城兵として召喚されたんだが俺はもう駄目かもしれない   作:ブロx

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ほんわかする話を作ると、今度は熱い話を作りたくなるのはよくある話。そう、夢のクレヨン王国とか赤毛のアンのエンディングといったしっとり系の曲を聞くと、人はチェンゲのheatsを聞きたくなる物なのです。 ・・・無いな。










第10話 粛正騎士

 

 

 

 ―――城兵Cの朝は早い。

 

 遅番の同僚に交代をボディランゲージで告げ、今日も今日とて城壁の上に立つ。周りの兵達は皆静かだ。私語は無く、程よい緊張感に包まれている。

 

いや、保たれている。

 

 ・・・それはまるで老舗温泉宿の、早朝一番風呂の風景美に似ていた。小波で揺れる水面をじっと眺めていると、永遠に湧く熱い湯気が鼻を通って俺達の肺と心を目覚めさせる。

 

 そして湯に映る太陽光は、俺達と同じく無言で赫奕と風景を照らし続けているのだ。

 

「・・・」

 

 ずっとここに居続けて、朝飯はなんだろうと想像を膨らませてみたり、何も考えずにこの湯に浸かって浸かって浸かり続けて湯治するのも良い。戦いは飽きたのさ。 

 

 まだ見ぬ第三の選択肢も含め、どれを選んでも俺達はきっと己を全うする事だろう。

 

「・・・」

 

―――そう。ここでは皆、粛々と己を正しく全うするのみなのだ。

 

 眼前を無言で睨み付ける、名も無き彼らに敬礼を。

故にか、王は彼らをこう呼んだ。

 

粛正騎士と。

 

「―――」

 

おはよう兵B、今日は冷えるな。ええ?

 

「―――」

 

 ボディランゲージが無視された。 気を取り直して無言の皆と一緒になって焼け野原を眺める。ちょっと空を見上げると、所々ひびが割れていた。

 

以前我が王が撃った聖槍の余波だ。

 

「・・・・」

 

 ところで先日、王が予言を下された。

 

 要約すると、近々あの空からここ聖都を壊す恐怖の大魔王が降りてきて、騎士の結束をスクラップアンドスクラップ。この世界全てをぶち壊すらしい。

 

ギドラ族でも来んの?鎧モスラ呼ばねーとやべえじゃん。

 

「――――」

 

 冗談はさておき、一体どんなやつが来るというのだろうか。

あの円卓の騎士の方々を全滅させ、我ら爪牙をも一捻りするほどの剛の者とは。

 

「・・・・」

 

時間ばかりが経過する。

 

 恐怖心。俺の心に恐怖心。

恐怖に震え慄いていると、ポンと肩を叩かれた。・・・・兵B?何?

 

「―――」

 

首をもぐジェスチャをする兵B。

 

「・・・」

 

 成る程、やるのは一度に一つずつってわけだな。

まるでハンターだ、負けらんねえな。俺はフンス!ッと両拳を胸の前に掲げた。

 

「――ええ」

 

!?キィエアアアアアアアア亜しゃべったアアアアアアアア!?!?

 

「――貴方は以前、キャメロット城正門の守護に当たっていたと聞きましたが」

 

「・・・・・・!?」

 

 え、ちょっと待って。何でこの人こんな流暢にしゃべれるの?

しかも甲冑にすっぽり覆われた小首を傾げないでほしいんだけど。かわいいから。

 

「言葉は使えた方が便利ですので。所で、一つ質問があるのですが」

 

「・・・・」

 

おっしゃるとおりです。って、質問?

 

「――私には。 いえ、私達には生前の記憶が薄ぼんやりとしかありません。最期まで王の為に戦った、――少なくともここ西方方面を守る我らは昔も今もそれだけの存在です。しかし、貴方はどうやら違う様子」

 

「・・・・」

 

 え?マジ?何で? 

俺が『C』だから?B。俺達は皆あの頃(生前)から続く仲間(運命共同体)だろうが。

 

「――獅子王陛下に召喚された一兵卒の中で、我らと同じ甲冑を着ている兵士達の中で、貴方だけが生前の記憶をしっかりと持っている。これには何か意味が有る筈だと、私は愚考する次第。

 ――その上でお聞きします。貴方の生前は、あの頃のキャメロットはどうでしたか?」

 

「・・・」

 

 あの頃か。え~?昔語りとかしちゃう? 

昔の事をしゃべってばかりいると自分しか満足できなくなるよ?決闘(デュエル)申し込まれちゃうよ。

 

もう遅い?

 

「・・・・」

 

 まあ敢えて問うなら答えもしよう。

家が家だからあの頃は槍ばっか振っててさあ、俺。騎士様達は皆輝いてて王は昔から女神様で。

 

 あとこうやって城壁に突っ立っていると、ごくごく稀に王がいらっしゃってね。

外を見つめて何も言わずに去って行くんだけど、王の風格っていうの?格好良いんだこれがまた。

 

 ・・・・!今と変わんねえじゃん。やったぜ。獅子王陛下がここに来ることは無いけど。

 

「――これは失礼、軽々に聞いてよいものではありませんでした。 許されよ」

 

「・・・」

 

 別にいいって事さ兵B。 俺達も王も、皆あの頃から変わっちゃいないんだから。

この城を、主を守る。ただそれだけでいいんだよ、兵士(俺達)なんてさ。

 

「――そろそろ交代の時間ですし、交代の後は鍛錬をお願いしても? 貴方の槍捌きには剣兵として眼を見張るものがある。ぜひお願いします」

 

「・・・」

 

 頷く俺。って、やばいやばい昔の想い出に入り浸ってしまった。 そんなもん、酒の席だけで充分だっての。今の俺は呑めないけど。

 

「――、噂をすれば。 下番の諸君、我々と同じく鍛錬を所望する者はいるか?」

 

「os gwelwch yn dda.(よろしく頼む!)」

 

「ago.(俺は鍛錬を行う!)」

 

「facio.(キャメロット魂を見せてやる!)」

 

「・・・・」

 

・・・・何だこいつら。

 

「――意気軒昂。流石は我ら西方の兵。 では頼みます」

 

 剣の柄をガシャと鳴らす兵B。引くに引けないので、俺は槍をその場で一回転させて己を鼓舞した。

 

・・・我々の聖都を守れ!

 

 

 

 

 

 

「――こう、ですか? むぅ、中々に疲れる」

 

「fessas.(衛生兵ーーー!)」

 

 それは異質な風景だった。

 

 鍛錬場の中で粛正騎士達が腕を伸ばし、足をやや肩幅のスタンスで膝を曲げて腰を落として佇んでいる。声が出ないので、勿論俺も。

 

「・・・」

 

「――え?次は走るのですか?」

 

脚が痛くて、これはもう満足に歩けないのでは?という位になったらひたすら走る。

 

「――あの。これは、貴方が生前、身に付けた鍛錬法、なのですか? 痛」

 

「・・・」

 

 こくりと頷く。

だって速く動くには何がいる?足だ。 足をずっと動かし続けるには何がいる?力だ。

 

力は何に作用する? 武器と身体だ。

 

 ・・・ここでの『力』とは筋力だったり重力とか持久力とか色々あるけど。今はドントシンク、フィール。

 

「・・・」

 

そして鍛錬場内を走り回って終わる。今日はここまで。

 

「――交代がまだ先で、良かった。これ、では、皆すぐには動けますまい」

 

 うーむ、試しに甲冑着ながらやってみたけど凄いな。生前は平服でやってたのに出来ちゃったよ、普通は出来ないよ死ぬよ。

 

 ・・・しかし成る程。俺達は王に召喚された兵士なんだから、生前とは違ってずっと元気百倍ってわけだな。怪我もしないし。 これで王の為にずっと鍛えて戦い続けてられるぞぅ。

 

「…あ!兵士くーん!」

 

「・・・?」

 

む? この声は。

 

「何してたの?お稽古?」

 

我が王の賓客、三蔵様だ。

 

 ・・・以前我が王と謁見なさった三蔵様は、気が済むまでこの聖都に居て良いと滞在を許可されたそうな。

 

「――これは玄奘三蔵様。 このような兵士の鍛錬場など、貴女様には面白みも何も無いでしょうに」

 

 綺麗な黒髪と肩が大気を優しく撫でながら、こちらに近寄る三蔵様。

兵Bが礼節を持って接するが、確かにここは貴女が来る程のものでもないですよ。

 

「稽古も立派なお務めの内でしょう?別に気にしないわ! …所でトータを見なかった?」

 

「――俵様は確か食堂にいらっしゃった筈ですが。逸れましたかな?」

 

「それが全っ然見つからないんだけどー!!兵士の皆は忙しそうだから、お師匠のあたしが探してあげているのに!!」

 

「・・・」

 

 この方は本当に場を和ませてくれるなあ。聖都がより聖都らしくなるってもんだ。

 

 ・・・しかしながら藤太様が?今後の為に迷子センターを作ったほうが良いかな。 もしもアグラヴェイン卿に会えたら伝えてみよう。

 

「ん~もうーっ! もう一回食堂に行ってみるわね!」

 

「――道中お気を付けて。玄奘三蔵様」

 

「兵士君たちも、身体に気をつけて稽古してね~!」

 

 ・・・速い、もうあんな所に。やはりあの方、只者ではない。

どんな鍛錬を課してきたのだろう。でもあれは稽古の果てというより、自然に培われた物だと見ているんだけれども。

 

「三蔵の肢に気が有るのか?」

 

「・・・」

 

ええ、まあ。

 

「一箇所を除いてあの御仁は全身が引き締まって居るが、あれは真だ。 お主は眼のつけ所が良いな!」

 

「・・・・」

 

 物陰からこちらをずっとチラチラ見てた貴方様には敵いませぬ。俺はゆっくりと、声の主に頭を下げた。

 

「――俵藤太様! これは気付かずご無礼を、」

 

「はは!良い良い。拙者がお主らの鍛錬を見ていたかっただけよ。 これでも武に身を置く者、どうにも血が騒いでしまってな」

 

 三蔵様の弟子(という事になっている)、俵藤太様。

世界を旅している三蔵様がこの城に入城されたすぐ後にここに辿り着いた、曰く旅の道連れ。

 

 このお方も我が王から滞在を許可された一人だ。偉丈夫で、気風のいい益荒男とは正にこの事。

 

「・・・」

 

「――左様でしたか」

 

「うむ。ところでお主ら、大陸の練功法に似た鍛練をしていたな。ここに居ては身体が鈍ってしまう所、明日から拙者も参加して良いか?」

 

「・・・」

 

貴方は賓客、是非もありませぬ。俺は何度も頷いた。

 

「忝い。 なに、お主らの邪魔はせぬから思う存分にやってくれて構わぬよ。鍛練は大勢でやった方が為になるのでな!」

 

「――これは賑やかになりますな、兵士殿!」

 

「・・・」

 

そうだな兵B。俺も何だか楽しくなってきたよ!他の皆は・・・?

 

「ago!(俺は鍛錬を行う!)」

 

おう!

 

「facio!(キャメロット魂を見せてやる!)」

 

「私も非番の時はここで鍛練をしても?」

 

万歳ァァァい!!! 勿論!ここは聖都、正しき者は誰も彼も寄っといで・・・・

 

「・・・・、―――」

 

「我が王の剣として。私も腕を磨かねばね、兵士君?」

 

 非番なのかマントを外し、服の上からでも解るその筋骨。

 

赫奕たる太陽を宿す大剣を小脇に、こちらを見やる忘れもしない騎士の瞳。サー・ガウェインその人は、朗らかにこちらを見て笑っていた。

 

 そしてこの時、茫然自失の俺と兵Bの心の声は一つとなる。

 

 

―――何でこんな所に、目上の御方ばっかり来るんだ・・・。

 

 

 

 

 

 

 




誰が期するのか、誰が望んでいるのか。
満ちる物が満ち、撓む物が撓む。
溜められたエネルギーが破れた出口を求めて脈動する。
騎士道と忠義、悪心と野心、誇りと意地。
舞台が整い役者が揃えば、彼らだけの日常が始まる。
そして先頭を走るのは、いつも。
次回『ソルジャー』
報酬は塩と貨幣。あとは眼を瞑れば浮かび上がる。




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