城兵として召喚されたんだが俺はもう駄目かもしれない 作:ブロx
【史の無い男】 無色④ 2/5
Not go down,remembered man
クリーチャー―ソルジャー・フィアー。
あなたがコントロールしている土地一つにつき、このパーマネントは+0/+2の修正を受ける。場にワールド・エンチャントがある場合、史の無い男は打ち消されないし追放されない。
――瞳に映る大きな背中。赤子はそれだけを憶えている。
ある日の暮れ方の事。ワシはいつも通り日課をこなしていた。
技の冴えはいつも通り。疲れていても好調でも、いつも通りの事を当たり前にこなす。それが人間というものだから。
「なあアンタ。顔見せてくれないか」
素っ頓狂な質問が聞こえてくる。これだから野蛮な人種は今も相手にしたくない。
「必要ないって思ってるだろうけどさ。一度くらいはしっかり見てみたい」
こんなことを言って、頭の中ではワシをぶっ殺してやる事しか考えていない。口だけは陽気な人種を装っているが、本当こいつらは昔から変わってない。
殺してやろう今すぐに。
「アンタには家族とか恋人はいないのか。ちなみに俺にはいる。昔なじみの女だ、目が好いんだ。綺麗なペリドート色でな」
緑色ということらしい。では本当に美人なのだろう。
「そんな俺が知りたいのはアンタの家族の話だ。アンタの事じゃない。だったら少し位話せるだろう」
本当に素っ頓狂な奴。これほどの人種がすぐそこに居ると知れたのは久々だ。
「俺の昔なじみは本当ガキの頃から一緒でな。二人で足の速さをよく競争してた。いつもそしてアイツが勝っていた。こがね色の髪が、俺には女神に見えた」
惚気話は聞くだけ時間の無駄だ。しかし耳を塞いでも聞こえる距離。
ワシはずっと帰っていない故郷の事を少し思い返しはじめていた。それがこの野蛮人の策略なのかとも思ったが、思い出には勝てなかった。
―――これは素晴らしく良いな。
―――良い。
―――上兄さんたちー。どのあたりが良いの?
―――分からんか。この重さと重心が最高なんだ。
―――私はもっと軽い方がいいなー、速い武器は重くなるから。
―――やはり分からん子だなお前は。二本持てるじゃないか。
―――二本持つ意味が分かんないんだってば。…そうでしょ?お兄ちゃん。
気持ちの悪い話を思い出した。やはり昔を思い返すのは良くない。未熟だった頃の記憶なんて跡形消えてなくなればいい。
「最近、ずっと会えてないアイツの事ばかり思い出す。俺は会いたくなった。皆そうなのかも」
ぴくりと指が壁越しに動くついでに眼をやると、少量の気迫が匂ってきた。
「明日総攻撃する。明日で、戦は終わる。終わらせる。隊長がそう言っていた」
罠か。直感がそう囁く。しかしこの野郎の気迫には些かの嘘も無かった。
「てなわけでな。ちょっと話したくなった。敵とはいえ、アンタは勇士だ。敬意を表する」
・・・この国の言葉は難しい。はたして伝わってるかな。
野蛮人はそう言って気迫を消した。静かに歩き去る足には確かな敬意。ワシにはそんな音が聞こえていた。
◇
朝陽が昇った。と同時に戦の気配。ワシはいつも通り目に付く敵の眼球を潰した。と同時に後退。
壁が吹き飛ぶ。雪崩れ込まれる。野蛮人の斧と人斬り刀。剣。そして鏃。
その全てを叩き潰し踏みつぶしたワシは間合いに入った敵の頭を得物でひとしきりぶん殴って地べたに這い蹲らせた。
都度々零れる千切れる汚物。目障りな事この上ない幾何学模様。きっとお叱りを受けるなあと、ワシは思った。
「ーーーー!!!」
「ベルバルベルバルベルベルバルバル!」
「神聖うんこ」
「お、た、か、らああああああ!!!!!」
意味不明な言葉を叫ぶ奴は殺しても殺さなくてもいい奴。ワシは殺す方を選んでいる。こいつらもご同様だろう。
「ーーー!!!」
きっと今が全盛期。疲れ知らずに敵を打ち殺し、死体を蹴り飛ばす。山となる躯は敵を萎縮させる。何時も何度でも。
しかし急に目の前が真っ暗になる。大楯。卑劣な手段だ。しかし理に適う。感心して横に回避。
おっと横も真っ暗。後ろに回避。
ドンと背中を押される。聞くまでもなく敵の楯。
「ーーー!!!!!」
青ざめた敵の雄叫び。前後左右敵の楯。しんどい。でも薙ぎ払う。滅ぼす。吹き飛ばす。殺す。
全部出来なかった。
「ーーー!!!!!!」
五月蠅え、痛え。どけよ。触るなよ。ここはワシらの―――
あの子の家だ。