城兵として召喚されたんだが俺はもう駄目かもしれない 作:ブロx
第9話 風来坊
―――熱い陽射し。
蛇口から水がまっすぐ皿に注がれるように、光が俺達兵士を照らす。
我が王に召喚されてから、何度この眩しい太陽を見た事だろう。
「・・・」
俺はこの白亜の城・キャメロットの城兵という名誉職に就いた兵C、あらため城兵Cである。お前は西方方面担当だと、アグラヴェイン卿に命じられたのだ。
曰く、この見渡す限りの荒野の遥か西にはとある王が住んでいるので、お前はそこに最も近い場所に居ろとの事。・・・・こんなむせる荒野の先に住んでる?只者じゃないな。
「・・・」
ま、そんなのもう関係ないですけどね。上機嫌な俺は、王がおわす後方に向かって拝礼した。
―――このお城は城壁が円形に都市をぐるっと囲んでいる。
城下町は壁の内にあるのだ。おとぎ話にある、グランバニアの城に似てるかも。
唯一の出入り口である正門が位置する北方方面にはガウェイン卿がおられるから、もしこの聖都を落とすとしたら南方かここにたむろする筈。
搦め手は東方方面だが、あそこは文字通り断崖になっているし人里からかなり遠い。兵站面から鑑みてマイナスの方が大きいだろう。
・・・え?何でこの城を落とす事を不敬にも考えてるのかって?
守る側っていうのは、自分ならここをどう攻め落とすかを考えてるからこそ守れるのさ。まあ心配しなくても、この聖都は無敵だが。
250億に1つの確率で正門及び城壁が越えられても、その後ろには砦がいくつかある。そこには所狭しと弓兵が詰めていて、一斉射で賊を討ち取れるって寸法よ。
まるでグリュンワルダーの城みたいだあ。
ピクト人どもが根城にしていたかつての堅城を思い出して、俺は拳で空を突いた。地獄みてえな城だったなあ・・・。
(注釈:グリュンワルダー城=mount&bladeという名作ゲームに登場する、マップ地理的に重要な城。城攻め初心者にお薦めなので、兵が集まったら是非落とそうッ)
「・・・・」
空は高く、ピューピュー身体を刺す風が運んできた毒電波を放り投げる。
まあつまり何が言いたいかって、ここ西方がフロントライン(最前線)にしてディフェンスライン(絶対防衛線)って事だ。
そう!俺はもはやただの一般兵Cではない! 俺は存在する!我が王の、城兵として。
「・・・」
――え?古巣(正門)にすら帰れなかった敗北者じゃけえ?第三艦橋勤務?体のいい厄介払いだろ?
・・・・よくないなぁ・・・こういうのは。
「た~~~す~~け~て~っ!!!」
「・・・・」
さてここで気分転換に一句。
朝もやに 耐えて久しく 昼の月。
靄に隠れた朝陽を見ようと待っていたら、もう昼時。あつい太陽がぼやけてまんまるお月さんに見えてしまったよ。やべえ俺馬鹿みてえじゃん。
え?意味わかんない?
「た~~す~~け~て~っ!!!」
「・・・」
まあ、あれよ。天の怪奇現象に会った!みたいな。
「たす~~け~て~っ!!!」
「・・・」
そう。つまり今の俺の心境を表すとそんな感じなのだ。
「ちょっとそこの兵隊さん! どうか私のお願い聞いて頂戴!?」
「・・・・」
見下ろせば、ピンチと顔に書いてある女性がいた。
綺麗な黒髪の女性だなあ。変な冠かぶって、職業は何だろう。
よし、ここで彼女の専門を当てる事が出来たら50点獲得だ。 何事も細かい楽しみを作る事が肝要だからね。
・・・歩き巫女さん?
「お願い聞いてくれたら良い事してあげるよ!? 伝説の砂漠の女傑ナボールみたいに!!」
ん? ん?
ん?正解?
「お~ね~が~~い~!!! トータとは逸れちゃうしっ、もうお腹がペコちゃんで喉がカラカラのお母さんのガラガラみたいになってるのーーっ!!助けてぇ!!!」
もう死んでるって事ですか? 生憎ここにスコープ無いからちょっと分かんないですね。タチサレタチサリます。
「ぁ…………もう、……ダメ…」
パタリという音が聞こえた。ここまで。おもっくそ地面に顔面強打した音だよあれ。 どうしよう。
「・・・・」
「――伝令。我らが王より、入城を許可せよとの由」
「・・・」
応じよう。
◇
「ふ~っ! 食べた食べた!御馳走様!!」
「・・・」
――すごい・・・女性だ。
あれだけあった料理を、ものの数分で全部平らげてしまうとは。ちなみに僭越ながら、食事は俺が作らせて頂きました。
「トータのお米は美味しいけど、一つの物をずっっと食べてると心に飽きが生じるからね。助かったわ!」
この聖都には砂糖!コショウ!塩!!!お酢!などといった調味料が豊富にある。肉料理が駄目という事で俺の得意は披露出来なかったが、代わりに今回は芋料理をご提供。
普通に作ればバーンポテトになったろう俺の料理も、フライになってより美味しく出来たと自負している。付け合せは緑黄色野菜で、胡麻ドレッシングも完備。青じそもね。
・・・今までこれらを作った事は無かったが、我が王に召喚された事で生前では知る事も出来なかった知識が湯水の如く湧いてくる。これぞ王の威光。芋は至高。 今度ガウェイン卿にもご提供してみたい。
――しかし。この人には果たして口に合っただろうか。だって俺味見できねえから。
「ん? 何?何?」
「・・・」
ボディランゲージを敢行する。 コンセプトはですね、この『塩』なんですよ旅のお方。人類最強の発明は槍以外だと何ですか?という質問がもしあったら俺は『塩』と答える。
これには厄払い・消毒・味付け・ミネラル・酒のつまみ・体温上昇等、人が生活する上で必要なもの全てが含まれているのだ。
万病の元である砂糖とは違うのだよ砂糖とは! 具体的に言うと塩がグフカスタムで砂糖がフライマンタとかジム。
「ん~~?? ……ああ分かった!」
通じたかな?塩の良さが。
「お塩がνガンダムで、お砂糖がHi-νガンダムね!」
「・・・・」
戦争になる。閑話休題。
「お食事のところ失礼致します、旅のお方。 我が王が御呼びです、どうぞこちらへ」
「参りましょう!この玄奘三蔵、一飯の恩義は忘れないわ! 是非お礼をさせて頂戴っ!!」
「・・・」
我が王の命令で食事を用意したが、俺の仕事はどうやらここまでのようだ。飯炊き城兵Cはクールに去るぜ。
後は頼みますガレス卿。
「あ!そうそう」
「・・・?」
背中をコンコンと手で叩かれる。え、いつの間に後ろに。俺達結構離れてましたよね?
「御飯、とっても美味しかったよ。 有り難うっ!」
「・・・」
振り向けば、綺麗な笑顔。懐かしい。
俺達は別に物を食わなくても生きていける。
けどこれだから、飯炊きは止められない。
言うなれば運命共同体。
他人を頼り、味方を庇い、俺達は助け合う。
一人が誰かの為に、誰かが一人の為に。
だからこそ戦場で生き長らえた。
―――嘘を言うな!信仰に輝く無口な双眸が敵を嘲嗤う。
お前も、お前も、俺も!
王の為に死ね!!
次回『粛正騎士』
だからこそ。俺達は今も昔もあの御方の。