有様でポイントも得られなかったけど、まあ想定していた中では上から数えた方が早い展開になっている。今のところは。
「で、誰だお前」
「Aクラスの
あまり意味は無いけれど、一応嘘を吐いておく。女の子の格好だし。
「なんでAクラスが出しゃばってきた? これはCクラスとBクラスの問題だ」
「問題というほどの事態ではないと思いますが……白波さんから相談を受けたのですよ。
「あの女のことは監視していたが、お前みたいなのとは接触していなかったはずだぜ」
「科学技術が進歩した今の時代、直接会わなくてもお話くらい出来るのですよ。携帯電話ってご存知ですか?」
「ムカつく喋り方だな。ぶん殴るぞ――緒祈真釣」
ははっ。ばれてらあ。
それとも僕がやったようにブラフかな?
とりあえず
「緒祈真釣? 女の子だか男の子だかよく分からない名前ですね。でもごめんなさい。私、白波さんとは仲が良いけど、他のBクラスの人のことは一之瀬さんくらいしか知らないんです」
「緒祈真釣はBクラスじゃねえ、Dクラスだ」
「あらそうなんですか? であれば尚更知りませんね。私、
「……まあいい。お前の正体は調べればすぐに分かる」
ふむ。今の段階では僕が緒祈真釣だという確証はないようだ。なんと言うか……
僕からも質問を返すとしよう。
「あなたが今回した悪戯は、寮内での生徒間トラブルに学校がどう対応するかを知るためのものですか?」
「そのつもりだったんだが、それ以上の思わぬ収穫があったからな。今回はこれで引いてやるよ」
「収穫、ですか?」
「お前の存在を知れたことだ」
「あらあら? ひょっとして一目惚れしちゃいました?」
「お前が本当にAクラスなら後でじっくり料理してやる。それまで大人しく待ってろ」
「あなたが私の友人に手を出さないのであれば、私もまた余計な手は出さないでしょうね」
「はっ、考えといてやるよ」
そう吐き捨てて、彼はエレベーターの方へ歩き出した。
引くと言ってくれたしこれで万事解決――いやいや、このまま帰られては困る。千尋さんに手を出された以上、一撃くらいお返ししないと気が済まない。
僕はその大きな背に声をかけた。
「最後に一つよろしいですか?」
「なんだよ」
彼は立ち止まったけれど、こちらを振り向きはしなかった。
その後頭部を見て、精一杯の嘲りを込めて、僕は口を開く。
「お前の頭、チャバネゴキブリみてーだな(笑)」
ヒュン――風を切る音が聞こえた。
僕の言葉が気に障ったらしい。
龍園君はこちらを振り返って一瞬で距離を詰め、その勢いのまま蹴りを繰り出してきた。
その動きを予想していた僕は――
「はいどうぞ♪」
身を屈め、
「なっ――!」
驚いた声。
顔の左側に圧縮された空気。
風圧。
耳鳴り。
土臭いスニーカー。
一瞬の静寂。
「……なんの真似だ」
「ふざけた真似ですよ」
「俺が寸止めしなかったら、お前死んでたぞ」
「そうですね。お礼を言っておきましょうか。殺さないでくれてありがとうございました」
今まで幾度となく人も物も痛めつけてきたであろう龍園翔の右足が、僕には一度も触れぬまま、ゆっくりと下ろされた。
彼が噂通り喧嘩慣れしている人間なら、寸止めくらい出来るだろう。
彼が推測通り頭の回る人間なら、監視カメラのあるこの場所で本気で蹴っては来ないだろう。
彼が僕の想像通りのサディストなら、『自分の意思で蹴る』ことには抵抗も躊躇もないだろうけど、『相手の思い通りに蹴らされる』となれば何かしら心理的なブレーキがかかるだろう。
そういう幾つもの
龍園君は苦虫を噛み潰したような顔を僕に向ける。
「食えねえ奴だ」
「じっくり料理してくれるのでしょう?」
「……お前を料理するとなると、調理場は相当荒れそうだな」
そう言い捨てて去っていく彼の背中を、今度は呼び止めることなく黙って見送った。
とりあえず1勝、かな?
こうして始まった緒祈真釣と龍園翔の戦いは、きっとお天道様にはお見せできないほど醜く見苦しい潰し合いとなるだろう。
夜明け前の冷めた廊下には、不気味な静寂が漂っていた。
(058)
あははは! 最高だぜ『僕』!
随分頭を捻ったみたいだけど、君の予想は全部間違っているよ! 龍園くんはあの状況でも容赦なく頭を蹴ってくる人間だ。死んでいた可能性の方がずっと高かったぜ?
まあ、
「えっと……どちら様ですか?」
敬語なんてよせよ。『僕』とボクの仲だろう?
切り捨てた『僕』と切り捨てられたボクは、切っても切れない関係だ。忘れた『僕』と忘れられたボクのこと、忘れたとは言わせないぜ?
「意味が分からないんだけど……」
おおっと、そいつは大問題だ。
分かるように自己紹介してあげよう。
ボクは『僕』が捨てた記憶だよ。『僕』が知りたがっていた
「……なるほどね。君の素性もここが夢の中だってことも、なんとなく理解できたよ。ただ頭が痛くなるから、僕のことを『僕』と呼ぶのはやめてくれ」
オーケーオーケー。
ボクは『僕』のことをキミと呼ぶとしよう。
それじゃあ今からキミがずっと知りたがっていたことを話すけど、その前に一つ大事なことを言っておく。
今年の1月3日以前のキミの記憶は偽物だ。
「……はい?」
と言っても一から十まで全くの別物ってわけじゃないけど、それを踏まえて聞いてくれ。そして記憶を修正してくれ。
「あっさりし過ぎじゃない?」
まあまあ、細かいことは気にするなよ。
「いや、大事なことって言ったよね……?」
さてさて、時系列順に話していこうか。
「無視かよ……」
まずキミが自分の異質さを自覚したのは小4の時ではなく、小2に上がってすぐだ。そしてその異質さの正体に、今のキミが知りたがっているその正体に気付いたのが、小4の時だ。
それ以降のクラスメイトの転校や担任の変更は、ある程度キミが意識した上で行われたよ。
「えっと……超能力に目覚めたってこと?」
はあ?
全然ちげーよバカ!
『アレ』はそんな便利なものじゃない。
ついでに言うと、キミがここ数ヵ月ずっと考えていたようなものでもない。
何事もスムーズにいかないとか。
思い通りに事が運ばないとか。
順風満帆の神に見放されたとか。
紆余曲折の神に愛されたとか。
あと「世界は僕の意思を曲げようとしてくる」だっけ?
どれも
「じゃあその本質ってのはなんなのさ」
よくぞ聞いてくれました!
『
「……超理論、ね」
キミが言うには『
でもねー、キミのはそんな素敵なものじゃないんだよ。
魔法でも忍法でもない。
――ただのただならぬ疾患だ。
「疾患、ね……」
発症者は多分キミ一人。治療法の確立どころか世間に認知すらされていない不治の病さ。少し前に症状を抑え込むことに成功したけれど、それもあくまで一時的なものだった。
詳しく解説していこうか。
『
小学3年生の時。クラスメイトの
小学5年生の時。担任の
中学1年生の時。運動の出来ないキミは運動会がとにかく嫌で、てるてる坊主を逆さにして吊るしたね。普通はそんなことしたからって雨が降ったりはしない。
「……なんでもありだね」
その通り。もしこれが自分の意思で自由自在に使えたのなら、世界征服だって楽勝だろうね。でも残念ながらキミが制御できるようなものではなかった。手綱を握ろうなんて無理な話だった。
だから約半年前、中学3年生の時。キミはお正月に初詣に行って、そこで願ったんだ。『
もちろんそんな神頼みでどうにかなるはずがない。そもそも初詣っていうのは新年の神様への御挨拶みたいなもので、そういう願い事をするイベントじゃないし。
キミは『
「……改竄されたのは僕の感情や思考だけで、現実に起きた事実は変わらないのかな?」
そうだよ。改竄と言うよりは調整かな?
だからキミが実はデザイナーズチャイルドだったとか、
「『
あー、うん。それについては時間があれば後で語るとして、話を戻そうか。その『
お気付きの通りキミは完全な消去も封印も出来なかった。まあ『
3月。キミは男子だ。
4月。小テストの最初の簡単な17問はキミなら全て正解していたはずだ。
5月。キミは中間テストで須藤くんを退学させるつもりだった。
6月から7月。キミは髪の長い女の子が好きだよね。
「……それが全部、その『
『
「……それはそれで一応納得するとして、もう一つ気になることがあるんだけど。さっきの例の中に、僕の入学に関する話は無かったよね? まさか――」
その通り。
この学校に入学するにあたって不合格だったり合格になったりの一連の出来事に、『
「
そう言われても、ボクは学校の裏事情なんか知らないからね。どうしても気になるなら茶柱ちゃんに聞いてみなよ。まあ、あの人が全てを把握しているかは怪しいけれど。
話を戻そうか。
今キミの中では『
地震や火山みたいなものでね、日々少しずつエネルギーが溜まっていくんだ。『
「はあ……」
ちょっとちょっと?
またオリジナルの固有名詞が出てきたからって、面倒くさがらないで最後までちゃんと聞いてよ? これからのキミの
「分かったよ。それで、その『歪』が溜まるとどうなるんだい?」
他人の人生を大きく変えてしまうのさ。転校とか退職とか、事件とか事故とかね。
『歪』は日常生活の中で少しずつ発散されているけれど、溜まるペースはそれ以上だ。だから予期しない大規模な『
「そんなこと出来るの?」
昔のキミは出来ていた。こうしてボクに会えたんだし、今のキミにも多分出来るだろう。
やり方を言葉で説明するのは難しいけれど、感覚としては自分の中にあるスイッチを押す感じだ。それでオンオフを切り替える。
「へえ。『
はあ?
ちげーよバカ!
意識的なオンオフ『も』出来るってだけで、キミの意思とは無関係にオンになることもあるし、その場合はキミの意思でオフにすることはできない。で、そういうことが日常茶飯事だ。
「今のところそこまでの印象はないけど……」
それは『
だからその時に備えてやり方を教えてあげる。スイッチの入れ方じゃなくて、スイッチを入れて何をすればいいのか教えてあげる。
基本的には良い方に転ぶか悪い方に転ぶかさっぱり予測できない『
「傾向?」
分かっていることの一つ目は、転校というイベントとの相性がいいことだ。『歪』を押し付けたクラスメイトは皆転校していったからね。まあこの『歪』の押し付けはすぐには出来ないだろうし、そもそもこの学校には転校というシステムが無いから、あまり意味は無いね。
大事なのは二つ目。
小規模な勝負の場で『
あ、勝負と言っても体力系のは無理だよ? キミの運動能力の無さは『
それから大規模なものはこれで防げるけど、小規模のものはどうしようもないから諦めてね。
「待って待って、新情報を詰め込み過ぎ。えーっと、だから……うん? つまり君の長ったらしい説明をまとめると――
一、僕が抱える『
二、『歪』は勝手に溜まっていくもので、これを放置していると他人の人生を狂わせる程の大規模な発散が起きてしまう。
三、それを防ぐためには日常の小規模な自然発散では足りないため、僕の意識的な発散が必要になる。
四、意識的な発散でも基本的にはどんな結末になるか予想も制御もできないけれど、経験上勝負ごとに関しては『引き分け』という結果が予測できるので、それを使って発散するのがよい。
――こんな感じかな?」
そうそう、そんな感じ。付け加えるなら、
五、自発的な発散には自分自身が発散するタイプと、『歪』を他人に押し付けることで発散するタイプがある。
ってとこかな。押し付けるタイプはキミにはまだ出来ないと思うから、とりあえずは自己発散タイプで『歪』やスイッチの感覚を掴んでね。
「
ごめんってば。言い訳をさせてもらうとね、こんな日が来るなんて想像してなかったんだよ。正直ボク自身、どうして今こうしてキミと話せているのかもよく分かっていない。
だから次にいつ会えるのかも分からないし、そもそも次があるのかも分からない。
「ふーん。今得た情報を一度ゆっくり消化して、その後また話を聞きたいと思たんだけど……難しいのかな?」
そうだね。
まあ伝えるべきことは全部伝えたはずだから、キミの頭脳ならなんとかなるはずだよ。
「そうだといいけど……ところで今の僕にはどれくらいの『歪』が溜まっているんだい?」
マックスを10としたら、今は4くらいかな。これが8を超えるとキミも危ないし、キミの近くにいる白波ちゃんや一之瀬ちゃんや綾小路くんも危ない。
『
「そうだね」
即答かよ。友達想いだねえ。
……ん?
あー、そろそろお別れの時間みたいだ。
「ふーん」
……ねえ『僕』。
「なんだい『ボク』」
緒祈真釣は『
「まあ、そうかもしれないね」
「急にどうした」
昔の
「なんていうか?」
頑張れ。
「……うん、頑張る」